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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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喋るケダモノ



■title:港湾都市<黒水>郊外にて

■from:復讐者・レオナール


 交国はボクから全部奪った。


 交国は悪い事をした。


 でも、そんな交国に保護されないと生きていく事すら出来ない。


 その事にずっと……ずーっと、モヤモヤしていた。


 けど、ガマンなんてする必要なかったんだ!


 悪いのは交国だ。


 悪い事をした以上、裁かれるべきなんだ。


 生きるための糧が必要なら、悪い奴から奪えばいい。悪者には何をしてもいい。


 交国は普通なら裁けない巨悪だけど、そんな交国さえ裁いてくれる存在がいる。「因果応報の代行者」であるエデンなら……カトー総長なら、裁いてくれる!


 あの御方の存在は、ボクの救いだった。


 カトー総長こそが、ボクの救世主だったんだ! ……黒水守のような偽りの救世主じゃない。キチンと交国を罰してくれる存在が、ようやく現れてくれた。


 ボクもエデンの一員として、交国に報いを受けさせてやりたい。


 カトー総長のために戦うんだ。


 父さんと母さんの仇討ちをするんだ。


 そう思い、全力でエデンの役に立とうと頑張ったけど……黒水の戦いで、ボクはいつの間にか気絶していた。何とか生き残ったけど、大した活躍は出来なかった。


 でも、ボクが生き残った事にはきっと意味がある。


 きっと、叡智神もボクの事を応援してくれているんだ。


 ボクがこんなところで死ぬべきではないと、後押ししてくれているんだ。カトー総長という救世主と出会わせてくれたうえに、黒水の戦いでもボクを救ってくれたんだ。あぁ、きっとそうだ。


『こんなところで死んでられないんだよ……!』


 ひとまず黒水から逃げ、郊外に潜伏する事にした。


 ボクと同じくエデンへの協力を決めた人達と合流すると……アイツがいた。


 石守桃華。玉帝に媚びを売っていた黒水守の娘。


 アイツが、ボクの仲間に捕まっていた。


 震えながら強がっているアイツが……ボクの顔を見るとパッと表情を明るくしていた。ボクが助けに来たと勘違いしたらしい。


 ボクにすがってくる姿があまりにも滑稽で、ひとしきり笑ってやった後、思い切り頬を叩いてやった。強がっていたアイツがビックリした様子で固まり、ポロポロと涙を流し始めた光景は……胸がスッとした!!


 親がいて、お金持ちで、食べるものにも一切困らない苦労知らずの小娘が、愕然としながら泣いている光景は……とても、とっても! 気分が良かった!!


『それで、この小娘はどうする』


『どうするも何も……コイツを人質にして、何とか逃げるしか……』


 仲間達はせっかく捕まえた石守桃華を、ツマラナイ用途に使おうとしていた。


 ボクが「まずは指を全部切り落として、石守素子に送るべきだ!」と提案しても――汚物でも見るような目つきをして、「ガキは黙っていろ」と言ってきた。


 黒水守や石守素子と同じように、ボクを子供扱いしてきた!


 だから、奴らの目を盗んでやってやった。


『れ……レオ……?』


『うるさくしないでくださいよ? アイツらが戻ってくる前にやらなきゃ!』


『な、なにするの……?』


『因果応報の代行だよ。……汚らわしい玉帝の血を引く天使め!』


 お前も死ぬんだよ。


 黒水守と同じ道を辿るんだよ。


 さっきは失敗したけど、今度は成功させてやる。


 そう囁きながら注射を取り出すと、世間知らずの馬鹿小娘も、ボクが何をやるつもりか察したらしい。「いや、やめて」「おねがいだからやめて」と泣きながら懇願してきたけど――。


『れっ、レオナールっ! やめてっ! やめ――――』


 悪党に正統な裁きを与えてやった。


 ずっと……ずっと、こうしてやりたかった!!


 ボクの手で、交国に痛手を与えてやりたかった! 復讐したかった!!


 毒薬の効果がしっかり出たらしく、石守桃華は瀕死のケダモノのようにのたうち回った。口から泡や絶叫を吐き、いっぱい苦しんでいた!


 騒ぎを聞きつけた仲間達が血相変えてやって来たから、成果を誇ってやった。ビビってツマラナイことしか考えられない小者達にボクの成果を誇ってやった。


 口だけのザコ共と違って、ボクはやれるんだ。ころすための訓練もしてきたんだ。ボクは……ボクは、カトー総長のような因果応報の代行者になれるんだ!!


 皆が絶句する中、石守桃華も声を失っていった。


 瞳から光が失せ、くてっとしたまま動かなくなった。


 死んだ。


 殺してやった。交国の領主の娘を殺してやった。


 ボクから家族を……ナルジス姉さんを奪った交国に復讐してやった!


 その事実で胸いっぱいになって、笑っていると――アイツが来た。


 エデンの戦士のくせに、エデンを裏切って黒水守側についた男。


 アーロイが…………いや、スアルタウがやってきた。




■title:港湾都市<黒水>郊外にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「お前……お前っ!! 桃華お嬢様に、何をした!!?」


「見たらわかるだろ? エデンの仲間として……正しい報いを与えてやったんだ」


 お嬢様の傍らに立ち、笑っていたレオナールが答えた。


 正気を失っている。そうとしか言いようがない目つきをしている。


 そのレオナールの手に注射器が握られている。魂が1つ、消えてしまった事を鑑みれば……何が起こったかは明白だった。


「レオナール……! お前、自分が何をやったか……理解して――」


「ああっ! 今度こそ、エデンに連なる者としての仕事が出来たんだっ! 因果応報の代行者の一員として……穢れた血に裁きを与えてやったんだっ!!」


 レオナールは目を見開き、口を三日月のように開きながら言葉を続けた。


 お嬢様の最期を、笑いながら語った。


「このガキ、ケダモノのような叫び声をあげながら死んだんだ! 今度こそ毒薬が効いたんだ! オマケにコイツ……ヒヒッ……! 小便まで漏らしてるだろ!? みっともない姿を晒しながら死んだんだ!! いい気味だろ!?」


「お嬢様は!! キミを信頼していたんだぞ!?」


 レオナールの周りにいる人達を押しのけ、レオナールの胸ぐらを掴む。


 お嬢様は、まだ幼い子供だった。


 この子自身は何も悪い事をしていなかった。


 何が因果応報の代行者だ。いつ、この子が報いを受けるべき事をしたんだ!?


「桃華お嬢様は、キミの事を……兄のように慕っていたのに……!」


「兄だって? きもちわるい! 玉帝の血を継ぐ汚らわしい存在のくせに、まとわりついてきて……ずっと前から、鬱陶しいと思っていたが……。本当にきもちわるい存在だよ、コイツは」


 レオナールは倒れているお嬢様に向け、足を踏み下ろそうとした。


 咄嗟に突き飛ばすと、レオナールはよろめき倒れ、僕を睨み付けてきた。


「なんだよ! ホントの事だろ!? コイツだって、ボクのことなんてペット程度としか考えていないさ! ……哀れなボクに優しくしている自分に酔っていた偽善者だよ!!」


「お前は何もわかってない!!」


 お嬢様の気持ちも、エデンの事も……何もわかってない!


 僕よりずっと、お嬢様と付き合いが長いくせに……なんで、なんでっ! こんな……酷いことを、平気でできるんだよっ……!


「何の罪もない子供に対して、何でそこまで残虐になれるんだよ!?」


「交国がやった事を、やり返してやっただけだ。玉帝の孫であるそいつにも、大きな責任があるだろ」


「あるわけないだろ!? お嬢様が……どれだけ想いを込めて、お前への誕生日の贈り物を用意しようとしていたか……!! お前、わかってないのか!?」


「贈り物か。それならもう、もらったよ」


 レオナールは子供のような笑顔を見せつつ、言葉を続けた。


「家族にも環境にも恵まれ、ぬくぬく暮らしていたバカなお嬢様の死体という、最高の贈り物がもらえた! 因果応報の代行者(エデン)として、最高の一歩を踏めたよ……!」


「――――」


「いや、こんなもので満足してられないなっ! 交国の奴らには、もっと思い知らせてやらないと! たくさんの不幸の上でぬくぬくと暮らしている交国人全員に、報いを与えてやらないとな!?」


「…………お前は、狂ってる」


 正気じゃない。


 ムチャクチャだ。


 こんな事をやっておいて、笑っていられるなんて――。


「狂っているのは交国だ! ネウロンだけじゃなくて、たくさんの世界に不幸をバラ撒いているくせに誰にも裁かれずにいた! 交国人だけが幸せになっていた!! そんなの……おかしいだろ!?」


「…………」


「もっと圧倒的な力で、もっとヒドい目に遭わせなきゃ、釣り合いが取れないよ」


 レオナールは服についた土を払いつつ立ち上がり、「交国人は、皆殺しにしてやらなきゃ」と言った。


皆殺し(そこ)までやって、やっと、釣り合いが取れるんだ。……ネウロン人を大勢殺した交国には、それぐらいの報いを与えてやらなきゃ!」


「…………」


「アーロイ、いや、スアルタウと言うべきか? キミもいい加減、正気に戻れ!」


「なにを、言って……」


「キミだって、交国を憎んでいるだろう!? ボクと同じ過去(キズ)を持っているだろう!? いつまで黒水守の甘言に騙されているんだよ。正気に戻れよ」


「違う。僕は……」


 お前とは違う。


 お前と……いっしょにするな。


「交国をブッ壊すために、カトー総長に従って戦ってるんだろ!?」


「違う! 僕は、守るために戦っているんだ!」


 レオナールは理解に苦しむと言いたげな顔で、僕を見ている。


 僕もお前の事を理解できない。お前は、どう考えてもおかしい。


「冷静になれよ、スアルタウ。今ならまだ間に合う」


「…………」


「エデンの同志として、一緒に交国をブッ壊そうよっ!」


「――――」


 気づけば拳を振るっていた。


 レオナールの顔面を思い切り殴っていた。


 僕が殴った衝撃で吹っ飛んだレオナールが、「いたい、痛い!」「なんで殴るんだよぉ」「ボクは正しいことをしているのに」と言っている。


 言っているけど、理解できない。


 同じ人間の言葉だと思えない。


「お前……! お前も! 黒水守みたいにボクらを裏切るんだな? じゃあいいよっ! お前はもう完全に正義(エデン)の敵だ! 死んでしまえっ!」


 レオナールは顔を押さえつつ叫び、周りの人達に武器を使うよう促した。


 僕をここで殺すよう、皆を扇動して――。


『やめておけ。フェルグス(そいつ)を殺せば、カトーはお前達を責めるぞ』


 僕が持っていた通信機から、バフォメットの声が聞こえてきた。


 急に知らない声が聞こえてきた所為か、周囲の人達はギョッとして止まった。レオナールは傍にあった農具を手に殴りかかってきたけど――。


「死ねッ!!!」


「――――」


 農具の一撃を避け、レオナールの腹を殴る。


 吐いたレオナールを後ろから拘束し、人質にし、「武器を下ろしてください」と周囲の人達に促す。


 この人達もエデンの協力者のようだけど……レオナールのようにおかしくなったわけではないらしい。狼狽えつつ、固まっている。


 でも、ここから、どうすれば――。


「…………けほっ」


「「…………!?」」


 足下から、誰かが咳き込む声が聞こえた。


 けほけほ、と力ない音が聞こえてきた。


 見ると、お嬢様が苦しそうに息をしていた。


 生きている。死んでいない!


「お嬢様……!」


「こいつ、まだ死んでなかったのかよ!?」


 レオナールが性懲りも無くお嬢様を踏みつけようとしたけど、再び突き飛ばす。今度は周囲の人達を巻き込む形で突き飛ばす。


 周りが体勢を立て直そうとしているうちに、お嬢様を抱き上げ、急いで逃げる。……ピクリとも動かなくなっていた身体が動いている。息を吹き返した!


 ただ、レオナールが注射を打った影響なのか、とても苦しそうにしている。身体はとても冷たいし、息づかいも弱々しい。


 でも、まだ生きている。まだ助けられる……!


「くそっ……!! 待てっ! 逃げるなぁっ!!」


 背後からレオナールの叫び声が聞こえてくる。


 無視し、お嬢様を抱いたまま逃げる。


 レオナール達を撒けば、お嬢様を何とか助けられるはずだ。……必死に走っていると、レオナール達は直ぐに撒く事が出来た。


 崖を飛び降り、藪を突っ切って逃げていると、僕を追いかけてきていたレオナール達を撒く事に成功した。彼らの声が遠ざかっていく。見当違いの方向を探しているようだ。


 けど――。


『フェルグス。カトーが先程の者達の報告を受け、そちらに向かっている。数分で辿り着くぞ』


「っ…………」


 総長もこっちにやってくる。


 総長は、さすがに……子供は殺そうとしないはず。


 そう信じたい。


 けど、あの人は……黒水への無差別攻撃を行った。


 あそこにはお嬢様ほどの子供も大勢いた。


 それに……お嬢様は黒水守の子供だ。総長にとっては復讐対象の娘だ。


「バフォメット。僕はもう、総長のところには戻れない」


『そうか』


「総長には、僕が裏切ったと伝えてくれ」


 通信を切り、再び駆け出す。


 黒水の市街地に向かう。


 そこまで辿り着けば、医者がいるはず。


 お嬢様は、きっと……まだ、助けられる!


「……や、だ…………」


「…………! お嬢様……!」


 お嬢様が僕の服を掴みつつ、言葉を発した。


 苦しげな表情のまま、「しにたくない」と呟いた。


「守ります。今度こそ、必ず」


 そう告げると、お嬢様はこちらに身体を預けてきた。


 気絶したようだったけど……まだ息をしている。


 危険な状態だけど、きっと……まだ助けられるはずだ!




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