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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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彼にとっての祝福



■title:交国本土<帆布>にて

■from:復讐者・カトー


『総長は、交国を滅ぼせるかもしれません。でもそれは、プレーローマの支援ありきのものです。それはプレーローマの言いなりになって交国を……人類文明を滅ぼすだけです』


「…………」


『交国を滅ぼしたところで、苦しむ人達を増やすだけです。最初に苦しむのはきっと、僕らが守ると誓った弱者ですよ! 大勢の何の罪も無い人達が、僕らが受けた以上の苦しみを味わう事になるんですよ!!』


「…………」


『総長だって……そんな未来が来る可能性は、わかっているんでしょう!? 交国政府を倒した先、無政府状態になった交国領がどうなるか――』


 わかってる。


 本当はわかってる。


 戦争はクソだ。規模が大きくなれば大きくなるほど、何もかも無茶苦茶になる。


 交国を滅ぼすほどの戦争が起きれば、その後、どれだけ多くの人間が困るかは……わかってる。交国に支配されている弱者すら、困るのはわかってる。


 自分が、プレーローマに利用されてるのも……わかってんだよ。クソが……!


 でも、オレにはもう、何の力もないんだ。


 神器が壊れ、かつての力はなくなった。壊れた神器すら奪われ、老い先短い存在になった。神器を取り戻しても、死に向かって壊れていく魂がカンペキに治るわけじゃない。もう、手遅れかもしれない。


 頼れる仲間は、1人残らずいなくなっちまった。


 仲間と呼べる存在はいる。けど、それはオレが守ってやらなきゃいけない奴らだ。もしくは……オレを利用している奴らだ。


 アルの事は頼りにしていたが、全てを打ち明ける事は出来なかった。


 全て打ち明けても受け入れられないとわかっていた。


 どんな時でも背中を預けられる仲間は、もう、いなくなっちまった。


 でも、復讐心だけは残っていた。


 復讐心がくすぶり続けているのに、それを何とかする手段がない。日に日に弱っていく身体に鞭打ったところで、一矢報いる事すら出来ない。


 それが悔しくて、悔しくて、たまらなかった。


 交国やプレーローマになぶり殺しにされているような気分だった。自分の終わりがどんどん近づいてきているのに、何も出来ない日々が苦しくてたまらなかった。


 何とかしたかった。


 死んでいった皆のために……いや、自分自身の心のために、何かしたかった。


 ナルジス達の仇を取れず、何も成せず……死んでいく自分が、嫌で嫌でたまらなかった。自分が……世界に、何の爪痕も残せないのが、悔しくてたまらなかった。


 何かを成すには、もう、天使共の靴でも舐めなきゃいけなかった。奴らの支援によってエデンを立て直さないと、惨めに死んでいくしかなかった。


 だから、オレはプレーローマに跪いた。


 いつか寝首を掻いてやると言い訳しながら、姉貴達の命を奪ったプレーローマに跪いた。それ以外のやり方なんて、知らない。


『このまま戦い続けても、皆のためにならない以上、もう……』


「……交国もプレーローマも倒せないより、交国だけでも倒した方がいいだろ」


『総長、それは……!』


「そうだ。『皆のため』っていうのは、要するに……言い訳だ」


 本当の目的は復讐。


 オレから大事なものを奪った奴らへの復讐。全員への復讐が難しいとしても、それならせめて交国に……ムツキに復讐したかった。


 生きている奴ら(みんな)のためなんて、言い訳だ。……交国みたいな薄っぺらい大義名分を掲げていただけだ。


 お前達の事も考えていた。でも、一番大事にしているのは……死んでいったナルジス達なんだ。オレは生者より死者を優先した。


 いや、「ナルジス達のために戦っている」と言い張って、自分の心を慰めているだけなんだ。結局……オレは自分勝手な悪党なんだよ。


 アルを後継者に育て上げて、交国も人連もプレーローマも倒した後の真っさらな世界を託すとか……そんな話は、ただの言い訳なんだよ。


 自分が立派な事をしていると酔うための物語なんだよ。


 そう思わないと、そう言い張らないと……皆を、地獄に追いやっているだけになっちまうだろ……? だから、努力だけはしていたんだ。


 復讐を優先しながら、「頑張ったけどダメでした」「プレーローマに邪魔されたからムリでした」と言い張るためのアリバイ作り(どりょく)はしてきたんだ。


「オレにはもう、復讐しかないんだ。けど……これがもし、上手くいったら……交国は倒せる! さらに上手くいけば、プレーローマだって倒せるかもしれない! まだ、これからなんだ。まだ……結果が出たわけじゃない! オレは終わってない!!」


『…………』


 勝てるかもしれない。


 勝ち筋は見えなくても、それでも――。


「交国は変わろうとしているとか、ムツキが交国を変えようとしていたとか……そんな事はどうでもいい!! それは、『オレ』がやったことじゃないッ!!」


『総長……!』


「オレが、オレ自身の手で!! 何かを成したいんだ! 爪痕を遺したいんだ!」


 そのための手段は、復讐しかない。戦いしかない。


 戦う以外の方法なんて、身につかなかった。


 ガキ共に勉強教えるために自分で勉強しても、全然……身につかなかった。


 神器無しでも何とかしようと藻掻いても、何も出来なかった。それどころか、薬や周囲の力を借りないと、自分で歩く事すらままならない爺になっちまった。


 このまま死にたくない。


 消えたくない。


 オレが生きた証が欲しい。


 せめて、ナルジス達の仇ぐらい……取りたい。


 何も出来ないまま、消えたくない……。


「何を言われても、オレは……止まるつもりはない。止めたいなら、殺せ!」


 それ以外の方法で、オレを止められると思うな。


『……僕が何を言っても無駄なんですね』


「――――」


 すまん、という言葉が喉元まで上がってきた。


 けど、それ以上は上ってこなかった。半開きだった口を閉じ、飲み込んだ後、「そうだ」という言葉しか返せなかった。


「オレは、オレのやり方で行かせてもらう。……犠牲が出ても、それでも――」


『ナルジスさんは、どう思うでしょうね』


「……お前に、あの子の代弁なんて出来ないだろ」


 巫術師は魂が観える。


 けど、観えるのは生者の魂だけだ。


 オレも、お前らも、死者の代弁なんて出来ない。


 気持ちを創作する事しか――。


『ナルジスさん本人の言葉が、遺っているんです』


「…………なんだと? あの子は、犬塚銀に殺されて――」


『でも、手紙は遺っていたんです』


 アルは「レオナールに聞いてなかったんですか」と言ってきた。


 何の話だ。何を言っている。


 レオナールは、ナルジスから何も預かっていないと――。




■title:交国首都<白元>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「レオナールは、ナルジスさんから手紙を預かっていたんです」


 ナルジスさんは、ゲットーでの出来事を手紙として遺していた。


 界外との連絡が取れなくなった後も、ゲットーで何が起きているかを書き残そうとしていた。……伝えようとしていた。


「レオナールはゲットーでナルジスさんと一緒にいたんです。そして、その時に預かったと思しき手紙が、黒水にあったんです。レオナールの私室に――」


『そ……それが、交国が偽造したものじゃない証拠があるのか!? 奴らは、手紙の偽装ぐらい、平気で……!』


「自分の目で見て、確かめてください」


 手紙をスキャニングしたものを、龍脈通信で送る。


 これは交国が偽造したものじゃない。レオナールの部屋で見つかったばかりのものだ。彼が……ナルジスさんから預かって隠し持っていたんだろう。


 レオナールから直接、総長の手には渡らなかった。けど、それでも何とか遺っていた手紙を龍脈通信で送り、見てもらう。


「自分の目で確かめて……それから判断してください」


 きっと、これは本物の手紙だ。


 ナルジスさんの最後の声だ。


 僕に大事な弟がいたように、総長にも大事な人がいた。


 死してなお僕を止めてくれたアルのような存在が、総長にもいるはずだ。


 いたんだ。


 ちゃんと、いたのに――――。





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