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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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親友の死



■title:交国本土<帆布>にて

■from:自称天才美少女史書官・ラプラス


「どうもどうもどうも。皆大好き<雪の眼>の天才美少女史書官のラプラスです」


『初耳だ』


「初対面ではないでしょう!? バフォメット様に通信機を渡して、『何か面白い事あったら教えてください』と言ったのに、連絡もらえない不憫な私ですよ?」


『雪の眼が好かれているとは思わなかった。真実の歴史とやらを残すと豪語しているのに、虚偽を吐くな』


「ぬぅ! つれないですねぇ」


 チェーン様達と別れ、エノクと共に交国本土入りし、バフォメット様に頑張って連絡を取っていたのですが……やっと通じた!


 プレーローマによる大規模侵攻の影響で、龍脈通信も大規模障害が発生しているんですよねぇ。


『用件はなんだ。こちらはお前ほど暇ではない。手短に――』


「獅真様からの伝言です」


『……奴と会ったのか?』


 通信越しに話しただけですよ、と答える。


 直接対面してアレコレ聞きたいところでしたが、今は出来ません。


 ひょっとしたら、もう永遠に出来ないかもですが――。


「とりあえず、伝言の内容を伝えますね」


 長い冬眠だったな、指示待ち野郎。


 目覚めたならウチに遊びに来い。嫁やガキ共に紹介したいからよ。


 お前が眠りこけている間に、色んな事があった。


 積もる話があるから、それ肴に飲もうや。


「――との事です」


『…………』


 獅真様の伝言を伝えると、バフォメット様はしばらく無言でした。


 しばし、噛みしめるように黙っていた後、ため息のような声を漏らしました。




■title:交国本土<帆布>にて

■from:使徒・バフォメット


『……そうか。そうか、あいつ、結婚して子供まで出来たのか』


 1000年も経てば、そういう変化もあるか。


 かつてのエデンの同志の殆どは、もう死んでいるだろう。戦場で果てるか、良くても寿命で果てているだろう。


 だが、シシンは相変わらずのようだ。ぶっきらぼうで短い伝言だったが、実にシシンらしい言葉だ。


 本当に色んな事があったのだろう。だが、それでもまだ生きていて、家族まで作っている。……大変喜ばしい事だ。


 シシンの子というのは、どんな者なのだろうな。奴に似て破天荒なのだろうか? 無茶ばかりしているかもしれんが、それでいて義理堅いところを受け継いでいるかもしれん。


 あるいは母親の方に似ているのだろうか? いや、そもそも1人とは限らんな。色んな性格の子がいるのかもしれん。


 まだ見ぬシシンの家族を想うと、ため息と共に色んな感情があふれ出しそうになった。だが、けして悪いものではなかった。


『遊びに来いと言われても、アイツの家など知らんというのに……。まったく』


『獅真様も交国本土に来ようとしていたようなので、そこで貴方と合流し、一仕事終わらせた後に家へ招く予定だったのでしょう』


『そうなのか。それは――』


『ただ、獅真様はお亡くなり(・・・・・)になられたようなので、無理かもですけど』


『…………。…………シシンが、死んだ?』


 雪の眼に伝言を託した後、シシンは交国本土を目指し始めた。


 だが、プレーローマに襲われたらしい。


 そんじょそこらの天使に奴が負けるなど絶対に有り得ない。


 そもそも、奴は真白の魔神(マスター)と同じ不死者だ。マスターの場合は転生。奴の場合は復活だが、奴は死んでも死んでも蘇るはずだ。


『相手が悪かったようです。獅真様が戦ったのはミカエル様だったので』


 源の魔神の最高傑作と言われる武司天と遭遇したシシンは、残りの命を全て潰されたらしい。


 何度でも転生できるとされるマスターと違い、奴の残機(いのち)は有限。限界まで殺され続ければ、もう蘇らない。……元々、何度も武司天に殺されていたシシンは、その命をついに使い切ってしまったらしい。


 信じがたい。


 いや、信じたくない。


『獅真様もかなり健闘されたようですよ。一瞬の隙をついてミカエル様の首を飛ばそうとしたようです。残念ながら骨で刃を受けられ、カウンターの一撃をまともに食らい、あとは復活しきる前に何度も命を奪われたようで――』


 武司天は健在。ピンピンとしていて、今は交国領を荒らしているらしい。


 さすがの獅真でも、プレーローマ最強の天使相手では分が悪いのはわかる。


 わかるが――。


『奴が……死んだとは思えん。誤報では、ないのか?』


 雪の眼(ラプラス)はシシンと武司天が戦った現場にいたわけではない。


 実際に奴が死んだのを見たわけではないはず――と思いながら言うと、雪の眼は「同僚が獅真様の遺体を確認したそうです」と言ってきた。


 もう蘇らなくなった死体(それ)は、研究目的でプレーローマに運ばれていったらしい。シシンは真白の魔神が作り上げた超人。一種の真白の遺産。それゆえにプレーローマに移送されたらしい。


『まあ、もう原形留めていない状態だったそうです。本当に激しい戦闘だったので。映像もありますが、そちらも確認しますか?』


『……お前の護衛を出せ』


 死司天にも話を聞く。


 本当に、シシンは死んだと思うか――と聞く。


 自分の声が弱々しいものになっている自覚はあった。だが、それをコントロールできないほど、シシンの死は信じがたいもので――。


『さすがのシシンでも兄上(ミカエル)相手は厳しかった。そういう事だろう』


『馬鹿な……』


『シシンは多くの天使を屠ってきた猛者だ。だが、兄上相手には勝てていなかった。今までは何とか逃げ切れていたが、今回はそれも無理だったようだ』


『そもそも何故、武司天とシシンがかち合ったのだ』


 今の武司天は対魔神に動いている事が多いと聞いた。


 プレーローマの天使とはいえ、対人類戦線に出てくる事は稀なはずだ。


 何らかの策謀を感じ、問いかけると「兄上のやることはよくわからん」という答えが返ってきた。


『兄上は身分や状況に縛られて窮屈そうにしているが、昔よりは自由に動けるはずだ。今は封印されていたり収監されているわけでもないからな』


『だとしても――』


『兄上はシシンの事を気に入っている様子だったが、お互いの立場もある。シシンはプレーローマの敵だ。殺す時は殺すだろう』


 シシンはずっと前からプレーローマに睨まれていた。ゆえに武司天が直々に対処すべき脅威として訴えられていたそうだが、それが聞き入れられたのではないか――という答えが返ってきた。


『兄上は人類を庇護下に置き、それなりの自由を許しているが最終的に人類を絶滅に追いやろうとしている。彼らを寿命で死なせようとしている』


『ならば、シシンの事も見逃して寿命で――』


『プレーローマの脅威となるなら話は別だ。兄上達が出会ったのは偶然か必然かはわからんが、兄上がシシンを見逃す理由はない』


『…………』


『バフォメット。動揺しているのか?』


『――貴様らが虚偽を吐いていると疑っているだけだ』


 死司天は雪の眼の護衛をしているが、本来の所属はプレーローマだ。


 私に偽りの情報を流す動機はある。そう言うと、死司天は「それが有り得ないことはわかっているだろう」と言ってきた。


『こんな事で嘘をついて、何の意味がある。ワタシだけならまだしも、ラプラスまでお前に嘘をつく理由はないだろう』


『しかし…………。いや、だが……』


『シシンの死で動揺するぐらいなら、お前は眠りこけるべきではなかった。他人に判断を委ね、木偶になるべきではなかった』


『…………』


可能性(if)の話になるが、お前が自暴自棄にならず、自分で判断をしないという「判断」をしなければ、お前は奴を助ける事が出来たかもしれない。今も丘崎獅真は生きていたかもしれない。その可能性を想い、震えるなら――』


 何も聞きたくない。


 通信を切る。


 いや、切ろうとしたが、雪の眼(ラプラス)が慌てた様子で通信に割って入ってきた。死司天を黙らせ、声をかけてきた。


『ちょっと待ってくださいね! エノクの戯れ言は聞き流してください! 実はですね~、そっちに通信繋いでほしいと言っている方がいるのですよ。直ぐに繋ぎますね~?』


『バフォメット。僕だ、スアルタウだ』


 雪の眼の通信を介し、連絡してきたフェルグスは「総長は傍にいないか?」と聞いてきた。カトーに取り次いで欲しいようだが――。


『何が目的だ』


『総長を止めたい。この戦いを止めたいんだ』


『今更、奴が止まるとは思えんが――』


『でも、このままじゃ皆が不幸になる。総長は破滅の坂を転がっているだけだ』


『…………』


『頼む、力を貸してくれ……! 総長に取り次いでくれるだけで――』


「おい、お前っ! 誰と話しているっ!!」


 ツカツカと歩いて来た男が――現契約者(レオナール)が、怒り顔で手を伸ばしてきた。


 私から通信機を奪おうとしているらしい。咄嗟に隠そうとすると、現契約者は「渡せ!」と叫んできた。


 身体が勝手に動き、通信機を渡してしまった。現契約者は得意げな顔で、「知っているんだぞ。お前はボクの命令に逆らえないんだろう」と言ってきた。


 その得意げな顔も直ぐに変わった。


 通信先にいるのがフェルグスだと気づき、険しい顔を浮かべ始めた。





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