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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.6章:天使と悪魔
733/875

過去:知恵の果実 3/3



■title:後に<黒水>と呼ばれる地にて

■from:四号


『うわ~……。彼、想像以上にデタラメね! メディチ、何とかして!』


『御客様。私は戦争屋でも殺し屋でもないので、ここで失礼しますね』


『役立たず!! ああっ、もう! 四号、早く荷物をまとめて!!』


 あの男は……丘崎獅真は、雪の日にやってきた。


 神器の力で世界の法則(ルール)を塗り替え、交国を襲撃してきた。


 交国軍はあの男を迎撃しようとしたが――当時はまだ十分な力を持っていなかった事もあり――丘崎獅真に蹴散らされていった。


 機兵も方舟も、あの男の前では玩具同然だった。剣の一振りで複数の機兵が真っ二つになり、方舟は殴り返された砲弾で撃ち落とされていった。


 痛み知らずの兵士も再生兵士も人造権能使い達も、まったく歯が立たなかった。丘崎は彼らを雪のように蹴散らしていった。


 神器使い達ですら一蹴された。一瞬で距離を詰められ、次の瞬間には手刀で内臓を引きずり出されて殺されていった。


 剣の間合いの外にいるはずなのに、丘崎獅真が一睨みするだけで猛者達の首が飛んでいくなんて馬鹿げた事も発生した。


『あぁ、困った困った……! たった1人の奇襲で全てをブチ壊されるとは!』


 太母の判断は早かった。


 今の交国では、丘崎獅真に勝てない。


 あの男の戦闘能力は常軌を逸している。


 ゆえに神器使い達を足止めに向かわせた後、直ぐに逃走を選んだ。どうしても必要なものだけ鞄に詰め、交国から逃げる事を決めた。


 神器使いによる足止めは1分と持たなかった。


 蟲兵達による自爆特攻など、何の妨げにもならなかった。……逃げる私達の背後に、殺意の圧力が津波のように迫ってきた。


『お母様、交国計画を――』


『無理っ! 始動するだけ無駄!! 今の交国計画では(・・・・・・・・)彼に勝てないっ! まだまだアップデートしないと……!』


 私達は都を捨て、雪に覆われた森を走った。


 兵士達に足止めを任せ、必死に逃げた。


 太母さえ生きていれば、国は何度でも立て直せる。……太母が生きていなければ、交国計画も破綻してしまう。だから、私達は逃げた。


『――――』


 やがて、戦闘の音が止んだ。


 悲鳴すら聞こえなくなった。


 しかし、背後に迫る殺意の圧力はまったく消えなかった。


 もうすぐそこまで迫っている。


『こんなところで終わりたくない』


 白い息を吐きつつ、そう呟いた太母に「大丈夫です」と告げた。


 直ぐに救援が来る。まだ全ての戦力を使い切ったわけではありません。


 そう告げたものの、太母は「救援は来ない」と言った。


『連絡が通じない。もうやられている。あの男は、首都以外の部隊を制圧しながらここに来たのよ。もう皆殺されているから連絡が取れないのよ……!』


『混沌の海に出れば、きっと逃げ切れます』


 あの男も万能ではない。


 あの男の神器は、界内でなければ無力だ。


 海の暗闇に紛れて逃げれば、逃げ切る事が出来る。


『お母様さえ無事なら、我々は何度でも立て直せます!』


『そうね! 攘夷執行(オーダー) 4号! 足止めしてきて!!』


『――――』


 太母の言葉(オーダー)を聞いた瞬間、私の身体に衝撃が走った。


 統制(ドミナント)戒言(レージング)で命令されるまでもない。私は太母のために生まれてきた存在。太母の分身として作られた存在。


 だから、私の顔を見て「お願い」と言ってくれるだけで良かった。……わざわざ統制戒言を使う必要などなかった。なかったのに。


『私が生きている限り、人類救済の希望は潰えない! 四号(あなた)の代わりなんていくらでも作れるから、安心して死んで来て!!』


『――お任せください』


 太母は人類のために戦っている。正しいことをしている。


 太母はいつも正しい。


 太母が死んでしまえば、誰が人類を救うというのか。


 そんなこと、私もわかっていた。……だからもっと早く、自分の判断で足止めに残るべきだったのに、私は太母の「お願い」を欲してしまった。


 頼まれたかった。頼りにしてほしかった。太母の唯一の存在(まなむすめ)になりたかった。……絶対になれないものを願ってしまった。


 私は自分の愚かさを恥じつつ、せめて太母の最後の命令(オーダー)を果たそうとした。丘崎獅真を何とか足止めしようとした。


『行かせない……! マスターは、私が守ってみせます!』


 丘崎獅真は、もう直ぐそこまで迫っていた。


 雪に足を取られることなく、直ぐそこまで迫っていた。


 視界が悪い。仮面が邪魔だ。


 私は仮面を捨てようとしたが、遅かった。判断が遅かった。


 仮面に手をかけた瞬間、丘崎獅真は直ぐ目の前にいた。


 剣を振り上げたあの男が、直ぐ目の前にいた。


『――――』


 銀色の光が閃いた。


 全ての判断が遅かった私は、そこで死ぬはずだった。


 しかし――。


『――――』


 剣を振り下ろした丘崎獅真の顔が、よく見えた。


 剣によって仮面だけが真っ二つにされた事で、よく見えた。


 彼は愕然としていた。「何でお前がここにいる」と呟き、愕然としていた。


 私はそれを好機と見た。隠し持っていた武器であの男を殺そうとしたが、あの男は武器(それ)をはね除け、私の肩を掴んできた。


『俺だ! 丘崎先生だよっ! お前と同じ、真白の魔神の使徒の……!』


『マスターの使徒なら、なぜマスターを殺そうとする!!』


 私は何とか丘崎獅真を殺そうとした。


 あの男の武器を奪い、殺そうとしたものの……大した戦闘能力のない私では歯が立たなかった。ほんの少しの間、足止め出来ただけだった。


『マスターのところには行かせない! 私がマスターを守る! 命を捨ててでも、お前を足止めする! 私は、そのために作られたのだから……!』


『…………』


 表情を歪めた丘崎獅真は、私を突き飛ばした。


 降り積もった雪の中に突き飛ばし、太母の方へ追っていった。


『真白ォッ!!』


 恐ろしい形相を浮かべ、太母の方へ走っていった。


 彼は何かに対し、激怒している様子だった。交国の兵士達を殺す時は無表情だったのに、太母の前では激昂していた。


 私はもたつきながらも、雪の中から這い出た。


 太母の悲鳴と丘崎獅真の怒声を聞きつつ、必死に太母を助けようとした。


 しかし、私は……最後まで太母の御役に立てなかった。


『あぁ! あぁっ……! わたしが、記憶(わたし)が消えていく……! ぃ、いまの記憶(わたし)は、ここにしかいないのに……!!』


『…………』


『あなたも、私の使徒(こども)なのでしょう!? なんでっ!? なんでこんな酷いことするのォッ!? ガキのくせに、親に逆らわないでよぉおおおッ!!』


『――――』


 遠目に丘崎獅真が剣を横一閃に振ったのが見えた。


 お母様の顔面から血が迸り、濁った悲鳴が聞こえた。


『お前が……お前がっ!! 望んだんだろうが!!』


 お母様は目を奪われつつ、必死に這って逃げようとしていた。


 私は丘崎獅真を撃った。彼は避けなかった。弾は当たった。


 しかし、それだけだった。拳銃弾如きでは彼は止まらなかった。


『お前が!! お前みたいな存在を消せと、おれに…………よりにもよって俺に!! 望んだんだろうが!? そのために統制戒言を仕掛けなかったんだろうが!! ふざけたこと言ってんじゃねえ!!』


『いや、いやッ! いやーーーーッ!! ころさないで! ころさないでぇッ!』


『転生するたびに正気を失っていくお前を殺せと…………。道を踏み外した真白の魔神(メフィストフェレス)は、全て殺せと……お前が!! 俺に!! 望んだんだろうが!!』


『やめて! やめなさいッ!! 親殺し――――』


 悪鬼の如く狂い叫ぶ丘崎獅真が、再び剣を振るった。


 必死に逃げようとしていた太母の首が……切り飛ばされた。


 私は、太母を守れなかった。


 結果、交国計画は破綻した。


 要となる真白の魔神(マスター)が殺された事で破綻した。


 だから、私は「金の枝」を探し求めた。


 人類を……救うために。





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