誠実な君に
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
星屑隊の皆のおかげで、祝勝会は大盛りあがりで終わった。
騒ぎ疲れ、ウトウトしていたアル達を船室まで連れて行き、「おやすみ」と行って後はヴィオラに任せる。
「さて、あとは食堂の片付けしますか」
星屑隊の野郎共、最後に片付けだけ手伝ってくれりゃ完璧だったんだが……ちょっと目を離したらパッとどこか行ってやがる。
やれやれ、と思いつつ食器とゴミを片付けていると――。
「ラートさん。今日はありがとうございました」
「おお、ヴィオラ」
ヴィオラが食堂に戻ってきて、片付けを手伝い始めた。
アル達が直ぐに寝付いたから、こっちに来てくれたらしい。
さすがに手伝わせるのは申し訳ないから、「早く寝な?」と勧めたが、ヴィオラは手伝ってくれた。俺よりテキパキと片付け始めた。
「お前らのための祝勝会なのに、なんか悪いなぁ……」
「こういうの得意なので、任せてくださいっ!」
細腕で無理に力こぶを作るヴィオラに手伝ってもらっているうちに、大事なことを思い出した。大事なものを渡してない。
ヴィオラへのプレゼントも用意してたのに、色々あったから忘れてた……。
片付けが終わるのを見計らい、ヴィオラに話しかける。
「ヴィオラ。ちょっといいか?」
「はい?」
「祝勝会はお前らのためのもんだ。その『お前ら』の中には、当然、ヴィオラも含まれているわけで――」
ヴィオラ用のプレゼントを入れた包みを取り出し、渡す。
ケナフの中古屋で買ったものだ。
「えっ! これ、ひょっとしてアメジスト……?」
「ええっと、どういう石かはよくわかってないんだが……」
紫色の小さな石がついたネックレスをプレゼントに選んだ。
「これ見た時、ピンと来たんだ。お前の顔が思い浮かんで……。絶対にヴィオラに似合うって思って買ったんだ」
「こ、こんな高価なもの、受け取れませんよ……!?」
「正直に言っちまうと、そのぅ……中古屋で買ったから、そこまで高くなかったんだ。けど、ええっと……! ヴィンテージ物ってことで、なんとか……!」
自分でもカッコつかないのはわかってるが、どういう来歴のもの来歴のモノか、ホイホイと話してしまった。
嘘ついてでも「ヴィオラのためにわざわざ取り寄せた高級品だ!」と言うべきかもしれないが、俺、アホだから嘘つくの苦手だし……。
「子供達にプレゼントいただいただけでも申し訳ないのに、私もなんて……」
「でも、ヴィオラだってメチャクチャ頑張ったじゃねえか」
ヤドリギ無しでは、巫術による遠隔操作は実現しなかった。
そのヤドリギの成果を技術少尉に持って行かれる事も、俺は納得してない。
せめて、ヴィオラが頑張ってくれた証をモノとして残したい。
ヤドリギだけじゃなくて、ヴィオラは色んな事を頑張ってきた。
フェルグス達が無事なのは、ヴィオラがずっと頑張ってきたおかげだ。
「ガキっぽい考えかもだけど……俺はお前が頑張った証を渡したいんだ。あっ! で、でも、そういうアクセサリー嫌いだったら別のモノを用意するから……! 欲しいものあったら何でも言ってくれ!」
「私、これ好きです! とても良いと思いますっ!」
ヴィオラはネックレスをギュッと握りつつ、そう言ってくれた。
ただ、受け取る事を申し訳なく思っているようで、上目遣いで俺を見てきている。「貰ってくれ」と言い、笑いかける。
「俺は、それつけたヴィオラが見たい。今でも可愛いけど、もっと可愛くなるぞ」
「か、かわっ……。や、私は、そんな……」
ヴィオラは顔を赤くしてアタフタしてたが、最終的に俺の説得を聞いてくれた。
笑顔を浮かべ、「大事にします」と言ってくれた。
「さっそくつけていいですか? ラートさんにも見てほしいです」
「俺も見たい! サイズ合うかなぁ……?」
「ネックレスなら大丈夫ですよ~」
ヴィオラはそう言い、ネックレスをつけようとしてくれたが――ちょっと苦戦してる。サイズは全然問題ないみたいだけど。
「俺がつけてやろっか?」
「あら、ラートさんこういうの慣れてるんですか?」
「プロの軍人だから、認識票ならつけ慣れてる」
その要領でいけるだろ。
ヴィオラからネックレスを受け取り、背後に回る。
ヴィオラは髪をかき上げ、首を見えやすくしてくれた。
「お前の首、ほっそいな~」
「いやいや、ラートさんが大きすぎるんですよ」
「肌も白くてキレイだな!」
「は、恥ずかしいから観察しないでくださいっ……!」
「おっと失礼」
正直な感想だったが、恥ずかしがらせちまった。
「――――」
特別行動兵である事を示すチョーカーがよく見える。
取ってやりたいが……。
「…………」
ネックレスを手早くつける。
シオン教団の修道服はそこそこ厚着だから、ネックレスが隠れちまいそうだが……技術少尉に見つからないよう、こっそりつけるためには都合がいいか。
「苦しくないか?」
「全然大丈夫です。どうでしょうか?」
俺から少し離れ、くるりとターンしたヴィオラが正面から見せてくれた。
ふわりと浮いた長いスカートに目を奪われたが、直ぐに別のものに目を奪われた。改めてよく見ると……ヴィオラって可愛いよな~。
俺達みたいな無骨さは欠片もない。華奢な身体。
小さくて幼く見えるけど、落ち着いた雰囲気は大人っぽく見せてくれる。
「可愛い。ヴィオラはやっぱり、抱きしめたくなる可愛さしてるよ……」
「ちょっ……! ね、ネックレスを見てください! 似合いますか~!?」
「おっ、おうっ! 似合ってるよ!?」
いかん、色々あったから頭が回ってないのかも。
正直な気持ちがホイホイ出てきちまう。
「うん……。よく似合ってるよ、ヴィオラ」
「えへへっ……。ラートさんのおかげです。素晴らしいセンスですねっ」
「今度はもっと良い物を探してくるよ。指輪とか……。あっ、一緒に店行こう」
レンズが「本人に欲しいもの聞けよ」と言ってたのを思い出す。
今回はサプライズ。
次回は一緒に買い物行ってもいいな。
軽く考えて出た言葉だったが、ヴィオラはビックリした顔を浮かべてた。
「ゆ、指輪、ですか……」
「うん。…………あっ!!! いや!! 変な意味じゃなくてな!!? た、単にお前を着飾らせたかっただけだ!! そ、素材がいいからなっ!!?」
「でっ、ですよね~~~~っ!!」
俺が妙なこと口走った所為で、妙な空気になっちまった。
2人でワタワタして、全力で誤魔化す。
嫌な空気じゃない。赤面しちまいそうなだけ。
「えと、ええっと……! このネックレス、大切にしますね!? このサイズなら技術少尉や他の軍人さんにも見つかりにくいと思いますから……!」
「うん。そうしてくれると、なんか……嬉しい」
心臓がバクバク鳴ってる。
体調が悪い。
頭打った影響が、今になって出てきたのかな~……!
とりあえず片付け終わったし、渡したいものも渡した。
今日は気持ちよく眠れそうだ。
「ええっと……送っていくわ。部屋まで」
「あはっ。どうしたんですか? 船室なんてそんな遠くじゃないのに」
「そう、なんだけどよ……。なんかまだ、一緒にいたい気分なんだ」
「へっ?!」
やばい。また、変なことを。
いや、でも……もう言っちまったんだ。
言うだけ言ってみよう。
「今日はお前らの祝勝会だけど、俺も楽しくてさっ……! そのっ……! まだ余韻に浸っていたいというか、なんというか……」
ビックリした様子のヴィオラに対し、言いよどみながら気持ちを伝える。
まだ一緒にいたいのはホントだ。
でも、片付けはもう終わった。フツーなら一緒にいる口実はないが……。
「そ、そうなんですかっ。えっと、じゃあ、スアルタウ君達も呼んできましょうかっ……!? 皆で甲板に行って、星を見るとか、そんなことを――」
「ヴィオラと2人がいい。……駄目、かなぁ……?」
駄目なら駄目でいいんだ。
俺は所詮、交国人だ。ネウロンに侵略してきた一味の一員だ。
でも、それでも、今日はちょっと……ワガママを言いたい。
俺も、ご褒美が欲しい……。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:歩く死体・ヴァイオレット
ラートさんが、すごいこと言ってる。
それも堂々とじゃなくて、ちょっぴりオドオドした感じで。
私よりずっと大きいのに、そういう上目遣いしてくるのは……卑怯ですよ。
「駄目ならいいんだ。ああ、スマン! 困らせて……! おやすみ――」
「一緒にいましょう」
「えっ?」
「えっと、そのっ……! わ、私も、まだお話したいな~、って思ってましたから。駄目なんてこと、全然ないです。むしろ望むとこですっ!」
わ~っ! 私、なに言っちゃってんの!?
う~~~~、でもっ……でもっ……いいよね?
もうちょっと一緒にいたいの……私も同じ……だし。
「……一緒にいましょ?」
ラートさんの服の裾を「ちょん」と摘まみつつ、こっちからも誘う。
こんなことしてたらダメってわかってる。
してる場合じゃないってわかってる。
プレゼントまで貰ったのに、欲張りなのはわかってる。
わかってるけど……。い、今だけ……ちょっとだけ。
ちょっとだけ、だから……。
「…………」
「…………」
ラートさんが無言で手を差し出してきたので、こっちも手を伸ばす。
あぁ、お手々、繋いじゃった……!
「ど、どうしよ。こっから先、どうするか考えてねーわ……」
「ええっ~。ら、ラートさんが誘ってきたのに~……!」
「ご、ごめん」
「……フツーでいいじゃないですか。ねっ?」
ラートさんの手を引き、夜の暗い廊下に飛び出す。
誰にも会いませんように。
そう祈りつつ、手を引いて甲板に向かう。
誰にも……ラートさんにも……私の顔、見られませんように。
「っ~…………」
私の顔、いま絶対……真っ赤になってるもん。
誰かに会わなきゃ、大丈夫だよね?
暗いから、バレないよね……?
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
わーっ! わ~~~~っ!!
お、俺っ……! 俺は、なんちゅートンデモナイことを……!!
いや、でもっ、ヴィオラが手を取ってくれたし……いいよな!?
少し手を繋ぐぐらい、問題ないよな!?
ヴィオラの手、やっぱ小さい。
もう、何もかも小さい。華奢で可愛すぎる。
頼むから俺の体温、下がってくれ。
ヴィオラのひんやりした手に、ドギマギしてる俺の体温が伝わっちまう。
顔も、ぜったい……真っ赤だ。
いま誰かに出くわしたら終わりだ。恥ずかしすぎて終わる。
でも……大丈夫だよな?
いま夜だし、当直のヤツぐらいしか起きてないよな?
ヴィオラにもバレませんように。
俺の顔、いまぜったい、赤くなってる。




