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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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兄と兄



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


 模擬戦は無事勝利。俺の頭も無事!


 無事のはずだけど、キャスター先生にはちょっと難色示された。次、病院ある街に行った時に精密検査すべきって言われた。先生は心配しすぎだ。


 まあ……俺達(オーク)の診断は難しいって事情もあるんだろうなぁ。


 痛みが無いから異常も発見しづらい。かといって船の設備じゃ、体内までキッチリ調べることも出来ないから先生も気を揉む。


 しばらく毎日診ると言われ、面倒くささも感じたが、真剣な先生に押されて診てもらう事にした。ここで死んでも恩給出るから心配ねえんだけどなー。


 ……いや、いま死ぬのはマズいか。


 まだアル達の無事が確定したわけじゃねえ。


 模擬戦の勝利は最初の一歩だ。アル達がもっと皆に認められて、酷い扱いされなくなるまで見守ってやりたいな。うん、死なないように頑張ろう。


「ラートさん、ホントに大丈夫なんですか……?」


「へーきへーき。心配してくれてありがとな。あと、昼の会議よろしくな!」


 医務室までこっそり様子を見に来てくれたヴィオラに礼を言う。


 次に挑むべきは隊長達との会議だ。


 隊長は「検討」で終わらせず、「巫術師による機兵運用」を前向きに進めようとしてくれている。副長も「負けた以上、従うさ」と言ってくれてる。


 隊長達と話し合い、具体的にどう運用していくかを決める。多分、こっちが事前に提案している案になると思う。


「会議後にさ、祝勝会の話もしようと思ってる」


「祝勝会……?」


「模擬戦の祝勝会だよ。食堂借りてさ……!」


 祝勝会の話をすると、ヴィオラは「わ、私達がそういうことしていいんでしょうか……?」と戸惑った様子だった。


 だが、「お祝い出来たら、子供達も喜んでくれると思います」と笑顔で認めてくれた。食堂借りて騒ぐのは隊員もちょくちょくやってるし、隊長達も認めてくれるはずだ。相談するだけしてみよう。


「よしっ! 会議の前に栄養補給しとこう。食い物の準備、手伝うぜ」


 そう言い、食堂に向かう。


 アルやフェルグス達も準備を手伝いに来てくれてるはずだ。


 食堂で一緒に食べられればいいんだが、アル達は技術少尉に隠れて「特別メニュー」を食べる必要あるからな。技術少尉は面倒くさいから仕方ない。


「おっ……? なんか食堂が騒がしいな」


「う……。まさか、フェルグス君が星屑隊の方と揉めてるんじゃ――」


 俺も同じ心配をしたが、心配しすぎだった。


 病み上がりのフェルグスは壁際で大人しくしていた。


 騒ぎの中心にいたのはアルだった。


 騒ぎと言っても、そう悪いものじゃなくて――。


「レンズ軍曹との模擬戦、見たぜ! やるなぁ、特行兵」


「正規の機兵乗りじゃねえのに、大したもんだ」


「巫術って兵器と親和性高いのな」


「あの、ええっと……!」


 食堂に来た星屑隊の隊員が、アルを質問攻めしてる。


 ガラの悪い隊員が多いが、態度は好意的だ。アルを取り囲んでワイワイ盛り上がりつつ、昨日の模擬戦の話をしている。


「あー、コラコラ、キミ達。アルをイジメないでくれ」


「質問してただけっすよ、軍曹」


「軍曹がマネージャー(づら)してる~」


「軍曹経由でいいや。昨日のアレ、どうやったんスか?」


 皆がアルに興味を持ってくれてる。


 アルが注目を集め、認められているのが嬉しくて、昨日の模擬戦のことを簡単に解説する。アルを抱っこし、皆に見せつけながらアルの功績を解説する。


 感嘆の声がホイホイと飛んできて、アルに対しても「スゴいな、ガキ」「やるじゃねえか!」とお褒めの言葉が飛んでくる。


 アルは恥ずかしそうに固まりつつ、俺にギュッと抱きついてきてる。この反応もまた可愛いもんだ!


「アルのスゴさ、皆も理解してくれたか!?」


「昨日、あんなもん見せられたら、さすがに……」


「レンズ軍曹に勝てたのはマジ凄いよ。撃破数ならウチのエースだもん」


「ラート軍曹が操作してたらまだわかるけど……軍曹はノータッチなんでしょ?」


「そうそう! 操縦は全部、アルがしてくれたんだぜ!」


「あのっ! でもっ、ラートさんが指示してくれて……! ヴィオラ姉ちゃん達も助けてくれたから勝てたんですっ! ぼっ、ボクなんて全然……!」


「謙遜するなよ、ガキ。お前はマジで凄いことやったんだぞ」


「巫術ってもっとおどろおどろしいと思ったんだが、中々面白えなぁ」


 そうだろう、そうだろう。


 皆、もっとアルを認めてくれ!


 やっぱ、こういうの嬉しいな。


 自分がスゴいと思ってるもの認めてもらえると、俺も誇らしい。


 ……あの人のこと、皆が認めてくれた時のこと、思い出すなー……。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……!


 顔から火が吹き出そう!


「ら、ラートさん、やめてぇ~……! もう褒めなくていいからぁ~!」


「やだやだっ! 俺、まだ褒めたりねえよ!」


 嬉しい気持ちもあるけど、こんなに皆でワッと来られると、さすがに恥ずかしくて頭がクラクラしちゃう!


 ヴィオラ姉ちゃんに助けを求め、止めてもらう。


 ラートさんはしぶしぶの様子でボクを床に下ろしてくれたけど、耳元で「アル、お前ホントにカッコ良かったぞ」と言ってくれた。


「えへへ……」


 ラートさんの言葉だけでも、十分嬉しい。


 すごくニヤけちゃう。


 ……ボクら、ホントに勝ったんだ……!


 ニヤニヤしちゃってると、少し怖い顔した星屑隊の隊員さんがやってきた。


 輪の外からズンズンとやってきて、「おい」と声をかけてきた。


「特行兵。お前、繊十三号で勝手に機兵を動かしたらしいな」


「――――」


 背筋が凍る。


 ヴィオラ姉ちゃんとラートさんが撃たれた時のことを、思い出す。


 2人とも元気になったけど、ボクの所為で――。


「あ、あの……ボク……」


「あの時の礼、まだだったな。助かったよ、ありがとう」


「えっ?」


「お前が動いてくれなきゃ、機兵乗りがやられてたかもしれん。繊十三号の守備隊は頼りにならなかったし、ウチの機兵対応班が死んでたら……町で休暇を楽しんでいた俺達も死んでたかもしれない」


「あの、えっと……」


 怒られると思って身構えていたけど、怒られなかった。


 他の隊員さんも「そういえばそうだ」「オレはゲロを埋めてもらったぞ!」と言い、皆で「ありがとう」と口々に言ってきた。


 交国の人に、こんな風に接してもらうの……初めて、かも。


 ラートさんはいつも優しいけど、他の人には……こんな……。


「ぼ、ボクだけの力じゃないです! にいちゃんやロッカ君、グローニャちゃんが命がけで戦ってたから……!」


「そうだな。第8全員の力か……。お前らも、ありがとな」


 怖い顔して近づいてきた隊員さんが、にいちゃん達にもお礼を言った。


 そして、ちょっと怖い笑みを浮かべた。


 他の隊員さんに肘で突かれ、「お前、笑顔下手すぎ」と言われてる。


 その様子がおかしくて笑っちゃった。


「正直……特行兵だと思って舐めてたわ。マジでやるじゃねえか」


「へへ……」


「礼として、ゼリーパンをやろう」


「え……。それはいらないです……」


「遠慮するな! 食わねえと、俺達みたいにデカくなれねえぞ!」


 怖い笑顔の隊員さんがゼリーパンを渡してくれた。


 両手いっぱいにブニブニした感触。


 これはホントにいらない。美味しくないから……!


 返そうとしたけど、怖い笑顔の隊員さんは颯爽と去って行っちゃった。


 オマケに――。


「オレのゼリーパンもやるよ!」


「オレのも!」


「ひぃ……! ゼリーパンはいらないですっ……!」


「見事な勝利だったぞ、ス……ス、なんだっけ?」


 ボクの名前がわからない隊員さんに対し、ラートさんが大声で「スアルタウ! 俺らの英雄様だ、よく覚えとけ!」と言った。


「スルルタウね。覚えた」


「スアルタウっ!」


「ネウロン人の名前、難しいよぅ……」


「あ、アルでいいですよ! 縮めてもらっても……」


「アル! ゼリーパンやるよ!」


「それはいらないです!!」


 ゼリーパンが攻めてきた!


 昨日の模擬戦ほどじゃないけど、怖い!!


「に、にいちゃ……!」


 にいちゃん、助けて。


 そう思いながら振り返る。


 でも、壁際にいたはずのにいちゃんがいなくなってた。


 ロッカ君とグローニャちゃんはいるのに、にいちゃんがいなくなっていた。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狂犬・フェルグス


「…………」


 騒がしい食堂から逃げる。


 あそこはいやだ。


 なんか……いやだ。


 アルが皆に褒められまくってる。


 繊十三号(ケナフ)で機兵を動かしたのはアルで、模擬戦に勝ったのもアル。


 それは確かにそうだけど、でも……それぐらい……兄ちゃんのオレだって、やろうと思えば出来たし……。多分きっと、弟のアルより上手に出来たし……。


「……なんなんだよ、このモヤモヤする感じ」


 交国が来てから全部おかしくなった。


 この隊に来てから、もっとおかしくなった。


「アイツだ。……あのクソオークの所為で、もっとおかしくなった」


 ラート。侵略者一味のくせに、正義ヅラしてズカズカと踏み込んでくる奴。


 アイツと会って、何かがおかしくなった。


 弱っちいアルを今までずっと守ってきてやったのはオレ様なのに、アルは「ラートさん、ラートさん!」とアイツばっかり頼るようになった。


 ベタベタして、ニコニコしながら甘えてる。


 アルが頼りにしているのはオレなのに。オレのはずだったのに。


「ヴィオラ姉も、アイツばっかり……」


 交国人がクズの集団だってこと、ヴィオラ姉だってわかってるはずだ。


 それなのにオレじゃなくてクソオークを頼ってる。オレに相談してくれること、全然なくなって……クソオークと一緒に決めた事を話してくるだけ。


 クソオークのこと話す時、笑顔まで浮かべるようになった。


 ラートさんがじゃんけんに負けて、逆立ちで船を一周してたんだよ――とか、クソどうでもいいことを楽しそうに話してる。


 オレ達だけしかいなかった時、あんな笑顔、全然浮かべてなかった。


 オレ達を安心させるために「大丈夫」「大丈夫だからね」と言って、無理して笑って抱きしめてくれるだけだった。


 あんな風に安心した笑顔、全然……見せてくれなかった。


 アルもヴィオラ姉も、アイツばっかり頼ってる。


 模擬戦で勝てば、全部元通りのはずだった。


 アルもヴィオラ姉も、オレを頼るはずだった。


 すごいすごい、って褒めてくれるはずだった。


 それなのに、アルが……。何で、あそこにいるのがオレじゃないんだ。


「くそっ!」


「フェルグス」


「…………!?」


 船の壁を叩くと、声をかけられた。


 クソオークが追ってきてた。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


「フェルグス。お前、まだ体調回復しきってないだろー……」


 フェルグスが1人で食堂から駆け出していくのが見えた。


 気になって追ってきた。模擬戦は終わったとはいえ、体調を崩してそのまま寝込み続けるのは不憫だ。……けど、悪いのは体調だけじゃないのかも。


 いつものフェルグスなら、もっとアルと話をしてる。


 昨日の医務室からおかしかった。


 コイツ、アルと全然会話してないんじゃないのか……?


 アルのこと、凄く大事にしてるはずなのに――。


「その……まだ医務室で寝てた方が……」


「うっせえ。ついてくんな……!」


 そう言われたが、距離を空けてついていく。


 昨日より元気そうに見えるが、やっぱり様子がおかしい。


 なんて聞けばいい?


 ウチの弟は素直で、聞けば何でも教えてくれる。


 アルも素直だから、ウチの弟のように教えてくれる。


 フェルグスとどう接すればいいのか、未だにわからん。


 交国人の俺は嫌われている。機嫌がいい時なら話が出来るけど、不機嫌な時に突っ込んだ話をしたら余計に嫌われそうだ。


「…………」


 でも、嫌われるのが俺だけで済むなら――。


「い、いつまでついてくんだよ……! それも無言で! 蹴るぞ!?」


「病み上がりなのに無理すんなって――」


 小さな拳が飛んでくる。


 それを手のひらで受け止める。べちんっ! と音が鳴った。


「おっ! 今のは良いパンチだな。俺との訓練が活かされたか?」


「チッ……!」


「やっぱ、お前は近接戦闘のセンスがある。そのセンスが機兵の操縦に活かされている。アルも才能あると思うが、接近戦なら兄貴のお前が上だな」


「……オレはアルより機兵に乗ってる。アルもオレぐらい、機兵に乗れば……直ぐに、オレ様を追い抜かしていくさ……」


 フェルグスはキュッと眉根を寄せ、唇を尖らせている。


 その表情は拗ねているように見える。


 スアルタウについて話してる時、こんな顔をするの初めてだな。


「…………」


 でも、似たような表情は見たことがある。


 昨日のレンズも、同じような顔してた。


「追い抜かされるのって怖いよな……」


「…………!」


 フェルグスが目を見開く。


 その後、オレを睨んできた。


「テメーに何がわかる……」


「わかるさ。俺は追い抜かされてる真っ最中だからな」


「はあ? 誰に――」


 フェルグスを指差し、「お前達だよ」と言う。


「俺達が数年がかりで必死に掴み取った機兵操縦技能を、お前達は1日とかけずに掴んでみせた。『天才』って言葉じゃ足りない速度で機兵乗りになってみせた」


「あ……」


「この才能の差は、正直、絶望しちゃうぜ」


 俺だってレンズと同じような焦燥感は持っている。


 アル達を守りたい、って気持ちが勝ってるけどな。


「お前達は鳥だ。どこへだって飛んでいける」


「…………」


俺達(オーク)には翼がない。お前らみたいな巫術の才能がない。お前らが遥か高みを軽々飛んでるのを見上げて、『いいなぁ』って言うしかない」


 巫術の才能は、訓練で手に入るものじゃないだろう。


 後付の機械で何とかできる問題でもない。


「俺だって、そういう気持ちになるんだぜ。お前らが凄すぎて」


 自分以外の人間との「差」を意識して落ち込むのは、俺も同じだ。


 フェルグスも、多分、焦燥感を抱いている。


 その相手がアルっぽいのは驚きだが……よく考えればわかる。近しい相手だからこそ、ビックリするよな。俺達の想像を超えてやってのけたから――。


「……そのわりに、アンタはいつも通りヘラヘラしてるじゃん」


 フェルグスはオレを睨み続けている。


 けど、さっきほどツンツンしていないように感じる。


「……どうやって、その気持ちに折り合いつけてんの?」


「うーん……。そうだなぁ」


 壁に寄りかかりつつ、頭の中で言葉を探す。


「俺の場合、見栄を張ってる。心が弱っていても、それ見せるの恥ずかしいから……。必死で取り繕ってる。『俺はいつも通りだぜ』って」


「…………」


「お前に見抜かれてないって事は、上手くいってるみたいだな」


「つまり根性で何とかしてんのかよ。だっせえ。脳筋」


「おうよ! 根性さ」


 力こぶ作ってみせつつ、ニッと笑う。


 巫術が使えるお前らと違って、俺にはそれぐらいしか縋るものがねえ。


 けど、お前は違うだろ。


「俺と違って、お前にはアルと同じ巫術の才能がある。それさえあれば、まだまだ出来ることはある。そう思わないか?」


 そう言うと、フェルグスは複雑な表情浮かべつつ嘆息した。


「……巫術の才能は、アルの方が上だ」


「じゃあ負けを認めるか? アル様の方が強いで~す、って」


「…………!!」


 フェルグスの拳が飛んでくる。


 それを再び受け止める。今度は「ぺちん」と情けない音がした。


「今のは軽いな。腰が入ってねえ」


「クソオークが……!」


 腰を落として両の手のひらをフェルグスに向ける。


 もっと殴ってこーい、と誘ったが、不機嫌そうな顔で見られた。


「まだ調子悪いんだよ……。アホらしいことに付き合わせんな」


「おっと……。スマンスマン」


「……やっぱ、寝る。食欲もねえし……」


 フェルグスが背中を見せ、去っていこうとする。


「フェルグス」


 呼び止める。


「んだよ……! テメーとおしゃべりするのは――」


「アルを褒めてやってくれ」


「……何だよ、急に」


「アイツは頑張ったんだ。お前のためにも、怖いの押し殺して必死に」


 腰を落とし、フェルグスと視線を合わせて言葉を投げかける。


 困惑顔のフェルグスに話しかけ続ける。


「頑張ったから、褒めてやってくれ。お前の言葉がきっと一番効く」


「……別に、いいじゃん。アイツ、皆に褒められてるし……」


「他人の言葉より、家族の言葉の方がいいんだ、きっと」


 アルはフェルグスの事が大好きだ。


 俺と2人で話していても、フェルグスのことをニコニコ笑顔で話してくれる。よく兄ちゃん自慢をしてくる。ホントに大好きなんだろう。


 ただ、アルには危なっかしいところがある。


「アルは多分、自分に自信がないんだ。だからちょっと卑屈なところがある」


「だからなんだよ。人それぞれだろ」


「模擬戦の前、アイツ、俺に言ったんだよ」


 フェルグスの勝利と無事を祈って、とんでもないことを口走ってた。


「自分を囮にしてくれって言ったんだ」


「は……?」


「アイツ、生身の自分が模擬戦でうろちょろしてたら囮になれる。お前が戦いやすくなるって……自分を犠牲にする案を出してきたんだ」


 フェルグスは口を開けて絶句していたが、詰め寄ってきて掴みかかってきた。


 俺の胸ぐらを掴みつつ、「マジで言ったのか!?」と聞いてきた。


「言った。けど、怒らないでやってくれ。アルなりの考えがあったんだ」


「どんな考えだよ! ただの自殺行為じゃねーか!」


「大好きな兄ちゃんの役に立ちたかったんだよ」


 アルはフェルグスの事が大好きだ。


 フェルグスのことを話す時、楽しそうだが……自分がフェルグスに助けられた話をする時は、いつも申し訳無さそうな顔をする。


 いつも助けられっぱなしだって。


 兄貴の事が大好きだけど、困らせたり苦労かけたりしたくないんだろう。


「アルは今のままじゃ危なっかしい。自分を過小評価して、自分を傷つけちまってる。だから、アイツを褒めてやってくれ」


 自分を大事にできるように。


 自分がここにいてもいいんだって、心から思えるように。


「今のままだと、良くないことが起きる気がするんだ。アルが今の考えのままだと、いつか本当に自分の身を――」


「テメーに何がわかる」


「…………」


 フェルグスが乱暴に押してきた。


 倒れはしなかったが、少し身体が揺れる。


「オレ様はアイツの兄貴だ。アルの事は、お前よりずっとよくわかってる」


「…………」


「人の家族の話に口を挟むなよ、侵略者。……人の家族を無理やり引き離しておいて、オレ達の心まで踏み込んで来るんじゃねえよ」


 フェルグスは去っていった。


 上手く仲を取り持ってやれなかった。


「けど……フェルグスもわかってくれるはずだ」


 アイツ、アルが囮になる話を聞いた時、ギョッとしていた。


 心配していた。焦っていた。動揺していた。


 あれはアルを大事にしているからこそ、出てくる感情だ。


 家族だからこそ、近すぎるからこそ見えないものはあると思う。


 けど、フェルグスはアルの事をちゃんと心配している。


 きっと……きっと大丈夫だ。





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