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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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料金分の働き



■title:交国本土<帆布>にて

■from:工作員のイヌガラシ


「聞いてない、聞いてないっ……!」


 あんなイカれたガキがいるなんて聞いてない!


 あのガキの命令で、バフォメットが動くなんて聞いてない!!


 拠点内の奴らが次々と殺されていく。


 ガキがバフォメットに命じ、虐殺を開始したらしい。プレーローマ側で用意した工作員もエデン側の工作員も、次々と殺されていく。


 バフォメットが殺して回っている以上、下手に隠れたところで直ぐに見つかる。なりふり構わず逃げるしかないが――。


「せめて、黒水守の神器だけでも……!」


 任務を放棄して逃げる以上、プレーローマへの土産が必要だ。


 白瑛を持って逃げるのは難しくても、神器ぐらいは持ち出せるはず……! 何の成果も無しに逃げたら、天使達に殺されてしまう!!


 こんなところで死んでたまるか。


 狂人(ガキ)の所為でエデンを使った工作が難しくなった以上、神器だけ持って逃げて、何とかプレーローマへの移住権を手に入れてやる。


 こんなところで、死にたくな――。


「ィッ?!!」


 足に激痛が走る。


 転び転がり、顔を打つ。


 痛みに呻きつつ自分の足を見ると、弾丸が足を貫いていた。


「悪い子だなぁ。自分だけ逃げる気かなぁ? そんなの許さないよ~ん」


「き、貴様……! 泥縄商事社長(ドーラ)!? 何故、ここに……」


 いや、何でもいい。


 バフォメットを足止めしてこい。じゃないと、プレーローマに職務怠慢を報告して、泥縄商事への支援を打ち切らせるぞ。


 そう命じようとしたが、それより早くドーラが銃を撃ってきた。ヘソのあたりに激痛が走り、みっともない悲鳴を上げてしまった。


「き、きさまぁ……! あのガキの味方をするつもりか~~~~!?」


「まあ、結果的にはそうなるかな? 雇い主(クライアント)は別人だけど」


「泥縄商事が立て直せたのは、誰のおかげだと思っている……! ぷ、プレーローマに弓を引くなら、相当の報いを受けさせてやるぞ!!」


「キミみたいな木っ端の工作員の生死、ラファエルちゃん達は気にしないよ。そもそもキミは天使ですらない。人類文明を天使に売ろうとしている裏切り者(にんげん)じゃん」


 泥縄商事社長はニマニマと笑いつつ、熱い銃口を押しつけてきた。


「そもそも、キミがここで死ねば……あたしの裏切りは伝わらない」


「ひぎッ……! まっ、待て!  金か? 金が欲しいのか!? 金なら……い、いくらでもアテがある! 金ならやるから見逃してくれ!!」


「ケチな工作員のキミが、そんな金持ってるわけないでしょ」


「頼む、見逃してくれ! 上には報告しない! じ、神器だけ、持ち帰らせてくれれば、貴様の裏切りも報告しない!」


「…………」


「家族が……家族が待っているんだ。私が功績を上げて、プレーローマに貢献せねば……家族をプレーローマに移住させて、守る事ができない!」


 人類文明は、いつか天使に滅ぼされる。


 生き延びるには天使に媚びるしかないんだ! 家族を、守るには――。


 そう言ったが、泥縄商事社長はヘラヘラと笑い、「プレーローマ移住なんてやめといた方がいいって!」と言ってきた。


「ま、いいや。見逃してあげる」


「ホントか!?」


「あたしはね」




■title:交国本土<帆布>にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


 イヌガラシ君の背後からノシノシ近づいてきた【占星術師】が、家族想いの哀れな工作員を背後から持ち上げ、素手で真っ二つにした。


「うぇっ。きたな~い」


 真っ二つになったイヌガラシ君の身体から、血や胃液、果てには糞のなり損ないが飛び出てきた。おかげで全身がひどく汚れてしまった。


 【占星術師】センセーは、血の一滴も浴びていない。


 運命操作によって、「自分に何の体液もかからない可能性」を摘み取ったようだ。ズルいよね、その異能(ちから)。万能ではないけどさ。


「お遊びが過ぎるぞ、ドブ女。コイツを逃がそうとしたな?」


「キミが来るのが見えたから、処分を任せたの。弾代の節約だよん」


「その弾丸すら混沌(ドロ)から作ったものだろうが」


 【占星術師】センセーはあたしを「ギロリ」と睨み、「ここから1人も逃がすな」と命令してきた。


「こちらの戦力は、お前達とバフォメットがいれば十分だ。他の木っ端の奴らは外部に情報を漏らす可能性がある以上、皆殺しにしろ」


「そこまでやらなくて良くない?」


「<予言の書>によると、交国本土には<死司天>が来ている。ヤツが異変を察知した場合、動く可能性もゼロではない」


 見るだけで人を殺せる死司天が動けば、さすがに勝てない。


 今は<雪の眼>の護衛として動いているものの、介入されてしまった場合、対処が難しい――と【占星術師】は語った。


 さすがのキミでも、死司天には勝てないと悟ってるんだね~と言うと、また睨まれちゃった。叩いてこないのは、あたしが全身血まみれだからかな?


 さすがのキミでも、汚物に触れずに殴るのは無理だもんね。


「ところでレオナール君だったっけ? 彼も殺した方がいいの?」


「奴はバフォメットの制御に必要だ」


「ヴァイオレットちゃん確保してないけど、いいの?」


「交国首都で大きな騒ぎを起こせば、それに乗じて特佐長官の宗像も動く。歩く死体(ヴァイオレット)の運搬は、あの男に任せておけばいい」


「じゃあ、しっかり応援しなきゃね」


「お前も役目を果たせ」


 ポップコーンと飲み物用意して、交国首都襲撃同時視聴とかは出来なさそう。


 人使いの荒い雇用主様だこと! まあまあ、料金分は働いてあげるよっ!


 ……料金分はね。




■title:交国本土<帆布>にて

■from:小人になったメフィストフェレス


「ぬぅぅ~ん……!」


 拘束されているから芋虫みたいに動き、【占星術師】のポケットから顔を出す。


 シャバの空気! でも、目当ての泥縄商事の社長(パンドラ)は歩き去っていった後だった。あ~ん! せっかくの好機がぁ……!


「大人しくしていろ。握りつぶされたいのか?」


「いっそのこと、そうしてほしいんですけどぉ……! それはそれとしてさぁ、レオナール君にバフォメット任せるって正気?」


「バフォメットが本物の木偶になった以上、あのガキに任せるしかない」


「バフォメットを操れる人材なら、ここ(・・)にもいるっしょ?」


 海老反り気味に胸を張る。


 私は真白の魔神!


 統制戒言で縛られているバフォメットは、「契約者」の命令に縛られる事を望んだみたいだけど……彼に対する命令権限は契約者限定のものじゃない。


「本来、統制戒言は真白の魔神が使徒達を従えるもの。私に任せてくれた方が、レオナール君より戦果を上げると保証するよ」


「有り得ん。貴様はどんな悪さをするかわからんからな」


 大人しくしていろと言われ、再びポケットの奥に突っ込まれる。ぐえ~!


 好機はそう簡単には巡ってこないね~。


 でも諦めないよ。私を誰だと思ってるの?


 死すらも、「私」を止めることは出来ない。



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