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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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石守桃華の正体



■title:交国首都<白元(びゃくがん)>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


 交国の病院で身体を診てもらったけど、大きな異常は無し。


 ヴィオラ姉さんが作ってくれた義体は――多少、負傷を訴えている程度で――動作にはまったく問題なし。最終的に修理する必要はあるけど、当分はこのままでもやっていけるだろう。


 義体部分の異常なら巫術で大体わかるから、義体にしていない部分を主に診てもらった。けど、そっちも大きな問題はなかった。


 奥方様も一応納得してくれたようで、入院なんてさせられずに済んだ。


「桃華お嬢様もこの病院にいるんですね」


 出来ればお見舞いさせてほしいと訴えると、奥方様は直ぐに許可してくれた。直ぐにお嬢様のところに向かうと、厳重な警備と医療体制に守られたお嬢様の姿があった。……意識はないようだけど、ちゃんと生きているようだ。


 治療室で寝かされているお嬢様を、ガラス越しに見守る事しか出来なかったけど……ちゃんと生きているのは確かめる事が出来た。少しだけ、ホッとした。


「レオナール達のところから連れ出した時は、まだ意識があったんですが……」


「疲労もあるのじゃろう。……大怪我を負っているわけでもないから、直ぐに目を覚ましてくれるはずじゃ」


 奥方様はそう言いつつも、自分の手をギュッと握っていた。


 快方に向かいつつあるとはいえ、さすがに心配なんだろう。


「大丈夫……。あの子の身体は、丈夫な方じゃからな」


「そうなんですか? 年相応に見えますが……」


「あの子はアレで、交国の技術の粋を集めて造られた(・・・・)子じゃからな。病にまったくかからんわけではないが、常人よりは丈夫じゃよ」


「造られ……えっ? と、いうことは――」


 まさか、お嬢様も人造人間なんですか?


 そう問うと、奥方様は頷いた。


「といっても、あの子は<玉帝の子>ではない。技術的には妾達と同じものが使われておるが……妾達とは違う」


 奥方様は犬塚特佐達と同じく、<玉帝の子>として造られた人造人間。


 その影響もあってか、普通の人より子供が作りづらいらしい。さらに旦那さんである黒水守も常人とは異なる身体をしているから――。


「妾達はお互い、子供が出来づらい身体でなぁ。……それでも、まあ……『我が子がほしい』と思ってしまったんじゃ。妾が」


 奥方様はどこか恥ずかしげに顔を逸らしつつ、「そんな時、玉帝に声をかけられてな」と言葉を続けた。


「あの女が妾達の子供を作る手伝いをしてくれたんじゃ。睦月は神器使いとして交国に貢献しておったし、その細胞と妾の細胞から新しい人造人間を造る実験がしたい――と言って来てな」


「玉帝が……」


 玉帝は単なる親切心でそう言ったわけでは無いんだろう。


 奥方様達も迷ったものの……結局、玉帝の提案を受け入れた。


 結果、2人の細胞から1人の人造人間の子供が誕生した。


「それが桃華お嬢様だったと……」


「うむ。あの子は確かに妾達の子じゃが、一般的な方法で生まれたわけではない」


 だからか。


 だから、お嬢様はジャム作りをしていた時、自分の事を「ホントの子供じゃない」なんて言っていたのか。


 お嬢様は確かに奥方様達と血が繋がっているけど、奥方様が直接産んだ子ではない。特殊な出自だから、あんな事を言ったのかもしれない。


「そういう子じゃから常人よりは多少、身体が丈夫に出来ておる。といっても、超人と呼べるほどのものではないがの」


「レオナールの毒薬を乗り越えられたのも、その身体のおかげなのかも……」


 改めてお嬢様の顔をよく見る。


 顔色は「良い」とは言えない。けど、呼吸は規則的なものに戻っているし……心拍数とかも安定しているらしい。キチンと魂も観える。


 僕は一度、お嬢様の魂が消えるのを観た。けど……人造人間由来の丈夫さから持ち直した事で、魂が再び観えるようになった……という事だろうか?


 このまま回復してほしいと祈りながら見守っていると、お嬢様の指がぴくり(・・・)と動くのが見えた。


「…………!」


 奥方様も同じものを見たらしく、ガラスに張り付いてお嬢様の名を呼んだ。お嬢様は――ぼんやりした様子ながらも――目を開き、こちらを見た。


 その口が「おかあさま」と言ったように見えた。


 直ぐに治療室の内外が慌ただしくなっていった。奥方様は治療室内に通され、娘さんの回復を大いに喜んでいた。


 僕は安堵のあまり気が抜けて、長椅子に座って待たせてもらった。そうしていると、奥方様が戻ってきてお嬢様の状態を教えてくれた。


 意識は戻った。


 身体は確実に快方に向かっている。


 ただ――。


「桃華は……喋れなくなっておった」


「…………。さすがに、一時的なものですよね?」


 僕が助けた時は――小さな声ながらも――言葉を発していた。


 まさか、毒薬の影響なのだろうか。


 さすがに交国のお医者さん達も一時的なものか否かはわからないらしい。身体の方に大きな異常はないため、精神的な問題ではないかと推測されているそうだ。


 奥方様は「きっと一時的なものじゃ」と呟いた。


「桃華は大丈夫。スアルタウ、お前もあの子に直接会ってやってくれ」


「いえ、僕は……お嬢様に、合わせる顔が……」


 僕は黒水守を守れなかった。だから会わせる顔なんてない。


 それでも奥方様は僕をお嬢様に会わせようとしてきたけど、揉めているうちにお嬢様は再び眠りに落ちた。やはり相当疲れているらしい。


「まあとにかく、桃華は大丈夫じゃ。きっと良くなる」


「はい……」


「しかし……ここが襲われる可能性もある。エデン総長達は未だ捕まっておらんからな」


「総長達の件も含め、奥方様達に報告すべき事があります」


 黒水でお嬢様を交国軍に預けた後、十分に話をする機会がなかった。


 重要な話も多いから時間をくださいと言うと、奥方様は頷いて「聞かせてくれ」と言ってくれた。




■title:交国首都<白元>にて

■from:森王七百七十七号・石守素子


「やはり、宗像の兄上が動いておったか……」


 スアルタウが持って来てくれた情報は、こちらもある程度把握しておる事じゃった。ただ、全ては把握できていなかったため、有用な情報が多かった。


 宗像の兄上――特佐長官の件も、その1つ。


 黒水襲撃の裏には、やはり宗像の兄上がおったらしい。……あそこまでの無茶をするはずがないと思っておったが……妾達の見立てが甘かったようじゃ。


 しかも、単に黒水襲撃を手引きするだけには留まらず――。


「兄上はカトーに黒水を襲撃させ、その隙にヴァイオレット嬢の身柄を確保したと……。兄上の目的は最初からヴァイオレット嬢じゃった、という事か」


「おそらく、そうかと……」


 兄上は睦月の命も狙っておったのじゃろう。


 ただ、黒水守抹殺(そちら)はカトーをけしかけ、「成功したら御の字」程度に思っておったのじゃろう。真の目的はカトー達から離れておったヴァイオレット嬢の誘拐で、それは成功してしまった。


 その成功の陰には、エデンに潜り込んでおった間者がおったらしい。


「お前達は、その『タマ』という子が間者だと知らなかったのじゃな?」


「は、はい……。でも、今にして思えば……タマは元一般人のわりには、異常に筋が良かったんです」


 元々、工作員として訓練を積んでおったから、ヴァイオレット嬢の護衛に抜擢されるだけの実力は隠し持っておったのじゃろう。


 そのタマという子がヴァイオレット嬢の誘拐に手を貸したという事は、間違いなく兄上の手の者なのじゃろうが――。


「……ひょっとして、そのタマというのは……この子ではないか?」


 心当たりがあったため、部下に端末を持ってこさせた。


 それに表示させた写真を見せると、スアルタウは「あっ!」と叫んだ。


「ぼ、僕が知っているタマより少し幼く見えますけど……よく似てます!」


「この子は『ヒスイ』と言っての。妾と同じ森王式人造人間……つまり<玉帝の子>の1人じゃ」


 ただ、ヒスイは玉帝に認知されておらん。


 所属しておったのが<戈影衆>という事情もあるが、能力的にも<玉帝の子>として認知されなかったらしい。廃棄処分一歩手前じゃったという記録も残っておる。


 玉帝は我が子として作った者達すら、役に立つか否かの評価でしか見ない。


 記録によるとヒスイは大龍脈での作戦後、行方不明となっておる。脱走の疑惑までかけられておったようじゃが、正体を隠してエデンに身を寄せていたらしい。


 生きていた事は喜ばしいが……あの子は未だ、玉帝の影に縛られておるのじゃろう。自分の生は玉帝に認められなければ許可されないと思っておる。


 妾達が実権を握る前は、確かにそうじゃった。じゃが、今は違う。違うのじゃが……あの子はそれをわかっておらん。


 スアルタウもヒスイの境遇について理解してくれたのか、顔をしかめながら「玉帝は、タマの事も苦しめていたんですね」と呟いた。


「タマも、宗像特佐長官と一緒にいるはずです。長官はいまどこに……」


「わからん。妾達も追っておるのじゃが……」


 カトーによる黒水襲撃の陰に、交国側の裏切り者がおるのは察しておった。宗像の兄上が特に怪しいのもわかっておった。


 じゃから、兄上の身柄を押さえようとしておったんじゃが……今は居場所すら特定できておらん。兄上は行方を眩ませてしまった。


 巫術師達の力も借り、交国界内の出入りを監視しておるが……今のところ兄上が界外に逃げた様子はない。今も交国本土のどこかにおるのじゃろう。


「宗像長官は、何故こんな事を……」


「それほどヴァイオレット嬢が欲しいのじゃろう」


 あの子は玉帝も狙っておった。


 彼女が交国本土まで連れてこられておるとわかっておれば、兄上の蛮行も予想出来たかもしれんが……それは今更の話じゃな。


「奥方様は、ヴィオラ姉さんが狙われている理由をご存知ですか?」


「真白の魔神絡みじゃろう」


「…………! ご、ご存知だったんですか……?」


「お前達ほどは知らん。じゃが、彼女が何者かは一応知っておる」


 ヴァイオレット嬢は<叡智神>の完全複製体とやらを造る器。正確にはヴァイオレット嬢の身体の元々の持ち主じゃったスミレ殿が器として造られた。


 器単体ではそう悪さを出来んじゃろうが、中身(データ)があれば真白の魔神を造れる。本来の使い方をするつもりか、他の使い方があるかはわからんが……ヴァイオレット嬢が実際に誘拐された辺り、兄上の狙いが彼女だったのは間違いないのじゃろう。


「ひょっとしたら……交国にはあるのかもしれん。<叡智神>の完全複製体を作る以外に、ヴァイオレット嬢が必要な理由が」


「それは、どういう……」


「交国そのものが、真白の魔神の遺産じゃからな」


 そう言うと、スアルタウは驚き、息を飲んだ。


 ただ、その可能性をまったく考えていなかったわけではないらしい。その可能性がある、という話に関しては聞いておったらしい。


「兄上はヴァイオレット嬢を使い、現状を覆そうとしておるのじゃろう。じゃが……半端な計画であそこまでの蛮行をするとは思えん」


「真白の魔神の完全複製体が生まれるのは、そうとう大変なことなのでは――」


「確かに大変なことじゃ。じゃが、それだけで現状がひっくり返るのであれば、本物の真白の魔神を捕まえるという手でも良かったはずじゃ」


 玉帝達は、本物の真白の魔神を抹殺しようとしておった。


 殺しても殺しても転生するとはいえ、害虫駆除を行うように積極的に殺そうとしておった。単に真白の魔神が欲しいだけなら、生け捕りに注力しておるじゃろう。


「兄上はヴァイオレット嬢を使い、何かをしようとしておる」


「でも、正確な目的はわからない」


「うぅむ…………。よし、ダメ元で奴に聞きに行くか」


 どうせ何も言わんじゃろうが、反応で何か読み取れるかもしれん。


 聞くのはタダじゃ。スアルタウに「お前もついて来い」と言い、先導する。桃華と離れとうないが、緊急事態ゆえに致し方ない。


 交国本土にカトーとバフォメットというテロリストがおり、さらには宗像特佐長官も闇に潜んでおる。それらの対処を優先するしかない。


「どなたに聞きにいくんですか?」


「当然、玉帝じゃ」


 そう言うと、スアルタウの表情が強張った。


 ネウロンから逃げる際、通信越しに話をした程度で直接面識はない。だが、それでも、自身の人生を大きく変えた相手だけに心穏やかではおられぬのじゃろう。


「アレにはお前も会わせておきたい。……色々と思うところはあると思うが、まだ手を出さんでくれ。妾達はまだ玉帝が必要でな」


「大丈夫です。……玉帝に対する怒りは、今もありますが――」


 今は復讐より、真実を知りたい。


 スアルタウは再び妾を真っ直ぐ見据えつつ、そう言った。


「救いのない真実を前にしても、短気を起こさん自信はあるか?」


「……玉帝を殺す事で家族が戻ってくるなら、感情的になって殺すかもしれません。でも、そうならない以上……大人しくしています」


「そうか」


 最後に桃華のいる治療室の窓を撫で、玉帝のところに向かう事にした。


 スアルタウは睦月が信じた男じゃ。妾も信じる。


 信じる以上、この子にもアレを見てもらう必要があるじゃろう。


 教えよう。交国の真実を。




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