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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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戈影衆の生き残り



■title:交国本土<帆布(はんぷ)>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「ぅ…………」


 目隠しを外された瞬間、目に差し込んできた光に少し呻く。


 宗像特佐長官達に捕まり、拘束と目隠しをされてどこかに連れて行かれている。多分、方舟に乗せられたんだろうけど……どこに向かっているかはわからない。


「…………」


 目隠しは外されたものの、手足は拘束されたまま。見張りもつけられているし、逃げる事も外部に連絡を取るのも危うい。


 冷や汗を流しつつ、現状を何とかするために考えていると……私が閉じ込められている部屋の扉が開いた。


「タマちゃん……!」


「…………」


 私の護衛も務めてくれていたタマちゃんが――宗像長官達を呼びつけたらしいタマちゃんが、バツの悪そうな顔をしながら部屋に入ってきた。


「何で宗像長官達と……! タマちゃんは何で――」


「『タマ』というのは偽名です。私の本当の名前は『ヒスイ』です」


 タマちゃんはバツの悪そうな顔をしたまま、そう言った。


 表情はタマちゃんらしいもののまま。だけど、今まで使っていた名前を偽名なんて言っている。答えは得られず、戸惑っていると……さらに誰かが入ってきた。


「こんな形で連れ去る事になって、申し訳ない。ヴァイオレット嬢」


「……宗像長官」


 タマちゃんの後ろから入ってきたのは、涼しい顔をした宗像特佐長官だった。


 カトー総長達と別れ、交国本土内に潜伏していたエデンを襲撃した張本人。交国の中枢にいる特佐長官は「交国にも色々と事情があってね」と言いつつ、少し距離を置いて私に視線を注いできた。


「私を連れ去るためだけに、エデンの皆さんを殺したんですか……」


「彼らは木っ端のテロリスト。死んで当然の者達だ」


「そんなこと……!」


「彼らも、キミも、エデンの蛮行に関わっている。……大方、カトー総長の手駒として使われていたんだろうが、キミ達(エデン)の所為で死んだ者達も大勢いる。それなのに自分達が殺される番になったら文句を言うのか?」


 確かに、エデンは良くない方法に頼っている。


 でも、交国に言われたくない。それも交国の悪行に深く関わっている特佐長官に言われたくないと思いつつ、睨む。


「まあ、キミ達にはキミ達なりの正義があったのだろう? それと同じように交国にも交国の正義があった。その過程で犠牲が出るのは『仕方ないこと』だろう」


「…………」


「皆の犠牲を無駄にしないためにも、私達は勝利を目指している」


「勝てば、何もかも許されると思っているんですか?」


「そこまでは言わない。しかし、負けて死ねば全ての可能性が失われる。我々は……人類は必ず勝利しなければならないのだよ」


「プレーローマに勝つためなら、手段を選ばないつもりですか……」


「奴らだけではない。くだらん主導権争いをしている愚かな人類国家も全て正す。それを達成するためには、交国には今以上の力が必要になる」


 その「主導権争いをしている国家」の中には交国も含まれるくせに……。


「交国はもう十分に強大なのに、これ以上の強さを求めるんですか?」


「当たり前だ。人類の敵は未だ健在だからな」


 しかし、キミが力を貸してくれたらこの状況を変えられる。


 宗像長官は妖しい笑みを浮かべつつ、私に対してそう言って来た。


「私は、ただのエデン構成員です。特別な力なんて……」


「キミは<真白の遺産>だろう」


「…………」


「キミさえいれば、真白の魔神を復活させる事ができる。完全な、真白の魔神を」


「やっぱり……あなた達の狙いはそれですか」


 玉帝は明らかに私を狙っていた。


 私を狙う理由なんて限られている。


 ただ、問題は……宗像長官達が欲しているのが「どの真白の魔神か」という事。


 普通に考えたら<叡智神>と呼ばれた真白の魔神を蘇らせたいはず。けど、それ以外の可能性もある。叡智神以外で一番可能性が高いのは――。


「あなた達が欲しているのは……『交国を造った真白の魔神』ですか?」


「その通り。そこまで把握していたのか」


「…………」


「雪の眼の史書官辺りの入れ知恵か? だが、確信はなかったようだな」


 宗像長官は私が鎌をかけた事に気づいた様子だけど、それでも教えてくれた。


 真白の魔神が交国建国に関わっている可能性が高い事は、ラプラスさんに教えてもらっていた。だから「もしかしたら」とは思っていたんだけど――。


「真白の魔神の力が必要なら、今代の真白の魔神を捕まえればいいじゃないですか。そして、交国政府(あなたたち)の主になってもらえばいい」


「本気で言っているのか? 今代の真白の魔神がただのろくでなしという事は、キミ達も知っていたのではないか?」


「…………」


「我々が欲しているのは、キミの言う真白の魔神だ。そして、我々が認めるのは交国を造った真白の魔神……すなわち<太母>だけだ」


 他は紛い物だ、と宗像長官は言い切った。


 真白の魔神は死ぬたびに記憶や精神に異常が発生する。


 だから、転生後はまったくの別人に変貌してしまう可能性すらある。


 かつて交国の味方だった真白の魔神だったとしても、今はもう完全に別物になっているんだろう。だから……この人達は自分達が認める真白の魔神以外、紛い物だと言っている。


 でも、それを復活させようとしているって事は――。


「交国を造った真白の魔神も、須臾学習媒体(バックアップデータ)を遺していたんですね」


「もしもの時のためにな。実際、もしも(それ)は訪れた」


 交国を造った真白の魔神は、使徒に殺害されたらしい。


 その使徒が誰か、宗像長官は教えてくれなかったけど……他の事に関しては教えてくれた。苦笑いを浮かべながら教えてくれた。


「我らの太母は、中身(データ)しか作れなかったのだ」


「材料が手に入らなかったんですか?」


「それもある。作る前に殺された、という事情もある」


 かくして、交国にはバックアップデータだけが遺された。


 それだけでは完全複製体は作れない。真白の魔神の全てを受け止めるだけの器がなければ、それは真白の魔神たり得ない。


「しかし、我々はとある組織(ロレンス)の協力により、重要な情報を手に入れた。<叡智神>と呼ばれた真白の魔神が、須臾学習媒体と器を作っていたという情報を手に入れた」


 その器がスミレさんだった。


 スミレさんは亡くなったものの、スミレさんの身体そのものは私として残っている。


「私にその太母さんのデータを入れて、完全複製体を作るつもりなんですね」


「その通り」


「成功すると思っているんですか……? ほぼ同じ技術で造られたものかもしれませんが、私の身体は……その太母さん用のモノとして造られたわけではないんですよ……!?」


「失敗する可能性もある。現状の試算では6%の確率で失敗するとされている。しかし、他の方法は見つからなかったのだよ」


 太母さんは器の作成が出来なかった。


 だから、過去の真白の魔神(メフィストフェレス)の遺産に縋る事にした。成功するとは限らずとも、過去の器を探すことにした。


 過去の遺産に縋らざるを得なくなった事情は、おそらく――。


「あなた達はあなた達で、『器』を造ろうとした。でも、失敗したんですね」


「そこまで理解しているか」


「ヒントはあったので……」


 <玉帝の子>は人造人間。


 その事は交国政府も認めていた。7年前の騒動の時に認めていた。……他にも久常中佐が人造人間だった事もヒントになった。


 おそらく、玉帝の子は「要職につかせる人材」を造るために始まったものじゃない。


 元々は「真白の魔神の器」として造られ始めたんだろう。


 でも、十分な器を作ることは出来なかった。人造人間そのものは作れたものの、完全複製体の器に出来るほどのものは作れなかった。


 真白の魔神亡き後、足りない器の自作に失敗し続けていた。結果、器になれなかった人達が<玉帝の子>として利用されていたんだろう。




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