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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第6.0章:交国計画
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誰が神を殺したか



■title:混沌の海にて

■from:自称天才美少女史書官・ラプラス


「なるほど、なるほど……」


 獅真様から詳しい話を聞いて行く。


 交国の建国者は真白の魔神。ただし、建国初期に獅真様が殺害した。


 今代の真白の魔神は獅真様の傍にいる。ただし、もう死んでいる。


 そして……獅真様は今までずっと、真白の魔神の依頼をこなし続けてきた。


 その依頼というのが――。


「『真白の魔神殺し』を真白の魔神(ほんにん)に依頼されたのですか」


『おう。今回はこっちが殺す前に自殺(・・)されたけどな』


 真白の魔神は死んだところで転生する。何度でも復活する。


 しかし、転生のたびに記憶や精神の障害が発生する。……それによって狂い、邪悪な存在になっていく可能性もある。


 ネウロンで<叡智神>として信仰されていた真白の魔神も、それを危惧していた。だから「今」の自分を残すための完全複製体を作る準備もしていた。


 その名残として「器」であるスミレ様の遺体(ヴァイオレット)があった。


 我々が完全複製体作成計画(それ)を把握している事を話すと、獅真様は「それなら話が早いな」と言い、語り始めた。


『真白は自分が「人類の敵」になる事を恐れていた。だから、「転生した自分がおかしくなっていた時は、容赦なく殺してくれ」と頼んできたんだよ』


「狂っていない真白の魔神と出会った場合は――」


『保護・封印、あるいは協力する。どれも上手くいってないけどな』


 獅真様は真白の魔神の「見極め」を頼まれたらしい。


 獅真様の基準で善悪を見定めるよう頼まれたようだ。


 そのためなら真白の魔神(じぶん)の殺害すら厭わないというのは、私の知っているあの人とは違っていても、似ていますねぇ……。自分の命が一番軽い。


『俺は統制戒言ドミナント・レージングで縛られてねえから、転生した真白の命令に縛られる事もない。大抵、サクッと殺せる』


「今までも真白の魔神がいつの間にか死亡・転生している事はちょくちょくあったのですが……殺ってたのは貴方だったのですね?」


『全部が全部、俺ってわけじゃねえけどな』


 相当な回数、殺し続けてきたそうです。


 裁定を任されるなんて、貴方は真白の魔神に信頼されていたのですね――と言うと、獅真様は不機嫌そうに「尻拭いを頼まれただけだよ」と吐き捨てた。


『俺はアイツのために殺ってるわけじゃねえ。当然、人類のためでもねえ。俺が「気に入らねえ」と思った真白を好き勝手に殺してるだけだよ』


「しかし、それによって『人類の勝利』を遠ざけた事もあるだろう」


 エノクがボソリと呟いた。


 獅真様が殺してきたのは、「倫理を完全に踏み倒した真白の魔神」のようです。


 しかし、そのような真白の魔神が「人類の勝利」に手を伸ばしていた事もあるはず。獅真様も覚えがあるらしく、「まあな」とエノクの言葉を肯定した。


『だがそんなの知ったこっちゃねえ。真白に「やめてくれ」と言われたとしても、俺は気に入らねえと思った転生体は殺す。俺の判断で殺す』


「お前は一種の人類の敵かもしれんな」


『ケッ……! だが、プレーローマの味方でもねえぞ』


「そうだな。お前が単身でフラリとプレーローマにやってきて、八つ当たりのようにアレコレ壊して行くからお前は災害扱いされてるぞ。皆が迷惑がってる」


『知るかバ~~~~カ』


 意見が分かれるところかもしれませんが、獅真様は概ね「人類の味方」だと思いますけどね。プレーローマや魔神勢力と敵対してますし。


 多次元世界最強の組織と言われるプレーローマでも、丘崎獅真様には相当手を焼かされています。獅真様を倒せる御方なんて、プレーローマでも本当にごく少数ですからね……。


 エノクの言葉でさらに不機嫌になった獅真様が通信を切らないよう、「とにかく貴方は真白の魔神の頼みを聞いていたのですね」と話をまとめ、言葉を続ける。


「そして今回は……マーレハイト亡命政府に手を貸していた真白の魔神(メフィストフェレス)を見定めようとした。結果は――」


『黒。ブッ殺す事を決めていた』


 しかし、一度殺害に失敗。


 二度目となる今日は、殺す前に自殺されてしまった。


『今回の真白はヤバい薬をバンバン作って、マーレハイトに売らせてた。だから黒。だから殺そうとしたんだが……今回はちょっと、おかしかったな』


「と、いいますと?」


『今回の真白の悪事は、妙に……目立ちたがりに感じた』


 マーレハイトを使って薬を売りさばく事で悪目立ちをしていた。その結果、獅真様やプレーローマに目をつけられる事になった。


 獅真様は「なんか違和感ある行動だったんだよなぁ」と言い、首を傾げている。私とは別方向に真白の魔神の専門家(ストーカー)である獅真様が仰る事なら、確かにおかしかったのでしょうね。


『それにアイツ、俺が来るのがわかっていた様子だった。それなのに対策らしい対策は特にしてなかったんだよな。退路は用意してたが』


「ふ~む……。獅真様に殺してもらうために、あえて目立ったとか?」


『俺が殺す前に自殺したぞ』


「あまりにもおかしくなりすぎて、『私が死ぬとこ見ててぇ!』って性癖に目覚めたとか?」


『新手の露出狂かよ』


 獅真様曰く、「そういうのとは違った気がする」とのこと。


 じゃあ……どういう意図だったのでしょうね?


 考え無しって感じとは違いそうですけどね~……?


「ところで、今代の真白の魔神って……こんな顔してましたか?」


 スアルタウ様から聞いた特徴で作った明智様の似顔絵を見せる。


 すると、獅真様は「おうおう、そんな感じだ」と認めてくれた。


「自殺前に偽者と入れ替わっていた、って事は――」


『それは絶対ない。コイツは本物(・・)の真白の魔神だ』


 獅真様にはその確信があるらしい。魂も真白の魔神のものだったようなので、本物なのでしょう。偽者の死を偽装するために自殺させた……って話ではないようです。


「今代の真白の魔神の器は、交国の最高指導者である玉帝の関係者のようなのですが……ご存知ですか?」


『知らん。俺が大昔、交国襲撃した時にこんな嬢ちゃんいなかったはずだ』


「ふむ……」


『しかし、偶然じゃない(・・・・・・)かもな』


「それは……今代の器が意図的に選ばれたと?」


『そういう方法もあるからな』


 通常、真白の魔神は転生先を選べない。


 多次元世界の誰かの身体を無作為に乗っ取る事で転生している。


 ただ、例外も存在する。生前の真白の魔神が施術によって自分の魂を他の器に移す方法も存在している。それ以外の方法も存在している。


『何代か前の真白が、転生先を指定できる発明品を作ったんだよ』


「<毒林檎>ですか」


『そうそう、そんな感じの奴。林檎の形に偽装したナノ……なの……』


「ナノマシン群が対象の身体を作り替えて、真白の魔神の魂を下ろす」


『そう、それ』


 一種の降霊術によって、本来は無作為に選ばれるはずの器を任意の器に変更する。そのような技術を発明した真白の魔神もいました。


 本人が今も覚えているかは怪しいものですが……遺産として残っていた毒林檎(それ)を分析したら再生産も可能になるでしょう。


『あの毒林檎ってヤツは、誰相手でも使えるわけじゃない。無作為に転生先を選ぶ場合は大抵、誰相手でもいけるんだが……』


「毒林檎を使う場合は……特殊な器が必要になるんですよね? それこそスミレ様のような器が必要になると聞いた事があります」


『ああ。だが、毒林檎の場合はスミレ並みの身体は必要ない。さすがに神器使いの遺体までは要求されないんだが――』


「今回、器になっていた明智様は玉帝の子で……人造人間のようでした」


 それも莫大な資金が必要になる高級人造人間だったはず。


 それなら毒林檎で転生させる器に成り得ますかね――と聞くと、獅真様は「使えるだろうな。実際使っている様子だし」と言ってくれた。


 明智様の身体が乗っ取られたと思しき時期を伝えると、獅真様は「真白自身が毒林檎食わせたわけじゃなさそうだな」と言った。


『マジで毒林檎が使われたとしたら、誰か協力者がいたんだろうよ』


「それは使徒ですか?」


『かもしれねえが、断定はできねえ。別に使徒以外でも毒林檎の使い方と保管方法わかってるなら使えるだろうしな』


「明智様が意図的に器にされていた場合、真白の魔神やその協力者はどういう意図で彼女を使ったかわかりますか?」


『俺が知るかよ。交国の要人だったとしたら、そいつの皮を被って交国の中枢に潜り込もうとしていたとか?』


「真白の魔神は、交国の中枢には顔パスではないのですか?」


『それは絶対無い。昔の真白ならともかく、今の真白は交国にとって抹殺対象だ。飼い殺しにはしたいと思うかもしれんが』


「ふむ……」


 となると獅真様の仰る通り、「交国中枢に潜り込むために、交国の要人を乗っ取った」という説が正しいのでしょうか。


 今代の真白の魔神がマーレハイト亡命政府と行動を共にしていた辺り、交国中枢への潜入には失敗していそうですが――。


「……少し話を戻させてください。交国は真白の魔神が作った。しかし、貴方はその真白の魔神を殺害したのですね?」


『ああ。ズバッと斬り殺した』


「当時の真白の魔神も、不適格だったという事ですか」


『そうだ。俺が仕えていた真白なら絶対にやらねえことを平気でやっていた。「人類のため」とかのたまいながらな』


 吐き捨てるように言った獅真様に対し、言葉を続ける。


「なるほど。交国計画はそこまで害悪なモノだったのですね?」


『…………? 何の話(・・・)だ?』





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