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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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天使・オファニエル



■title:<砂巳>の陸港にて

■from:使徒・丘崎獅真


「奇襲やるなら、もっと上手くやれよ」


 俺以外の乗客を乗せておくとか、船員ごとまとめて殺しに来いよ――と助言してやる。すると、デカ女天使(オファニエル)はちょっと引いた顔を見せながら「そこまでやっても仕留められないでしょう」と言ってきた。


 やり方から察するに、コイツは<人類絶滅派>の天使だな。


 いまガッツリやり合いたくない相手だが――。


『こうなったら、正面から正々堂々と殺してみせます』


 向こうはやる気満々だ。


 女天使は後ろ手に何か隠しつつ、指を鳴らした。


 その瞬間、女天使の背後からワラワラと無人機が現れ始めた。


 雲霞の如く殺到してくる無人機群を斬り伏せつつ、剣の柄を使う。柄で弾丸を弾く。狙撃が来た。しかも、デカ女天使とは別方向から――。


「なぁ~にが『正々堂々』だ」


 デカ女天使と無人機群を囮に、周囲に待機していた天使達が動き出した。四方八方からこちらに弾丸を放ってきた。


 斬り伏せる相手はデカ女天使だけじゃない。


 単騎ではなく部隊で俺を襲ってきたようだ。……デカ女天使以外は権能を使ってくる様子はない。1体除いて全員権能無し共か。


 脳天狙いの弾丸を回避しつつ、剣先で別の弾丸を掬うように弾く。


 弾いた弾丸が狙撃中の天使の脳天に花を咲かせた。まずは1体。どうせ1回殺しただけじゃ死なねえが、とりあえず1体殺った。


「テメエは後だ」


『…………!』


 デカ女天使に背を向け、狙撃手共に駆け寄り、斬り伏せる。


 単なる狙撃で仕留められるほどヤワな身体じゃねえが、鬱陶しいものはさっさと潰しておくに限る。


 ただ、デカ女天使も黙って仲間を殺させてくれるわけではない。


 背後から追いすがってきたデカ女天使が――指を鳴らしつつ――手中に槍を呼び出した。それを使って俺の背を切りつけてきたので余裕を持って回避する。


 デカ女天使(アイツ)の身体はどうもおかしい。俺の斬撃で首を飛ばせなかった。……微かに出血しているが致命傷にはほど遠い。


 やけに頑丈な身体。


 電子音による発声。


 いきなり無人機群や槍を呼び出した能力。


 指を鳴らすたび、何かが出てくる。


 何らかの権能によるものだと思うが――。


「鍛え直してこい。ボケッ!」


 雑魚天使の脳天をサッカーボールのように蹴り、胴体と頭を分割してやる。


 狙撃手の天使達は大体潰した。コイツらは雑兵だ。準備運動にもならん相手だ。


 デカ女天使の方はコイツらとはモノが違う。仲間は守れずとも、俺に追いすがって攻撃を放ち続けている。


 反撃しているんだが……剣がまったく通らん。大昔に戦ったクソ硬い天使(アザゼル)やウチの嫁よりは手応えがあるんだが、かすり傷程度しか負わせられていない。


 なんだぁ……コイツの権能。


 硬いって感触じゃない。だが、こっちの斬撃がろくに効いてねえ。


『余裕のようですね……! 神器は抜かないんですかっ!?』


「抜いてほしいのか?」


『……ご随意に!』


 デカ女天使が槍を投げてきた。それを回避しつつ、さらに天使を切り伏せる。


 ただ、完全に斬り殺しはせず――。


「ほれ、やるよっ!」


 血を流して倒れていく雑魚天使を足で引っかけ、デカ女天使に蹴りつける。


 デカ女天使は慌てて天使(なかま)を受け止めようとしている。そこに駆け寄り、蹴りつけた天使ごとデカ女天使を一刀両断しにかかる。


 蹴りつけた天使は簡単に真っ二つに出来た。


 デカ女天使の身体も捉えた。だが――。


「これも通らねえか……!!」


 剣を受けられた。腕で受けられた。


 俺が一刀両断した天使の陰から――仲間の血を浴びた――デカ女天使が俺を睨んできた。俺の斬撃を腕で軽々と受けつつ、こちらに蹴りを放ってきた。


 蹴りを回避して距離を取りつつ、別の天使が放ってきた弾丸を手で受け止め、指弾にして返却して狙撃手を殺しておく。


 いや、殺さねえ方が良かったかもなぁ。


 デカ女天使は仲間がいる方が動きづらそうにしている。ガチで暴れたら仲間を巻き込みかねないから遠慮してるって事か……?


「…………」


 最初にデカ女天使が潰そうとしていた方舟の残骸をチラリと見る。


 完全にブッ壊れている。中心に向かって潰され、破壊されている。


 だが、あの破壊はデカ女天使が方舟から手を離した瞬間に止まった。……権能による破壊だとしたら、手による接触が条件の攻撃ってことか? 手以外でも壊せるとしたら、俺の剣も壊されてそうだが……。


 それとさっき斬りつけた時の手応え。アレも妙だった。


 今までで一番深く斬りつけたと思ったが、今度も薄皮程度しか裂けなかった。


 まるで、山肌を斬りつけたような手応えだった。


 俺の目の前にいるのは、デカいが常識的な範囲のデカさだと思うんだが――。


「……大体わかった。お前の硬さは(・・・)権能由来じゃねえな?」


 普通の権能なら俺の神器で完封できる。


 だが、コイツの場合、下手に神器を使うとマズい事になりそうだ。




■title:<砂巳>の陸港にて

■from:天使・オファニエル


『――――』


 剣先をこちらに向けつつ、ニヤリと笑った丘崎獅真をにらみ返す。


 鎌かけかもしれませんけど、本当にこちらの戦闘能力(ちから)を見据えている可能性もある。相手は今まで何体もの天使を屠ってきた丘崎獅真なのだから。


『皆さん下がってください。直接援護は不要です』


 まだ残機を使っていない仲間にも下がるよう告げる。


 まだやれる、と食い下がられたものの「命令です」と言って無理矢理下がらせる。……23体の天使が1分とかからず殺された以上、下がらせる判断が遅かったぐらいだ。


 ただ、無人機による援護は頼んでおく。


 無人機での参戦なら私も遠慮なく戦える。仲間殺しする心配なくなるので。


 まだ相手に傷1つ負わせていないうえに、今まで何体もの先輩天使が屠られてきた相手なので正直、勝てる気がしませんが……!


「お前の権能の正体は、圧縮(・・)だな?」


『…………』


「最初に方舟を圧縮する事で、俺を潰して殺そうとした」


『…………』


「無人機や槍を出したのは転移系の権能かと思ったが、権能で圧縮して小さくしてたんだろ……? 小さくしておけば色んな兵器を隠し持っておけるんだろ?」


 ……マズい、ホントにこっちの権能が何か当ててきた。


 丘崎獅真の言う通り、私の権能<シャノンファノ>は「圧縮」が出来る。


 色んなものを圧縮して懐に忍ばせ、必要に応じて元の大きさに戻して使う事が出来る。兵器を小型化して忍ばせておく以外の用途も可能になっている。


 例えば――。


「お前、自分の身体を(・・・・・・)圧縮してるな? 本当は2メートルどころじゃないほどバカデカい身体してんだろ?」


『…………』


「身体を無理やり圧縮している影響で、上手く喋れないんだろ。だから機械越しに喋ってるってわけじゃねえのか? んっ?」


 バレてる……。完璧に理解されてる……!


 私の権能、初見のはずなのに! 誰かから私の権能の情報を聞いていた? それならそれでもっと早く対応されてるか。今の戦闘だけで理解されたっぽい。


 丘崎獅真の言う通り、私は自分の身体も圧縮している。


 大きさだけではなく、重さも大幅に軽減させている。


 本当の身体はもっとずっと大きいから、単なる斬撃程度なら大した傷にはならない。腕をたたき切るような斬撃も蚊が刺した程度の痛みに矮小化できる。


 私の本当の身体は――。


「斬りつけた感触から察するに、腕の厚みだけでも10キロメートル(・・・・・・・)ってとこか。人斬り用の刃物(カタナ)で山を斬らせんな。鯖読みすぎだろ! ぽっちゃり女!!」


『べ……! 別に詐称しているわけではありませんっ!!』


 私の身体は普通の天使と大きく異なる。


 ちょっと……どころではなく大きい。権能によって身体を圧縮していないと、他の天使に混ざって日常生活を送ることすら出来ないぐらい不便だ。


 正直、身体が大きい事は気にしているんだけど――。


「お前、天使のくせに巨人……いや、巨神の血を引いてるのか?」


『…………。山を斬る程度の心構えで、私を倒せると思わないでください』


「おや、気に障ったか? 星を斬る心構えでいけってか? デカ女」


『剣士如きが、私に勝てると思わないでください』


「ハッ――。ほざいたな、タネの割れた手品師風情が」


 確かにタネは割れた。


 丘崎獅真は私の権能と身体の秘密をほぼ完璧に解き明かしてみせた。


 だからなに? ……その程度で勝ったと思わないでほしい。


 あの御方に任された以上、負けるわけにはいかない。




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