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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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金枝計画の失敗作達



■title:交国本土<帆布(はんぷ)>にて

■from:交国特佐長官・宗像


「お察しの通り、我々は失敗作だ」


 器のなり損ない。


 玉帝の期待に背いた失敗作(ゴミ)だ。


 私も、犬塚銀(ぎん)も、石守回路も、明智光も「器になれなかった失敗作」だ。ただ捨てるのは勿体ないから再利用されているだけだ。


 玉帝は名代として<玉帝の子>を作り始めたわけではない。あくまで器作りを目的として、我々は……<森王式人造人間>の作成が始まったのだ。


 明智光(みつる)に関しては、ある意味、成功してしまったがな。……真白の魔神の転生体になってしまった事で、一種の器になってしまった。


 だがそれでは意味がない。


 我々が蘇らせたいのは、あくまで太母。


 交国の正統な支配者だ。


 穢れた真白の魔神は、交国の主となる権利はない。


「我々は成功作(キミ)になれなかった者達だ」


「…………」


「この子も……ヒスイも失敗作でな。しかも、失敗作中の失敗作だった」


 ヒスイの肩に手をかけつつ、そう紹介してやる。


 ヒスイは久常竹と同じような存在だ。器になれなかったどころか、<玉帝の子>としての性能(スペック)もない。犬塚銀のような結果も残せていなかったため、<玉帝の子>として認知すらされない存在だった。


「世に出す価値がないから廃棄処分予定だったのだが、ヒスイが『何でもします』と必死に懇願してきた事や、一部の者が助命嘆願をしてきたため工作員として利用していたのだ」


「――――」


 ヴァイオレット嬢が目を見開いた。


 ヒスイの廃棄処分を聞いた彼女と……光と似た顔をしている。だが、光の顔には「恐怖」が色濃く出ていたのに対し、ヴァイオレット嬢は「怒り」の色が濃い。


 他人のくせに、騙されていたくせに、この女はヒスイ(タマ)が心配らしい。……光もヒスイと血の繋がりはないから、ほぼ他人だがな。


 それでも光は廃棄処分を取りやめるよう我々に嘆願してきた。満那が「私が鍛え直します」と手を挙げた事もあり、ヒスイは<戈影衆>に預けられる事になった。


 満那達がヒスイを厳しく鍛えた事もあり、何とか及第点と権能を与えられる程度にはなった。何にせよ<玉帝の子>として認知できるほどでは無かったが――。


「あなたは、自分の妹を何だと――」


「我々と同じ、交国の部品(パーツ)だ」


 我々は部品として作られた。


 本来、自我すら獲得する予定はなかった。……器になれていたら、自我が芽生える前に太母(メフィストフェレス)になっていたわけだからな。


森王式人造人間(われわれ)は『器』になれなかった。しかし……キミは『器』になれる。だから頼らせてほしい」


 (キミ)を手に入れるために、我々はネウロン侵略を開始した。


 一時は器の確保に成功したと思ったが、我々が掴んだのは偽の器だった。


 急ぎ、真の器たるキミを確保しようとしたが……諸々のゴタゴタによってそれは失敗した。真の器たるキミが特別行動兵として手元にいたのに、それを逃がしてしまうというマヌケにも程がある失敗を犯していた。


 さらに、あの男の所為で我々は十全に動ける状態ではなくなった。


 おかげでかなり手こずったのだが……こうして器の確保には成功した。問題はここからだが、何とか成功させてみせよう。


「我らは我らの神を……太母を復活させなければならんのだ」


「交国を造った真白の魔神本人は、もう復活しません。蘇ったとしても、それは……記憶と異能が同じだけの別人ですよ……」


「それの何が悪い?」


 記憶も異能も同じ。それで十分だ。


 太母すらも交換可能の部品(・・・・・・・)。それは素晴らしい事だ。誰かが欠けても何度でも修理可能な方が有り難い。


 何もかも目論見通りに行くなど有り得ん。太母ですら失敗した。丘崎獅真という邪魔者によって、交国計画は肝心要の部品を失った。


 その失敗を何とかするためにも、我々はどうしても「器」が必要だった。


 代わりの器を探す計画として<金枝計画>が始まり、<森王式人造人間>の製造が始まったが……我々は失敗作しか作れなかった。


 最も完成に近づいた素子も、所詮は失敗作だった。……それどころか交国計画を揺るがす存在になってしまっている。


 交国はいま、建国以降2番目の危機に見舞われている。この状況を何とかするためにも……我々にはどうしても「器」が必要なのだ。


 太母の復活に成功したら、いつか新しい「器」の作成にも成功するだろう。太母の部品化にも成功して初めて、我々の計画は成功したと言えるのかもしれん。


「神ならぬ我らでは『器』を作ることが出来なかった。だから……太母ならぬ真白の魔神の遺産に縋るしかなかった。情けないことにな……」


「まさか、タマちゃんも……私を確保するためにエデンに潜入させたんですか?」


「結果的にはそうなった。だが、最初はそのつもりではなかったのだ」


 7年前、ヴァイオレット嬢はネウロンから逃げ、大龍脈に逃げ込んだ。


 交国は大龍脈の大半を領有している<ビフロスト>に政治的圧力をかけたが、<雪の眼>がキミを保護していたため、取り戻す事が出来なかった。


 さらには鬱陶しい男(カトー)の横槍もあり、<雪の眼>の保護期間が終わった後にこの女を掻っ攫う事にも失敗してしまった。


 その作戦にヒスイも参加していたが、ヒスイは行方を眩ませた。ヒスイが参加していた部隊が壊滅したため、その折りにヒスイも死んだか……あるいは脱走したと考えていた。


 実際は事故でヒスイだけ混沌の海を彷徨い、それでも何とかヴァイオレット嬢を確保しようと1人で足掻いていたらしい。


 成果をあげなければ処分される。その焦りにも突き動かされ、ヒスイは必死に足掻き……紆余曲折の末にエデンに潜り込む事に成功した。


 ベルベスト連合崩壊時のどさくさに紛れ、エデン内部への潜入に成功し……その後、ヴァイオレット嬢の護衛の地位を獲得した。


「もっと早く、その事を知らせてくれたら助かったのだがな」


「もっ……! 申し訳ありませんっ……!!」


 青ざめ、慌てて頭を下げてきたヒスイに「いい。事情はわかっている」と返す。


 ヒスイも可能な限り早く、連絡を取りたいと思っていたのだろう。


 だが、交国政府(こちら)も黒水守一派の所為でゴタゴタしていたため、ヒスイが知っている秘匿回線は殆ど使えなくなっていた。そのためヴァイオレット嬢の居場所を知らせるのに苦労していたようだ。


 愚かなカトーがヴァイオレット嬢を連れて交国本土までやってきた事で、ヒスイも私への連絡手段を手に入れた。そのおかげで我々は計画の要となる「器」の確保に成功した。


「お前がここまでやれるとは思っていなかった。これで玉帝もお前を認めるだろう。廃棄予定品(おまえ)を生かした意味はあった、と――」


「ありがとうございます……」


 ヒスイは安堵の表情を浮かべ、私を見上げてきた。


 その目から垂れた涙のしずく。感情をコントロール出来ない不出来な失敗作。だが、失敗作中の失敗作であるお前が計画の要たる「器」を確保したのは事実だ。


 それは高く評価してやるべきだ。評価し、褒めてやるべきだろう。承認に餓えているコイツには、原価無料の褒め言葉でも宝玉の如き価値となるのだから。


「何様ですか、あなたは……!!」


 ヴァイオレット嬢が急に叫ぶものだから、ヒスイがビクリと肩を震わせた。


 怒鳴られたのは私のようだが、何度も怒鳴られ、鞭を振るわれてきたヒスイはこの手の言葉にも弱い。簡単な言葉で過敏に反応する。


 扱いやすくも面倒で困る愚妹(パーツ)だ。


「生かした意味があった? ふざけないでください!! あなたや玉帝に、タマちゃんの命をどうこうする権利なんてありません!!」


「ほう? では、誰に権利があるのかな?」


「タマちゃん自身に決まっているでしょう!? タマちゃんの命は、タマちゃん自身のものです! あなた達は……立場を利用して、その子を洗脳している悪党ですよ……!!」


「悪党か。まあ、キミではその程度の認識しか抱けまい」


 肉体は完璧な器なのだろう。


 だが、中身は話にならない。


 勝利を目指すためには、まったく無駄な重りばかり詰まっているようだ。


 いずれ理解するだろう。我々が「勝利」という結果を掴めば、キミのようなくだらない考えを抱いている者全てが理解するだろう。


 正しいのは交国だった。


 そう理解する日が来るだろう。


 そんな考えを抱きつつ、食ってかかってくるヴァイオレット嬢の様子を鼻で笑っておく。拘束されていなければ私に殴りかかってきそうな勢いだ。


 仮に殴りかかってきたとしても、軽く捻れる。キミは「完璧な器」だが、それだけだ。器そのものには何の権限もない。


 重要なのは魂だ。


 それをこの器に降ろせば、何もかもひっくり返る。


「我々の事は好きに評価してくれ。暇つぶしとして許可してやろう」


「っ…………!!」


「出来れば早くキミを『太母』にしてしまいたいが、まだそれが出来ない」


 我々はついに「器」を手に入れた。


 だが、肝心の須臾学習媒体(バックアップデータ)はここにない。


 データを手に入れるために、我々は首都(・・)に行かねばならん。


 そこには最後の障害が待ち受けているが、器を確保するまでに立ちはだかってきた数々の苦難に比べれば些細なものだ。




■title:交国本土<帆布(はんぷ)>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「…………」


 どうやら、宗像長官は肝心のバックアップデータは持っていない様子。


 でも、それは確かに存在しているんだろう。


 あるからこそ、「器」を求めていたんだ。


 データがここにない理由は、おそらく――。


「あなたは……現在の(・・・)交国の意に反する動きをしている」


「ほう……。何故、そう思う」


「私を確保したのが遅すぎるからです」


 タマちゃんと宗像長官が味方同士で、なおかつ宗像長官が自由に動けるだけの力を持っていたとしたら……もっとすんなりと私を手に入れていたはず。


 それこそエデン本隊の位置をタマちゃんが伝えて、交国軍が強襲する形で私を確保できたはず。けど、それが出来ていなかったという事は――。


「あなたはいま、交国の中枢から締め出されているんですね。だから、昔ほど自由に動けなくなっている」


「残念ながら、その通りだ。実は交国の中枢はとある慮外者達に乗っ取られている」


 交国の政策は、少し前から大きな方針転換を行っていた。


 昔はもっと苛烈な振る舞いをしていたのに、最近は宥和政策に移行していた。それは「オークの秘密」が露見した影響かと思っていたけど、多分……それだけじゃなかったんだ。


 交国の実権を握る人が、変わってしまったんだ。


 多分、私はそれを(・・・・・)知っている(・・・・・)


 それどころか、助けられた(・・・・・)事もある。


 それを確かめるためにも、1つの問いを投げる。


「宗像長官。玉帝の正体は『真白の魔神が作った人造人間』ですね?」


「……その通り。キミも気づいたか」


 宗像長官は複雑な感情が入り交じった笑みを浮かべつつ、「私は、ヒスイに教えられてようやく気づけたよ」と漏らした。


 多分、タマちゃんもエデンに来て気づいたんだ。


 おそらく、いま交国の実権を握っているのは黒水守か、黒水守に近しい人達だ。


 黒水守の屋敷にヒントがあったんだ!


 それどころか、ネウロンにも――。


「太母さんが復活したら、<交国計画>も復活するんですか!?」


 ラプラスさんから聞いた交国計画(ことば)を投げる。


 けど、それに関しては宗像長官は答えてくれなかった。静かに笑みを浮かべ、タマちゃんを連れて部屋を出て行った。




■title:交国本土<帆布>にて

■from:森王八百八十八号のヒスイ


「ヒスイ。お前も身体を休めておけ」


「えっ……! わ、私、まだやれますっ!」


 ヴィオラ様を監禁している部屋から出て、見張りに戻ろうとしていると宗像長官が休むように言ってくださった。けど、私、まだ働けるのに!


 まだ、交国の役に立てるのに……!


「勘違いするな。お前の能力を疑っているわけではない。だが、その能力を十全に発揮するためにも休んでおけ――という話だ」


「う……。で、でも……」


「我々が肝心要の須臾学習媒体(バックアップデータ)に辿り着くためには、戦闘は避けられない。だからこそ1人でも多くの優秀な兵士が必要になる」


「…………」


「お前も、その1人だ。私と同じ失敗作とはいえ、私達の予想を越えてヴァイオレット嬢の確保に大きく貢献してくれた。その力に今後も期待させてくれ」


「は…………はい」


 本当に休んでいいんだろうか。


 私と宗像長官は違う。宗像長官は立派な……優秀な御方だけど、私は宗像長官や他の<玉帝の子>の皆さんのように優秀ではない。だから、ずっと、認知されない。


 交国の影に住まう<戈影衆>の一員という事情があるにしても……戈影衆内にも認められている人は大勢いた。けど、私は……不出来なまま。


 偶然、ヴィオラ様を確保出来たからといって、本当に認めてもらえたんだろうか? 本当に……もう、廃棄処分に怯えなくてもいいんだろうか……?


「あ、あの……。宗像長官」


 私の肩を叩き、去っていこうとしていた宗像長官に声をかける。


 認めてほしい。玉帝の子供として認めるのが難しいとしても、もう廃棄処分だけはないと認めてほしい。それぐらいの価値はあると認めてほしい。


 認知を直接賜ることが出来ないとしても、その代わりに……例えば、重要な情報を教えてほしい。それだけの情報を教えていい存在にしてほしい。


 そう思い、問いかける。


「ヴィオラ様の言っていた<交国計画>って、何なのでしょうか……?」


 おそらく、とても重要な話だ。


 それを教えてもらえるなら、私はもう処分を免れた存在という証明になるはず。そう思い、問いかけたものの……帰ってきたのは冷たい視線だった。


「重要な機密だ。そう易々と明かすことは出来ん」


「す、すみませ――――」


「と、言いたいところだが……お前は器確保の功労者だからな」


 特別に教えてやる。


 そう言い、宗像長官は自分の執務室まで来るよう言ってくださった。





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