表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.5章:砂の王冠【新暦1239-1250年】
729/875

過去:破滅の延焼



■title:新暦1247年

■from:エデン総長・カトー


 オレには仲間がいる。


 頼りになる仲間がいる。


 ……本当に?


 姉貴はもういない。


 ファイアスターター達もいなくなった。


 ナルジスも……いない。


 オレには誰がいる?


 ヴァイオレットはオレを見下してくる。


 オレが学のない流民だから、「自分の考えが正しい」と主張している。オレを心配するフリして隠居させ、エデンを支配しようとしてくる。


 アイツはガキ共の先生になってればいいのに。アイツじゃ、エデンの舵取りなんかできない。……プレーローマと渡り合う事もできない。


 アラシアもオレを見下してくる。


 アイツの命が助かったのはオレのおかげだ。それなのに、オレの方針にいちいち文句をつけてくる。斜に構えた態度で接してくる。


 内心、オレをバカにしているのは間違いない。アイツも所詮、交国人だ。オレが総長でオレの方が年上なのに……刃向かってくるばかりだ。


 ファイアスターター隊の奴らもオレを見下してくる。


 奴らはいつまで経っても「ファイアスターター隊長は――」「隊長の方が――」と言い、ファイアスターターを引き合いに出し続けてくる。


 総長はオレなのに、もういないファイアスターターの方ばかり見る。エデンを復活させたのはオレなのに……。お前らなんてアイツの金魚のフンだろうが。


 ラフマ隊は論外だ。


 奴らはプレーローマの工作員だ。


 だが、奴らはまだ利用価値がある。


 プレーローマは良い金づるだ。組織運営には何かと金がいる。物資を手に入れるのも……プレーローマの力を利用したら、上手くいく。


 人類連盟を打倒したら、次はプレーローマだ。それまで奴らとは休戦してやる。エデンをもっともっと強くして、プレーローマも食らってやる。


 ロッカとグローニャもダメだ。


 アイツらもアラシア達の影響を受けて、斜に構えた態度を取ってくる。


 総長はオレなのに、オレの命令に素直に従わない。「本当にそれでいいの?」と言いたげな目つきをしてくる。……助けてやったのに、生意気なガキ共だ。


 グローニャはオレを年寄り扱いしてくる。


 オレはまだまだやれるのに、オレを腰の曲がった爺のように扱ってくる。アイツも心の底ではオレを見下しているんだ。


 ムツキは敵だ。


 奴はカトーのオッサンの息子なのに、流民を捨てて玉帝の犬になった。


 大国の寄生虫になった。


 くだらん男だが、要注意人物だ。……奴の権力は日増しに強くなっている。奴にはナルジス達を見捨てた報いを受けさせてやらないと。


 復讐しないと、ダメなんだ。


 ベルベスト連合の奴らも、真の味方じゃない。


 奴らが望む英雄像に従って演技してやったら、コロッと騙されて従っているだけ。都合がいい戦力。でも、真の味方じゃない。


 フェルグス……。


 フェルグスは――。


「師匠! 師匠っ、おかえりなさいっ!」


 フェルグスは……味方だ。


 アイツは、ずっと前からオレを慕ってくれている……。


 エデンを失い、交国で苦しい日々を送っていたオレを英雄として扱ってくれた。オレを……師匠と慕ってくれている。


 フェルグスだけだ。


 フェルグスだけが、真の味方なんだ。


 フェルグスだけは、絶対、オレを裏切らない。


 アイツは、オレなんだ。


 大事な家族を失い、ひとりぼっちになった。


 オレもひとりだ。


 アイツも、オレも、同じ過去(キズ)を持つ仲間なんだ。


 オレの痛みを真に理解できるのは、フェルグスだけなんだ。


 フェルグスのためにも戦わないと。


 フェルグスのためにも勝たないと。


 オレは……許されないことをしている。


 弱者のためという大義を掲げながら、プレーローマと手を組んでいる。奴らを利用しているだけだが、人類の敵と手を組んでいるのは事実だ。


 それでも、今はプレーローマの力が必要なんだ。


 奴らの力を利用して、世界をキレイにする。


 プレーローマすら、いずれ滅ぼす。


 全ての邪魔者を消し去って、真っ白で清潔になった世界をオレの後継者に……フェルグスに譲る。アイツを英雄にしてやるんだ。


 全てのケガレはオレが請け負う。汚れ仕事は全部オレがやる。


 全てを終えたら、オレはケガレと共に消える。


 フェルグスの目の前には、真っ白でキレイな世界が残る。


 そこでアイツは誰よりも幸せになるんだ。


 オレが、アイツを英雄にしてやるんだ。


 ……アイツを助けてやれば、オレが消えても……きっと、覚えていてくれる。


 オレの生きた証を、足跡を……アイツが覚えていてくれる。


 何かを残さないと、オレが生きてきた意味が――。




■title:新暦1249年

■from:エデン総長・カトー


「マーレハイトに対する恨みなど、ありませんよ。我々は被害者同士です」


 ウソだ。


 お前らもオレの復讐対象だ。


 私達(マーレハイト)はプレーローマに利用されていただけ?


 そんな一言で済ませてたまるか。


 お前らだってエデンの人間を殺しただろうが……! お前らを守るためにマーレハイトに行ってやったのに、不意打ちしてきやがって……!


 マーレハイトの戦いの後、弱っているエデンを狙ってきただろうが……! アレはプレーローマにそそのかされての行動じゃないだろ。


 まあいい。


 計画が本格的に始まったら、思い知らせてやる。


 お前らの企みはブッ潰してやるし、マーレハイト亡命政府も終わらせてやる。……プレーローマをけしかけて終わらせてやる。


 メラ・メリヤス。お前も消してやる。


 お前も同罪だ。


 フェルグス達を……ネウロン人を見捨てたお前にも、罪を償わせてやる。


 死を持って償わせてやる。




■title:新暦1249年

■from:エデン総長・カトー


「おい、ラフマ。何を見ているんだ」


 オレの私室で勝手にくつろいでいるラフマに声をかけると、「情報部が黒水の情報を寄越してくれたから、それを見ているの」という答えが返ってきた。


「あぁ、ほら、黒水守が映ってる。一緒に映ってるのが妻子よ」


「…………」


「カトー君の家族含め、たくさんの家庭を虐殺によって破壊したくせに、自分は幸せそうな家庭を築いているのねぇ」


「…………」


「黒水守と石守素子は仮面夫婦って噂もあったけど……あくまで噂だったみたいね。ホラ、娘がはしゃいでいるのを見ながら、こっそり手を繋いじゃって――」


「…………」


「ふふっ……彼はもうすっかり成功者ね。どこぞのテロリストと違って」


「…………」


「スタート地点は大差なかったはずなのに……。いえ、神器の性能でいえば、あなたの方が遙かに上だったはずなのにねぇ」


「…………」


「まあ、だからこそ黒水守はズルしたんでしょうけどね。色々と」


「…………」


「あなたが愚直に『正義』を貫こうとしていた裏で、彼は数々の卑怯な手段を使った。<ロレンス>も<カヴン>も利用して暗躍し、玉帝に対してすら強い影響力を持つようになった」


「…………」


「エデンという復讐対象も、大半が始末できた。自分の手を汚さず、ゲットーでエデン残党を殺す事にも成功した。あなたを釣り餌にファイアスターターを誘き寄せ、処分する事もできた。あとは……あなたさえ殺せば、枕を高くして眠れるってところかしら?」


「…………」


「彼はきっと、手段を選ばずあなたを殺そうとしてくる。『話し合いがしたい』という甘い言葉に惑わされないでね?」


「……当たり前だ」


 交国に特佐としていた時、奴はちょくちょくオレに接触しようとしてきた。


 きっと、あの時からオレを始末しようとしていたんだ。


 ……カトーのオッサンを殺したオレに、復讐しようとしていたんだ。


 奴はゲットーの皆を助けられる立場にいたのに、見捨てた。そうする事でナルジス達を交国軍に殺させて……オレに罪を着せて殺しに来たんだ。


 復讐しろ。


 報いを与えろ。


 オレは、オレ達は、因果応報の代行者だ。




■title:新暦1249年

■from:エデン総長・カトー


「フェルグス! メシ持って来てやったぞ。しっかり食って大きくなれ!」


「ありがとうございます! …………? 師匠、何かあったんですか?」


「ん~? 何でもねえよ」


「…………。あのっ! 僕に出来る事があったら、何でも相談してくださいね?」


「あぁ……。ありがとな」




■title:新暦1249年

■from:エデン総長・カトー


「こっちのクスリも試してみない? カトー君」


「…………」


「まだ死ねないんでしょ? まだ、何も成し遂げてないでしょう?」




■title:新暦1250年

■from:エデン総長・カトー


「あなたはずっと、暗闇の中を歩き続けている。けど、黒水守はずっと日の当たる場所で幸せそうにしている」


「…………」


「2人共、手は汚れきっているのにね。いえ、何の罪もない一般人を世界ごと焼き尽くした黒水守の方が穢れているか。それなのに……そんな虐殺(こと)、なかったかのように澄まし顔で領主をやっている。成功者になっている」


「…………」


「でも、それでもいいでしょう? あなたは卑怯な黒水守と違って、自分の手を汚す覚悟がある。そうでしょう? カトー総長」


「あぁ」


 オレには覚悟がある。


 手を汚す覚悟がある。


 オレは、皆の死を覚えている。


 死体の山の上で笑っているアイツとは違う。




■title:新暦1250年

■from:エデン総長・カトー


「交国軍に反交国勢力(おれたち)の決起集会の情報を漏らして襲わせる」


 そのどさくさに紛れて、ブロセリアンド解放軍のリーダー達を殺させる。


 混乱する解放軍を救ってやって、オレ達が解放軍を乗っ取る。


 奴らをオレ達の手駒にする。


「そのための面倒な工作は、私達担当ってこと?」


「当たり前だろ」


「あなたは決起集会に参加しないの?」


「参加するさ。エデン総長(オレ)だけ決起集会不参加だと、交国軍に情報を漏らしたのがオレと疑われかねないからな」


 その代わり、安全な脱出経路を用意しておけ。


 それを使って脱出する。オレ達だけな。


「交国軍に包囲された決起集会会場から、奇跡の生還……。ベルベストの奇跡をもう一度ってこと? さぁて、皆上手く騙されてくれるかしら」


「細部はお前らで詰めろ。……犬塚も上手く騙せ」


「了解。私達が一肌脱いであげましょう」


「…………」


「決起集会のどさくさに紛れて、メラ王女も誘拐する? ネウロン解放の大義名分として、彼女は確保しておきたいでしょ?」


「あの女も殺せばいい。偽者を用意しておけ」


 いいの? と言いたげなラフマにさらに言葉を投げる。


 メラ・メリヤスはマーレハイトの犬だ。


 マーレハイト亡命政府に首輪をつけられている以上、身柄だけ確保しても言う事を聞かせるのは難しい。殺して偽者と入れ替えた方が効率的だ。


「そもそもあの女は、ネウロンを見捨てて逃げた卑怯者だ」


 民衆を……フェルグス達を見捨てて逃げた女だ。


 そんな奴に、フェルグスの隣に立つ資格はない。




■title:新暦1250年

■from:エデン総長・カトー


 犬塚銀を殺した。奴の部下も死んだ。


 ナルジス達の仇を取った!!


 いや、まだだ。


 まだムツキがいる。


 奴がゲットーを見捨てなければ、ナルジス達は死ななかったんだ。


 奴は、報いを受けるべきだ。




■title:新暦1250年

■from:エデン総長・カトー


 なんでアルは、オレの言う事を聞いてくれなかったんだ。


 オレは……アイツのために働いてやってるのに!


 アイツが英雄になるために、命懸けで頑張っているのに!




■title:新暦1250年

■from:復讐者・カトー


 レンズが裏切った。


 アイツか。アイツの所為か。


 ムツキの仕業か!!


 ムツキが卑怯な手を使って、レンズを裏切らせたに違いない!


 どんな手かはわからない。だが、アイツのやる事だ。卑怯な手に決まってる。


 このままじゃ、アルも危ない。


 アルまでムツキに取られたら、オレは、オレは――――。




■title:新暦1250年

■from:復讐者・カトー


「久しぶりだなぁ、宗像……!」


 次にアンタと会う時は、ブッ殺してやる時だと思っていた。


 通信越しだが、こんな形で会う事になるとは思わなかった。


『私もこんな形で再会するとは思っていなかった。マーレハイトの一件の後、キミ達を助けた時は考えもしなかったよ』


「どうやってオレの居場所を突き止めた。……いくらアンタでも、見つけられないはずだ」


 オレはアルを迎えに、交国本土に向かっている。


 まだネウロンにいるように見える偽装をしつつ、本土に乗り込む経路を見つけ出そうとしていたんだが……いまコイツに捕捉されるとは思わなかった。


 オレを見つけた方法に関して、宗像は「キミ達が交国軍の捜査網を舐めてかかってくれたおかげだ」と言ってきた。


『こちらはキミ達を捕縛する用意がある。だが、それよりも取引がしたい』


「誰がお前なんかと取引を――」


『黒水守を殺したくないか?』


「…………」


『こちらでお膳立てをしよう。24時間以内に黒水守周辺は手薄になる。奴が頼りにしている私兵も全員出払う。そこが奴を殺す最大の好機だ』


 宗像は「こちらでも黒水守の私兵を始末する」と言いだした。


 タツミとかいう黒水警備隊の長を始末するから、そちらには黒水守を頼みたい――と言いだしてきた。


「そんな事をして、お前に何の得がある」


『政敵を排除したい。黒水守は……やりすぎた』


「…………」


『我々の利害は一致しているはずだ。少なくとも、いまこの時は――』


 宗像の野郎は、どうやってオレの居場所を突き止めた?


 どうやってオレだけに連絡が届くよう、秘匿回線で接触してきたんだ?


 何にせよ、いま戦闘をするのは……マズい。


 この方舟にはヴァイオレット達のような非戦闘員もいる。戦闘に巻き込めば死なせてしまう。ヴァイオレットは……アルのために必要な人材だ。


 …………。


 どうせ、他に道はないんだ。


 プレーローマも、交国も……上手く利用してやる。


 勝てばいいんだ。


 勝利だけが、正義(オレ)を肯定してくれる。


 オレを救ってくれるのは、勝利だけだ。


 もう後戻りは出来ない。進むしかないんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ