過去:「だって、お腹がすいてたから」 後編
■title:交国領<ゲットー>にて
■from:エデンの生き残り・ナルジス
「ナルジスねえさんに手を出すなっ! 薄汚い交国軍め……!」
「――なんで」
レオナール君は、軍人さんの銃を奪い、それを使った。
特佐さんに取り次ぐと約束してくれた軍人さんを、殺してしまった。
突然のことに愕然としながら、それでも「なんで」と聞く。するとレオ君は「だってコイツ、ナルジスねえさんのこと、いやらしい目つきで見ていた」なんて言いだした。
「ねえさんは、ボクのお嫁さんになるんだっ! そしたら……そしたらっ! 母さんも、安心してくれるから――」
「何を…………言って……」
「それに、ボクは、仇を取らなきゃダメなんだ。ぼっ……ボクが、父さんと母さんの仇を……取るんだっ! 交国軍人は、皆殺しだぁ!!」
同じ和語を話しているのに、意味がわからない。
ワケがわからなくて頭が真っ白になりかけた。
いや、そうだね。レオナール君は交国の人に、親を奪われたんだもんね。
怒る気持ちは、わかるよ。わかるけど……こんなことしたら、殺され――。
「貴様ら!! 何をやっている!!」
「――――」
発砲音を聞いて、軍人さんがやってきた。
そして捕まった。当然、捕まった。
言い訳のしようがない。レオ君が軍人さんを射殺したのは事実。
何とかしないとって気持ちだけが先走って、言葉が出てこない。レオ君が泣きわめき、暴れるのを抱きしめて止めるしかなくて――。
「はい、はい。やってるね。助けにきたよ」
私達は交国軍に捕まるはずだった。
けど、「占星術師」と名乗る怪しい人がやってきて、私達を助けてくれた。
あの人に連れられ、私達は逃げた。
逃げたけど――。
「ハ……! はぁっ……! ぅ…………」
「もう少し急げる? このままじゃ捕まりそうなんだけど」
体力の無い私が足手まといになった。
レオ君は、占星術師さんが抱えて逃げてくれていた。
けど、私はもう全然、走れなくなって――。
「先に……。先に逃げてください」
「うんうん、そうするべきだよね。それじゃあね」
「ま……! 待ってください。せめて、これを――」
オジさんに渡そうと思っていた手紙を、レオ君に託す。
「これをオジさんに見せて。そしたら、絶対、貴方を助けてくれるから……」
エデンは解散した。
けど、オジさんはきっと、エデンの志を忘れていない。
今も弱者のために戦い続けている。
何の罪もなかったのに、大事なものを奪われ続けていたレオ君の事も……きっと、助けてくれるはず。命だけじゃなくて、心も、きっと――。
「まって。ねえさん。ナルジスねえさん……!」
「……元気でね」
占星術師を信じていいのか、わからない。
けど、信じるしかない。
このままじゃレオ君まで死んでしまう。殺されてしまう。
レオ君は罪を犯した。けど、ホントに……可哀想な子なんだ。
誰かが、助けてあげないと――。
「いたぞ!! 気をつけろ、まだ銃を持っている可能性が――」
「よくも……よくもやってくれたな。よりにもよって、犬塚特佐の部下を――」
「…………」
■title:交国領<ゲットー>にて
■from:エデンの残り火
「なぜ……何故、アイツを殺した!!」
とても怒っている大人が、私の胸ぐらを掴んできた。
犬塚特佐と呼ばれている人が、怒っている。部下を殺されて――。
「…………。だって、お腹…………すいてたから……」
良い言い訳は思いつかなかった。
頭おかしくなったフリをしたら、私を怪しんでもらえると思った。
レオ君を守らないと。
私も、人を守らないと。
お母さんやオジさんは、ずっと命懸けで人を守っていた。
私も、お母さん達みたいになりたいと思っていた。
だから、せめて、最後ぐらい――。
「…………」
軍人さん達の銃口が、私達に向けられる。
私と同じく、悪い事をして交国軍に捕まった人達に向けられる。
罵られながら、殺されようとしている。……良かった。私が軍人さんを撃ったと信じてもらえたみたい。
やっと、私も人を守れた。
オジさん達みたいに、カッコよくは出来なかった。
顔は腫れ上がっていて、髪もボサボサで、肌もカサカサでみすぼらしい姿だけど……それでも、強者に苦しめられた弱者を守る事が出来た。
子供は皆で守るべき存在。
レオ君も、子供。
私は、エデンの教えを守るよ。……守れたよね?
「構え――」
「…………」
ずっと守られっぱなしだった私も、最後に守る事が出来た。
オジさん、褒めてくれるかな。
わたし……私なりに、頑張っ――――




