表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
773/875

過去:プレイヤーと使徒 4/6

■title:平和な<ネウロン>にて

■from:遊者(プレイヤー):【詐欺師】


 計画は概ね上手くいっていた。


 僕らが密かに準備を進めている間も、【占星術師(にいさん)】と交国は着々と動き続けている。僕らはその計画に寄生して動けばいい。


 兄さんが持っている<予言の書>も完璧ではない。多次元世界の全てを把握できるものではない。だから兄さんや交国の目の届かないところで密かに動き、準備を進めていけばいい。


 兄さん側には交国がいる。両者は協力関係にあるけど、目指しているゴールは異なる。


 交国は自分達の真白の魔神を復活させ、交国計画を再始動するのが目的。


 対して、兄さんは交国計画(それ)を乗っ取るのが目的。ゴールが異なる以上、その協力関係はいつか破綻するだろうけど……兄さんなら上手くやるだろう。


 けど、交国の計画も兄さんの計画も成就させてはならない。


 どちらも破綻させなければいけない。だから、僕らは向こうの計画をあえて進めさせつつ、その行く手で待ち構える。


 交国を作った真白の魔神が倒れた以上、彼らの計画には真白の魔神の完全複製体を作る器が必要になるはずだ。


 (それ)がネウロンにある以上、彼らはここに来る。ネウロンで待ち構えておけば、兄さん達を止める機会は必ずやってくる。


 おそらく兄さんは交国に先んじて器を手に入れ、それに細工をするつもりだろう。交国に細工済みの器を渡し、交国計画を乗っ取ろうとするはずだ。


 それとは別に交国計画を乗っ取る方法はあるけど……難しい方法だし、兄さんはより確実な方法を選ぶだろう。予言の書に書かれた通りに。


 だから、そこで待ち構えれば――。


「でも、本当にこれで騙せるの?」


「騙しきれないだろうね。調べたら直ぐに偽物だとわかる」


 マウに頼み、「偽物の器」を用意してもらった。


 <叡智神>が器を作る前の試作品として作った空っぽの人造人間。ネウロンの地下に保管されていたそれに、兄さん対策を施しておく。


「でも、一目見るだけでは気づけないはずだ。……一瞬でも兄さんを騙し、この偽の器の傍まで引きずり出せば暗殺の好機に繋がるはずだ」


 兄さんは器に細工し、交国計画を乗っ取ろうとする可能性が高い。


 ……他人を信じなくなった兄さんは、自分の計画の要所は自分で何とかしようとするはずだ。人を使わず、自分で細工をしにくるはずだ。


 そこを叩く。


 予言の書を持っている兄さんをここで暗殺する。交国への対処と、交国計画の解体に関してはその後にやるしかない。


「刺し違えてでも、兄さんは僕が殺すよ」


「…………。正直、暗殺計画(これ)には賛成しづらい」


「おや、僕の事を心配してくれているのかな?」


 そう返すと、マウはじっとりとした目で僕ら睨みつつ、否定してきた。


「しくじる可能性が高いからよ。そもそも、アンタは一度暗殺に失敗しているわけでしょう? だから奴から離れ、コソコソ動き回る事になった」


「それはまあ、そうなんだけど……」


「アンタの腕が信頼できない。こっちのツテでシシンを探しているから、暗殺は彼に任せる。シシンなら口が硬いし、私達の計画に間違いなく乗ってくれるから」


 おそらく、丘崎獅真さんに任せるのが一番だろう。


 ただ、彼が見つかるのかという問題がある。


 兄さんが彼をマークしていないか、という問題もある。でも、マウの言う通り、僕が兄さんを暗殺しようとしたところで成功する確率は低い。こちらの用意した舞台で戦っても、暗殺の成功率は五分五分にもならないだろう。


 丘崎さんが見つかる事を祈りつつ、他の準備を進めておくしかない。


 腕利きの暗殺者にはアテがあったけど、彼をネウロンに連れてくるのは難しい。丘崎さんと違って、信頼もできないし……彼には後処理を依頼しよう。


「この暗殺計画が失敗した場合は、直ぐに予備計画に切り替える」


 1つの計画に頼ると、計画が破綻した時にどうしようもなくなる。


 兄さんや交国の動きを見つつ、7つの計画を用意した。一番スマートに終わらせられるのが「偽の器で誘き寄せて暗殺する」というもの。


 これで上手くいけば、予言の書を持っている兄さんを無力化出来て格段に動きやすくなるけど……上手く行かなかった時は、別の計画に頼らざるを得ない。


 マウは顔をしかめ、それを嫌がっていたけど――。


「……あの子達に、これ以上背負わせないで済むようコレを成功させましょう」


「うん……」


 あの子達は――フェルグスとスアルタウは、予定通り巫術師として覚醒した。


 あの子達を保護院に預けているうちに、僕らは計画の準備を進めた。


 ネウロン以外での準備も進め、兄さん達との対決に備えていく。


 本物の器たるスミレさんの身体を起こす準備も、マウに進めてもらう。……兄さんへの対処は僕らでやるとしても、交国計画の解体は彼女にも手伝ってもらう事になるだろう。


 計画の準備は上手くいっていた。


 兄さんの計画も、概ね思惑通りに進んでいたはずだ。


 けど、成就はさせない。


 行く手を阻み、今度こそ――。




■title:魔物が跋扈する<ネウロン>にて

■from:遊者:【詐欺師】


「…………なんだ、あの……化け物は」


 黒い羊のような化け物が、人々を襲っている。


 1匹、2匹どころではない。おびただしい数の群れが町を襲っている。


 町どころではない。世界(ネウロン)中で怪物の群れが暴れている。


 こんなのは知らない。


 こんな化け物の群れが、ネウロンで暴れる未来なんて知らない。


 交国軍の生体兵器? 兄さんが何か放ったのか? いや、違う。どちらでもないはずだ。交国軍も兄さんも、まだ器を手に入れていない。


 こちらが用意した偽の器にも、まだ引っかかっていないのに――。


「ロイ! 原因がわかった! 統制機関ドミナント・プロセッサーよ!」


 呆然としている僕と違い、事態把握に努めていたマウが教えてくれた。


 ネウロンには<叡智神>が仕掛けた試作型統制機関があった。それによってネウロン人を争いから遠ざけ、ネウロンの平和を実現させていた。


 その試作型統制機関が形勢しているネットワークに、悪意のある術式(ウイルス)が叩き込まれたらしい。


 マウの見立てでは、それはシオン教の総本山がある<ニイヤド>から叩き込まれた。そこで誰かが統制機関を悪用し、多くのネウロン人を化け物(タルタリカ)に変えてしまったらしい。


「その、誰かって――」


「おそらく、今代の真白の魔神よ」


「そんな馬鹿な……! これはただの虐殺だぞ……!?」


 統制機関に無茶をさせた以上、何らかの惨事が起きるのは予想できたはずだ。


 このままだとネウロンが滅ぶどころか、器の確保も出来なくなる。けど、それは今代の真白の魔神にとって重要な事ではないんだろう。


 真白の魔神復活のための器を欲しているのは、交国と兄さんだ。真白の魔神そのものにとっては、重要なものではないのだろう。


 よりにもよって、こんな時に引っかき回してくるなんて……!


「ロイ。こうなったらもう……予備計画に切り替えないと」


「……わかった。アルとフェルグスを助けに行こう!」


 この選択は、間違っているのかもしれない。


 この事件が兄さんの起こしたものじゃないなら、兄さんも兄さんで慌てているはずだ。器を確保するために、慌てて奔走しているかもしれない。


 こちらも丘崎さんをまだ見つけられていないけど、この機に兄さんを偽の器のところに誘導し、暗殺を試みるべきだったのかもしれない。


 けど、そんな考えなんて吹き飛んでいた。


 あの子達のことを考え、2人で走り出していた。


「フェルグス、スアルタウ……! どこ!? どこに行ったの!?」


「大丈夫。逃げた痕跡がある! あの子達も、ここから逃げたんだ」


 急ぎやってきた保護院に、あの子達の姿はなかった。保護院でも怪物が暴れた痕跡があったけど……人が逃げた痕跡もあった。


 ネウロン中で大混乱が起こり、多くのネウロン人が逃げ惑っている。逃げることすら出来ず、化け物になってしまう人達もいた。


 そんな中、何とかフェルグスと合流する事が出来た。


 けど、スアルタウの姿はなかった。化け物の起こした混乱によって、フェルグスはスアルタウとはぐれてしまったらしい。


 泣きべそをかいているフェルグスをなだめ、引き続きスアルタウを捜索する。その途中、僕らは妙な動きをする化け物(タルタリカ)に出会った。


 群れから離れ、うろついているそれは僕らが逃げるのに邪魔だった。だから、フェルグスに隠れてもらっているうちに、それを倒すと――。


「すっ、スミレ……!?」


「何でここにこの子が……?」


 化け物の口の中には、スミレさんがいた。


 彼女自身はもう死んでいる。ただ、叡智神によって修復された遺体が、何故か化け物の口の中に入れられ、運ばれていた。


 おそらく、眠っていたバフォメットさんが目を覚ましたのだろう。傍で眠っていたスミレさんを逃がすため、何らかの方法で化け物を操っていたのだろう。


 それと偶然、僕らが出くわした。


「バフォメットが起きているなら、もう彼に頼って――」


「いや……それは難しそうだ」


 バフォメットさんが眠っている場所に、交国軍が向かいつつあった。化け物も暴れている状況で、フェルグスを守りながらバフォメットさんと合流するのは難しい。


 ひとまずスミレさんの起動処理を行うべきだ。


 予備計画に切り替える以上、この子の助力も得たい。


 この子を……殺したところで、多次元世界のどこかに別の器が眠っている可能性はある。兄さん達の動きを誘導するためにも、この子の力が必要だ。


 目覚めた「スミレさん」は、やはりスミレさんではなかった。


 エーディン(マウ)自身、スミレさんが復活する可能性はないとわかっているようだった。けど、それでも彼女が復活しなかった事実に傷ついているようだった。


 それでもマウは起き上がった彼女に「ヴァイオレット」という名をつけ、スミレさんとは別人として扱う覚悟を決めたようだった。


「交国軍も動いている以上、バフォメットさんとの合流も難しい。彼は目立つ。とりあえず、スアルタウを見つけてネウロンから脱出しよう」


「…………」


「僕らに、この騒動を収めるだけの力はない。それに、そんな事をしたら兄さん達に見つかってしまう可能性が――」


「わかってる……!」


 マウはネウロンの人々を見捨てる事に苦しんでいる様子だった。だが無理矢理来てもらう事にした。……キミが来てくれないと、子供達を守れないと脅し、無理矢理でも見捨ててもらう事にした。


 こんな事になったのは、彼女の所為じゃない。


 多分、僕らの所為だ。


 僕と兄さんが、「幸せ」になろうとしたから。


 他の人の幸福を奪ってでも、自分達だけでも救われようとしたから……。


 兄さんを説得できず、殺す事も出来なかった所為で、こんなことに――。




■title:魔物が跋扈する<ネウロン>にて

■from:遊者:【詐欺師】


「マウ。スアルタウの居場所がわかった」


 フェルグスとはぐれてしまったスアルタウは、大人に連れられ逃げているようだった。その居場所が特定できた。


 今のところ無事のようだけど、あの子がいるところも直ぐに危うくなる。いや、今はネウロンのどこも安全ではない。


 化け物の発生で浮き足立った交国軍も暴れている。彼らは――ネウロン人が化け物になる光景も見た事で――ネウロン人そのものを危険な存在として恐れ、虐殺しているようだった。


「スアルタウは僕だけで迎えに行く。キミはフェルグスとヴァイオレットさんの傍についていてくれ。僕達が戻らなかった場合は、そのまま――」


「貴方だけに任せておけない。私も行く」


「駄目だ。共倒れの危険もある」


 2人共ダメになった場合の計画もあるが、アレはもう「計画」ではない。


 ただの博打だ。


 そもそもが僕の不始末なんだから、キミまで危ない橋を渡る必要はない――と言ったが、マウは「あなたのためじゃない」と言った。


「アルを助けるためよ。曲がりなりにも、私は……母親なんだから」


 結局、僕はマウに押し切られる事になった。


 さすがにフェルグスまでついて来たりしないように、意図的に体調を操作し、ヴァイオレットさんに預け、2人でアルのところに向かう事にした。


 アルがいる町には地下通路がある。それを使えば化け物や交国軍を避けてアルを救い出せるはずだ。


「危うくなったら、キミだけでも逃げてくれ。絶対に」


「気が向いたらね」


「エーディン……!」


「ここであなたが死んだら、私達は切り札を失いかねない。それに……子供達に背負わせておいて、父親のあなたが楽になるなんて絶対に許さないから」


 マウは厳しい目つきで僕を睨み、先にスアルタウ救出に向かっていった。


 僕も装備を整え、それに続いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ