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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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ニューオーダー



■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「総長?」


 何かの破壊音の後、バフォメットの声が聞こえた。


 総長の呻き声と共に、通信機が床に転げ落ちた音が――。


「総長!? カトー師匠!!」


 総長がバフォメットに攻撃された?


 いや、バフォメットがそんなことするはずがない。


 だとしたら――――。


『裏切り者! 死ねッ! 死ねぇッ!!』


 第三者の金切り声が、通信機の向こう側から聞こえてきた。




■title:交国本土<帆布>にて

■from:復讐者・レオナール


「ボクらを裏切って、交国に降伏するなんて……! そんなの、そんなのっ! 許されると思っているのか!!? 裏切り者ッ!!」


 聞いていて良かった。


 あの人(・・・)の助言に従って、あの人がこの部屋に仕掛けた盗聴器越しに話を聞いていて良かった……!


 カトー様は――いや、カトーは、ボクらを売るつもりだ。交国と戦うのを諦め、ボクらを交国に突き出すつもりだ!!


 バフォメットに攻撃を命じた結果、カトーは胴体を切り裂かれ深手を負った。


 それでもまだ生きているらしい。口から血を吐き、目を見開きながらボクを見つめ、「レオナール……」と呟いた。


「お前、バフォメットを使って……」


『契約者。こんな事をしても、何も――』


「黙れ!! お前らが下! ボクが上だ!!」


 カトーもバフォメットも黙らせる。


 危うく騙されるところだった。カトーは、ボクらを救う意志なんてなかったんだ。偽物の救世主だったんだ。


 でも、最悪の事態は防げた。


 最悪の事態を引き起こそうとしていたクソ野郎(スアルタウ)の声が、通信機越しに聞こえてくる。通信機を拾い上げ、「残念だったな」と告げてやる。


「裏切り者のスアルタウ。またボクの邪魔をするんだな!? カトーはボクらの救世主になるはずだったのに……お前にたぶらかされて、本来の目的を忘れた!」


『レオナール……! お前は――』


「よくも……よくもナルジス姉さんの手紙を見せたな!? ナルジス姉さんのことを、全部……全部っ! ボクの所為にしようとして――」


『何を言っている!? 総長に何をした!?』


「ぼ、ボクには全部、わかってるんだからなっ!? ボク1人だけに責任を押しつけて、ボクを殺そうとしているんだろ!? そうはいくか!!」


 ナルジス姉さんを殺したのはボクじゃない。ボクは悪くない。


 ボクは、姉さんを守ろうとしたんだ!


 でも、また、交国がボクの大事な人を奪っただけで――。


「れ…………レオナール……」


「ああ、まだくたばってなかったんですね。裏切り者! 偽物の救世主!」


 壁を背に、床に崩れ落ちたカトーが血を吐きながらボクを見上げてきた。


 アンタまでボクを責める気なんだろ? 悪いのはアンタなのに!!


 ボクらに希望を見せておいて……ここまで来て、交国に降伏する道を選ぶなんて裏切りだ! ボクらの期待を裏切ったお前は惨めに――。


「オレを、殺せ」


「は???」


 なに言ってんだ、コイツ。


 殺そうとしてるから、バフォメットをけしかけたんだろ。




■title:交国本土<帆布>にて

■from:カトー


「オレの首を取って、交国政府に……投降、しろ」


 レオナールはナルジスの手紙を知っていた。それなのに隠した。


 だが、それは……もういい。


 レオナールはナルジスが命懸けで守った存在。


 オレはナルジスの遺志を継いで、弱者(コイツ)を守ってやらないといけない。


 もう、大した事は出来ないが――。


「せ……せめて、オレの首を……手土産にしろ」


 レオナールや皆の罪を、少しでも軽くしてやらないと――。


「エデンがやったことは、すべて……総長(オレ)の、責任だ……!」


 通信機の向こう側にいるヤツに懇願する。


 石守素子に呼びかける。


「頼む。オレの命で、コイツらを……救ってやってくれ……」


『カトー、お前――』


『総長、ダメですっ! レオナール!! ダメだっ! やめてくれ!!』


「殺してほしいなら、お望み通り殺してあげますよ」


 レオナールが拳銃を抜き、オレに向けてきた。


 オレを殺すのはいい。オレは死んで当然の人間だ。


 だが、お前はもう、ここで止まってくれ。


 頼む。


 ナルジスの守った灯火を、消さないで――――。




■title:交国本土<帆布>にて

■from:復讐者・レオナール


「――――ッ!!」


 銃声に負けないよう、叫ぶ。


 銃声が響くたび、瀕死のカトーがビクビクと跳ねた。


 銃声が止むと、床に血の池が生まれた。


 その中心にいる男は、もう、ピクリとも動かなくなった。


 やってやった。裏切り者を、粛清してやった。


『レオナール!! お前!! 自分が何をしたかわかっているのか!!?』


「当たり前だろ」


 全部わかってる。


 ボクは弱い子供じゃないんだ。


 全部理解して行動しているんだ!!


『総長は、お前を救おうとしていたんだぞ!?』


「救う? 裏切ろうとしてたの間違いだろ?」


 黒水守と同じだ。


 期待だけさせて、期待を裏切った。


「ボクは、ボクの幸福を阻むヤツを許さない。……お前達の事も許さない」


 裏切り者のスアルタウや、クソ女の石守素子が何か言っていたけど、通信機を破壊してやる。雑音は聞こえなくなった。スッキリした!!


 振り返ると、バフォメットが何か言いたげにしていた。でも、一切喋らずにいる。ああ、そうか、さっき「黙れ」って言ったからか。


 厳つい身体のくせに、何気ない言葉で簡単に止まってしまう木偶の坊! コイツもボクに説教するつもりなんだろうけど、そうはさせないぞ。


「お前はホント、ボクの奴隷(どれー)なんだなぁっ!! ははっ! いいぞ、そのまま黙ってろ。口を開いても鬱陶しいだけだからな!!」


 その命令(ことば)通り、バフォメットは黙り続けている。


 ただ、首を横に振りやがった。喋れなくても口答えしたがるんだな!!


 言いなりのくせに、無駄な抵抗しているのがおかしくて笑ってしまう。笑っていると、騒ぎを聞きつけた奴らがやってきた。


 裏切り者の死体を見て、悲鳴をあげる奴もいた。


「れ、レオナール……!? お前、カトー様に何を……」


「こいつ、ボクらを裏切ろうとしたんだ! 偽物の救世主だったんだ。だから、殺してやった。因果応報の代行者として、報いを与えてやったんだ」


 胸を張ってそう言ってやると、1人が拳銃を抜いた。


 ボクを殺そうとしたから、思わず悲鳴を上げてしまった。咄嗟にバフォメットの背後に隠れ、何とか当たらずに済んだけど――。


「こ、殺せっ!! そいつらも全員、殺せぇっ!!!」


 カトー以外にも裏切り者がいた!


 バフォメットに命じると、裏切り者共は簡単に処分できた。ちょっとやりすぎたか? いや、全員信用できない。殺して正解だ。


 肉片と血だまりだけになった空間を見つつ、荒くなった息を落ち着けていると――何かが近づいてくる音が聞こえてきた。


 血だまりの中を歩き、何かが近づいてくる。


「お見事。お見事ですよ、レオナール君」


 拍手しながら、胡散臭い風体(・・・・・・)の男がやってきた。


「見込み以上です。ね? カトー総長の密談、盗み聞きして正解だったでしょ?」


「アンタか……。うん、アンタの言う通りだった」


 カトーの口車に乗せられ、致命的な間違いをするところだった。


 カトーを信じて任せるつもりだった。けど、この男が「カトー総長が交国に言いくるめられようとしています」と言ってきた。


 カトーのいる部屋に盗聴器を仕掛けておいたらしく、それ経由でカトーと交国の話を聞かせてくれた。ボクらの救世主がボクらを裏切るはずがないと思ったけど、スアルタウの横槍でカトーはコロッと意見を変えてしまった。


 最悪の事態になる前に、バフォメットを使って阻む事に成功したけど――。


「……で? そもそもアンタ誰だよ」


 エデン共犯者(ぼくら)の中に、こんな怪しい男はいなかったはずだ。


 どこから入り込んだのか怪しみつつ聞くと、男は舞台役者のような動作でお辞儀しつつ、自己紹介してきた。


「ボクは【占星術師】と申します。あなた様の味方ですよ」


「…………? アンタが……?」


「ええ、ええ。<叡智神>の使者といえば、ご理解いただけますか?」


「ああっ! なるほど……!」


 そうか。そういう事か。


 また、叡智神様がボクを助けようとしてくれているのか。


 あの御方はネウロンを去ってしまったけど、ネウロン人(ぼくら)の事を見守ってくれているんだ。ボクらの祈りは、無駄じゃなかったんだ!


 未だ厳しい状況に置かれているボクを助けるために「カトー」という救世主も遣わしてくれたのかと思ったけど……こっちが本物の救世主って事か!


「悪しき交国を滅ぼす。あなた様がやろうとしている偉業を手伝うよう、神に命じられて参上しました」


「そっか……! そうか! ボクがやってる事は、やっぱり神様に認められているんだ! 神様も、ボクの事を許してくれたんだ!!」


「仰る通りです! 叡智神様は、あなた様の望みも叶えてくれますよっ!」


「ボクの、望み……」


 占星術師と名乗る男は胡散臭い笑みを浮かべつつ、ボクの胸を指さしてきた。


「あなたは、死者を蘇生してほしいのでしょう?」


「なんでそのことを知って――」


「私は叡智神が遣わした使者ですよ? 叡智神は全てを知っています。あなたの望みも……当然、死者蘇生の方法も!」


 良かった。


 死んだ人は蘇るんだ。


 父さんも母さんも、ナルジス姉さんも蘇生してもらえるんだ。


 何もかも、取り返しがつくんだ!


「叡智神はあなた様の事を特別、気にかけています。そして、あなた様に是非ともやってほしい事があると願っています」


「やってほしいこと? それは――」


「交国首都に攻め上がり、玉帝を抹殺してください。さすれば――」


 空気が動いた。


 ボクの背後にいる誰かが動いて――。




■title:交国本土<帆布>にて

■from:使徒・バフォメット


『――――!』


 怪しい風体の男を、現契約者(レオナール)の背後から攻撃する。


 剣を振り、首を切り落とそうとしたが――失敗した。


 あっさり回避された。


「なっ……! お前! なにやってんだ!?」


 現契約者が驚き、私の行動を咎めてきた。それどころではない。


 目の前の怪しい男が現契約者をそそのかした元凶。それを取り除こうとしたが、攻撃を回避された。いや、攻撃の軌道をねじ曲げられた……?


 立て続けに連撃を放ったが、占星術師は――最小限の動作で――こちらの攻撃を回避し続けた。まるで、身体に当たるそよ風の感触を楽しむように――。


「止まれ!! バフォメット! 止まれっ!!」


『っ…………』


 現契約者の命令により、動きを止められる。


 一撃で片付けるべきだったのに失敗した。口出しすら出来ない以上、現契約者はこの怪しい男の手駒にされかねない。


「ごめんなさいっ! 使者様! 占星術師様! ぼ、ボクの下僕が勝手に……! ボクが命令していないのに勝手に!!」


 怪しい風体の男は服についた埃を払う仕草をしつつ、ニコリと笑って「問題ありませんよ」と言った。


「ボクは叡智神様の使者。このような下等の使徒如きにやられる存在ではありません。あなた様の事も、咎めるつもりはありません。悪いのはこの使徒です」


 お前は誰だ。


 お前のような使徒など知らん。


 そもそも、真白の魔神が現契約者(レオナール)を気にかけるはずがない。


「しかし、困りましたねぇ。この愚かな使徒(バフォメット)はボクに敵意を持っているようだ。叡智神様のためにも対処しないと……」


 怪しい風体の男はアゴをさすりつつ、私の周りを歩き回っていたが、指をパチンと鳴らした。そしてニヤニヤと笑いながら、現契約者に何かを吹き込んだ。


 男の言葉を聞いた現契約者は、不敵な笑みを浮かべながら私を見上げてきた。男に対し、「任せてください」と言いつつ――。


「命令すればいいんですね? 使者様の言う通りに」


「ええ。性能(スペック)を落とす事になりますが、仕方ありません。叡智神の意向に逆らう裏切り者には厳しい罰を与えなければ」


 男は現契約者と並んで私を見上げつつ、私に対して言葉を投げてきた。


「愚かな使徒よ。あなたは『自分で判断しない』という愚かな判断をし、統制戒言ドミナント・レージングに身を任せた」


『…………』


「あなた、『自分は失うものなどない』と思っていますね?」


 男は私を見上げたまま口元に手を当て、「ククク」と笑い――。


「馬鹿ですねぇ! まだ、あるじゃないですか! 失うもの!」


 そう言い、現契約者に命令(オーダー)を促した。


「バフォメット! 全ての記憶を失い(・・・・・・・・)、ただの傀儡になれ!」


『――――!!』


 統制戒言が蠢き、「私」を書き換えていく。


 やめろ。


 奪うな。


 私から、あの子の記憶を……奪うな!!




■title:交国本土<帆布>にて

■from:【占星術師】


「あなたが悪いのですよ、バフォメット。馬鹿な選択をするから――」


 うずくまり、もがき苦しんでいる使徒を見下しつつ、告げる。


 お前は全てを他者に投げた。その結果がこれだ。


 統制戒言により――本人の意志など無関係に――記憶を焼かれている。


 しばし、バフォメットは炎に巻かれたように苦しんでいたが――。


『――――』


 やがて、完全に物言わぬ傀儡となった。


 これでレオナールの命令に――いや、命令権限を持つ者の言葉だけ従う存在になった。単なる人型兵器に成り下がった。


 自己判断で咄嗟に動けなくなるため、戦闘能力は著しく低下しかねないが……対策は考えてある。足りない戦闘能力は別のもので補えばいい。


 コイツにも、復讐馬鹿(レオナール)にも、まだ使い道はある。


「さあ、行きましょう。復讐を遂げるのです、救世主(メサイア)・レオナール」


「ボクが、救世主……」


 レオナールは何の意味もない言葉を噛みしめているようだった。


 頬を緩めていたが、直ぐに不安げな顔で俺を見上げてきた。


「ぼ、ボクに……出来るでしょうか?」


「出来ますとも! あなたにはバフォメットという力がある!」


 私も手伝いますよ、と囁いておく。


 コイツら以外にも手駒は用意してある。


 計画の最終段階に備え、戦力はキチンと用意してある。


 カトーの役目はもう終わり。ヤツは十分、俺の役に立ってくれた。


 くだらんテロ組織(エデン)によって交国に混乱をもたらし、犬塚銀を殺害して交国から<白瑛>を取り上げ、面倒な部外者である黒水守も殺害してくれた。


 ヴァイオレットを交国に連れてこさせる事で宗像特佐長官を動かし、黒水守一派が掌握した交国政府にも混乱をもたらしてくれた。


 <予言の書>に記された通りだ!


 あとはこの混乱に乗じ、動くだけだ。


 全ての準備は完了している。


「交国計画を――真の統制機関ドミナント・プロセッサーを掌握しましょう」


 それで我が大願が成就する。


 掌握してしまえば、プレーローマも観測肯定派も敵ではない。


 始めよう。俺の交国計画を。


『この子の、だっけ?』


『そうだよぉ、この子のだよぉ』


『ユメをねぇ? 見せてあげないとねぇ? かわいそうじゃん』




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