表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.7章:愛憎のウロボロス【新暦1年-王国歴502年】
736/875

過去:救済の義務



■title:

■from:ver.2.0.0


 ボクは神様らしい。


 突然やってきた人にそう言われた。


 真白の魔神という神様らしいけど……何も覚えていない。ラプラスって誰?


 ボクは神様だから、世界を救わないといけないらしい。


 よくわからないけど、ボクじゃないと出来ないなら……やらなきゃダメなのかな。世界を救わないと皆が困るならボクも困る。


 けど、世界を救うためには旅に出ないといけないって。


 やだなぁ……。


 だって、家を出たらお父さんとお母さんとお別れしなきゃダメなんでしょ?


 そんなのやだよ……。




■title:

■from:ver.2.0.0


「返して! 返しなさいよ!! 私達の子供を!!」


 なんで?


「その身体は、お前のものじゃないんだろ!? 出て行け!!」


 ボクはボクだよ。


 お父さんとお母さんの……子供だよ?


 なんで……なんで、そんなこと言うの?




■title:

■from:ver.2.1.0


真白の魔神(マスター)。御命令を」


「共に人類を救ってください」


 私は真白の魔神。人類を救済するのが使命。


 力を持つ者として、責務を果たさなければならない。


 私は覚えていないけど……過去の私が始めた事なら、私が引き継がないと……。


 約束は守らなきゃ。




■title:

■from:ver.2.3.3


 人類を救う必要は……あるのだろうか。


 私を騙して捕まえて、プレーローマに差し出したあの人類を?


 私は彼らを救おうとしたのに、彼らは私を裏切った。


 それなのに、救わなければいけないの? なんで?


 そもそも人類が救いを拒んだから――。




■title:

■from:ver.2.4.3


 人類を救いたい。守りたい。


 救いたいのに、いつも彼らが足を引っ張ってくる。


 人類は致命的なバグを抱えている。救いようがない。


 けど、救うのが救世主(わたし)の責務だ。


 私はアハスエルスを蘇生し、全ての悲劇を一掃する救世主になってみせる。


 あはすえるす? 誰? 知らない。


 けど、脳内に知らない名前、知らない記憶がにじみ出してきた。


 誰かのこぼしたインクが、真っ白の紙面に広がっていくように――。


 私が蘇生したい子は男だ。女じゃない。


 いや、これは、あの魔神に姿を変えられた?


 知らない記憶(みらい)が流れ込んでくる。


 来るな。


 私の中に、入ってくるな。


 私を、汚すな!!




■title:

■from:ver.2.4.4


 私が2人いる。


 2人じゃない。いっぱいいる。


 分裂する。


 いやだ、私は私だ。


 私だけにしてしまえば、私は私でいられる。


 私は正しい。私は正常だ。私は私の判断を支持する。


 私の中から出てくるな。私の中に戻れ。




■title:

■from:ver.2.5.0


 おそらく、前の私は発狂して自殺した。


 当時の事は忘れているけど、警察の捜査資料によると拳銃で頭を撃って死亡と書かれている。証拠が捏造された様子もない。事実だ。


 魔神の一柱のくせに、呆れるほど脆い身体だ。私も同じだけど。


 私も、いずれ「前の私」のようになるんだろうか?


 今のところは大丈夫。でも、この先は……?


 転生による復活は、まったくのノーリスクではない。


 私は転生するたびに記憶を失っている。ふとした拍子に思い出す記憶もあるけど、全てを取り戻せるわけではない。転生するたび対価を支払う必要がある。


 オマケに、転生の負荷によって精神にダメージが入っている節がある。……今のところは大丈夫だけど、次の転生ではどうなるかわからない。


 転生は軽々しく行うべきじゃない。


 私も、もっと過去の私もそう結論づけた。けど……もっと過去の私が結論づけたという事は、その私が残した記録でしかわからなかった。


 次の私が転生のリスクを忘れてしまい、安易に転生に頼るかもしれない。そうなると、私はもっとおかしくなって――。




■title:

■from:ver.2.7.1


 駄目だダメだ駄目だ。人類は駄目だ。


 致命的なバグを修正できない! 人間は2人以上集まると不和(バグ)が発生する。バグ発生確率は集団が大きくなるほど高まってしまう。


 小さなバグなら無視できるけど、プレーローマ打倒を考えると致命的なバグになってしまう。人類連盟もバグによって腐ってしまった。


 集団では勝てない。


 ならば、「最強の個人」を作ろう。


 俺は俺の源の魔神(アイオーン)を作ろう。


 次こそ必ず、俺は――――。




■title:

■from:ver.3.0.0


 私の幸運はとっくの昔に尽きていると思っていたけど、違ったらしい。


 新たな転生先は神器使いだった。


 素の戦闘能力に大きな問題を抱えている私が、神器によって強化されるのは大変喜ばしい事だ。この広い多次元世界で偶然、神器使いの身体を乗っ取れるなんて。


 この幸運だけでは今までの不運を帳消しにする事は出来ないけど、これを活用しない手はない。何とか神器を使えるように努力しよう。


 ただ、1つ問題がある。


 この器は妊娠しているらしい。


 自分の技術なら自力で中絶も可能だけど、この世界での基盤を築く前に目立った行動は取りたくない。周囲に妊娠している事がバレている以上、事故に見せかけて胎児を処理しても目立つ可能性がある。


 今はまだ、この女のフリをして暮らそう。そして密かに準備を進めよう。


 この世界を蠱毒にし、この世界の生命(ちから)を1つに束ねる。


 最後の1人を超人にする。


 その最後の1人は私ではないかもしれない。この世界には私以外の神器使いも眠っているから、私に対抗してくる者も出てくるかもしれない。


 けど、最後の1人は私じゃなくてもいい。


 最強の個人を作成してしまえば、私は死んでしまってもいい。


 どうせ私は転生する。転生後、蠱毒計画で作成した超人に何気なく接触し、人類救済を手伝うように説得してしまえばいい。


 まともな人間なら、この世界で1人だけ生き残ってしまった負い目を突いてやれば制御下におけるはず。最悪、術式で縛ってしまえばいい。




■title:

■from:ver.3.0.0


 新しい器となった女に化けるのは、なかなか難しい。


 様子がおかしいと疑われてしまった。


 中身が別人になっているとは気づかれていない様子だが、怪しまれてしまった。出産を控えているため精神的に不安定なのだと誤魔化しておいた。


 誰にも私の正体を気づかせてはならない。


 何故か神器の力を引き出しきれないし、今の私はとても無力。胎児という重りもあるため、前の私よりも弱体化している状態だ。早く何とかしたい。




■title:

■from:ver.3.0.0


 わかった。


 わかった。違うのがわかった。


 私は神器使いではなかった。


 単なる勘違いだった。


 神器使いなのは私ではなく、私の腹の中にいる胎児だ!


 胎児の身に宿っている神器の影響で、自分を神器使いだと誤認してしまった。道理でどんな手を試しても神器の力を引き出せないわけだ!


 出産後、自分の中から神器の反応が出ていってやっと気づけた。私はなんという大間抜けなのだろう。気づくのが遅すぎる。


 神器使いの身体を奪えなかったのは残念だけど、計画を続ける。予定では出産後に失踪し、計画に集中するつもりだったけど……神器使いの子を放棄するのは勿体ない。この子の親の立場を維持しよう。


 子育てしながら計画の準備をしていこう。私なら出来るはずだ。




■title:

■from:ver.3.0.0


 計画の名は<蠱毒計画>とする。


 私も蠱毒計画に参加し、最後の1人を目指す。


 この椅子取りゲームの主催者だから、いくらでもズルが出来るけど……可能な限り控えよう。最強の個人を作るためには、私自身も篩にかけないと。


 当然、私が出産した子も蠱毒計画に参加させる。


 ただ、一参加者として参加させる。


 神器使いのこの子が超人と化せば、さらに強化できる。この子が人類の希望になったら、私は救世主の母になるわけだ。それはとても誇らしい事だ。




■title:

■from:ver.3.0.0


 赤児の夜泣きがひどい!!


 計画進行に支障が……!


 けど、この程度の苦難、今までの事に比べれば大したことはない。


 夜泣き程度で死ぬはずがないのだから、死ぬよりはマシだ。




■title:

■from:ver.3.0.0


 洗濯物を干していると、寝ていたはずの子供がいなくなっていた。


 何者かに連れ去られたのかと思い、血の気が引いた。


 実際は自分でハイハイして移動しただけだった。隣室で呑気にハイハイしている姿を見つけた時は、安堵のあまり腰が抜けてしまった。困った子だ。


 でも、この成長速度は驚異的。さすがは神器使い。


 人語を解するようになる日も、そう遠くないだろう。




■title:

■from:ver.3.0.0


 子供がつかまり立ちに成功した。


 思わず拍手してしまったところ、拍手の音にビックリしたのか、転んで頭を打たせてしまった。また血の気が引いた。


 急ぎ精密検査を行ったところ、脳にも頭蓋にも損傷はなかった。なかったけど、私が発見できていないだけかもしれない。


 病院に連れて行く? いや、この世界の医療技術より私の方が優れている。けど、自分の技術に100%の自信が持てない。なぜ? 私は真白の魔神なのに。


 手が震える。心臓が早鐘を打っている。冷静でいられない。


 病院に連れて行こう。


 私自身の身体異常を解決するためにも、この子の無事を確かめる必要がある。


 大丈夫。きっと大丈夫……。




■title:

■from:ver.3.0.0


 子供がスヤスヤと眠っている。病院でも異常は見つからなかった。


 大丈夫のようだけど、健やかな寝顔を見ても気は晴れなかった。


 あの医者がヤブ医者で、この子が明日にでも死んでしまったらどうしよう――と思うと、夜も眠れない。


 なぜ、私はあの時に拍手してしまったんだろう。


 つかまり立ちぐらい、そこまで称賛するほどのことではない。


 それなのに拍手して、この子を傷つけてしまった。自分の軽率さが嫌になる。


 今度はちゃんと、いつでも抱き留められる距離にいないと……。


 なにが魔神だ。私は、子供すら守れない無能だ。


 そんなだから人類も救えないんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ