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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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破滅への飛行



■title:港湾都市<黒水>郊外にて

■from:使徒・バフォメット


『……罠の類いはないか』


 海底を通り、新たな隠れ家に辿り着く。


 隠れ家といっても大したものではない。戦闘形態を解いた機兵の1、2機を隠せる程度のもので、拠点としては大きな価値がないものだった。


 念のため調べたが罠はない。伏兵もいない。


 何者かが近づいてくる気配があれば私が気づく。私は休む必要などないが、ひとまずここで待機しておこう。いまカトーに死なれるとやや面倒だ。


 隠れ家内の見回りを終え、白瑛を隠している倉庫に戻ると……カトーとフェルグスが未だに口論をしていた。


 フェルグスは直ぐにでもヴァイオレットを助けに行きたいそうだが、カトーはそれを許可しないでいる。それどころかフェルグスを拘束したままだ。


「ヴィオラ姉さん達を見捨てるっていうんですか!?」


「助けに行かないとは言ってないだろ!? だが、ヴァイオレットの居場所がわからない以上、アテもなくうろつくわけにもいかないだろうが……!!」


 拘束されたフェルグスは暴れつつ、カトーに刃向かっていた。


 顔色の悪いカトーはフェルグスを柱に縛り付け、何とか説得しようとしているが上手くいっていないようだ。……お互いに苛立ちをぶつけている。


「オレは仲間を見捨てない! 仲間を殺した宗像の野郎も、裏切り者のタマもブッ殺してやる!! オレはブレず、変わらず、交国を倒すために命をかけて――」


「ヴィオラ姉さんがさらわれたのも、皆がやられたのも……! 特佐長官の口車に乗った総長の所為じゃないですかっ!」


「っ…………」


「交国を敵だ敵だと言い張り続けて、そのくせ交国の人間にコロッと騙されて……仲間を失ったのは総長の手落ちじゃないですかっ!」


「…………」


「貴方が蛮行に及ばなければ、黒水守と話し合いが出来たのに――」


 カトーは肩を怒らせ、無言で平手打ちを放った。


 フェルグスの頬が乾いた音を響かせた。




■title:港湾都市<黒水>郊外にて

■from:復讐者・カトー


「黙れッ!! 二度とオレの前でムツキの名前を出すな!!」


 刃向かってきたアルを平手打ちで黙らせる。


 けど、アルは視線で抗議を続けてきた。


 オレを睨み付けてきた。……敵に向けるような目をオレに向けてきた。


 オレは間違っていない。オレは交国がしたことを、交国にやり返してやっただけだ。ムツキがやった事を、ムツキにやり返してやっただけだ。


 エデンは……オレは、因果応報の代行者だ。何の罰も受けずにのうのうと生きている奴らを罰しただけだ。


 ……それによってオレの手が汚れても、それは仕方ない。


 オレが手を汚し、全ての穢れを引き受けてやれば……アル達に「きれいな世界」を渡せるはずなんだ。オレが、正しいんだ。


「黒水守は大量虐殺者だ。大罪人だ。皆が忘れたとしても、オレはその事実を忘れない! 玉帝に媚びを売って、過去の虐殺などなかったように振る舞っているアイツの事を許さない……!」


「黒水守は、過去の事を忘れたわけじゃ――」


「あんなクズの甘言に騙されるなんて、ガッカリだよ。フェルグス」


 助けてやったのに。導いてやったのに。


 目をかけてやってたのに……オレを裏切りやがって。


「何で……なんであんなヤツの言葉を信じる? 洗脳されたのか?」


「洗脳されているのは……総長、貴方でしょう?」


 コイツは何を言ってるんだ。


 オレが、洗脳されてる……? バカバカしい。


 何で急にそんな事を言いだしたんだ――と戸惑っていると、腕組みしながら立っていたバフォメットが口を挟んできた。


『お前がプレーローマに洗脳されている、という話ではないのか?』


「……そんなわけねえだろ。アホなこと言うな」


「バフォメット。バフォメットは総長がプレーローマと手を組んでしまっている事を……知っているのか? 知っていたのか!?」


 フェルグスが拘束されたまま身を乗り出し、バフォメットに問いかけた。


 バフォメットは頷き、「概ね把握している」と言った。


『カトー達は、私の目を盗んで暗躍していたようだが、無駄なことだ。私の巫術の眼()を誤魔化せると思うな』


「あ……アンタは元々、プレーローマと戦っていたんだろ!? じゃあ、プレーローマと手を組む危険性なんて、わかって――」


『当然だ。だから私はカトーに「プレーローマとの共闘は推奨しない」と伝えた。だが、カトーは――』


「必要なんだよ。交国に勝つには」


 バフォメットに一度言った事を、改めて言ってやる。


 ……この件はとっくの昔に話がついているんだよ。


『カトーがそう判断したなら、好きにすればいい』


「なっ……なんで……!?」


『プレーローマの支援なくして、カトー率いるエデンの復活は有り得なかった。……だからといって愚かな行動だと思うが、私にはどうでもいい(・・・・・・)話だ』


 バフォメットは「愚か」と言いつつも、オレをそれ以上は咎めなかった。


 プレーローマの協力を取り付けている件も黙認してくれている。……バフォメットも奴らの手を借りる必要があると理解しているんだ。


『仮にエデンが破滅したところで、私には関係ない。私の邪魔をしないなら好きにすればいい』


「何でそんなこと言えるんだ! なんで――」


『私にはもう、人類(ひと)のために戦う理由などない。……かつてはエデンの戦士として戦っていたが、それはもう昔の話だ』


 バフォメットは機械の如き冷たさで、そう語った。


 コイツにも、昔は必死に戦う動機があった。守りたい家族がいた。


 けど、もういない。……復讐する気力すらない枯れた存在だ。


 おかげで文句言われずに済んで助かったがな。


 絶句しているアルに対し、「バフォメットを味方に引き込もうとしても無駄だぞ」と釘を刺してやる。


「バフォメットは、オレの決断を支持してくれている」


『カトー。そうではない。私はお前を低く評価している』


「はぁ?」


『端的に言えば愚者だと思っている。復讐のためとはいえ、天使共と手を組むのは悪手だ』


「…………」


『私にそれを止める権利はないし、どうでもいいと思っているだけだ』


「よし。わかった。黙ってろ」


 軽く指を突きつけてそう告げると、バフォメットは「お前は私の契約者ではない」と言ってきた。


『お前の命令を聞く謂れはない。だが、今後の協力関係を維持するための要望として聞き届けてやろう』


 バフォメットはバフォメットで味方じゃねえ。


 古強者のような振る舞いをしているだけの老害だ。ただ漫然と生きているだけの枯れ木みたいなヤツだ。……だが、まだまだ利用価値がある。


 レオナールとかいうヤツを確保すれば、バフォメットはどうとでもできる。今は余裕ぶっておけばいいさ。後々、立場を理解させてやる。


 アルはバフォメットに何を言っても無駄だと悟ったのか、失望した様子でオレに視線を向けてきた。すがるような視線を向けつつ、語りかけてきた。


「総長……。正気に戻ってください。プレーローマの権能か何かで、洗脳されて……正常な判断能力を失っているだけなんですよね……?」


「舐めるな。オレはずっと正気だ」


「なにか……弱みとか、人質を握られているんじゃないんですか……!?」


 そうだと言ってくれ、と言いたげだ。


 そんな目でオレを見るな。……オレの正気を疑うな。


 オレは……正しいんだ。正気なんだ。オレは……間違っていないんだ。


 皆の仇討ちをするためには、これしかないんだ。


 天使共の靴を舐めてでも、力を取り戻して……戦うしかないんだ。別にプレーローマへの復讐心を失ったわけじゃない! 先に交国と人連をブッ倒そうとしているだけだ! プレーローマも、いずれは滅ぼしてやる!!


 交国を滅ぼして、ナルジス達の仇討ちをして……神器も取り戻して、寿命の問題も解決する。その後も戦い続けて、オレは…………オレは――――。


「交国は卑怯で、強大な敵だ! 対抗するためにはプレーローマと手を組むしかなかったんだ! これは……仕方の無いことなんだよ」


 そう説明したが、アルは「理解できない」という視線を向けてきた。


「他にやりようがあったか!? 交国に勝たなきゃ仇討ちもできない!! それに……オレの神器も取り戻せない!! お前はオレに『死ね』って言いたいのか!? 神器無しじゃ、オレは……遠からず死ぬんだぞ!?」


「僕だって、総長に生きてほしいですよっ! でも、総長、貴方は…………」


「オレはプレーローマの奴隷になったわけじゃない! 奴らを利用してエデンを復活させて、力を手に入れただけ! プレーローマを利用しているだけだ!」


「利用されているのは、総長じゃないですか……」


「違う!! オレは……オレは、上手くやってるんだっ……!!」


 何で信じてくれないんだ。


 何で、そんな目で見るんだ。


 じゃあ、他に方法あったのかよ!?


 交国やプレーローマに奪われたまま、泣き寝入りして死ねって言いたいのかよ。


 オレは……オレはっ……! 自分の寿命(いのち)欲しさに動いたわけじゃない! 神器を取り戻したいのは、もっと復讐を続けるためだ。


 お前達のためにも、手を汚してやっただけなのに――――。


「オレは正しい! オレは進んで汚れ役をやってやっただけだ!」


「黒水の人達だけじゃない。メラ王女も……解放軍の人達も、自分勝手な望みのために利用して……殺したんだ。貴方は……」


「自分勝手じゃない! オレは皆と正義のために戦ってるっ!」


「プレーローマと手を結んで、虐殺までして……どこに正義があるんですか!?」


「…………」


「プレーローマは……総長のお姉さんを殺した仇でしょう!? 総長にとって交国と同じか、それ以上に相容れない敵だったはずでしょう!?」


「だから……! 敵だから利用してるんだよっ!」


 プレーローマとは一時的に手を結んでいるだけだ。


 奴らを利用しただけだ。……だがいずれ、奴らとの協力関係も終わらせる。


 奴ら無しでも、エデン(おれたち)はやっていけるようになる。


 そう説明したが、アルは「どうやって」と問いかけてきた。


「仮に交国を倒せたところで、どうやってプレーローマに対抗するんですか」


「交国から神器を取り戻せば、オレはかつての力を取り戻せる」


「総長の神器は壊れているんでしょう? だから、かつての力なんてもう――」


「じ、神器だけじゃないっ! 交国を倒す事で、仲間も増えるっ!」


 多くの人々が交国に虐げられている。


 オレ達は、そんな弱者の解放者になるんだ。救世主になるんだ。


「救われた皆はオレ達に感謝し、打倒プレーローマに協力してくれる。ベルベストの奴らみたいに、エデンを支持してくれる」


「ベルベストの人達は、騙しているだけじゃないですか」


「…………」


「ベルベストの奇跡すら、まやかしだったんでしょう!? プレーローマと一緒にやった茶番劇だったんでしょう!?」


「……オレは実際にベルベストの奴らを助けてやった。まやかしなんかじゃない」


 オレがプレーローマと協力関係を結び、方舟を譲り受けていなければ……ベルベストの奴らは助けられなかった。オレが汚れ役を引き受けてやったおかげで、アイツらは生き残ることが出来たんだ。


「奇跡云々言ってるのは、アイツらだ。アイツらが勝手にそう言って……自分達を特別な存在だと……奇跡で救われた特別な存在だと言って、酔ってるだけだ」


「酔わせたのは総長でしょう? 騙したのは、貴方でしょう……?」


「…………」


「助けて恩を売って、利用するつもりだったんでしょう……!?」


「オレが助けなきゃ、アイツらは死んでたんだぞ!? お前はベルベストの連中に『死ね』って言いたいのか!?」


「問題をすり替えないでくださいっ! 総長のやり方は……無茶苦茶です」


 正義のやり方とは思えない。


 アルはそう言って来た。


 オレを否定してきた。


 オレに救われたくせに。オレがいなきゃ、死んでたくせに……!


「……交国には確かに玉帝に苦しめられた人々がいます。でも、今の交国ですらプレーローマを倒せていないのに、その交国に苦しめられてきた人達を解放するだけでプレーローマに勝てるわけがないでしょう……!?」


「…………」


「そもそも、解放した人達が総長についてきてくれる保証もない! 貴方は、一般人も巻き込んだんですよ!?」


「…………」


「総長がやってることは、自殺行為みたいなものです。高いところから身投げして、『オレは飛んでる!』と言い張っているみたいなものですよっ!」


「…………」


「黒水守は違った。あの人は、ちゃんと未来を見据えて――」


「何が未来だッ!!」


 アルを殴りつけ、黙らせる。


「奴は過去を軽んじていただけだ! 問題のすり替えをして、過去の罪を誤魔化していただけだ!! オレは違う! オレは……!!」


 アルは反論してこなかった。


 鬱陶しい言葉を吐いていた頭が、だらんと力を失っている。


 ……さっきの一撃で気絶したようだ。


「っ…………」


 アルの前で無理をしすぎた所為で、尻餅をついてしまった。


 追加のクスリを打とうとしたものの、注射器を指で弾いて落としてしまった。


『…………』


 注射器が転がっていった方向にいたバフォメットは、それを一瞥しただけだった。腕組みしたまま黙っている。……冷めた目つきをしている。


「……連絡を取ってくる。お前はアルを見張っていろ」


 バフォメットに命令し、白瑛に乗り込む。


 休みたいが、その前にやるべき事がある。


 黒水にいた協力者の生き残りや、宗像の手引きとは別口で交国本土に潜り込んでいたエデンの仲間と連絡を取りたい。合流したい。


 復讐(さくせん)はこれからだ。


 まだ終わっていない。オレも、作戦も――。





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