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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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エデンの名折れ



■title:混沌の海にて

■from:整備士兼機兵乗りのバレット


「ハァ~……! ヴィオラ姉もタマも、大丈夫かなぁ~……!?」


 交国本土近海までやってきたものの総長達がやらかした影響で、交国軍がフル稼働! 交国本土は厳戒態勢が敷かれ、本土侵入はほぼ不可能になった。


 総長には「何やってんだよ!!」と言いたいけど、通信も通じない。総長が連れて行ったヴィオラ姉とタマとも連絡が取れない。


 交国の報道を見る限り、「黒水襲撃犯」全員が捕まった様子はないし……ヴィオラ姉達が黒水襲撃なんか参加するはずないから無事のはずだけど――。


「バレット、落ち着け」


 オレが携帯端末見つつ、艦橋でウロウロしているとアラシア隊長が「無駄に体力を使うな」と窘めてきた。


「オレ達が焦っても仕方ない。動きがあったら教えるから、大人しく船室で休んでろ」


「けどよぉ、隊長……! アルとレンズも交国本土いる可能性あるしさ。このままじゃ――」


「雪の眼の2人を信じて待とう」


 オレ達と一緒に交国本土近海まで来ていたラプラスさん達は、今はいない。


 本土近海の海中拠点(アイランド)で別の方舟に乗り換え、2人だけさっさと交国本土界内に向かっちまった。雪の眼の権限でゴリ押して入るつもりらしい。


 出来ればアラシア隊(おれたち)も連れていってほしかったんだが、「それはさすがに無理です」と断られちまった。


 ヴィオラ姉達と会ったら、安否ぐらいは知らせてくれるって話だが――。


「あの人達って、基本そこまで手を貸してくれねえじゃんっ……! 交国相手だとマジで安否知らせてくれるだけになりそうなんだけど……!?」


「それでも、今は待つしかない。正直、打つ手無しだからな……」


「うぅ~……!」


 オレ達だけで交国の警戒網を突破するのは不可能。


 近海でウロウロしているだけでも怪しまれかねないので、今は交国近海の主要航路から離れて待機しているしかない。打つ手ないのはわかるけど……どうにも落ち着かない。


 せめてオレだけでもダメ元で言ってくるよ――と言おうとしていると、方舟(ふね)が揺れた。


 うろうろしていた所為で体勢崩し、後ろに倒れそうになったけど、アラシア隊長が手を伸ばし、オレの腕を掴んでくれた。


「バカ野郎。こんな事で怪我したら笑えねえぞ」


「ご、ごめん……」


「この辺りは黒水襲撃前に起きた爆発の影響で、まだ荒れてんだ」


 隊長に叱られたので、艦橋の床に座る。


 大きく時化ってるわけじゃないけど……隊長の言う通り、海が荒れている。さすがにウチの方舟が沈没する事は無いと思うけど――。


「連絡が入ったら必ず知らせる。お前は船室で休んでいていいんだぞ」


「こんな状況で寝てられるかよ~……!」


「横になって目をつむっておくだけでもいい。それだけでも体力温存はできる」


 隊長が廊下の方を指さし、「隊長命令だ。休んでこい」と言うのでしぶしぶ従おうとしていると――。


「あっ! ちょっ、ちょっと待ってくれ……!」


「何だ。いい加減に――」


「誰かいる! 混沌の海(うみ)の中!!」


 巫術の眼が魂を捉えた。


 少し離れた場所に魂が観えた。1つだけ観えた。


 方舟に乗っている魂なら、複数観えるはずだ。けど、1つしか観えなかった。


 混沌の海で魂が1つしか観えないって状況は――。


「漂流者? もしくは交国軍の偵察か何かか?」


「この辺りで爆発あったんだろ? それに巻き込まれて、方舟から投げ出された人じゃねえの!?」


 そう言うと、アラシア隊長は「爆発地点近くにいたら、混沌の押しつぶされて死ぬよ。普通」なんて言った。


 どういう理由かはわからねえけど、確かに魂は観えるんだ。……魂の動き的に、海流に翻弄されて流されているものだ。


 ウチの方舟を近づけて助けに行こう――と促すと、隊長達は難色を示してきた。あんまり助けに行きたくなさそうにしている。


「今は……下手に動けない。人助けしてる場合じゃ――」


「見殺しにするのか!?」


「ヴァイオレット達が交国本土から逃げる時のために、待機しておく必要があるんだ。余計な厄介事を抱える事になったら――」


「オレ達は<エデン>だぞ!? 人助けするために戦ってんのに、ここで助けずに見捨てる気かよ……!?」


 アラシア隊長がさらに言葉を吐く前に、「ガキみてえなこと言ってるのはわかるけど、見捨てるのはダメだって!」と言う。


 アルなら絶対見捨てねえ。


 アル達を助けるために余計なことしない方がいいのはわかるけど、ここで見捨てたらエデンの人間としてもダメだろ――と訴える。


 隊長は困った様子だったけど、直ぐに折れてくれた。


 オレに方舟を預け、操舵を許してくれた。海流に流されている魂に出来るだけ近づいた後、流体装甲を出来るだけ伸ばし、そっと掴む。


 潰してしまわないか心配だったけど……魂は消えていない。そっと掴んだ魂を船内に入れ、何とか助ける。助けたつもりだけど――。


「これは……さすがに死んでるだろ」


「生きてる生きてる! 魂はまだ観えるって!」


 船内に運び込んだ魂は、やっぱり漂流している人間だった。


 手足が殆ど潰れていて、顔面もエグい事になっている。大怪我を負っているけど……魂は確かに観える。まだ生きてる!


 怪我の具合から絶望視している隊長達に発破をかけ、医務室に運び込むのを手伝ってもらう。ここの方舟じゃ、大した治療は出来ないけど……何もしないよりはマシのはずだ。


「ここで手当しねえと、エデンの名折れだ!」


 引き続き流体甲冑を使い、止血を手伝う。


 まだ生きている以上、この大男(ひと)は助けられるはずだ。


 オレ達が諦めない限りは――。




■title:混沌の海にて

■from:肉嫌いのチェーン


「エデンの名折れか。……それはもう、今更の話だと思うが」


 医務室に運び込んだバレットの言葉に、思わずそんな言葉を返してしまった。


 バレットは正しい。エデンは人助けの組織だ。


 けど、カトー総長が大馬鹿やっちまった以上、もうエデンの名誉なんて――。


 その事を想うとため息をつかずにはいられなかった。医務室の壁に寄りかかりつつ、重いため息をついていると、呻き声が聞こえた。


 バレットが(・・・・・)呻く声が聞こえた。


「――――」


 目を開くと、バレットが顔面を掴まれていた。


 医務室に運び込んだ怪我人に顔面を握りつぶすように掴まれ、呻いている。


「バッ…………!!」


 皆がギョッとしている中、急ぎ動いてバレットを怪我人の大男から引き離そうとした。けど、それより早く大男が動き、バレットをオレに投げてきた。


 ぶおん、と風を切って投げられたバレットの身体を受け止め、体勢を整える。そうしているうちに大男が寝台から飛び、船員達に攻撃を加え始めた。


「なんだお前!!?」


 ついさっきまで瀕死の重傷を負っていたはずだ。


 手足はもう、切断するしかないぐらい潰れていたはずだ。


 それなのに再生(・・)している。まだ骨が覗いている箇所もあるが、人らしい姿を取り戻しつつある。それを動かし、オレ達に攻撃してきた。


「てめェら……。カトーの犬かぁ……!」


「――――」


 濁った声で喋った相手に向け、拳銃を抜き放って発砲する。


 胴体に6発。


 1発も余さず撃ち込んでやったが、相手は軽くのけぞるだけだった。


「ぐおッ…………?!」


 銃弾を受けてもなお嵐のように暴れ回った男は、オレを医務室の壁に叩きつけて締め上げてきた。そして、医務室にあったメスを突きつけてきた。


「知ってること、全部…………全部吐いてもらうぞ。エデン……!!」




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