兄と兄
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
模擬戦は無事勝利。俺の頭も無事!
無事のはずだけど、キャスター先生にはちょっと難色示された。次、病院ある街に行った時に精密検査すべきって言われた。先生は心配しすぎだ。
まあ……俺達の診断は難しいって事情もあるんだろうなぁ。
痛みが無いから異常も発見しづらい。かといって船の設備じゃ、体内までキッチリ調べることも出来ないから先生も気を揉む。
しばらく毎日診ると言われ、面倒くささも感じたが、真剣な先生に押されて診てもらう事にした。ここで死んでも恩給出るから心配ねえんだけどなー。
……いや、いま死ぬのはマズいか。
まだアル達の無事が確定したわけじゃねえ。
模擬戦の勝利は最初の一歩だ。アル達がもっと皆に認められて、酷い扱いされなくなるまで見守ってやりたいな。うん、死なないように頑張ろう。
「ラートさん、ホントに大丈夫なんですか……?」
「へーきへーき。心配してくれてありがとな。あと、昼の会議よろしくな!」
医務室までこっそり様子を見に来てくれたヴィオラに礼を言う。
次に挑むべきは隊長達との会議だ。
隊長は「検討」で終わらせず、「巫術師による機兵運用」を前向きに進めようとしてくれている。副長も「負けた以上、従うさ」と言ってくれてる。
隊長達と話し合い、具体的にどう運用していくかを決める。多分、こっちが事前に提案している案になると思う。
「会議後にさ、祝勝会の話もしようと思ってる」
「祝勝会……?」
「模擬戦の祝勝会だよ。食堂借りてさ……!」
祝勝会の話をすると、ヴィオラは「わ、私達がそういうことしていいんでしょうか……?」と戸惑った様子だった。
だが、「お祝い出来たら、子供達も喜んでくれると思います」と笑顔で認めてくれた。食堂借りて騒ぐのは隊員もちょくちょくやってるし、隊長達も認めてくれるはずだ。相談するだけしてみよう。
「よしっ! 会議の前に栄養補給しとこう。食い物の準備、手伝うぜ」
そう言い、食堂に向かう。
アルやフェルグス達も準備を手伝いに来てくれてるはずだ。
食堂で一緒に食べられればいいんだが、アル達は技術少尉に隠れて「特別メニュー」を食べる必要あるからな。技術少尉は面倒くさいから仕方ない。
「おっ……? なんか食堂が騒がしいな」
「う……。まさか、フェルグス君が星屑隊の方と揉めてるんじゃ――」
俺も同じ心配をしたが、心配しすぎだった。
病み上がりのフェルグスは壁際で大人しくしていた。
騒ぎの中心にいたのはアルだった。
騒ぎと言っても、そう悪いものじゃなくて――。
「レンズ軍曹との模擬戦、見たぜ! やるなぁ、特行兵」
「正規の機兵乗りじゃねえのに、大したもんだ」
「巫術って兵器と親和性高いのな」
「あの、ええっと……!」
食堂に来た星屑隊の隊員が、アルを質問攻めしてる。
ガラの悪い隊員が多いが、態度は好意的だ。アルを取り囲んでワイワイ盛り上がりつつ、昨日の模擬戦の話をしている。
「あー、コラコラ、キミ達。アルをイジメないでくれ」
「質問してただけっすよ、軍曹」
「軍曹がマネージャー面してる~」
「軍曹経由でいいや。昨日のアレ、どうやったんスか?」
皆がアルに興味を持ってくれてる。
アルが注目を集め、認められているのが嬉しくて、昨日の模擬戦のことを簡単に解説する。アルを抱っこし、皆に見せつけながらアルの功績を解説する。
感嘆の声がホイホイと飛んできて、アルに対しても「スゴいな、ガキ」「やるじゃねえか!」とお褒めの言葉が飛んでくる。
アルは恥ずかしそうに固まりつつ、俺にギュッと抱きついてきてる。この反応もまた可愛いもんだ!
「アルのスゴさ、皆も理解してくれたか!?」
「昨日、あんなもん見せられたら、さすがに……」
「レンズ軍曹に勝てたのはマジ凄いよ。撃破数ならウチのエースだもん」
「ラート軍曹が操作してたらまだわかるけど……軍曹はノータッチなんでしょ?」
「そうそう! 操縦は全部、アルがしてくれたんだぜ!」
「あのっ! でもっ、ラートさんが指示してくれて……! ヴィオラ姉ちゃん達も助けてくれたから勝てたんですっ! ぼっ、ボクなんて全然……!」
「謙遜するなよ、ガキ。お前はマジで凄いことやったんだぞ」
「巫術ってもっとおどろおどろしいと思ったんだが、中々面白えなぁ」
そうだろう、そうだろう。
皆、もっとアルを認めてくれ!
やっぱ、こういうの嬉しいな。
自分がスゴいと思ってるもの認めてもらえると、俺も誇らしい。
……あの人のこと、皆が認めてくれた時のこと、思い出すなー……。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:兄が大好きなスアルタウ
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい……!
顔から火が吹き出そう!
「ら、ラートさん、やめてぇ~……! もう褒めなくていいからぁ~!」
「やだやだっ! 俺、まだ褒めたりねえよ!」
嬉しい気持ちもあるけど、こんなに皆でワッと来られると、さすがに恥ずかしくて頭がクラクラしちゃう!
ヴィオラ姉ちゃんに助けを求め、止めてもらう。
ラートさんはしぶしぶの様子でボクを床に下ろしてくれたけど、耳元で「アル、お前ホントにカッコ良かったぞ」と言ってくれた。
「えへへ……」
ラートさんの言葉だけでも、十分嬉しい。
すごくニヤけちゃう。
……ボクら、ホントに勝ったんだ……!
ニヤニヤしちゃってると、少し怖い顔した星屑隊の隊員さんがやってきた。
輪の外からズンズンとやってきて、「おい」と声をかけてきた。
「特行兵。お前、繊十三号で勝手に機兵を動かしたらしいな」
「――――」
背筋が凍る。
ヴィオラ姉ちゃんとラートさんが撃たれた時のことを、思い出す。
2人とも元気になったけど、ボクの所為で――。
「あ、あの……ボク……」
「あの時の礼、まだだったな。助かったよ、ありがとう」
「えっ?」
「お前が動いてくれなきゃ、機兵乗りがやられてたかもしれん。繊十三号の守備隊は頼りにならなかったし、ウチの機兵対応班が死んでたら……町で休暇を楽しんでいた俺達も死んでたかもしれない」
「あの、えっと……」
怒られると思って身構えていたけど、怒られなかった。
他の隊員さんも「そういえばそうだ」「オレはゲロを埋めてもらったぞ!」と言い、皆で「ありがとう」と口々に言ってきた。
交国の人に、こんな風に接してもらうの……初めて、かも。
ラートさんはいつも優しいけど、他の人には……こんな……。
「ぼ、ボクだけの力じゃないです! にいちゃんやロッカ君、グローニャちゃんが命がけで戦ってたから……!」
「そうだな。第8全員の力か……。お前らも、ありがとな」
怖い顔して近づいてきた隊員さんが、にいちゃん達にもお礼を言った。
そして、ちょっと怖い笑みを浮かべた。
他の隊員さんに肘で突かれ、「お前、笑顔下手すぎ」と言われてる。
その様子がおかしくて笑っちゃった。
「正直……特行兵だと思って舐めてたわ。マジでやるじゃねえか」
「へへ……」
「礼として、ゼリーパンをやろう」
「え……。それはいらないです……」
「遠慮するな! 食わねえと、俺達みたいにデカくなれねえぞ!」
怖い笑顔の隊員さんがゼリーパンを渡してくれた。
両手いっぱいにブニブニした感触。
これはホントにいらない。美味しくないから……!
返そうとしたけど、怖い笑顔の隊員さんは颯爽と去って行っちゃった。
オマケに――。
「オレのゼリーパンもやるよ!」
「オレのも!」
「ひぃ……! ゼリーパンはいらないですっ……!」
「見事な勝利だったぞ、ス……ス、なんだっけ?」
ボクの名前がわからない隊員さんに対し、ラートさんが大声で「スアルタウ! 俺らの英雄様だ、よく覚えとけ!」と言った。
「スルルタウね。覚えた」
「スアルタウっ!」
「ネウロン人の名前、難しいよぅ……」
「あ、アルでいいですよ! 縮めてもらっても……」
「アル! ゼリーパンやるよ!」
「それはいらないです!!」
ゼリーパンが攻めてきた!
昨日の模擬戦ほどじゃないけど、怖い!!
「に、にいちゃ……!」
にいちゃん、助けて。
そう思いながら振り返る。
でも、壁際にいたはずのにいちゃんがいなくなってた。
ロッカ君とグローニャちゃんはいるのに、にいちゃんがいなくなっていた。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:狂犬・フェルグス
「…………」
騒がしい食堂から逃げる。
あそこはいやだ。
なんか……いやだ。
アルが皆に褒められまくってる。
繊十三号で機兵を動かしたのはアルで、模擬戦に勝ったのもアル。
それは確かにそうだけど、でも……それぐらい……兄ちゃんのオレだって、やろうと思えば出来たし……。多分きっと、弟のアルより上手に出来たし……。
「……なんなんだよ、このモヤモヤする感じ」
交国が来てから全部おかしくなった。
この隊に来てから、もっとおかしくなった。
「アイツだ。……あのクソオークの所為で、もっとおかしくなった」
ラート。侵略者一味のくせに、正義ヅラしてズカズカと踏み込んでくる奴。
アイツと会って、何かがおかしくなった。
弱っちいアルを今までずっと守ってきてやったのはオレ様なのに、アルは「ラートさん、ラートさん!」とアイツばっかり頼るようになった。
ベタベタして、ニコニコしながら甘えてる。
アルが頼りにしているのはオレなのに。オレのはずだったのに。
「ヴィオラ姉も、アイツばっかり……」
交国人がクズの集団だってこと、ヴィオラ姉だってわかってるはずだ。
それなのにオレじゃなくてクソオークを頼ってる。オレに相談してくれること、全然なくなって……クソオークと一緒に決めた事を話してくるだけ。
クソオークのこと話す時、笑顔まで浮かべるようになった。
ラートさんがじゃんけんに負けて、逆立ちで船を一周してたんだよ――とか、クソどうでもいいことを楽しそうに話してる。
オレ達だけしかいなかった時、あんな笑顔、全然浮かべてなかった。
オレ達を安心させるために「大丈夫」「大丈夫だからね」と言って、無理して笑って抱きしめてくれるだけだった。
あんな風に安心した笑顔、全然……見せてくれなかった。
アルもヴィオラ姉も、アイツばっかり頼ってる。
模擬戦で勝てば、全部元通りのはずだった。
アルもヴィオラ姉も、オレを頼るはずだった。
すごいすごい、って褒めてくれるはずだった。
それなのに、アルが……。何で、あそこにいるのがオレじゃないんだ。
「くそっ!」
「フェルグス」
「…………!?」
船の壁を叩くと、声をかけられた。
クソオークが追ってきてた。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
「フェルグス。お前、まだ体調回復しきってないだろー……」
フェルグスが1人で食堂から駆け出していくのが見えた。
気になって追ってきた。模擬戦は終わったとはいえ、体調を崩してそのまま寝込み続けるのは不憫だ。……けど、悪いのは体調だけじゃないのかも。
いつものフェルグスなら、もっとアルと話をしてる。
昨日の医務室からおかしかった。
コイツ、アルと全然会話してないんじゃないのか……?
アルのこと、凄く大事にしてるはずなのに――。
「その……まだ医務室で寝てた方が……」
「うっせえ。ついてくんな……!」
そう言われたが、距離を空けてついていく。
昨日より元気そうに見えるが、やっぱり様子がおかしい。
なんて聞けばいい?
ウチの弟は素直で、聞けば何でも教えてくれる。
アルも素直だから、ウチの弟のように教えてくれる。
フェルグスとどう接すればいいのか、未だにわからん。
交国人の俺は嫌われている。機嫌がいい時なら話が出来るけど、不機嫌な時に突っ込んだ話をしたら余計に嫌われそうだ。
「…………」
でも、嫌われるのが俺だけで済むなら――。
「い、いつまでついてくんだよ……! それも無言で! 蹴るぞ!?」
「病み上がりなのに無理すんなって――」
小さな拳が飛んでくる。
それを手のひらで受け止める。べちんっ! と音が鳴った。
「おっ! 今のは良いパンチだな。俺との訓練が活かされたか?」
「チッ……!」
「やっぱ、お前は近接戦闘のセンスがある。そのセンスが機兵の操縦に活かされている。アルも才能あると思うが、接近戦なら兄貴のお前が上だな」
「……オレはアルより機兵に乗ってる。アルもオレぐらい、機兵に乗れば……直ぐに、オレ様を追い抜かしていくさ……」
フェルグスはキュッと眉根を寄せ、唇を尖らせている。
その表情は拗ねているように見える。
スアルタウについて話してる時、こんな顔をするの初めてだな。
「…………」
でも、似たような表情は見たことがある。
昨日のレンズも、同じような顔してた。
「追い抜かされるのって怖いよな……」
「…………!」
フェルグスが目を見開く。
その後、オレを睨んできた。
「テメーに何がわかる……」
「わかるさ。俺は追い抜かされてる真っ最中だからな」
「はあ? 誰に――」
フェルグスを指差し、「お前達だよ」と言う。
「俺達が数年がかりで必死に掴み取った機兵操縦技能を、お前達は1日とかけずに掴んでみせた。『天才』って言葉じゃ足りない速度で機兵乗りになってみせた」
「あ……」
「この才能の差は、正直、絶望しちゃうぜ」
俺だってレンズと同じような焦燥感は持っている。
アル達を守りたい、って気持ちが勝ってるけどな。
「お前達は鳥だ。どこへだって飛んでいける」
「…………」
「俺達には翼がない。お前らみたいな巫術の才能がない。お前らが遥か高みを軽々飛んでるのを見上げて、『いいなぁ』って言うしかない」
巫術の才能は、訓練で手に入るものじゃないだろう。
後付の機械で何とかできる問題でもない。
「俺だって、そういう気持ちになるんだぜ。お前らが凄すぎて」
自分以外の人間との「差」を意識して落ち込むのは、俺も同じだ。
フェルグスも、多分、焦燥感を抱いている。
その相手がアルっぽいのは驚きだが……よく考えればわかる。近しい相手だからこそ、ビックリするよな。俺達の想像を超えてやってのけたから――。
「……そのわりに、アンタはいつも通りヘラヘラしてるじゃん」
フェルグスはオレを睨み続けている。
けど、さっきほどツンツンしていないように感じる。
「……どうやって、その気持ちに折り合いつけてんの?」
「うーん……。そうだなぁ」
壁に寄りかかりつつ、頭の中で言葉を探す。
「俺の場合、見栄を張ってる。心が弱っていても、それ見せるの恥ずかしいから……。必死で取り繕ってる。『俺はいつも通りだぜ』って」
「…………」
「お前に見抜かれてないって事は、上手くいってるみたいだな」
「つまり根性で何とかしてんのかよ。だっせえ。脳筋」
「おうよ! 根性さ」
力こぶ作ってみせつつ、ニッと笑う。
巫術が使えるお前らと違って、俺にはそれぐらいしか縋るものがねえ。
けど、お前は違うだろ。
「俺と違って、お前にはアルと同じ巫術の才能がある。それさえあれば、まだまだ出来ることはある。そう思わないか?」
そう言うと、フェルグスは複雑な表情浮かべつつ嘆息した。
「……巫術の才能は、アルの方が上だ」
「じゃあ負けを認めるか? アル様の方が強いで~す、って」
「…………!!」
フェルグスの拳が飛んでくる。
それを再び受け止める。今度は「ぺちん」と情けない音がした。
「今のは軽いな。腰が入ってねえ」
「クソオークが……!」
腰を落として両の手のひらをフェルグスに向ける。
もっと殴ってこーい、と誘ったが、不機嫌そうな顔で見られた。
「まだ調子悪いんだよ……。アホらしいことに付き合わせんな」
「おっと……。スマンスマン」
「……やっぱ、寝る。食欲もねえし……」
フェルグスが背中を見せ、去っていこうとする。
「フェルグス」
呼び止める。
「んだよ……! テメーとおしゃべりするのは――」
「アルを褒めてやってくれ」
「……何だよ、急に」
「アイツは頑張ったんだ。お前のためにも、怖いの押し殺して必死に」
腰を落とし、フェルグスと視線を合わせて言葉を投げかける。
困惑顔のフェルグスに話しかけ続ける。
「頑張ったから、褒めてやってくれ。お前の言葉がきっと一番効く」
「……別に、いいじゃん。アイツ、皆に褒められてるし……」
「他人の言葉より、家族の言葉の方がいいんだ、きっと」
アルはフェルグスの事が大好きだ。
俺と2人で話していても、フェルグスのことをニコニコ笑顔で話してくれる。よく兄ちゃん自慢をしてくる。ホントに大好きなんだろう。
ただ、アルには危なっかしいところがある。
「アルは多分、自分に自信がないんだ。だからちょっと卑屈なところがある」
「だからなんだよ。人それぞれだろ」
「模擬戦の前、アイツ、俺に言ったんだよ」
フェルグスの勝利と無事を祈って、とんでもないことを口走ってた。
「自分を囮にしてくれって言ったんだ」
「は……?」
「アイツ、生身の自分が模擬戦でうろちょろしてたら囮になれる。お前が戦いやすくなるって……自分を犠牲にする案を出してきたんだ」
フェルグスは口を開けて絶句していたが、詰め寄ってきて掴みかかってきた。
俺の胸ぐらを掴みつつ、「マジで言ったのか!?」と聞いてきた。
「言った。けど、怒らないでやってくれ。アルなりの考えがあったんだ」
「どんな考えだよ! ただの自殺行為じゃねーか!」
「大好きな兄ちゃんの役に立ちたかったんだよ」
アルはフェルグスの事が大好きだ。
フェルグスのことを話す時、楽しそうだが……自分がフェルグスに助けられた話をする時は、いつも申し訳無さそうな顔をする。
いつも助けられっぱなしだって。
兄貴の事が大好きだけど、困らせたり苦労かけたりしたくないんだろう。
「アルは今のままじゃ危なっかしい。自分を過小評価して、自分を傷つけちまってる。だから、アイツを褒めてやってくれ」
自分を大事にできるように。
自分がここにいてもいいんだって、心から思えるように。
「今のままだと、良くないことが起きる気がするんだ。アルが今の考えのままだと、いつか本当に自分の身を――」
「テメーに何がわかる」
「…………」
フェルグスが乱暴に押してきた。
倒れはしなかったが、少し身体が揺れる。
「オレ様はアイツの兄貴だ。アルの事は、お前よりずっとよくわかってる」
「…………」
「人の家族の話に口を挟むなよ、侵略者。……人の家族を無理やり引き離しておいて、オレ達の心まで踏み込んで来るんじゃねえよ」
フェルグスは去っていった。
上手く仲を取り持ってやれなかった。
「けど……フェルグスもわかってくれるはずだ」
アイツ、アルが囮になる話を聞いた時、ギョッとしていた。
心配していた。焦っていた。動揺していた。
あれはアルを大事にしているからこそ、出てくる感情だ。
家族だからこそ、近すぎるからこそ見えないものはあると思う。
けど、フェルグスはアルの事をちゃんと心配している。
きっと……きっと大丈夫だ。




