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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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発狂



■title:<砂巳>の陸港にて

■from:使徒・丘崎獅真


「無理矢理でも……リンゴも連れて行くべきだったのかね」


 交国に向かうための方舟を待ちつつ、過去の事に思いを馳せる。


 俺は玉帝(リンゴ)の親を奪った。


 何度も繰り返してきた真白殺しを交国でも行った。


 リンゴと当時の真白の魔神は「親子」と言うには歪な関係だった。真白の方があの子を「娘」と考えていたかも怪しい状態だった。


 だが、リンゴは真白の事を特別に想っていた。……その感情に何の見返りもないとしても、あの子は真白(ははおや)を必死に守ろうとしていた。


 俺はリンゴを殺せなかった。


 あの顔を見ると、どうにも剣を振り下ろせなかった。


 殺す必要はないと言い訳しつつ、当時の交国の主要施設をブッ壊した後、アイツを連れて交国を出た。真白に捕まっていた奴らに「お前らの支配者は俺が殺した。これからは好きに生きろ」と言った後、俺は交国を去った。


 リンゴを連れて交国を去った。


統制戒言(これ)は、もういらねえだろ』


 リンゴは真白の魔神(おや)に縛られるべきじゃない。


 勝手にそう思ったからこそ、俺はアイツの統制戒言を解いた。リンゴが「マスターとの繋がりを奪わないで」と泣き叫んでも勝手に繋がりを断った。


 俺が真白を殺した件や、統制戒言を断った件でキレたリンゴは四六時中、俺を殺そうとしてきた。それをあしらいつつ、アイツを交国から連れ出して素性を調べた。


 ひょっとしたらネウロンから(・・・・・・)連れ出されたのかと思っていたんだが、そうじゃなかった。あの子は交国製の人造人間だった。


 捨て置く事も出来ず、しばらく一緒に旅をした。


 最初は抵抗していたリンゴも、俺の旅に同行してくれた。


 俺が「次」の真白の魔神を探しているから、リンゴは「絶対に殺させない」「今度は絶対に守る」と言い、俺を邪魔してきた。大した戦闘能力もないから、俺にとってはイタズラ程度の事しかやってこなかったが――。


 俺を敵視しているリンゴと旅を続けているうちに、俺達は真白と再会した。


 アイツはいつも通り転生していた。


 交国を作った真白の魔神と大差ないかもしれないと覚悟していたが――。


『プレーローマ? 人類救済? なにそれゲームの話?』


 転生した真白は何もかも忘れていた。


 真白の魔神は転生するたびに記憶と精神が壊れていく。……あの時は狂人にはなっていなかったが、記憶はすっかり忘れちまっていた。


 自分が交国という国や、リンゴのような人造人間を作った事もすっかり忘れちまっていた。自分が真白の魔神である自覚すら失っていた。


 打倒プレーローマのために動くわけでもなく、歪な人類救済を願うでもなく、ただマンションの一室に引きこもってゲームをしているだけだった。


 ほぼ全ての記憶を失ったうえに、転生先の人格に引っ張られ、真白の魔神(メフィストフェレス)とは言いがたい引きこもりに変貌していた。


『や、自分に人類救えとか荷が重いっすわ~。そ、それにぃ……アンタらの話がホントなら、人類助けるために頑張ってたら目立って殺されるんでしょ? そこまでの力ないし、自分がやる義理もないっていうか~……』


 その真白の魔神はヘラヘラと笑っていた。


 義理も責務もない。ただ日常を生きるだけの存在。……真白の魔神としての異能を大して活かさず、「今」を維持するためだけに動く存在と化していた。


 それ自体は別にいい。


 むしろ好都合だ。


 正直に言えば落胆の気持ちもあったが、人畜無害な真白の魔神は悪くない。俺は落胆以上に安堵の感情を抱いていた。


 コイツをどこかに匿っておけば、もう殺さずに済むと思って――。


『アンタには俺達と来てもらう。もっと安全な場所に移ってくれ』


『えーーーーっ……! 今で十分満足してるんですけどぉ……!』


『俺達以外の奴らがここを嗅ぎつけたら危険だ。守り切れん』


 もっと安全なところで保護させてくれ、と頼んだ。


 俺が真白に頼まれたのは、「全ての真白の魔神の殺害」じゃない。


 俺が「黒」だと判断した真白の魔神の殺害あるいは封印。人畜無害と化した真白なら、どこかに隠しておけばいい。……コイツを死なせない限り、俺も真白を殺さずに済むと思い、正直……ホッとしていた。


『悪いようにはしないから、俺達を信じてくれ』


 しぶる真白に背を向け、俺は知人に連絡した。


 アイツを隠しておける場所を手配してくれるよう頼んでいた。


 その時、発砲音が響いた。


 油断していた。剣を振るう必要はなかったと考え、完全に油断していた。


『――――』


 リンゴが(・・・・)銃を撃っていた。


 人畜無害な真白の魔神の脳天に、弾丸を撃ち込んでいた。


『ち…………ちがう。違う! こんなの、真白の魔神(マスター)じゃない!』


『…………お前、』


『こんなの、救世主(メサイア)じゃない!!』


『…………』


『マスターは、聡明で優しくて常に人類の事を想っていないと駄目なんです! こんな……こんなっ、虫のわいている不潔な部屋で、ペットボトルに尿をしてヘラヘラと笑っている輩が、マスターのはずがない!! 真白の魔神を騙るな!! 偽者!!』


 リンゴは俺と違った。


 自分の知る真白の魔神と全く違う存在を、許容できなかった。


 射殺し、「転生に失敗したんですよ」などと言い始めた。


『真白の魔神は、私のマスターで終わりだったんです……! もうマスターは転生しない! あなたが……あなたがマスターを殺したから!! あなたの所為で、マスターは……!!』


『…………』


 リンゴは真白の魔神を否定した。


 自分を造った真白の魔神以外を否定した。


 俺がリンゴの統制戒言を解いていなければ、あんな事は起こらなかった。


 統制戒言があれば、リンゴが真白を殺そうとした時点で止まっていたはずだ。


 真白の魂を認識し、安全装置である統制戒言が働いて引き金を引けなくなっていたはずだ。だが、枷無しになっていたリンゴは引き金を引いた。


 その後、リンゴは失踪した。


 人類連盟に交国という国が喧嘩を売ったと聞き、「まさか」と思って交国に行くとリンゴが交国の最高指導者としてふんぞり返っていた。


 無理矢理連れていったところで同じ事の繰り返しになるだろうし、リンゴは真白の魔神ってわけじゃない。あくまで使徒だから放置していてもいいだろうと思った。それなりに立派にやってると思っていたが――。


「……吹っ切れてないか」


 リンゴは未だ、見えない鎖に繋がれている。


 統制戒言が無くなった後も、ずっと真白の魔神(ははおや)の影を追い続けているのかもしれない。……下手したら復活を目論んでいるのかもしれない。


 スミレの身体(ヴァイオレット)が狙われていたというのが気になる。俺がよく知る真白が自分の完全複製体を作ろうとしたように、交国の真白の魔神も完全複製体を作成できるって可能性はあるはずだ。


 器だけ自作できていないか、はたまた俺が交国襲撃した時に偶然壊していたのかはわからんが……。


 死司天達が言っていた<交国計画>とやらも気になる。


 リンゴは「交国を作った真白の魔神」を完全複製体として復活させ、<交国計画>とやらを再び始めようとしているんじゃないのか?


 そんな事が起きたら……止める機会もあった俺の責任かもしれん。


 だからといって、今でもアイツを殺す気にはならんが――。


「…………」


 交国方面に向かう方舟に乗り込み、座席に座る。


 俺以外の乗客がいない。


 オマケに俺が乗った拍子に船員全員下りやがった。


 ハァ~? そんなに俺が嫌いか? 体臭が酷いか? んなわきゃねえか。


「このクソ忙しい時に――」




■title:<砂巳>の陸港にて

■from:天使・オファニエル


権能起動(シャノンファノ)




■title:<砂巳>の陸港にて

■from:使徒・丘崎獅真


「めんどくせえなぁ~~~~……!!」


 方舟が潰れ始めた。


 紙を丸めるようにクシャクシャと潰れ始めた。


 船員共もグルなら遠慮する事ねえだろ――と思い、壁を切り裂いて外に出る。


 方舟に手を触れた天使が――身長2メートルほどのデカ女天使が、表情を強張らせてこっちを見ている。何らかの権能(ちから)で方舟ごと俺を潰しにかかっていたらしい。


 潰れていく方舟から手を離し、こっちに蹴りを放ってきたが回避しつつ、一撃で首を落とそうとしたが――。


「――――」


 デカ女天使の首を捉えた刀が止まった(・・・・)


 薄皮一枚切り裂いた時点で、刀が止められた(・・・・・)


「誰だァ、テメェ?」


『オファニエルと申します。お覚悟を! 丘崎獅真!』


 天使は――バフォメットみてえな――電子音で喋りつつ、俺をブン殴ってきた。


 掌底を放ってきた。方舟を触っていたのと同じ手で――。


「いま、お前ら(プレーローマ)の相手してる場合じゃねえんだが……」


 掌底に触れないよう気をつけつつ、距離を取る。


 剣を構える。……交国とやりあう前に準備運動しとこうか。





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