祝勝会
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
「第8巫術師実験部隊の皆! 模擬戦の勝利、マジでおめでとう!」
簡単に挨拶をし、拍手しながら祝勝会を始めた。
場所は食堂の一角を借りた。
主役は子供達とヴァイオレット。
主役以外の参加者は、最悪、俺だけになるかと思ったが――。
「軍曹、なにやってんスか?」
「俺らも混ぜて~」
騒ぐのが好きな星屑隊の隊員もワラワラと寄ってきた。
子供達はちょっとビビったが、繊十三号での戦い以降は俺以外の隊員ともちょくちょく話をしていたおかげで、隊員を受け入れてくれた。
「この子達の祝勝会だから、参加するなら何かくれ。プレゼント」
「えっ、急だなぁ~。まあ何か探してきますよ」
「かくし芸でもいいぞ」
参加する隊員にも労ってもらう事にした。
即興で歌ったり、得意の宴会芸を見せてくれる隊員に向け、子供達も拍手をしてくれた。グローニャやアルが特にキャイキャイとはしゃいでくれている。
プレゼントを持ってきた組は――。
「買ったけどサイズあわなかったシャツでいいですか?」
「解き終わったクロスワード」
「どこでも賭博セット~♪」
「オレの爪詰め合わせ。2年分」
「ゴミ持ってくるんじゃねえ……!!」
「軍曹、ミニゲーム機。もうらいらねえから全部あげますよ」
「うお、それはありがたい!」
「雑誌でいい?」
「バッ……! それ成人向け……!」
気が利かない野郎共なので、ゴミ持ってくる事の方が多かった。
けど、ネウロン人の子供達にとっては物珍しいモノが多いらしい。俺基準だとゴミの品も、興味深そうに見ている。
「アンタらダメだな~。プレゼントってものがよくわかってない」
「軍曹が階級を盾に無茶言ってくる~」
「急に言われても、気の利いたものなんて用意できませんって~」
「確かに……」
「軍曹、髪の毛詰め合わせは――」
「帰れ」
前々から言ってなかった俺も悪いけど、どうせならもっと良いものが欲しい。
ここは俺の出番って事だな。
ちょうど、バレットがプレゼント入りの袋を持ってきてくれたし――。
「よーし、お前ら集合~! 俺からもプレゼントがありま~す!」
片手を上げて呼びかける。
アルが満面の笑みを浮かべて真っ先に来てくれたので、最初に渡す事にした。
「男子共にはコレ!」
「模擬戦で使ったドローンだっ!」
実際に憑依したアルは直ぐ気づいてくれた。
俺から受け取ったドローンに頬ずりし、喜んでくれている。「アルに渡したヤツは、実際に模擬戦で使ったのを直したヤツだ」と言うと、さらに喜んでくれた。
「フェルグスとロッカもこれ。トイドローン。これが飛ぶんだぜ」
「こんな形のヤツが飛ぶのか……?」
「にいちゃん! ボクが動かすから見てて!」
満面の笑みを浮かべたアルがドローンに憑依し、実際に動かしてくれた。
飛び立ったドローンを子供達が目をまんまるにしながら見守り、隊員らも「おー、マジで勝手に動いてる」「これが巫術かぁ」と感心した様子でアルのフライトを見守ってくれた。
「カメラ付きだから、ドローンの視界も堪能できるぞ。明日、甲板で飛ばそうぜ」
「これ、結構高いんじゃねえの……?」
「あくまで玩具のドローンだから、そんなでもねえよ。ちなみに製作者は、ウチの整備兵のバレットでーす!」
「アッ! ちょっと軍曹! 約束と違っ……!」
テンション上がってついつい製作者をバラしちまうと、コソコソと食堂を出ていこうとしていたバレットが血相を変えた。
アルもフェルグスもロッカも目の色を変え、「これ作ったんですか!?」「すげー! 天才じゃん」「どうやって飛んでんの!?」と質問攻めにし始めた。
バレットはオロオロと困った様子だったが、ロッカが服の裾を掴んで質問し始めると、逃げるのを諦めたようだった。
「これ、オレでも作れる!?」
「うん、まあ、部品さえあれば……。ちゃんと整備の勉強してこなかった俺でも作れるものだから……。キミ達だって直ぐに作れるよ……」
「マジか~!!」
アルも凄く喜んでくれたが、ロッカも負けず劣らずぐらい喜んでる。
ロッカはドローンの仕組みが気になるみたいで、ドローンを突きつけながらバレットを質問攻めしてる。バレットは困った様子だったが、最終的に食堂の椅子に座り、ロッカに詳しく説明し始めてくれた。
フェルグスは――。
「おい、アルの兄ちゃん。オメーも飛ばしてみろよ~」
「えっ? うん、まあいいけど~?」
フェルグスは隊員らに肩を叩かれ、まんざらでもない様子でドローンを飛ばし始めた。壁や天井にぶつけないか心配だったが、結構上手に飛ばしてる。
子供達が楽しげにしている様子を見ていると、思わず笑みがこぼれてきたが――俺と違って笑ってないヤツもいた。
「むぅ~~~~! グローニャのは~~~~!?」
「あっ! スマン! お前には、世界に1個しかないモノをやろう」
「世界に、1個だけ……!? 手作り!?」
「おう! 手作りだ!」
ムッとしていたグローニャにも、プレゼントの袋を渡す。
グローニャは勢いよく袋を開け、中にあるものを見て、ビックリした様子で「フワフワだ~~~~!」と叫んだ。
「ラートちゃん! これっ! これなにっ!? ラートちゃんと見たお魚に似てるよっ!? フワフワだよっ!?」
「シャチのぬいぐるみだ。魚じゃないらしい」
「シャチちゃん! おいしそうっ!」
美味しそうと言いつつ、グローニャはぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
それを見てニコニコ笑ってるヴィオラに背中をポンポンと叩かれた。
「グローニャちゃん。軍曹さんにお礼言わなきゃ」
「うんっ! ラートちゃんっ! ありがと! ありがとねっ!」
ヴィオラ以上にニコニコ笑顔のグローニャだったが、なぜか表情を曇らせ――ぬいぐるみをギュッと抱きしめつつ――俺を上目遣いで見てきた。
「こ、この子……。ホントにもらっていいのん?」
「もちろん。お前のために用意したものだからな!」
「ホント~? ホントに~……?」
グローニャはぬいぐるみを抱きしめたまま身体を揺らし、不安げにしてる。
理由は直ぐにわかった。
「海にポイ、しない~……?」
「――――。絶対捨てない。大丈夫だ!」
ぬいぐるみごと、グローニャをギュッと抱きしめる。
「俺は当然やらないし、他の隊員にもそんなことさせない。いや、ウチにはそんなことやる悪いヤツはいないから安心してほしい」
「ほんちょ~……?」
「ホントだ。信じてもらえるよう、行動で示していくよ。あっ、でも技術少尉は厄介だから……あの人には見つからないようにしてくれ」
「ん……。わかった!」
グローニャはまた笑顔になり、抱きついてくれた。
「ラートちゃん! ホントにありがと~!」
「へへっ……。どういたしまして」
グローニャはアル達にぬいぐるみを見せびらかしに行った。
アル達もグローニャのぬいぐるみを「可愛い」「マーリンより可愛いかも」と言ってくれている。グローニャは一層、ニコニコになっていった。
さて、最後にヴィオラの――。
「軍曹~、俺らのプレゼントを前座にして、あんな立派なもの用意してるなんてヒドいじゃないですか~」
「私の爪詰め合わせが霞んでしまう……」
「霞む以前にカスなんだよ爪は……! いや、実は俺、町に寄った時から準備してて……前座にするとかそんなつもりは……」
皆にも相談したら良かったかな?
あの時は、まだ星屑隊と皆と子供達が仲良くなれるか心配だった。
食堂で子供達と隊員が騒いでいるの見ると、杞憂だったみたいだが――。
「でも、意外と信頼関係築けてないんですか?」
「うっ……。皆にはそう見えるのか……?」
「や、だって、渡したプレゼントを『海に捨てる』って言われてたんでしょ? オレらは軍曹がそんなことしないってわかってるけど、意外と鬼畜に見られてる?」
「あ~……。その件は……」
話をしていた隊員らを壁際に連れていき、小声で事情を話す。
明星隊が、あの子達にやったこと。
グローニャが家族から貰った木彫りの人形を、海に捨てられたこと。
つらい思い出だから気遣ってあげてほしい、と言いつつ、「そういう事情もあるんだ」と説明しておく。
「そんな事があったんですか……」
「ひでぇことしやがる」
「だから優しくしてあげてほしい。全員に」
「ウッス。ようやく謎が解けましたよ。そんな事あったから警戒心強いのか」
「いや、まあ、それ以外にも色々事情あるけど……」
俺達が交国人って事情もある。
俺達が侵略者って事情もある。
その辺は、おいおい説明していこう。
「明星隊はよほどのハズレ部隊だったんですね。あの子達もツイてない……」
「ハズレなのかねぇ?」
隊員の1人が首をひねり、そんなことを呟いた。
どういう意味か聞くと、「人づてに聞いた話なんだけど――」と前置きしつつ、ネウロン旅団に関する話を教えてくれた。
「ネウロンに派遣されている交国軍人って、『質が悪い』ってよく聞くんだ」
町の酒場に行った時――入店は断られないが――交国軍人の客に苦労しているという話をチラホラ聞く。
他の部隊の人間が「俺達は交国軍人だぞ! お前らを守ってやってんだ!」と町中で暴れ、守備隊も知らん顔の事がある。
「一般人相手にエラそうにしてるって事? 恥ずかしい奴もいるもんだ……」
「いや、それだけじゃなくて……。ネウロンに来た新兵を上官が過剰にシゴいたって話もありましてねぇ」
「それはよく聞く話だけど――」
「この1年程度で、50人は自殺者出てるっぽいですよ」
「それは、さすがに多い……」
自殺だけでその数。
行方不明になった人間も含めれば、戦闘外の死者はさらに増えるらしい。
副長が技術少尉のことをチョット脅してたけど、アレはあくまで脅しだからなぁ。実際やるわけがない。少なくともウチの部隊では……。
「情報のやり取りでも苦労しますよ。ラート軍曹も覚えあるでしょ。前、ニイヤドの作戦で……明星隊と連絡取れないから、村雨隊に先行偵察に入って貰ってた件」
「あぁ……。そういや、アイツらが送ってきた情報も誤りだらけだったなぁ」
他部隊と情報のやり取りをするだけでも苦労するらしい。第三者から見た情報のまとめ方が雑ならまだマシで、いい加減の誤情報も結構あるみたいだ。
ニイヤドの時は、隊長が現場の状況を教えてくれたけど、「この情報は誤っている可能性が高い。過信するな」って言ってたな。
現場の俺達に下りてくる情報は隊長達が精査してくれた情報だから、まだマシなんだろうけど……精査する側は大変なんだろうな。
各部隊でキッチリ精査しなきゃ信じられない情報をやり取りしてるって時点で、おかしい気がするけども。
「タルタリカの第一次殲滅作戦は第二十三艦隊がやったから、すんなり進んだみたいですけど……。ネウロン旅団だけでやった作戦は3割失敗してますからね」
「えっ、そんなに? 相手はタルタリカだろ」
「ええ。フツーの人間相手ならまだ仕方ないとこありますけど、タルタリカ相手にこの失敗率はねぇ……」
「色々上手くいってないから、皆イライラしてんのかなぁ」
どうなんだろうなぁ。
星屑隊は遊撃で動いてるから、他部隊と共同作戦する事も少ないし……他所の部隊の質は正直よくわからん。怪しいとこはチラホラ見かけるのは確かだ。
でも、そうだな――。
「ケナフの守備隊も、動き悪かったよな」
「「「けなふ?」」」
「ああ、繊十三号の事だよ。この間、寄港した町」
「あー、確かに。素人の集団かと思いましたよ」
「守備隊の質も悪いって聞くなぁ……」
守備隊はネウロン人を多く徴用している影響なのかもしれない。
戦闘訓練なんてろくに積んでないだろうし。
けど、そんな人達を動員してるのがそもそもおかしい気が……。
交国軍は複数の戦線抱えているとはいえ、そこまで人材不足じゃない。ネウロンが辺境で、なおかつ最前線から離れているから優先されてないのかな。
「星屑隊は皆頼りがいあるし、平和だけどなぁ……」
俺がそう言うと、内緒話してた隊員達が揃って微妙な顔になった。
異議あり、って感じだ。
「えっ……。皆、星屑隊に不満持ってるのか?」
「いや、そうじゃなくて。今の平和は犠牲の上に成り立ってんですよ?」
「そういや、ラート軍曹は途中合流組だったか……」
「え。なに。怖い話する?」
余所の一般人に対するクズ行為。自殺や行方不明という話を聞いた後なので、「犠牲」って言葉を聞くとやけに怖く感じる。
いや、でも、星屑隊がそんなこと――。
「さすがに死人は出てないよ。隊長はその辺の手加減上手いから」
「えぇっ……?」
「アレは星屑隊が結成2日目のこと。あの時は隊員が全員揃ってなくて、隊長と副長含めて14人しかいなかったけど――」
俺が星屑隊に来る前の話らしい。
「星屑隊も正直、経歴的に『質が悪い』隊員が多い。荒くれ者が多いから、配属初日から隊員同士でバチバチやってて……2日目で殴り合いの喧嘩も起こった」
「喧嘩かぁ。今でもちょいちょいやってる喧嘩?」
「いやいや、今のはちょっとじゃれてるだけ」
もっとキツい殴り合いをしていたらしい。
俺達は痛覚ないから、ガチの喧嘩になると気絶もしくは足腰立たなくなるまで続く事もある。あるいは片方が死ぬまで続く。
歯止めが効かないから軍規でも私闘は禁じられているけど、それを破ってネウロンに左遷された隊員も星屑隊にいた。
だから星屑隊結成2日目で、結構な喧嘩が発生したんだが――。
「直ぐに隊長がやってきて、『血の気が多い奴らだ。元気が有り余っているなら私が相手してやる。表に出ろ』って言ってきたわけ」
「ひぇ。俺、隊長にそんなこと言われたら、怖くて小便漏らすかも」
「ははっ。……小便で済めば良かったんだけどなぁ」
喧嘩していた隊員達は、隊長の誘いに乗った。
上官相手だろうと知った事か。階級章が全てじゃねえことを、身体に教えてやる――と思いながら外に出たらしい。
「隊長は1人で全員、同時に相手にした。1対10だったかな……」
結果は惨憺たるものだったらしい。
1分程度で全員、コンクリートの地面に転がされた。その現実を受け止めれず、立ち上がって挑みかかった隊員は即座に倒された。
「隊長は『オークの壊し方』をよくわかってるんだ」
俺達には痛覚がない。
だが、感情はあるし、無敵ではない。
隊長は隊員の脳を的確に揺らしてダウンを取ってきたらしい。痛くなくても立ってられなくなり、無防備に頭を垂れてしまう。
「倒れた後も、減らず口を叩くようなら顔面蹴ってくるんだよ。『今から蹴るぞ』って事がよくわかるような形で……」
「ひぇ……」
「あと皆、血まみれになってたなぁ……。顔面を床や壁でゾリゾリとヤスリがけされるんだ。身体がまともに動かないうちに、スゲえ力で……」
骨や内臓をやられたところで、痛みはない。
痛くないから怖くない。
だから隊長は肌を徹底的に攻撃してきたらしい。
「身体動かないし、だくだくと血が出てきた時にはもう皆、『あ、これ死ぬやつ』って思っちゃうんだよ。戦意がすごい勢いで萎えて、心もバッキリと折れちゃってんの」
「立場、ワカらされちゃったんだ……」
「いや、ここからが本番で」
「まだ本番じゃなかったの!?」
「隊長は動けない俺達を簀巻きにして、『血抜きをしてやる』って言いながら海に蹴落としてきたんだよ」
ガチで死ぬ奴じゃん。
オークは他種族より肺活量が優れていて、泳ぎが得意な奴が多い。
でも水死する時は水死する。窒息死もする。
「簀巻きだから泳げねえ。このまま海の中にいたら死ぬのは目に見えている。けど、隊長に許しを請おうにも海の中じゃ喋れない」
「拷問じゃん」
「拷問だよ?」
さすがに、ほどほどのところでロープを引っ張って引き上げてくれるらしい。
「それを数セットやらされてさぁ……」
「そんな、筋トレみたいに……」
「暗闇の中、海の傍で簀巻きのまま転がされて、『明日の朝まで、そこで頭を冷やせ』って隊長が言ってくるの。オレ達、血も出てるから『このままじゃ死んじゃいます』って泣きついたら『安心しろ。死体処理はタルタリカにやらせる』って言うの。オレ達の味わった恐怖がわかった?」
「安らかに眠ってください」
「死んでねーし!!」
「逆に何でまだ生きてんの……?」
「いやぁ、その後、副長が来てくれてさぁ」
皆で簀巻きのままメソメソと泣きながら、「オレ達、死ぬんだぁ……!」って言ってたら、副長が助けに来てくれたらしい。
副長は隊員らの縄を解き、笑いながら手当をしてくれた。食事も差し入れてくれて、朝まで近くの倉庫で過ごしたらしい。
朝が来たらそそくさと簀巻きに戻り、やってきた隊長に許しをもらい、ようやく解放されたらしい。
「でも、心はもうバキバキよ。喧嘩には自信あったけど、隊長には絶対勝てないんだな……って。別の生き物だろ、ってレベルで躾けられちゃった」
「あの人、マジでオークとは別の生き物だよ」
「それだけボコボコにされたら、しばらく軍務に復帰できなかったでしょ」
「そこが隊長の凄いところよ。オレ達、誰も骨折してなかったし。多少、血尿は出たけど、次の日からフツーに軍務に戻りましたとさ」
「さすがにちょっと貧血気味だったけどな」
やってる事は拷問だけど、返り討ちにあっただけだからなぁ……。
自業自得と言えば自業自得だ。
「その後も隊長を闇討ちした馬鹿は数人いたが――」
「いるんだ……」
「全員、医務室の床に転がされていたな。血まみれで。隊長が『ベッドが汚れるから床でいい』って言ってて……」
寝込みを襲ったものの、気づいたら返り討ちにあって意識を刈り取られていた。
夜、ライトを消した軍用車でひき逃げしようとしたものの失敗。
失敗したから逃げたら無表情の隊長がダッシュで追いかけてきて、追いつかれ、ボコボコにされ、目隠しをされた状態で地面に転がされ、その周りを全速力の軍用車で走り回られたらしい。
命知らずの隊員もいたもんだ。
「車なら勝てると思ったんだがな~……!」
「アンタかい!!」
「いや、もう、隊長はマジで規格外の存在だよ。オレ、隊長が『実は人間サイズの機兵でした』って言われても信じるよ? マジでバケモノじみた強さだもん」
「隊長が俺達をボコした後は、大抵フラっと副長が来てくれるんだよな。今にして思えば、あの2人で示し合わせて役割分担してたんだろうな~」
隊長は鞭担当。副長は飴担当。
2人はネウロンに来る前からの知り合いっぽいし、気心知れてるんだろうな。
2人はどういう出会いをしたんだろう? 副長は隊長のことスゴく慕ってるみたいだけど、副長も最初は突っかかったりしてたのかな?
「隊長がそこまで怖い人なんて知らなかった」
「まあでも、無茶な逆らい方しなければ暴力振るってこないし、なんだかんだでオレ達のことを気遣ってくれてるよ」
「危ない橋は渡らないし、隊員の命を最優先に考えてくれてるし……」
「厳しい方だけど、俺にとっては理想の上官かなぁ……」
「オレもオレも! 隊長大好き! 軍規が服を着て歩いているように見えるけど、節度を守ればハメ外すのも目こぼししてくれるし~」
「ちょっと取っつきにくいけど、副長が間に入ってくれるからやりやすい」
「そうそう。隊長と副長、それぞれ真反対のタイプだけど、下で働く俺達にとってはそこがやりやすいんだよな~」
隊長の「躾け」の甲斐あり、星屑隊の初期メンバーは大人しくなったらしい。
最初から隊長に従順な隊員が揃っているので、後から合流してきた奴らもそれに染まりやすい。星屑隊という「群れ」の空気は出来上がっているので、それに染まって問題児も大人しくなっていく。
ちょくちょく喧嘩はするものの、隊長というストッパーがいるので力をセーブするようになった。キャスター先生と整備長以外、全員が痛覚のないオークなのに。
「隊長以外の下で働くことなんて、もう考えられねえよ」
「マジで星屑隊は良い部隊だよ。やりやすいし、安定感がある」
「隊長が――サイラス・ネジ中尉がいなかった場合、俺達も他の部隊のようになっていた可能性もあるって事かー……」
星屑隊結成初期を知る面々は「そうそう、その通り」と言ってくれた。
下手したら俺達も明星隊のようになってたんだな。
悪い部隊だったら、ひょっとしたら俺も染まっちゃってたのかも……。
「ネウロンに質の悪い交国軍人が派遣なり左遷されてる事を考えると、ネジ隊長と出会えたのは凄く幸運な事だ」
「ひょっとして、意図的に質の悪い人材が集められてるのかなぁ……?」
「その可能性は十分あるでしょ」
交国は多次元世界指折りの巨大軍事国家だ。
優秀な人材は沢山いる。
けど、全てが優秀ってわけじゃない。
落ちこぼれや問題児は一定数いる。
「交国軍が一番力を入れているのは対プレーローマ戦線。他にも交国に逆らう人類国家もいるし……ネウロンみたいに最前線から離れていて、なおかつ絶海近くの辺境には大した兵士を寄越さないはず」
「魔物なら、タルタリカなんかよりヤベーのが今いるし……」
「タルタリカよりヤバい魔物?」
「混沌竜だよ。ほら、竜国リンドルムの」
「あー、例の……。竜に支配されてる人類国家か」
残念ながら、交国が戦っているのは天使達だけじゃない。
対プレーローマのために人類は一致団結しなきゃいけないのに、その和を乱す人類国家もいる。プレーローマにそそのかされ、人類に弓を引く国家もある。
そういう人類国家と戦うのも交国の仕事だ。
優先度的には「対プレーローマ戦線」が一番で、「悪の人類国家」が二番。
ネウロンは優先度一番最後でもおかしくない。
ネウロンはネウロン人の9割が死んだ大変な状況だが、もう「死んだ」後だ。生き残りの保護は完了しているし、タルタリカはそこまで強くない。
故郷を失ったネウロン人や、現場で戦っている俺達にとっては「優先してくれ!」と言いたくなる戦場だけどなー……。
フェルグス達が特別行動兵の任を解かれるのも「タルタリカ殲滅完了後」の話になるから、アイツらを日常に戻すためにも早くタルタリカを倒したいのに……。
「星屑隊は本当に良い部隊だけど、他は質が悪くてもおかしくない。明星隊みたいな部隊が沢山いても、おかしくないんじゃないかなー……」
「なるほどなー……」
ネウロン旅団全体の質が悪いなら、それを仕切る久常中佐も苦労してそうだ。
今も血圧上げて叫んでそう……。
■title:<繊一号>ネウロン旅団司令部にて
■from:ネウロン旅団長・久常竹
「また部隊壊滅だと!!? ネウロンに派遣されてくる兵士はおかしい!! 質が悪いというレベルじゃないぞ!!? ゴミしか来ないじゃないかぁ!!」
「ちゅ、中佐……」
「このままじゃタルタリカの駆除が終わらない!! ボクは永遠に最前線に……対プレーローマ戦線に戻れないじゃないかあああああああああああッ!!!」
「あ、あのっ、中佐……犬塚特佐から援軍要請のお返事が……」
「なにッ!? 見せろ! よぉし!! ついに神器使いを派遣してくれ…………はあああああああああッ!!? ネウロン旅団は疲弊しているから、まずは体制を見直せ!!? 兵士達に無理をさせず、まずは足元から固めろ!!? そんな悠長なことをしてられるかーーーーッ!!」
「ひぃぃぃッ……!!」
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
「まあ、ネウロン旅団の質はともかく……あの子達は色々あったから、優しくしてあげてほしい……」
はしゃいでいる子供達をチラリと見た後、部隊員にそう頼む。
「厳しく接してるつもりは無いですけどね。警戒されてるのは察してましたが」
「警戒する理由もわかりますわ。軍曹に事情が聞けて良かった……」
「皆、良い子なんだ。この会を機に、仲良くしてあげてほしい」
俺1人じゃ出来る事が限られる。
良い機会なので、「お願いします」と頭を下げる。
「軍曹、頭上げてくださいよ」
「歳はともかく、アンタの方が階級上なんだから……」
「今は階級抜きで、一個人として頼んでるから……」
「あ~……! わかりましたって! 明星隊の件は、オレもマジで酷いって思いますから……。もうちょっとこう、考えてみます。1人の大人として」
「今度、アル注に誘ってみます」
「それはやったら軍曹として殴りに行きます」
相手は子供!!
そこは忘れないでほしい!!
「ゲーム会とか誘ってみよっかな~」
「たまには釣りも良くね?」
祝勝会は単なる祝いの場ではなく、良い機会になるかもしれない。
とはいえ、子供達もいきなり星屑隊の隊員が距離詰めてきたら警戒するだろうし……俺が間に入って仲を取り持っていかないと。
最終的には俺抜きでも仲良くなれたらいいな~。
なんて事を考えつつ話をしていると、食堂にあの人がやってきた。
星屑隊隊員の飼い主が――ネジ隊長がいつもの無表情のまま、やってきた。
【TIPS:竜国リンドルム】
■概要
分類としては人類国家だが、国家元首が人間ではなく<竜>という特殊な国。人類連盟加盟国だったが、現在は人連から脱退している。
異世界侵略を行わず、自分達の世界にだけ領地を持つ国家。交国等の超大国と比べると「小国」と呼ばれる存在。
交国等の国家が「人類連盟憲章に反する異世界侵略を行っている」と批判を繰り返していた。批判された諸国家は是正するどころか、竜国を黙らせるために圧力をかけてきたため、竜国は人連からの脱退を表明している。
■交国との戦い
交国は竜国に対し、宣戦布告。「対プレーローマのために一致団結すべき人類の和を乱している」と主張し、交国軍を派遣。
竜国のレンオアム王は平和的解決を模索しつつ、攻め入ってきた交国軍に対処。<混沌竜>達の奮戦により、何とか竜国は陥落せずに済んでいるが、交国の働きかけによって竜国は人類文明から孤立し、苦境に立たされている。
■竜国の始まり
竜国は小さな村から始まった。その村に住む少女が、人々に恐れられる1匹の竜と出会い交流するうちに、他の村人達も竜と気安く挨拶する仲となった。
竜は人々に恐れられていたが、人々を積極的に襲ったりせず、ただ穏やかな生活を送りたかっただけだったため、村人達とも上手くやっていた。
後に竜は最初に交流を始めた娘と結婚し、娘と共に「竜国リンドルム」を作り、竜の子孫も生まれていった。
人々は竜の力を頼り、竜達も人々の力を借りて竜国を強く平和な国にしていった。プレーローマによって滅びの危機に瀕した事もあったが、レンオアム王が最前線で戦うことで何とかプレーローマを退ける事に成功した。
現在は同じ人類文明に属するはずの交国に脅かされ、再び滅びの危機に瀕している。何とか交国軍は退けたものの、交国主導の封鎖令によって弱っている。
竜国は交国の横暴を国際社会に訴えているが、多くの国が目を背けるか、自国で手一杯でいる。
交国は交国で「竜国は<ロレンス>のような犯罪組織と手を結んでいる」と言い、竜国侵攻の正当性を主張。
人類連盟加盟国の殆どが、交国の主張を支持している。




