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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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ただの剣術(※個人の感想です)



■title:<砂巳>の陸港にて

■from:使徒・丘崎獅真


 雑魚の天使共が撤退していき、デカ女天使(オファニエル)と無人機だけが戦場に残った。


 デカ女天使は――仲間が退いた事で全力で戦う気になったのか――圧縮で隠し持っていた爆弾を次々と放ってきた。


 投げられた拍子に本来の大きさに戻った爆弾が、圧縮されていた時の勢いのままこっちに飛んでくる。絨毯爆撃の如き破壊を走って避けつつ、敵を見据える。


 本来の腕の厚みが10キロメートルあるってのは半ば当てずっぽうで言ったもんだったが……デカ女天使が赤面していた辺り、それなりに当たっていたはずだ。


 となる、腕以外はもっとバカデカい。


 その巨体(からだ)が持って生まれたものなら、ちと厄介になる。


 俺の神器・アストレアは世界の決まり事を書き換える。死を禁じれば敵味方関係無く一時的に不死身にできるし、呼吸を禁じれば皆で我慢大会開始だ。


 権能の使用禁止も出来る。


 天使共の権能使用を禁じてしまえば、奴らは生身と武器だけで戦う事になる。その状態なら大抵の天使なんてボッコボコに出来る。


 だが、今回はマズい。


 デカ女の権能を禁じた場合、そのバカデカい身体が――大爆発でも起きるように――展開されるかもしれない。腕の太さだけでも10キロある輩が本来の身体を晒した場合、数十……いや、数百キロ以上に渡って肉の塊が弾ける事になる。


 それやられても俺は生き残ってみせるが、この世界の奴らは大勢死ぬ。周辺の市街地は壊滅するだろう。


 それは出来るだけ避けたい。


 どうしようもない時は「悪い。死んでくれ」とさせてもらうが、どうしようもない相手じゃねえ。神器無しでもまあ勝てるだろ。


 そう楽観しつつ無人機を斬り伏せ、デカ女天使と斬り結ぶ。


 圧縮していても本来の身体の強さがそれなり以上にあるらしく、凄まじい膂力で武器を振るってくる。カスっただけでも肉が削り飛びそうだ。


 生半可な太刀じゃ通用しない。


 アホみたいにデカい身体を叩き切れない。


 どう料理してやろうかね……と思っていると――。


「…………?」


 デカ女天使が懐からビー玉のようなものを取り出した。


「――おい、バカ、まさか……!」


 放り投げられたビー玉(それ)は、地面に落ちるより早く割れた。


 デカ女天使が指を鳴らした瞬間、割れた。


 ガラスの中から大量の水が飛び出てきて、視界一面を青く染めた。


海の(・・)圧縮か!」


 大量の海水が爆風のように襲ってくる。


 手に触れたものを圧縮し、指を鳴らして圧縮を解除する権能。


 圧縮できるものの大きさ(サイズ)はかなり融通が利き、海水すらも圧縮できるようだ。単なる海水でも大津波として襲ってくると面倒くさい。


「くっ……!」


 回避不能の津波(こうげき)に吹っ飛ばされかけるが、こっちから受けに行く。


 流れに逆らって泳ぎ、バカデカ女天使に向かう。


 デカ女天使は――自分は海に飲まれないよう――天使の光翼を使い、ちゃっかり飛んでいやがった。それを見上げつつ海面に飛び出て海面を走る。


「よりにもよって潮水ブチ撒けてんじゃねえッ!!」


 濡れ鼠になりつつ、剣を振るう。


 だが、俺の剣より早く、デカ女天使は指を鳴らした。


 次の攻撃が来る。




■title:<砂巳>の陸港にて

■from:天使・オファニエル


『――――』


 あえて(・・・)指を鳴らしつつ、圧縮を解除する。


 大量の海水を目くらましに撒いた爆弾を本来の大きさに戻し、爆破する。


 丘崎獅真は爆発の中心部にいたはずですが――。


「ハッハァーーーーッ!!」


『化け物ですかっ……!!?』


 高笑いしながらこっちに吹っ飛んできた。


 高笑いしながら爆発の勢いを利用し、一気に距離を詰めてきた。


 敵の刺突を腕で受けつつ、一時逃げる。……今の攻撃、目を狙ってきていた。


 手足を切りつけられる程度なら、多少の切り傷で済みますが目潰しは少々厄介。こちらも新しい槍を取り出しつつ、応戦する。


 しかし、近接戦闘では歯が立たない。


 相手は余裕の笑みを浮かべ、こちらの刺突を楽々捌いてきた。それどころか槍を真っ二つにしつつ、再びこちらの目を狙ってきた。


『っ…………!!』


 指を鳴らしつつ、圧縮を解除する。


 再び大量の海水。敵も自分も巻き込む形で海水をブチ撒け、海水を利用して敵とこちらの距離を無理矢理開く。開いたつもりだった。


「その程度で逃げ切れると思ってんのかぁッ!?」


『――――』


 同じ手は通用しなかった。


 相手は爆発するように広がった海水など存在しないように突破してきた。


 海を紙切れのように一刀両断して道を作り、海水を足場に走ってきた。


 常軌を逸した怪物。完全に人間をやめた人型災害・丘崎獅真。


 その刀が再び迫る。


 こちらの眼球に向け、刺突が飛んでくる。


 回避は間に合わない。


 指を鳴らそうとした瞬間、その指に何かが当たった。


『な――――』


 鳴らそうとした指に、小石が当たった。


 丘崎獅真が素早く放った小石が、私の指を止めていた。


 これでは指を鳴らせない。




■title:<砂巳>の陸港にて

■from:使徒・丘崎獅真


『な――――』


 権能を使うために指を鳴らそうとした女天使に向け、拾った小石を投げる。


 それにより、指鳴らしを止める。


 権能の発動を――――。




■title:<砂巳>の陸港にて

■from:天使・オファニエル


『――――』


 指を鳴らさず(・・・・・・)、権能を振るう。


 衣服に隠していた槍や剣を一斉に解放し、その勢いで逆撃(カウンター)を行う。


 こちらに刺突を見舞おうとしていた丘崎獅真の全身に、無数の刃が突き立った。


 私の権能は、指を鳴らす必要性などない。


 圧縮した物体を解放する時、あえて鳴らしてフェイントを仕掛けていただけ。


 指を鳴らさなければ権能が使えない、と誤認させる。発動条件を誤認させる事で観察力に優れた相手でも、いざという時は不意打ちで殺す。


 予定より早く不意打ちせざるを得ませんでしたが、相手はこれで大怪我を負ったはず。これだけの刃で貫けば――。


「よう」


『――――』


 丘崎獅真の声が、背後(・・)から聞こえてきた。


 有り得ない。


 私の目の前に、串刺しになった丘崎獅真が――――いない。


 誰もいない。目の前にいたはずの丘崎獅真がいなくなっている。


 血の一滴もついていない刃が地面に転がっているだけ。


『――――』


 冷や汗をかきつつ振り返ると、私のアゴに冷たい感触がした。


 ニヤニヤと笑っている丘崎獅真が、私の喉に刃を当てていた。


『そんな、馬鹿な。いま、確実に――』


「俺を殺した夢でも見たか?」




■title:<砂巳>の陸港にて

■from:使徒・丘崎獅真


『こちらの攻撃は、確かに当たったはず……』


 デカ女天使が、冷や汗流しながら俺を見ている。


 指鳴らし無しで圧縮を解除し、その勢いで俺を串刺しにしたつもりだったか?


 お前の目には、そういう幻が見えたのか?


「残念ながら、テメエの攻撃が成功したと錯覚させただけだ。……そっちも俺を騙してきたんだから、あいこだよなぁ?」


『幻術? いや、神器の力ですか……!?』


「違う。剣術(・・)だよ」


 指鳴らしが圧縮解除の合図なのは、ちと怪しいとは思っていた。露骨だからな。


 ホントに偽装(ブラフ)か見極めつつ刺突を放った瞬間、デカ女天使が隠し持っている剣や槍が膨れ上がるようにデカくなるのが見えた。


 それを見て回避したから俺は無傷。そもそもまったく当たってない。


 ただ、デカ女天使の視覚では「串刺しになった丘崎獅真(おれ)」が見えたんだろう。致命傷を負わせたと思い込んだんだろう。


「殺気でテメエの目と脳を騙し、俺の姿を誤認させたのさ。人間の目も天使の目も、脳がおかしくなってりゃ変なもの見えてもおかしくないだろ?」


『言ってる意味がわかりません……!』


「これぞ丘崎新陰流・幽暮れ。つまり……ただの剣術だ」


『全然違うでしょう!? 剣術じゃなくて、幻術の類いでしょう!?』


「わかってねぇなぁ……! こんなこと、体捌き1つで出来るもんなんだよ」


 幻術とかいうあやしげなものと一緒にするな――と叱ると、デカ女天使は幻術でも受けているような目つきで俺を見てきた。


 だが、直ぐに瞳に闘志を戻し、自分の背後に手を伸ばし――姿を消した。


「おっ! そういう使い方も出来るのか」


 デカ女天使は一瞬で数十メートル移動した。


 空間圧縮による縮地。やろうと思えば移動にも使えるおもしろ権能だな。


「もう降参してくれてもいいんだぜ?」


『ご冗談を。我々は、どちらかが死ぬまで殺し合う運命なのです』


 デカ女天使は唇を噛みつつ、俺を睨んできた。


 殺意も籠もっているが、それほど純粋には感じない。……やっぱりコイツ、人類絶滅(ミカエル)派の天使だな。


「俺は……お前を殺したくないよ」


『正気ですか……!? 今まで何体もの天使を殺しておいて!?』


「いや、だって、お前殺すと面倒だろ。周辺の被害的に考えて」


 デカ女天使は、権能を使って巨体を2メートルほどに圧縮している。


 コイツを殺した場合、権能が機能停止して圧縮も止まるかもしれん。肉体の圧縮も解放されて、バカデカい身体がドバーッ! と解き放たれるかもしれん。


「お前が元の大きさに戻った場合、ここで核爆発起こったみたいになるだろ。俺はともかく、周りの奴らを巻き込むのが面倒くさいんだよなぁ~……」


『…………』


「それに、お前を殺したところで生き返るだろ。お前も<癒司天(ラファエル)>の権能で残機持ってるんだろ?」


 殺したところでどこかで蘇る以上、いま殺してもあまり意味がない。


 周辺への被害を考えたら面倒(マイナス)なだけだ。


 俺はお前らの相手しているほど暇じゃない。さっさと行きたいところがあるから、ここら辺で手打ちにしねえか――と提案したが、相手は首を横に振った。


『こちらに引く理由がありません。貴方はまだ、私に勝ったわけではありません』


「なんでだよ? お前の攻撃、ぜ~んぜん通用してないだろ?」


『貴方の攻撃も通用していませんよ』


「じゃあ、その腕は(・・)どうなんだ?」


 剣先でデカ女天使の右腕を指し示す。


 相手は気づいていなかったのか、きょとんとしながら自分の右腕を見た。


 そこには肉を3分の1ほど残してスッパリ斬れた腕があった。


「こっちの斬撃(こうげき)は、ご覧の通り通じているわけだが?」


『いつの間に――』


「背後取っておいて、無傷で逃がすわけねえだろ」


 お前の喉に剣を突きつけた時にはもう、スパッと斬ってやったよ。


「お前の硬さは、その巨体からくるものだ。無敵の盾ってわけじゃねえ」


 実体がある以上、頑張れば斬れるよ。


 少なくとも俺は斬れる。俺の丘崎新陰流(けんじゅつ)なら通用する。


『わ……私の腕の太さが、どの程度かわかっていたはずでしょう!?』


「ああ」


『星を斬るようなものですよ!?』


「大げさな。小惑星程度だろ」


 その程度のものなら、やる気出せば斬れるよ。スパ~ッとな。


 丘崎新陰流舐めんな。人間様は頑張ればこれぐらい出来るんだよ。


 さすがにウチの門弟で出来るのは一握りだが――。


「丁寧に説明してやらなきゃわからんか? さっきの接近で、斬ろうと思えば首を斬れたんだぞ。面倒だからやらなかったが」


『ぐ…………!』


「お前程度の天使なら、いつでも殺せる。こうして喋ってる間にも――」


 剣術による縮地により、デカ女天使の背後にスルリと回り込む。


「10回は殺してる。……負けを認めろ。大人しく帰れ」


『だ――――誰が!!』


 仕方ねえ。出来るだけ被害少ないところにブン投げてから殺すか。


 そう思っていると、拍手が聞こえてきた。


 ……嫌な予感に押されつつ、女天使から視線を切る。


 拍手が聞こえる方向を見ると、そこに金髪赤眼の巨漢がいた。


 いま一番会いたくねえ天使が、拍手しながら近づいてきた。





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