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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
743/875

2つのバックアップ



■title:混沌の海にて

■from:自称天才美少女史書官・ラプラス


「なるほど。交国計画はそこまで害悪なモノだったのですね?」


『…………? 何の話だ?』


 私の問いに対し、獅真様はきょとんとした様子で言葉を返してきた。


「あれ……? ああ、すみません、私の早とちりですか。ご存じないのですね、交国計画のことを」


 交国計画と交国は密接に関わっていると思っていたので、交国計画が激ヤバ計画すぎて「今回も黒! 斬首!!」と踏み切ったのかと思っちゃいました。


 どうやら獅真様も交国計画はご存知ない様子。


 交国を作った真白の魔神を殺害した理由は、「何万人も犠牲にする人体実験をやっていた」とか「親だけ殺して子供を洗脳して少年兵にしていた」という理由があったようです。


『そのコーコク計画ってなんだ? 交国に関わりあんのか?』


「私達も名前ぐらいしか知らないのですよ」


 真白の魔神が関わっていたのは確かなのですが、詳細は不明。


 名称的に、交国が関わっていると思ったのですけどねー……。


 あるいは単なる建国計画を「交国計画」と言っていたのかと思いましたが、それはエノクが「おそらく違う」と否定してきました。


「シシン。お前は当時の真白の魔神を倒しただけで満足したな?」


『失礼な。ヤバそうなもんは大体ブッ壊したよ。……だがまあ、戦後処理を丁寧にやったとは言いがたいのは確かだ』


「おそらくお前は仕損じた。真白の魔神を殺したものの……交国計画は潰せていなかった可能性が高い」


『チッ……。クソが。そうかもしれんな』


「そもそも、お前はなぜ交国の存在を看過していた。建国当初にしっかり交国を潰しておけば、色々な問題が発生しなかったはずだぞ」


 それこそ「交国オークの諸問題」や「交国の侵略の被害者」も現代では存在しない問題になっていたでしょう。


 交国は悪影響だけではなく、人類への好影響も与えているので交国が滅んでいれば万事解決したとは思いませんけどね。交国のような強い国家が現れたからこそ、今の人類文明があるわけですから――。


『俺の目的は墜ちた真白を殺す事であって、真白が作ったもの全てを滅ぼして回っているわけじゃない。さすがに「放っておいたらマズい」ってもんは壊しているが、交国国民全員殺すとこまでやってられるかよ』


 獅真様は完全な正義の味方(ボランティア)というわけではない。


 あくまでかつて仕えていた主の命を果たしているだけ。その合間合間に人類の危機をちょくちょく救っているものの、全て救っているわけではない。


「うぅむ……。交国計画には何かあると思ったので、正体を知りたかったのですが……獅真様はご存知ないと……」


「シシンにはガッカリした」


『だーーーーっ! 俺が悪うござんした!! そこまで無能扱いしてくるなら、俺にも考えがある!! 交国にカチコミかけて、リンゴ(・・・)に問いただしてやりゃあいいんだろ!? アイツなら何か知ってるはずだ!!』


「うーん、物騒発言。…………ん? リンゴってどなたの事ですか?」


『リンゴはリンゴだよ』


 エノクと顔を見合わせた後、「ひょっとして――」と名を挙げる。


「リンゴとは、玉帝の名前ですか?」


『おう。奴は真白の魔神が作った人造人間で、真白の使徒だ。クソ頑固な奴だから、主が死んだ後も必死に交国を切盛りしてんだろうよ』


 玉帝には名らしい名が無かったため、獅真様が「リンゴ」と名付けたんだとか。


 交国建国初期から生きている玉帝ことリンゴ嬢は、真白の魔神の使徒。


 彼の魔神の側近だった。彼女なら何か知っている可能性は高いでしょう。


 襲撃して聞き出すなんて荒技、私達は出来ませんが……まあまあまあ、獅真様が勝手にやってくれるなら「何も聞いてませ~ん」とスルーして、後で色々と聞きましょう。


 私も好き勝手やってるとビフロスト上層部の人達に怒られるので、ほどほどにコンプラを大事にするのです。獅真様がやらかした後で、おいしい情報(とこ)だけいただく方針でいきましょう。そうしましょう。


アイツ(リンゴ)は交国の表向きの指導者として作られた存在だったから、交国計画とやらも知っている可能性は高い』


「シシン。何故、生かした(・・・・)


 腕組みしていたエノクがそう問いかけた。


 獅真様が「不適格」と判断して殺した真白の魔神が手がけた人造人間(さくひん)なら、後を継いで何かやらかす可能性が高かった。


 後の災いに繋がるのは目に見えているのだから、お前なら斬ったはずだ――とエノクが言った。


 すると獅真様は「そりゃあ、あの子が――」と言い、直ぐに口を閉じた。何か言おうとしてやめ、「質問に答えるのはこれぐらいでいいだろ」と明らかに誤魔化し始めた。何か都合の悪い話を伏せた……?


 私が思案していると、獅真様は傍にいる史書官を「おい、方舟を手配しろ」と言い始めた。本気で交国に向かい、玉帝に問いかけようとしているようです。


『俺はもう行く。じゃあな』


「待ってください。まだ色々聞きたいことが――」


 龍脈通信が勝手に切られてしまった。


 むぅ、と唸っていると、エノクが私の肩を叩き、口を開きました。


「奴も交国に来るようだから、待ち構えていれば会えるだろう」


「うーん……確かに」


「せっかちのシシンの事だ。最短経路で来るだろうから……数日で辿り着くだろう。途中で『自分で泳いだ方が速い!』とのたまい、混沌の海を生身で泳いでくるかもしれん」


「そんな無茶苦茶な」


「プレーローマではよくある事だぞ。生身で泳いできたシシンが刀1本で襲撃しかけてくるという事は」


「ウーン、人型災害ヒューマノイドタイフーン


 なんて事を話していると、切れたはずの龍脈通信が再び繋がった。


『おい! そういやお前ら、バフォメットに会ったんだよな!?』


「はい」


『俺もそっち行くが、俺より先にバフォメットに会ったら伝えておいてほしい事がある。それぐらいやってくれるだろ?』


「ええ、もちろん」


 まだまだ情報が欲しいので恩を売っておきましょう。


 獅真様からの伝言を聞き、書き留めていると――。


『それと、バフォメットに会ったならスミレと会った――いや、スミレを見たんじゃねえか? あの子は――』


「スミレさんの蘇生は失敗しました」


『…………。そうか』


「ただ、スミレさんの身体に新しい魂が宿り、ヴァイオレットという女性として生きていますよ」


『そうか。そいつはいま、どこにいるんだ?』


「バフォメットさんと同じく、<エデン>にいます。ヴァイオレット様は平和主義なので、現エデンの強硬派の皆さんの行動に頭を悩ませています」


 そう伝えると、獅真様は顔をしかめ、「スミレの身体は厄介事に巻き込まれがちなのかねぇ……」とボヤいた。


 そして、「お前らの方で助けてやってくれねえか」と仰りましたが、雪の眼の者として難しいですと断っておく。言い訳できる範囲&情報が得られそうなら助けるかもですけどね。


「ヴァイオレット様もバフォメット様も交国本土にいるはずですから、こっちに来た時に会えるはずですよ」


『そうか。じゃあ、その時に……………………いや、待て。それヤバくねえか?』


 獅真様は港に向かっているらしく、歩きながら通信で話し続けている。


 そして私達に様々なことの確認を取ってきた。


『バフォメットが目を覚ましているって事は、ネウロンで何かあったんだろ?』


「はい。交国がネウロンにやってきて実効支配し始めたので――」


「シシン。お前は報道を見ていないのか」


『しばらく俗世から離れてたから、全然見てねえ』


 獅真様は「もう1つ確認だ」と言い、さらに言葉を投げてきた。


『交国は、スミレを……いや、ヴァイオレットって子を探してなかったか!?』


「探してましたね」


 交国――というか、玉帝は明らかにヴァイオレット様を狙っていた。


 確保には失敗したものの、今も狙っている可能性はある。


 その話を聞いた獅真様は「やっぱりマズいじゃねえか!」と叫んだ。


「何がどうマズいのですか? ……あれ? 獅真様? 獅真さま~?」


 突如画面が揺れたと思ったら、通信機は獅真様の傍にいた史書官の手中にあった。どうも獅真様が通信機を投げ、血相を変えて走っていった様子。


 とんでもない速度で港に向かっていったみたいです。今から追いついてもらうのはさすがに難しいですかね~……?


「何かに焦っている様子だったな」


「玉帝がヴァイオレット様を狙った理由に、心当たりがあるのかもですね」


 真白の魔神――<叡智神>は自分の完全複製体を作ろうとしていた。


 器としてスミレ様を作り、中身のバックアップデータまで作成していた。


 獅真様も、それを知っていたはず。


「交国が器と中身を使って、叡智神と呼ばれた真白の魔神を蘇らせる事を危惧したのかもしれません。……多分、違うと思いますけど」


「何故だ?」


「獅真様は、叡智神の命令を愚直に守っています」


 獅真様は真白の魔神の使徒ですが、統制戒言は仕掛けられていない。


 だから、真白の魔神の命令にそこまでの拘束力はない。……獅真様自身が必要だと考えているから、主命を守り続けているのでしょう。


「コピーだろうと、叡智神が復活する事はそこまで焦る事態では無いと思うんですよね……。獅真様が認めた数少ない真白の魔神でしょうから」


「となると、奴が焦り始めたのは別の理由(・・・・)か?」


「転生能力まで再現した真白の魔神が増えるのを危惧したってのもあるかもですが、あの焦り方は違う気がするんですよね~……」


 少し思案する。


 その後、アゴに指を当てて考え込んでいるエノクに人差し指を突きつける。


「獅真様は、『真白の魔神の復活』を危惧しているのかもしれません」


「それはお前が否定した話だろう」


「いえ、違います」


 少しだけややこしい話なんですよ。


 真白の魔神違いなんですよ。


「獅真様が恐れているのは、『交国を作った(・・・・・・)真白の魔神』の復活なのでは?」


「…………馬鹿な。そんな事が――」


「可能性はあります。叡智神も交国の建国者も、どちらも真白の魔神ですから」


 ヴァイオレット様は真白の魔神の「完全複製体」の器になる。


 単なる複製体ではなく、異能まで再現した複製体を作る材料になる。


「交国を建国した真白の魔神が、自身のバックアップデータを用意していた場合……それをヴァイオレット様に入れたら『交国の真白の魔神』が復活するのでは?」


「発想が飛躍しすぎていないか?」


「ええ、そうですね。それはその通りです」


「仮に交国の真白の魔神がバックアップデータを遺していたとしたら……器も作っていたのではないのか?」


「だとしたら既に復活しているはずです。ヴァイオレット様をわざわざ確保する必要もない」


 完全複製体の器は、簡単に作れるものではない。


 叡智神ですら大量生産できるものではなかった。


 交国の真白の魔神は器を作れなかった。


 あるいは作っていたものの、獅真様が偶然破壊していたのでは?


「交国は交国で、器を作ろうと努力していたのかもしれません」


「それはまさか、<玉帝の子>の事か?」


「ええ。彼らは超高級品の人造人間です。現在は交国の要となる人材として活躍していますが、それは本来の役目ではなかったのでは?」


 本来は、真白の魔神の器を目指して作成されていた。


 しかし、誰もその水準に達していなかった。


 そういう意味では彼らは「失敗作」だったのではないのでしょうか?


「器を交国で作れなかったからこそ、完全な器たるヴァイオレット様を求めているのでは? わざわざネウロンを実効支配してまで欲していたのでは?」


「あくまで推論だな。だが、否定できるだけの材料もない」


 獅真様の話によって、「交国の建国者=真白の魔神」と確定した。


 であれば、交国にも真白の遺産としてバックアップデータが存在していたかもしれないというのは……有り得る話ではないでしょうか?


「推論に推論を重ねていいですか?」


「言うだけならタダだ。言ってみろ」


「交国を作った真白の魔神は、<交国計画>という計画を立てていた」


 しかし、丘崎獅真によって真白の魔神が殺害された。


 それによって交国計画も中断せざるを得なかった。


「ヴァイオレット様を使って『交国の真白の魔神』が擬似的に復活した場合……<交国計画>が再始動してしまうのでは?」


「シシンはその可能性を思いついて、焦ったのかもしれんな」


 その辺りの答え合わせは後々できるでしょう。


「しかし……交国計画とは結局、どんな計画なんだ?」


「さあ? ひょっとしたら、もう私達はそれを知っているのかもしれません」


「だとしたらわかるだろう」


「計画の産物があまりにも大きいとしたら、気づけないかもですよ?」


 例えば惑星型の兵器があったとしましょう。


 普段、私達が暮らしている惑星が実は兵器だったとしたら、意外と正体に気づけないかもしれませんよ? 交国計画もそういうものなのでは?


 あまりにも巨大すぎて(・・・・・・・・・・)、私達の目では全体像が見えていないのかもしれません。……しかし部分的にはもう見えているのかも?


 全体像はわからずとも、その一部はもう知っているのかもしれません。


「まあとにかく、交国本土に入って獅真様を待ちましょうか」


 あの人なら交国の警備でも生身で突破してくるでしょう。プレーローマの警戒網すら正面突破する御方ですからね。


「我々だけなら雪の眼の権限で交国本土侵入ぐらい可能です。……今の交国は一連の騒ぎのド真ん中のようなので、特等席で見物させてもらいましょう」


「相変わらず悪趣味だな」


「おや、ではエノクは行かないと?」


「ワタシは史書官(おまえ)の護衛だ」


 契約に則って付いていく。


 そう言ってくれたエノクを伴い、一足早く交国本土に入る事になりました。当然、ここまで運んでくれたエデンの皆様とはおさらばで~す!


 情勢次第では、また交国本土内で再会できるでしょう。


 再会できない方がいいかもですけどね。




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