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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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過去:「だって、お腹がすいてたから」 後編



■title:交国領<ゲットー>にて

■from:エデンの生き残り・ナルジス


「ナルジスねえさんに手を出すなっ! 薄汚い交国軍め……!」


「――なんで」


 レオナール君は、軍人さんの銃を奪い、それを使った。


 特佐さんに取り次ぐと約束してくれた軍人さんを、殺してしまった。


 突然のことに愕然としながら、それでも「なんで」と聞く。するとレオ君は「だってコイツ、ナルジスねえさんのこと、いやらしい目つきで見ていた」なんて言いだした。


「ねえさんは、ボクのお嫁さんになるんだっ! そしたら……そしたらっ! 母さんも、安心してくれるから――」


「何を…………言って……」


「それに、ボクは、仇を取らなきゃダメなんだ。ぼっ……ボクが、父さんと母さんの仇を……取るんだっ! 交国軍人は、皆殺しだぁ!!」


 同じ和語を話しているのに、意味がわからない。


 ワケがわからなくて頭が真っ白になりかけた。


 いや、そうだね。レオナール君は交国の人に、親を奪われたんだもんね。


 怒る気持ちは、わかるよ。わかるけど……こんなことしたら、殺され――。


「貴様ら!! 何をやっている!!」


「――――」


 発砲音を聞いて、軍人さんがやってきた。


 そして捕まった。当然、捕まった。


 言い訳のしようがない。レオ君が軍人さんを射殺したのは事実。


 何とかしないとって気持ちだけが先走って、言葉が出てこない。レオ君が泣きわめき、暴れるのを抱きしめて止めるしかなくて――。


「はい、はい。やってるね。助けにきたよ」


 私達は交国軍に捕まるはずだった。


 けど、「占星術師」と名乗る怪しい人がやってきて、私達を助けてくれた。


 あの人に連れられ、私達は逃げた。


 逃げたけど――。


「ハ……! はぁっ……! ぅ…………」


「もう少し急げる? このままじゃ捕まりそうなんだけど」


 体力の無い私が足手まといになった。


 レオ君は、占星術師さんが抱えて逃げてくれていた。


 けど、私はもう全然、走れなくなって――。


「先に……。先に逃げてください」


「うんうん、そうするべきだよね。それじゃあね」


「ま……! 待ってください。せめて、これを――」


 オジさんに渡そうと思っていた手紙を、レオ君に託す。


「これをオジさんに見せて。そしたら、絶対、貴方を助けてくれるから……」


 エデンは解散した。


 けど、オジさんはきっと、エデンの志を忘れていない。


 今も弱者のために戦い続けている。


 何の罪もなかったのに、大事なものを奪われ続けていたレオ君の事も……きっと、助けてくれるはず。命だけじゃなくて、心も、きっと――。


「まって。ねえさん。ナルジスねえさん……!」


「……元気でね」


 占星術師(あのひと)を信じていいのか、わからない。


 けど、信じるしかない。


 このままじゃレオ君まで死んでしまう。殺されてしまう。


 レオ君は罪を犯した。けど、ホントに……可哀想な子なんだ。


 誰かが、助けてあげないと――。


「いたぞ!! 気をつけろ、まだ銃を持っている可能性が――」


「よくも……よくもやってくれたな。よりにもよって、犬塚特佐の部下を――」


「…………」




■title:交国領<ゲットー>にて

■from:エデンの残り火


「なぜ……何故、アイツを殺した!!」


 とても怒っている大人が、私の胸ぐらを掴んできた。


 犬塚特佐と呼ばれている人が、怒っている。部下を殺されて――。


「…………。だって、お腹…………すいてたから……」


 良い言い訳は思いつかなかった。


 頭おかしくなったフリをしたら、私を怪しんでもらえると思った。


 レオ君を守らないと。


 私も、人を守らないと。


 お母さんやオジさんは、ずっと命懸けで人を守っていた。


 私も、お母さん達みたいになりたいと思っていた。


 だから、せめて、最後ぐらい――。


「…………」


 軍人さん達の銃口が、私達に向けられる。


 私と同じく、悪い事をして交国軍に捕まった人達に向けられる。


 罵られながら、殺されようとしている。……良かった。私が軍人さんを撃ったと信じてもらえたみたい。


 やっと、私も人を守れた。


 オジさん達みたいに、カッコよくは出来なかった。


 顔は腫れ上がっていて、髪もボサボサで、肌もカサカサでみすぼらしい姿だけど……それでも、強者に苦しめられた弱者を守る事が出来た。


 子供は皆で守るべき存在。


 レオ君も、子供。


 私は、エデンの教えを守るよ。……守れたよね?


「構え――」


「…………」


 ずっと守られっぱなしだった私も、最後に守る事が出来た。


 オジさん、褒めてくれるかな。


 わたし……私なりに、頑張っ――――





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