過去:接続権限保持者
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■from:ver.4.0.0
「久しぶりだな。俺の事、覚えてるか?」
丘崎獅真。
キミの事は覚えている。
覚えているけど……キミとの記憶は他人事に感じる。
「…………」
映画でも見ていた気分だ。
他人の日常をスクリーン越しに見たような感情しか抱けない。
「何で蠱毒計画なんてものをやった。何で……」
当時の私は、最強の個人を欲していた。
人類をまとめ上げるのは難しい。人数が増えれば増えるほど難しくなる。
だから、1つの世界の命を1つに集約する事で、超人を作ろうとしたんだ。……キミはその成功例になってくれた。
「何で全部教えてくれたんだ。お前がやったことを」
…………。
「何で、都合の悪いことまで全部教えたんだ。俺の世界をメチャクチャにした奴とお前は別人ってことにしていた方が、何かと都合が良かったはずだ。それなのに、何故――」
…………さあ?
覚えてない。
都合の悪い事は全部、忘れる頭になっているからね。
「俺はお前を許すつもりはない」
うん。それが正しい。
「お前は転生するたびにアレコレ忘れるらしいが、お前が忘れたところで……過去にやった事は消えない。過去は影なり、ってヤツだ」
うん……。
「皆が忘れたとしても俺は忘れん。お前が……多次元世界全体の事を考えて蠱毒計画に踏み切ったとしても……俺の世界に暮らしていた皆を無理矢理戦わせた事実は忘れん。お前は……計画をやらない、という選択肢も取れたのに――」
キミの言う通り、私は蠱毒計画を中止できた。
それでも踏み切った。超人を作るためなら、世界1つ分の犠牲は「仕方が無い」と結論づけたんだ。
私は人類を救いたいと思っている。
ただ、もう手段を選ばないつもりなんだ。
これからも蠱毒計画のような事をやるかもしれない。
キミにはそれを止める権利がある。復讐の権利もある。
さあ、私を殺して――。
「殺すのは、後回しにしてやる」
丘崎獅真はそう言い、剣を鞘に収めた。
「俺は、正義の味方じゃねえ。以前のお前が望んだような真っ当な存在じゃねえ」
…………。
「俺も手段を選ばないつもりだ。……ほどほどにな。お前の事も利用する」
丘崎獅真は「今後も人類を救うために戦え」と言ってきた。
「ただ、あまりにも目に余る行動をするなら俺がお前を殺してやる。殺してでも止めてやる。……その時までは殺さないでやる」
キミの母親は、私が殺したんだよ。
「…………」
キミは、キミの世界の人達のためにも復讐を遂げるべきだ。
「うるせえなぁ……!! どうせお前、殺してもまた復活するんだろ!?」
丘崎獅真は苛ついた様子で、「それならまだ話が通じる『お前』と協力関係結んだ方がいいだろうが!」と言ってきた。
「俺は俺で、プレーローマに襲撃かけてみたがダメだった! 1人じゃ勝てなかった! 俺は真白の魔神が期待したほど超人じゃなかったんだよ」
知っている。
1人で襲撃をかけて、何日も戦い続けて何千、何万とプレーローマの戦力を切り捨てたと伝聞で聞いている。
丘崎獅真は渋い顔を浮かべ、「何体斬っても天使がやってくるんだよ。アイツら数多過ぎだろ」と文句を言った。けど、その認識は少し間違っている。
プレーローマには限定的な死者蘇生権能を持っている天使がいるため、向こうの本土で何体殺したところで復活して直ぐ戻ってくるんだよ――と教えてあげた。つまり同じ天使が何度も何度も襲ってきていたわけだ。
それを知った丘崎獅真は地団駄を踏み、「だから同じ顔が何体もいたのか!? 百つ子ぐらいいるのかと思った!!」なんて事を言った。
「俺だけじゃ勝てなかった! けど、俺はそれなりの戦力になる! ……俺を手駒にしたら、お前ならプレーローマに勝てるんじゃないのか?」
プレーローマは強大だ。今の私達では勝てない。
ただ、キミの協力を得られるなら……かなり心強い。
「じゃあ協力してやる。だが、お前が無茶をしすぎるなら殺して止める」
丘崎獅真は「皆を死なせた責任を取れ」と言って来た。
「俺も手伝う。……もう少しだけ、人間を信じてくれ」
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■from:ver.4.0.0
貴方が彼を保護してくれたのか。
剣の指導もしてくれたと聞いたよ。ありがとう。
「たまたま拾って、手慰みに知っている事を教えただけだ」
…………。失礼、ひょっとして私は貴方とも面識が……?
「人類連盟時代に。我らは傭兵として雇われていた」
あぁ……。その、言いづらいけど……。
「転生による忘却だな。理解している。シャイターンから聞いている。我らを忘れた件に関して気にする必要はない」
私はクリュサオル翁に謝罪し、丘崎獅真が世話になった礼を重ねた。
彼は私の事を理解してくれた。
私達がやる事にも理解を示してくれたけど――。
「すまないが、そちらの組織に合流する事は出来ない。しかし協力は惜しまないつもりだ。我らコーラル同胞団は再び貴女の剣に……いや、力となろう」
……感謝する。
「オジ様! シシンが出て行くって本当!?」
「サリア。その件はあとで説明を…………いや、ちょうどいいか。来なさい」
「??」
「メフィスト。おてんば娘だが戦力としては頼りになる人材が欲しくないか?」
…………人材?
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「おい、真白。俺にはドミ……ドミミントなんちゃらってのつけねえのか?」
統制戒言ね。
アレをキミにつけたら、好きな時に私を斬れなくなるでしょ。
「斬られたら都合悪いだろ。お前も」
……キミには、私にとっての統制戒言になってほしいんだ。
私が誤った道を進んでいると判断したら、遠慮無く殺してほしい。
「お前それは、もう首輪というより断頭台だろ」
それぐらいしてもらう必要があるんだよ。
私にはもう、人らしい心が残っていない。キミは外付けの良心として私を監視し、必要とあらば首を斬ってほしい。
私がこれ以上、おかしくならないように。
「お前は俺を買いかぶりすぎだよ。俺は……それほど良心ある存在じゃねえ。自分の都合で刀を振るう人斬りだよ」
それでいいよ。
キミを信じたいんだ。
「…………」
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シオンという名の神器使い。
何故かその名に惹かれ――彼女がプレーローマと戦っている事情もあって――エデンに勧誘しにいったところ、彼女はもう死んでいた。
ただ、彼女の神器が自我を持って動いていた。珍しい事例だ。
彼女の遺体も見つけた。
使えるかもしれない。
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「おいおい……! 吸血鬼を増やすのはやめるって決めただろうが!? サリア姉の支配下に置いているとはいえ、あの技術は――」
増やすのは吸血鬼じゃない。
バフォメットと同じ力の持ち主だよ。
今から詳細を説明するから、それを聞いたうえで判断してほしい。
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■from:ver.4.0.0
バフォメット達に、スミレの真実を知られてしまった。
獅真にも知られてしまった。
獅真はスミレを私の傍から送り出した後、私に向き直ってきた。
……その刀を振るう時が来たようだね。
「そう思うなら抵抗しろよ」
今の状況で打てる手はない。キミ相手に抗っても無駄な抵抗だ。
獅真、私の死後は使徒達を――。
「馬鹿。いまブッ殺すとは言ってねえだろ」
獅真は憮然としながら「まだ殺さねえよ」と言ってきた。
「お前はまだ、一線を越えてない。マジでスミレを犠牲にしようとした時には殺すが、お前はどうせやらねえだろ。もうスミレにガッツリ情が移ってんだから」
そんな事はない。
必要な時は、スミレを器にして私の完全複製体を作るよ。
「ふぅん。まあ、勝手に悪ぶっておけよ」
…………。
「つーかそもそも……ここまで面倒なことやる必要、あるのか? お前の後継者が欲しいなら……その辺の端末にお前の記憶入れて、お前を作れねえのか?」
その辺の端末で作るのは無理だけど、私の複製品なら作成できるよ。誰1人犠牲にせずに作ることも可能だ。
「何でそれじゃダメなんだ? お前が恐れているのは……次の真白の魔神が無茶やらかす事だろ? お前が死なないのが一番だが、テキトーに複製品を作っておけば少しは……不安解消できるんじゃねえの?」
単なる複製品じゃ駄目なんだ。
私の異能が再現できないと駄目なんだ。
「はぁ、異能って……転生能力のことか?」
それもあるけど、そっちはあまり重要じゃない。問題の多い転生能力だしね。
私が残したいのは、もう1つの異能……知識の方だよ。
「自分はクソ頭いいです、って話か?」
違う。
私は転生を繰り返している。転生するたびに記憶を失っている。それなのに、多くの「真白の魔神」が様々な発明をしている。
記憶を失っているのに、発明という爪痕を残し続けているのはおかしいでしょ?
「それはまあ……確かに」
私は自分が持っていない知識を、どこかから引き出している。
全てがそうではないけど、私の頭の中には……別のどこかから知識が流れ込んで来ている。単に知識を習得するだけではなく、発明品をいきなり思いつく事もある。それが「真白の遺産」として歴史に爪痕を残している。
ボシャミナァトの件を覚えてる?
「なんだっけ、それ」
遺産回収のために料理大会に出場したでしょ、私が。
その時、他の出場者とまったく同じ料理を作って騒ぎになったでしょ?
「あぁ……。確か、向こうが『オレサマのオリジナル料理のレシピを盗んだ!』とか難癖つけてきたんだっけか?」
そう。彼の調理法は画期的だった。けど、私は彼と同じ調理法に至った。
アレは偶然の出来事じゃないと思うんだ。
「どういう事だ?」
私の「知識」の異能は……一種の「未来視」かもしれない。
未来の発明品や知識を、脈絡なく習得する異能。
これによって、いくら記憶を失ったところで未来の技術を習得し、常に時代を先取りした発明家として君臨し続けられるというもの。
「料理大会の時は、相手のレシピが勝手に頭の中に流れ込んできて習得しちまった……って事か?」
多分……。あのレシピも脈絡なく思いついたんだよ。
あの時は偶然、原典の発案者と遭遇したけど……今までも「誰かのアイデア」を盗み続けていたのかもしれない。
そして多分、これからも……。
いや、そもそもこれは本当に未来視なのかすら怪しい。
だって、<蠱毒計画>は失われた権能作成技術を参考に作ったものなんだ。多分……アレも、誰かのアイデアを盗んで至った計画なんだよ。
「権能作成技術は過去のモノだろ? となるとそれは、過去視か? お前の異能は『未来と過去から技術を持ってくる』ってモノなのか?」
そうなのかもしれない。
あるいは、まったくの別物なのかもしれない。
例えば……アクセス能力なのかもしれない。
「…………?」
わかんないよね。自分でも、この力の事がよくわかっていないんだ。
でも、この異能は打倒プレーローマの役に立つ。
だから――。
「単なる複製体じゃダメ。異能の完全再現を行った完全な複製体じゃなきゃ、今のお前ほど頼りにならないって事か」
そう。
「……神器使いの遺体なら、それが出来ると? だからスミレなのか」
その通り。
正確にはスミレの身体の材料となった神器使いかな。
「神器使いの身体が必要なら、俺を使えばいいじゃねえか」
獅真の身体じゃ……難しいかな。相性の問題もあるから。
神器使いなら誰でもいいって話じゃないんだよ。
「贅沢な異能だなぁ……! めんどくせえ……」
完全複製体用の器を、完全に一から作れるならそれが一番なんだけど……その方法は見つけられていない。
「テメエの異能で、都合良く必要な知識を引っ張ってこれねえのか?」
そこまで都合よく使えないんだよ。
本当に脈絡もなく思いつくものだからさ。
「じゃあ、異能の方を自作できねえのか?」
それも試した事はあるけど、出来なかった。今のところは出来ていない。
「でも、実際に異能が身についている。しかも何度転生したところで、『転生能力』と『発明能力』はずっと残っている。記憶を失うのに能力は保持し続けているって事は、記憶に根ざす力じゃねえってわけだ」
そうだね。
「そんなもの、どこで身につけたんだ?」
わからないけど……時期に関してはある程度推測できる。
発明能力に関しては「人類連盟を作った真白の魔神」の頃に身につけた異能かもしれない。転生の方はわからないけどね。
「そう思う根拠は?」
真白の魔神が発明家として活躍し始めたのが、その時期からだから。
多分、その頃……私は神器と繋がったんだと思う。
「ハァ、神器と……?」
個人差があるけど、神器使いの身体は「私の異能を成立させている神器」と繋がっている……かもしれない。その個人差が相性と関わっている節がある。
「その神器ってのは、バフォメットとは違うのか?」
彼はその神器の子機みたいなものだ。
全ての神器が、その神器の子供みたいなものなんだよ。源の魔神辺りが、その神器の破片を使って神器を打ったんじゃないかな?
その神器は、過去・現在・未来を保存している。
だから、そこへのアクセス能力があれば……過去の技術も未来の技術も手に入る。私は無意識にその神器から知識を引き出してしまっているのかもしれない。
私自身が「未来視」や「過去視」を持っているのではなく、「過去も未来も保存している神器」への「アクセス能力」を保持しているおかげで色々と発明出来ているって感じかな……? 推測混じりの話だけどね。
「じゃあよ、その神器さえ確保出来たら、『過去』も『未来』も何もかもわかるようになるんじゃねえのか? それ確保したら、お前の異能自体をわざわざ再現しなくて済むようになるんじゃねえのか!?」
かもしれないね。
出来れば確保しておきたいから、探しているんだけどね……。
私の異能は不安定だ。意識して知識を引き出す事が出来ないからね。
あの神器を手に入れれば、様々な問題を解決できるかもしれない。
「その神器って、なんて名前なんだ?」
原典聖剣。
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■from:ver.4.0.1
「スミレが殺された件と、蜂起を許しちまった件は俺の責任だ。スマン」
キミが謝る必要はない。
逆に、私が謝る必要はある。……キミが止めてくれて良かった。
「……スミレの蘇生、本当に出来ないのか?」
死者蘇生技術はずっと研究を続けているけど、完璧な死者蘇生は出来ていない。本人の記憶を持つだけの別人を作成できた程度だ。
私の異能が都合良く死者蘇生技術を引っ張ってきてくれたらいいんだけど……それも出来ていない。
「…………。お前は俺に『良心』を期待していたが、俺はお前の期待には応えられていない。ただ、スミレはお前の『良心』となってくれていた」
…………。
「もっと、お前の言葉を真に受けておけば良かった。ネウロン人が蜂起する可能性は、お前も警告していた事だし――」
私もあそこまでの事が起こるとは思わなかった。
仮に蜂起が起きたとしても、キミとバフォメット抜きでも鎮圧できる程度のものになると思っていた。蜂起が起こる可能性すら、かなり慎重に考えた場合のものだった。
注視もさせていたんだ。変な動きがあれば直ぐに対処できるように。だから……キミ達がいなくても蜂起を未然に防げたはずなんだ。
「だが、蜂起は実際に起きた」
そう。それも驚くほどスムーズに蜂起が行われた。
あの蜂起は後先を考えないものだったけど、蜂起自体は見事に成功した。
穏健派の主要人物の殆どは、蜂起初日に殺害されていた。過激派が一気にネウロンを制圧してしまった。
機兵も方舟も、いざという時はエーディンの権限で止められるはずだった。巫術対策も施していたのに、それを全て無効化されていた。
あの蜂起は、引っかかる点が多すぎる。
実際に蜂起が起きたとはいえ、あんなスムーズに行くはずが……。
「過激派の連中の尋問結果は……どうだったんだ?」
そこでも引っかかる事を言われた。
問い詰めていくと、蜂起を起こした過激派連中も「あれ? なんでオレ達ここまでの事をやったんだっけ?」と首を傾げ始めたぐらいだった。
「演技じゃねえのか?」
いや、そういうのじゃなかった。
彼ら自身、蜂起が成功したところで行き詰まる事はわかっていたはずなんだ。エデン抜きでネウロンを発展させていくなんて不可能だとわかっていたはずだ。
それなのに蜂起が発生した。
彼らは狂ったように動いていた。
蜂起自体は随分と計画的なものに見えた。けど、参加者全員が無計画に蜂起に参加しているような様子だった。しらばっくれている様子はなかった。
まるで、見えない誰かに扇動されたように――――。
【認識操作開始:考察妨害】
「真白? なんだ、急に黙って」
何らかの操作能力が――。
【認識操作休眠状態移行】
「おい、聞こえてるか? 疲れてんなら寝てこいよ」
いや…………うん、大丈夫。
「とりあえず後処理は一段落したんだ。だが、これで終わりじゃねえ。まだまだやることがあるんだから寝てこい。無理矢理でも。寝床は俺が警備してやる」
…………。わかった、じゃあ、御言葉に甘えさせてもらおうかな。
「何なら、枕元で読み聞かせでもしてやろうか~?」
そうしてもらおうかな……。
「おいおいおい……。マジでしっかり休めよ」
……獅真。
「チッ……。仕方ねえ、適当な本でも見繕ってきてやるよ」
そうじゃなくて。
私が死んだら――。
「やめろ。聞きたくない」
私が死んだら、キミの判断で転生体を殺してね。
今の私ですら相当悪いけど、これ以上、悪くなる未来を考えたくない。
大義のために人類を苦しめるどころか、人類の敵になる可能性も――。
「お前は死なない。俺が絶対、守ってやる。絶対に」
絶対なんて存在しないんだよ。
だからお願い。獅真。いざという時は――。
「知るかよ! あるかどうかわからん未来をクドクド考えるより、現在に目を向けろ! 俺はテメエの尻拭いなんて……!」
…………。
「…………本当に、必要になった時以外は……やらねえからな」
■title:
■from:ver.4.0.1
サリア、獅真のことを……お願い。
「おバカなこと言わないで黙ってなさい……! あの子が誰のために筋肉馬鹿と必死に戦っていると思って――」
お願い。
おねがい、あの子を……。た……たす、け…………。
「っ…………。クソ女、またあの子から大事なものを奪うのね」
…………。
「いいわ、最後の頼みぐらい聞いてあげる! その代わり、絶対、忘れな――」




