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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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再侵攻



■title:交国領<天泉>にて

■from:交国軍・特佐


『敵艦隊、界内侵入開始』


『<海門(ゲート)>誘導成功しました!』


「…………」


 プレーローマによる7年ぶりの大規模侵攻が始まった。


 対プレーローマ戦線の最前線にあたる<天泉>にも、大量の敵艦隊がやってきた。混沌の海に機雷原を敷設していたが、それをほぼ無傷で突破してきたらしい。


 <天泉>に辿り着いたプレーローマ艦艇の数は約100隻。浮遊する山と見紛うほどの超大型艦3隻が抱えていた方舟を放出し、展開させている。


 その方舟から次々と出てきたのは――。


「やはり、先鋒は人間の奴隷兵か」


 真っ先に攻め入ってきたのは、我々と同じ人間だった。


 ただ、彼らの自由意志でここに来たわけではない。


 プレーローマの奴隷兵にされた人間達の首には、金属の首輪がつけられている。あそこから人体強化用の薬剤や――命令違反時の罰として――毒薬が注射されるようになっている。


 天使共が人間の奴隷兵を従わせるために使う手だ。打ち込まれる毒薬は楽に死ねるものではない。死ぬより惨たらしい目にあう毒薬だけに、奴隷兵達も必死に戦っている。


 プレーローマの天使共は、奴隷兵の後方で高みの見物を決め込んでいる。優雅に茶を飲みながら戦場を見物している腐った輩共の姿が見える。


 それを睨みつつ武器を振るい、敵が差し向けてきた奴隷兵を殺していく。


 中にはプレーローマの捕虜にされた同胞もいるかもしれん。


 だが、助けられる保証はない。


「やめてくれ! 撃たないでくれっ! 撃たないでくれ!!」


「家族がいるんだっ! いやだぁ! 死にたくないっ……!!」


 そう叫びつつ突撃してくる奴隷兵を屠っていく。


 誰も彼も嫌々戦っている。楽しげなのはスポーツ観戦感覚で戦場を見ている天使達だけだ。


「殺してやれ。それがせめてもの情けだ」


 同類相手に躊躇っている兵士に代わり、死に損ないの奴隷兵にトドメを刺してやる。そうしている間に別の奴隷兵達が突撃してきた。


 やめて。死にたくない。殺さないで。そう叫びながら――。


「――――」


 駆け寄ってきていた奴隷兵達が、一斉に爆発(・・)した。


 こちらの攻撃ではない。自爆だ。


 こちらに有効打を与える前に血肉を撒き散らし死んでいった者達の姿を見つつ、兵士達に「下がれ」と命じる。だが、遅かった。


「チッ……」


 周囲の兵士達がバタバタと倒れていく。


 どうやら奴隷兵の体内に神経ガスが込められていたらしい。ガスを撒くために改造された兵士なのだろう。それをこちらの近くで爆発させ、我々を殺そうとしてきたのだろう。こういう事もあるから奴隷兵達はもう救いようがない。


『特佐! お下がりください!!』


「問題ない。私はこの程度、耐えられる」


 武器を振るい、少しでもガスを吹き飛ばす。だが周囲の歩兵達は次々と倒れつつある。機兵部隊の増援を呼びつつ、崩れた歩兵部隊に下がるよう命じる。


「外道共が……」


 交国の兵士達が藻掻き苦しみ、奴隷兵達が泣きながら死んでいく光景を見て、天使達は笑い続けている。


 人間同士で殺し合っている光景を見物し、指を指して笑っている悪趣味な輩もいた。……自分達の手駒にした兵士達の命すら、玩具のように扱っている。


 強制的に戦わされている奴隷兵だけなら、大した脅威ではない。こちらにも多少は被害が出るが、負けはない。


 しかし、後方に控えている天使達は容易く勝てる相手ではない。


 勝てたところで、天使達を殺しきるのは難しい。


 三大天の1体、<癒司天>ラファエルは死者蘇生の権能を持っている。


 蘇生出来るのは事前に権能の力を込めた者だけとはいえ、数十万以上の味方兵士に残機を付与できる厄介な権能だ。


 蘇生後直ぐなら残機を失っている状態のため、そこで殺せばもう蘇ることはないが……奴らはその場で蘇生するとは限らない。離れた場所で蘇り、無理せずさっさと逃げてしまう事もある。


 おかげでどれだけ戦ってもプレーローマの天使達は死なない。死んでも復帰し、一時撤退してまた残機をもらって帰って来る。


 ここに来た天使達も――あれだけ余裕ぶっているという事は――残機持ちだろう。仮に自分達が死んだところで蘇るという事実が、奴らに余裕を与えているのだろう。


 さっさとあの天使共を殺してしまいたい。


 <天泉>に来ているプレーローマの部隊は、全体のほんの一部でしかない。


 現在、確認出来る限りで28箇所にここと同規模……あるいはここ以上の大部隊が交国領にやってきている。天使共が来るのはわかっていたが、敵も上手くこちらの防御が薄い場所を突いてきている。


 天泉(ここ)を守り切る自信はあるが、ここだけ守っても負ける。早く目の前の敵を片付け、別の戦域の救援に向かわなければならん。


「可能な限り、天使共を捕虜に取るぞ。そして死ぬ方がマシな目に遭わせてやる」


 奴らの余裕は<癒司天>の自動蘇生権能から来るもの。


 殺しても殺しても蘇る厄介な権能だが……殺さずに捕らえておけば、地獄を見せてやる事も不可能ではない。自害すら許されない状況を作ってやれば、奴らの表情もゆがみ始めるだろう。


 それを実現するためにも、我が武器の真価を引き出す必要がある。


「神器解――――」


 神器を使おうとしたが、解放寸前で止める。


 ……敵陣の様子がおかしい。


 奴隷兵の足並みが大きく崩れているうえに、敵船で爆発が起きている。


 こちらの砲撃によるものではない。


 敵船内部で爆発が起こっているようだ。


「誰かが敵船に乗り込んでいるのか?」


『わかりません。敵船内で何らかの問題が発生したようで――』


「…………?」


 敵の兵器が暴走でもしているのか?


 よく見ると、余裕の表情で観戦していた天使達も表情を変えている。……自陣の方を見て青ざめている。死んでも死なない天使共が、恐怖に震えている。


 戦いつつ、何が起こっているか急ぎ確認するよう部下に命じる。


 すると、なぜ天使まで浮き足立っているのかがわかった。


『敵艦内で同士討ちが起こっているようです』


「まさか、奴隷兵による反乱か?」


『いえ。天使が(・・・)天使を殺して回っているようです!』




■title:交国領<天泉>にて

■from:プレーローマの天使


「何であの御方がここに……!?」


 交国への大規模侵攻は入念に準備を整えていた。


 弱体化した交国に再起不能な大打撃を与えるだけではなく、さらに弱った交国を他の人類文明に食わせる工作も概ね完了していた。


 反交国勢力も今回の大規模侵攻前に暴れさせておき、こちらの大規模侵攻によって起きた混乱をさらに大きくさせる予定だった。


 いや、今も侵攻計画は上手くいっているはずだけど――。


「何で、何でっ! 我々を襲ってきてるんだ!? 味方だろ?!!」


 仲間の悲鳴を聞きつつ、艦内から艦外へ逃げる。


 けど、それは失敗だった。


 天泉侵攻部隊に所属する天使達を殴り殺している天使(・・)が、方舟の装甲を拳で破壊しながら出てきた。


「クソ天使(ガキ)共がッ!! なぁ~~~~にふざけた(いくさ)やってんだ!? 殺る気あんのか!? ボケがぁーーーーッ!!」


 白いスーツで身を包んだ金髪赤眼の天使は、壊れた装甲を引き剥がし――怒鳴り散らしながら――それを投擲した。


 投擲された装甲(それ)は味方艦艇に激突。いや、激突どころか貫き、撃墜した。仲間の天使が乗っている方舟なのに……!


「テメエか!! ここの現場指揮官(せきにんしゃ)はァッ!!」


 盛大に仲間殺しをやっている金髪の天使が、憤怒の表情を浮かべながらこちらを見てきた。ひぃ、と悲鳴をあげながら逃げたが一瞬で追いつかれた。


「なぜ、あなた様がここに……!? それに、何で同胞を殺して回って……!」


「はあッ!? んなこともわかんねえのかボケーーーーッ!!」


 金髪の天使が「ぶんっ」と手を振った。


 平手打ちをしてきたらしい。


 雷鳴の如き音と共に、身体が吹っ飛ばされる感触がした。


 いや、違う。吹っ飛んだのは身体じゃない。


 私の首だけ、平手打ちで飛ばされて――――。




■title:交国領<天泉>にて

■from:<武司天>ミカエル


「ああッ!! マズい!! ()っちまった!! まあいいかァッ!!」


 現場指揮官の首が空の彼方まで飛んでいっちまった!


 多分アイツ、死んだ時は天泉(ここ)から逃げられる場所で復活するんだろうな。クソッ!! 取り逃した!! 文句もちゃんと言えなかった!!


「<武司天>! 三大天の貴方が、なぜここに……!?」


「何故、同胞殺しを!? 天泉への侵攻は、ラファエル様の指示で行われている事なのですよ!? 同じ三大天とはいえ、癒司天を敵に回すおつもりですか!?」


「お前らがヌルい戦してっからだろうがァーーーーッ!!」


 手刀を使い、離れたところから文句言ってきた戦闘員共の首を飛ばす。


 頭に血が昇りつつあったのか、血に押された首がピュ~ッと飛んでいった! アイツらより俺の方が頭に血が昇ってるから、俺の方がもっと飛ぶかもなぁ!?


『これは、プレーローマの正式な軍事行動ですよ!?』


『まさか、プレーローマを裏切るおつもりですか!?』


「ハァ!!? 違うに決まってんだろうがァーーーーッ!!」


 足場にしていた方舟にゲンコツを見舞う。


 根性のねえ方舟だったのか、風船のようにパァンッ! と弾け飛んでいった。仕方なく自分で飛びつつ、文句を言ってくるガキ天使共に文句を返してやる。


「テメエらが!! こんな……こんなヌルい戦してんのが悪いんだよ!!? お前ら、正気か!!? 大事な大規模侵攻なのに、奴隷兵に任せて天使(じぶん)達は高みの見物を決め込んでいるって勝つ気あんのか!?」


『そ、それは……。奴隷兵を差し向けたのは、人類の士気をくじくためで――』


「くじけてねえよッ!! 舐めてかかってんじゃねえよ!? むしろお前らがド外道戦法やってるからバリバリにキレて士気上がってるだろうが!! ボケッ!!」


 下手な言い訳をしてきた天使が搭乗している機兵と俺の間にある空気を殴り、空気に打撃を伝播させて機兵を吹っ飛ばす。


「本気で勝つ気あるなら!! まず、天使(おまえら)が戦うのが筋だろうが!! 呑気に観戦してんじゃねえよ!! そんなだから7年前の大規模侵攻も失敗してんだろうが!! 真面目に戦えッ!! 味方を雑に使い潰すな!!」


『いま一番味方を殺しているのは武司天(あなた)――』


 口答えしてきた天使(バカ)のところに飛び、その勢いのまま体当たりを行う。吹っ飛ばす。殺す!! 言い訳する前に戦えッ!!


「俺は、情けないッ!! お前らが『天使』という立場にあぐらを掻いて、ヌルい戦しているのが恥ずかしくて仕方ない!!」


 軍学校からやり直して来い!!


 いや、今すぐ俺が教育してやる。


 真の戦がどういうものか、実地で教えてやる!!!


「かかってこい、ガキ共!!! 教育してやるッ!!!」




■title:交国首都<白元>にて

■from:逆賊・石守素子


「三大天のミカエルが味方を殺して回っているようです」


「えっ……? ど、どういう事ですか?」


 困惑しているスアルタウが妾を見てきた。


 妾が知るか……。







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