人類絶滅派筆頭
■title:交国領<天泉>にて
■from:<武司天>ミカエル
「クソガキッ!!!! 二度と俺に逆らうなよ!!!?」
ぎゃあ、わぁ、と逃げ惑っていたやる気のねえ天使共を全員ブッ殺してやった! 方舟も9割以上ブッ壊しちまった!!
「さて! どうしよっかなぁ!!?」
戦をクソ舐めているガキ共は別にいい。アイツらブッ殺してもラフィの権能で生き返るからな!! 死んで生き返るならプラマイゼロで問題ねえ寸法よ。
アイツら俺の部下じゃないにしても味方だから、ホントは殺すとマズいんだけど……どうせ復活するからいいんだよ!!
それは良いとして、うっかり方舟をほぼブッ壊しちまったのはどうしよっかな……!!? ラフィのとこの奴隷兵の帰りの足がなくなっちまった!! コイツら、どうやって帰してやろう……。
指揮官になっていた天使共が全員死んじまった所為で、オロオロしている奴隷兵達は「落ち着け。まだ慌てる時間じゃない!」となだめておく。
「とりあえず、交国軍と話つけに行ってくるわ!!」
殺っちまったもんは仕方ねえから、交渉に行こうとしていると――。
「悪い、通信来た」
オロオロしている奴隷兵達に「適当なとこ隠れて待っててくれ」と言いつつ方舟の残骸に腰掛け、通信に出る。
「はい! プレーローマで実質一番エラい俺だが!?」
『なんで味方の天使を殲滅したんですか。しかも他所の派閥に所属している天使達ですよ。ラファエル様から早速抗議が届きました』
「ゲッ! もうバレたのか!!?」
部下からの報告を聞きつつ、思わず顔をしかめる。
ブッ殺した奴らが復活した後、「何もなかった。いいな?」と拳骨を見せながら説得しようと思っていたんだが……ままならねえなぁ、世の中!!
『友軍で、しかも別派閥の天使を虐殺したなんて大問題ですよ。三大天のミカエル様でも揉み消せる問題ではありません』
「でもよぅ!! アイツら、ヌルい戦してるからさぁ……!!」
プレーローマではよくある事なんだが、ラフィの権能で復活するからって油断していたんだ! 真面目な命の取り合いなのに、無駄に部下の――奴隷兵の命を捨てさせて高みの見物してる馬鹿いっぱいだったから俺もキレるよ!!
武を司る天使としては「やる気あんのかテメエら!!!!」とキレていいだろ!?
「アイツらどうせ復活するんだから、いいじゃねえか!? 俺がやったのは指導よ、指導!! 教育上必要な体罰だって!!!」
『裁判になったら100%ミカエル様が負けますよ』
「ちくしょう!!! 冤罪だ!!!!」
『馬鹿なこと言ってないで、早くラファエル様に連絡して頭を下げてください』
「――俺を誰だと思ってる」
部下に対し、通信越しに凄む。
俺は三大天のミカエル。
武を司る<武司天>のミカエルだぞ。
『早く謝らないと1年間、菓子作りを禁じます』
「――――ラフィ!? 俺俺!! 俺だよ!!? なんか色々と手が滑ってお前の部下達殺しちまった!!! ごめんな!!?」
速攻で通信繋いで謝って速攻で通信切ってやった。
上司脅してきた部下に「謝っておいたぞ!! 褒めろ!!」と報告すると、「ミカエル様の謝罪が雑過ぎて苦情が増えました」と言われた。おかしいなぁ!!?
「でもよ!! アイツらの態度にも問題あるだろ!? 天泉を守ってる交国軍の奴らは結構な精鋭なんだぞ!? 部下が必死に戦っているのに高みの見物してるのは、どう考えてもおかしいだろ!!?」
『そちらに送り込まれた兵士達は陽動のようです。天泉の交国軍をある程度釘付けに出来れば、それで役目を果たせるので質が悪い子が派遣されたようです』
「知らなかった、そんなの……」
驚愕の事実にビックリしつつ、口元を抑える。
驚愕しすぎて、ちょっと内股になっちゃった……!
ここの奴らが陽動として戦っているうちに、工作部隊が天泉近海に機雷を仕掛けまくるらしい。天泉攻めに来た部隊は適当なとこで切り上げて、あとは機雷を爆破しまくって混沌の海を荒らし、天泉にいる交国軍の精鋭はこの世界に足止めするつもりだったみたいだ。
そうやって精鋭を足止めしているうちに、別の地域を切り取っていく。オマケに補給線を立って疲弊した天泉の精鋭は後でボコる。そういう作戦だったらしい。
「いや、それはそれとして舐めた態度で戦ってるガキ共がいるのは問題だろ? 俺は年長者としてそういう奴らに『指導』してやったわけですよ」
『同じことをラファエル様に言って、説得できますか?』
「アイツ気難しいから無理!! アイツ性格悪いからこういう陰湿な作戦好きなんだよな。そんなことばっかやってるから勝てる戦も負けるんだよ」
『ラファエル様は今回のこと、ミカエル様らしい蛮行だと激怒していると思いますよ』
「理不尽!!」
『いや、さすがにミカエル様の方が理不尽だと思いますよ。他所の派閥の戦闘をフラッと見に行って、やり方が気に食わないから暴れたんですから』
「お前……!! どっちの味方だよ!!?」
もうちょっと上司に優しくして!!? と言ったが、「そんな教育は受けていませんので」としれっと言われた。さびしい。
殺っちまったもんは仕方ないんだから、何とかしてくれよぅ――と部下に泣きついていると、交国軍の特佐が険しい顔つきで近づいてきた。
「いま部下に説教されてるから待って!! そっちとも話あるから!!」
手のひらを見せ、「タイムな!?」と手振りでも示していると、容赦なく神器で攻撃してきた。こいつ、ヒーローが変身中に攻撃してくる部類の空気読めない奴だ!!
空気読めてない一撃をペシッとはね除け、「待てって言ってんだろ!!?」と怒鳴り、牽制する。さすがに苛つきつつ、通信を終える前に部下に頼む。
「わかった!! 要は責任を取ればいいんだろ!? ラフィの部下共の代わりに仕事を果たせばいいんだろ!?」
『仰る通りです。その言葉が聞きたかった』
「ちゃんとやるから、そっちでここにいる奴隷兵の首輪とってやってくれ!! ハッキングしてパパッと出来るだろ!?」
『そう仰ると思ったので、既にやってます。責任はミカエル様が取ってください』
「任せろ!! 俺は責任を取るプロだぞ!! 三大天という資格もある」
『上司の鏡ですね。問題を起こした元凶でなければ……』
「おっと、敵の通信妨害だ! 通信が切れるぞ!!」
胸を張って通信を切り、待たせていた特佐に「待たせたな!!」と言う。なんか殺意を込めて睨まれているが気のせいか?
「で、相談なんだがお前ら降伏してくれねえか!? それが一番早い!!」
方舟ブッ壊しちまったから、ラフィのとこの奴隷兵を交国軍に預けて他所に行こうと思ったんだが、駄目になった!
俺はブッ殺したガキ共の代わりに、お前らと戦わなきゃいけなくなった。
「交国軍より俺の方が強い! ジャンケンでグーがパーに勝てないように、お前らじゃあ絶対に俺に勝てない!! わかってくれるよな?」
降伏してくれたら悪いようにはしない。
しっかり責任を取る――と宣言すると、「ふざけるな」という言葉が返ってきた。神器を用いた攻撃も飛んできた。
「我らは交国軍の兵士であり、人類文明の守護者だ! プレーローマの支配を受け入れれば、待っているのは家畜以下の人生! 貴様らが使っている奴隷兵のように、消耗品として使われる人生だ!」
「俺はラフィのような事はしねえ。信じてくれ」
言っても信じてもらえねえだろうが――と思いつつも、両手を広げて説く。
目の前の特佐は変わらず敵意をぶつけてきている。それどころか部下達を展開させ、包囲を行おうとしている。
それは別にいい。俺達は天使と人間。敵同士なんだから戦うのは仕方がない。それはそれとして、こっちの奴隷兵は人間だから見逃してやってくれよ――と言ったものの、それも無視された。まあ、そういう反応になるわなぁ。
ままならない現状にため息をつき、続けて説く。
「お前らで武司天に勝てるわけないだろ? 俺と戦争やるつもりなら、甲田かレンネンライトか……最低限、犬塚とその部下達を連れてこいよ」
犬塚とその部下達は卑劣な手段で殺害されたらしい。惜しい奴らを亡くした。奴らは俺相手に撤退戦やって、見事に友軍を逃がしてみせた猛者達だったのに。
「いいか? ここで俺達が戦っても結果は見えている。俺が勝つ! で、天泉は俺の支配地になる」
そうなったら俺はここをキッチリ管理する。直接統治している暇はないから、部下に仕事を投げる事になるが信頼のおける部下に任せるさ。
俺はラフィ達みたいに奴隷兵を使って自爆特攻とかさせねえ。んなことするより、俺なり俺の部下が突貫する方が遙かに効果的だからな。
「降伏するなら、この俺が――神罰機構・三大天の俺が、お前らの面倒を見てやる。他の三大天にも手出しはさせねえ」
「…………」
「敵勢がここを奪還しようと軍を派遣してきたら、その時は俺の部下が戦う。お前らはその辺で適当に暮らしていればいい」
俺と戦って死ぬより、ずっといい生活が送れるぞ。
そう説いたが、目の前の特佐は武器を下ろさなかった。
説得失敗! まぁ、こうなるのは目に見えていた。
でも、ガブやラフィの説得よりはマシだと思うんだけどなぁ~?
「三大天のミカエル。貴様の支配地で何が起きているか、我々が知らないと思っているのか? 貴様は……! 多くの人間の尊厳を奪っているだろうが!!」
「でも、ウチのシマで暮らしている人間はそれなりに楽しくやってるよ」
「それは貴様の主観でしかない!!」
「そうだな。悪い、それは反論できねえわ」
ここでこれ以上やり合いたくないんだよな~。
そう思いつつ、何とか説得の言葉を絞り出す。
「え~っと……一応、俺が統治下に置いた後の条件を話しておこう。お前らが抵抗しても、大人しく降伏した後でも同じ条件で統治させてもらう」
変わるのは生者の数だけ。
俺に逆らったところで、冷遇したりはしない。
お前らが抵抗したところで結果は変わらないからな。
「まず、天泉に存在する軍事組織は全て解体する。当然、交国軍も解体する。その代わり……志望者には新しく作った治安維持組織に参加してもらう」
俺や俺の部下が全支配地を常に見張っておければいいんだが、それは出来ない。だから俺の支配地域の統治は人間にも参加してもらっている。
人間が暮らしているところ多いから、人間が警邏している方が角が立ちにくいんだよな。人間じゃどうしようもない時は天使達が出張って解決する! 治安維持組織だけではなく、行政組織にも人間に参加してもらう。
「戦大好き人間がいるなら、俺の軍団に入ってもらってもいい。基本、荒事は天使達が担当するけどな」
文明水準も交国並みか、交国以上のものを提供するよ。
検閲も基本的にやらない。俺が巻き糞をソフトクリームとして売っているギャグ漫画を描いたらさすがに「衛生観念どうなってんだ!」と星1レビューつけさせてもらうが、好きに描けばいいさ!
そういうもの描かれる俺の言動に問題があるんだろう。そんなもんよりクソカッコいい武司天様を描いてもらえるよう、俺が普段からキッチリ働いて、お前ら惚れさせてしまえばいい話だ。
「兵士以外の仕事だと……そうだなぁ~……」
治安維持の観点から遊撃隊活動はやめてほしいが、職業選択の自由はある。適性を見て仕事を斡旋する事もあるが、それも断ってもらっていい。
「ああ、そうだ! 交国といえばアップルパイが美味えよな!!? ウチのアップルパイも負けてねえが、交国のアップルパイ作りの腕を活かして菓子職人になるのも1つの手だぞ!!?」
「……………………」
「ウチのシマにある菓子店はどこも美味くてなぁ!! 俺もよく色んなとこから取り寄せて食ってるんだ!! あ、あとっ! 菓子作りの大会も開いてるぞ!!」
戦と同じで、競うのは楽しいからなぁ~~~~!
色んな世界から腕自慢達が集まって、菓子作りの腕を競い合う! 出来上がるものはどれもこれも美味! 夢のような大会だ!!
当然、俺も参加する!!
どの菓子職人も腕利きすぎて、俺は大抵一回戦で負けて審査員席に座るけどな! そこで美味い菓子に毒を盛って俺を殺そうとしてくる奴が出てくる事あるが、まあそれもスパイス! 俺以外が害されないなら刺激的な味わいになって良し!!
「税金は徴収するが、人間だからといって重税で苦しめるつもりはない。むしろ、今までお前らが払ってきた税金より安く済むはずだよ」
「ふざけるな」
「社会福祉も、そんじょそこらの人類国家より充実している。年金も生活保護の用意も当然ある。お前らが自分でクソの始末も出来ないほど弱っても、一生をまっとうできるように介護制度も用意している」
「貴様は、聞こえの良い言葉で真実を隠そうとしているだけだ!!」
やはり説得は失敗する。
そうだよなぁ、交国の人間なら俺がやってること、よく知ってるよなぁ……。
「貴様も天使らしく、人類を絶滅させようとしているだろうが!!」
「まあな。俺は<人類絶滅派>の筆頭やらせてもらってるから」
人類は滅ぼす。
1人残さず消す。
そして、天使と人類の争いを終わらせる。
源の魔神が始めた争いを終わらせるには、どっちか消すしかない。俺は天使だから、天使側の立場に立たせてもらう。
人類を根絶やしにしてやる。
だがそれは、処刑台ではなく、あったかい寝台で行うべきだ。
どうしようもない時は殺すが、基本的に看取らせてもらう。
それが俺の目指す人類絶滅だ。
■title:交国領<天泉>にて
■from:交国軍・特佐
「俺は三大天として、責任を持って人類の生を終わらせてやる」
奴は敵だ。
人類絶滅派の筆頭だ。
こちらを見下す笑みを浮かべながら、こちらに害意をぶつけてくる。
奴の支配下に置かれれば、我々は尊厳を失う事になる。
「俺の支配地域で穏やかな一生を用意する。ただし、子作りは禁止だ。俺は責任を持ってお前らを寿命で絶滅させてやる」
武司天・ミカエルは、人類の存続を認めていない。
1人たりとも生かすつもりがない。全人類を去勢し、子孫が作れない状態に追い込み……我らを根絶やしにしようとしている。
「我々を、犬猫のように扱う外道め!!」
「違う。犬や猫は天使と共存できる。だが、人類と天使が共存し続けるのは難しい…………いや、不可能だ。どっちかが消えるしかねえんだ」
だから、人類絶滅派筆頭がお前らを消す。
看取って殺してやると言い、武司天は笑みを浮かべた。
それは穏やかな笑みに見えたが、上っ面を整えただけのもの。
天使らしい傲慢さを隠したものだ。
「ならば貴様らが死ね! 武司天ッ!!」
包囲は完了した。
味方部隊と共に、武司天に向けて一斉攻撃を――――。
――――。
――――――――。
「――――っ、…………?!!」
気づけば膝をついていた。
意識が、飛んでいた。
何が……起きた。
部下達も同じような状態だったらしく、皆が混乱している。
……意識が飛ぶ寸前、武司天が手を叩くのが見えた。
拍手でもするように――――。
「はいはい、タイム終わり。避難終わったから攻撃開始していいぞ」
「――――!!」
目の前にいたはずの武司天が、背後からやってきた。すれ違いざまに私の頭を軽く叩き、元々立っていた場所に戻ってきた。
「貴様、いま…………何を」
目の前にいるのはプレーローマ最強の天使。
何らかの権能を使ったのだろう。まさか、これは――。
「まさか、時間操作系の権能か!?」
「お前そりゃ、漫画の読み過ぎじゃねえか? ただの猫騙しだよ」
武司天は笑い、軽く手を叩く動作をした。
先程、意識が飛ぶ直前に見せた動作。手を叩き、それによってこちらの意識を刈り取ったらしい。そんな……そんな馬鹿な話があるか。
百歩譲って、私の意識を刈り取れたとしても、周囲に展開した部下全員の意識を刈り取れるはずがない。離れた場所で砲撃準備をしていた者達も止められるはずがない。
「これは権能じゃなくて、単なる武術だ」
「ふざけるな。そんなはず――――」
――――。
「ほら、な? この通りだ」
「――――」
再び武司天が手を叩いた瞬間、また意識が飛んだ。
武司天の傍に倒れ伏している部下達の姿があった。
呆然とそれを見ていると、武司天は彼らを軽く小突き、起こし、「持ち場に戻っていいぞ」と彼らを解放していった。
気絶していたのは彼らだけではない。移動中の方舟や機兵が、どれもこれも事故を起こしている。墜落、あるいは転倒している。
変化はそれだけではない。
プレーローマの奴隷兵が消えている。
部下が「遠隔地に突然、気絶した奴隷兵が現れた」と言っている。まさかこいつ、奴らを安全な場所に移動させるためだけに我々の意識を――。
「さすがにこの世界にいる生命全ての意識を刈り取ることは出来ねえが、これぐらいの距離ならこんな感じでいける。ほれ、もう勝てないってわかったろ?」
「……舐めるな」
負けを認めるわけにはいかない。
人類の敵相手に負ければ、人類は終わりだ。
戦う事になった以上、勝つしかない。コイツが天使である以上、いつか殺し合わなければいけないのだ。その機会が、いま巡ってきただけだ。
「貴様の攻撃は、そう何度も通用しないはずだ。最初の猫騙しより、効果が薄い。身体と意識に、耐性が出来ている」
「ふぅん……。降伏しないって事だな」
「当たり前――」
「仕方ねえ。じゃあ、俺が責任持って逝かせてやる」
武司天が構えた。
だが、それは気怠げな構えだった。
あからさまにやる気がないらしい。不機嫌そうに「お前らシシンみたいに強くねえから、ただのイジメになるじゃねえか」と呟いている。
その表情も直ぐに変わった。
楽しげな笑みを浮かべた。
「いや待て。良い方法あったわ!! 第一権能起動」
「――――!!」
武司天が指を鳴らした瞬間、空気が輝き、弾けた。
先程の猫騙しとは違う。
こちらの意識は保っているが、身体に強烈な違和感が走った。
神経毒? いや、違う、これはまったくの別物――。
「俺の第一権能・マルドゥックは『軍勢強化権能』だ」
「まさか――」
「この世界にいる奴らを全員、強化してやったぞ! 俺に近いほど力は増していく。俺の力で強くしてやれば、弱兵でも少しはマシになるだろ!?」
■title:交国領<天泉>にて
■from:<武司天>ミカエル
「貴様……! 貴様ッ……!!」
愕然としていた特佐の表情が、怒りに染まっていく。
「どこまで……どこまで人類を虚仮にすれば、気が済むのだ!?」
「いいだろ、強化してやったんだから。お前らに不利益はない」
だが、強化状態に慣れるのに時間が必要だよな?
10分待ってやる。
10分間、俺は誰も殺さない。それ以降は殺す。
「10分間、俺を練習台にしていいぞ」
腕を十字に構え、心の構えも変える。
心身共に戦闘態勢に移行する。
「<武司天>ミカエル――推して参る」
言葉で説得できない以上、武を以て制する。
いつも通りだ。問題ない。




