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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.5章:砂の王冠【新暦1239-1250年】
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過去:燃え殻



■title:新暦1243年

■from:エデン総長・カトー


「手を組みましょう。カトー君」


「ふ――――ふざけんなッ!! よくも騙したな!?」


 正体を隠して接触してきた女に――プレーローマのラフマに銃を突きつける。


 すると、ラフマの部下達が一斉にオレに銃を突きつけてきた。……ラフマ自身は余裕たっぷりの笑みを浮かべたまま、椅子に腰掛けている。


「騙したけど、あなたの人助けにも手を貸してあげたでしょ?」


「オレを……エデンを利用するつもりで近づいてきたんだろうが……! 最初から、オレに取り入るつもりで……!!」


「そうね。でも、悪い取引じゃないでしょう?」


 ラフマ達(プレーローマ)はエデン再興を支援する、と言って来た。


 バカげた話だ! エデンが壊滅したのは、お前らの所為だろ……!?


 お前らは弱者救済組織(エデン)を復活させて、自分達の手駒にしたいだけ。エデンを使って、人類文明に混乱を起こしたいだけなんだろ!?


 そう問うと、ラフマは口元に手を当て、クスクスと笑いながら「その通り」と肯定してきた。


「けど、あなたも力が欲しいでしょう? 組織を立て直す力が」


「プレーローマの支援を受けて復活しても、それはエデンじゃない!!」


「そこはあなたの頑張り次第でしょ。私達から支援を受けて組織を復活させた後は、私達を出し抜く形で組織運営を行えばいい」


「ふざけた事を……!」


「あなた如き(・・)の力じゃ、エデン再興なんて不可能よ」


 もう神器はない。頼りになる仲間もいない。


 金もツテもろくにない。……あるのは交国の脱走兵という事実と、テロリストというレッテルだけ。


「でも、私達の支援を受ければ組織を再興できる。私達はあなたを担ぎ上げてエデンを復活させてあげる。……良い取引だと思わない?」


「黙れ!」


「あなたにはまだ利用価値がある。神器を失ったとはいえ、英雄(テロリスト)としての実績がある」


「黙れぇッ!!」


 撃った。


 だが、銃弾はラフマの眉間を貫く前に、見えない壁に止められた。


「仲間も神器も交国に奪われた男が、復讐のために立ち上がる……。民衆はそういう物語が大好きなの。出がらしのあなたにも、まだ使い道はあるの」


「誰がお前らの指図を受けるか!! お前らの所為で、エデンは……!!」


 オレはエデンだ! 因果応報の代行者だ。


 そのオレが、報いを与えるべき敵の支援なんて……受けるわけねえだろうが!!


 大人しく殺される気がないなら、せめて帰れ。もう二度とオレに近づくなと脅すと……ラフマは部下を引き連れて去っていった。


 だが、去り際に――。


「あなたは、私達の手を取らざるを得ない」


「っ……!」


「神器も仲間も失ったあなたの救いは、私達しかないのよ」




■title:新暦1244年

■from:エデン総長・カトー


「総長。カトー総長。どうするんですか?」


「……あまりにも無計画すぎませんか?」


「ファイアスターター隊長は、何のために……」


「オレに考えがある。オレが、ナルジス達の仇を取ってみせる……」


「じゃあ、その考えを教えてくださいよ! 現実味のある考えを!」


「もう昔とは違うんですよ!? あなたはもう、神器使いじゃない! ただの凡人なんですよっ……!?」


「アンタは口ばっかりだ」


「じゃあ代案を出せよ!! お前らはオレの敵か!!? 味方じゃあないのか!? オレは……オレはっ……!! 復讐(みんな)のために戦ってるんだぞ!!?」




■title:新暦1245年

■from:エデン総長・カトー


「師匠、大丈夫ですか? 僕に出来ることあったら、何でも言ってくださいね」


「…………」


「あの、師匠っ……?」


「ぁ、あぁ…………。ナルジス……。大丈夫だ。オレは、必ず……」


「し……師匠。休んでください。横になって……」


「姉貴……。次は、どうすればいい……? 次は、誰を殺せば……」


「ヴィオラ姉さん……。ヴィオラ姉さんっ! 師匠が、師匠がっ……!!」


「お…………オレは……今度こそ、守…………」


 オレはまだ生きている。


 死に損なっちまった。


 だから、戦わないと。オレが戦って、勝たないと……皆の死が――。




■title:新暦1245年

■from:エデン総長・カトー


「具合が悪い時は、直ぐ相談してくださいって言ったじゃないですか……! 貴方は何もかも1人で抱え込みすぎですよ」


「これぐらい、何でも無い……」


「何でも無いわけ、ないでしょっ……」


 ヴァイオレットが眉根を寄せ、オレを見つめてきた。


 今日も、いつもの説教を投げつけてきた。


「覚醒した神器使いにとって、神器は内臓同然のものです。しかも……簡単に代用品が見つかるものではありません。神器(それ)を無理矢理奪われた以上、カトー総長の身体は――」


「オレの身体のことは、オレが一番よくわかってる」


「単に老化が急激に進んでいるだけじゃないんですよ……!? 身体だけではなく、魂までも死に向けて転がり落ちているんですよ……!?」


「ハ……。常人より、ちょっと、老けやすいだけだ」


 神器でズルして不老不死になっていたツケが来ただけだ。


 オレは死ぬ。……しわくちゃの爺になって、ポックリ死ぬ事になる。


 けど、まだ生きている。


 生きている以上、諦めるわけにはいかない。


 何も出来ないまま死んだら、皆……無駄死に……。


「心配するな。お前の作ってくれた薬のおかげで、大分、調子がいい……」


「私の作った薬じゃ、どうしようもないんですよ……!」


 ヴァイオレットは「直ぐにでもキチンとした設備のある病院に入院すべき」なんて事を言ってきた。バカげた事を言ってきた。


 オレは、テロリストだぞ。


 オレを受け入れてくれる病院なんてない。それに……手術したところで、どうせ……長生きできない。どうせ遠からず死ぬ。


 ベッドの上で死を待つより、手術や入院に使う時間を戦いに費やしたい。無駄な時間なんて……もう1分1秒も存在しないんだ。


「それに神器を奪い返せば、まだ……何とかなるかもしれない」


「……総長の神器を所有しているのは、交国ですよ」


 奪い返すのなんて無理ですよ――と言われた。


 舐めるな、と返す。


 オレは、エデンのカトーだぞ。


 エデン最強の神器使い…………だった男だぞ。


「オレには、戦う以外……選択肢はないんだ」


「そんな事は――」


 戦わなきゃいけないんだよ。


 戦って死んでいった皆のように、オレも戦わないといけないんだ。


 戦わないと、仇討ちすら出来ないんだから。


「フェルグス達には、今のオレの状態を言うなよ。適当に……過労とかで、ごまかしておいてくれ」


「でも……」


「頼む……。頼むっ……!」


 床に手をつき、頭を下げる。


 これで協力してくれるなら、安いもんだ。


 協力してもらえないと――。


「ぁ、アイツらにまで……見限られたく、ないっ! 頼むっ! 黙っててくれ!」


「フェルグス君達は、貴方の事を見限ったりしませんよっ……!」


 ヴァイオレットは慌ててオレを起こそうとしてきたが、頭を下げ続ける。


 頼むから黙っておいてくれ。オレの身体を持つようにしてくれ、と頼む。


 今はコイツにすがるしかない。他に、すがる相手がいない。


 姉貴達はもういない。ファイアスターターも、もういない。


 竜国には頼れない。どこにも頼れない。


 エデンの中にも外にも、頼れる相手は――。


「信じてあげてください……! 頼ってあげてください! フェルグス君だけじゃなくて、皆の事を! 困っているなら……助けを求めてくださいよ……」


 頼ってるよ。


 お前ら以外、頼れる相手もいないんだ。


 でも、オレ自身が頼れなきゃダメだろ。


 オレに利用価値がなくなったら、お前らだって、オレを――。




■title:新暦1245年

■from:エデン総長・カトー


「戦う以外の道なんて、ない」


 それ以外の道なんて知らない。


 オレには闘争(これ)しかないんだ。


「この道が、正しいんだ。……勝てば『正しかった』と証明できる」


 皆、無駄死になんかじゃない。


 皆が生かしてくれたこの命で勝てば、きっと……。


「……勝つためには、手段を選ぶべきじゃない」


 過程なんて、どうでもいい。


 もう、どうでもいいんだ。


 他に手段はない。…………もう、時間が無い。




■title:新暦1245年

■from:エデン総長・カトー


「ようやく決断してくれたのね。プレーローマと手を組む事を」


「違う。お前達を……利用するだけだ」


 プレーローマもオレの敵だ。皆の仇だ。


 けど……今のままじゃ、交国への復讐すらままならない。


 だから、今は……仕方ないんだ。


「交国と人類連盟を倒したら……お前らの番だ」


「ふふ……。じゃあ、一時休戦という事で」


 手段を選んでいたから、エデンはダメになったんだ。


 今までの方法が間違っていたなら、変えなきゃダメなんだ。


 こうするしかない以上、オレは……オレが、間違っているわけじゃ――。




■title:新暦1245年

■from:エデン総長・カトー


「我らの救世主(メサイア)!」


「ありがとう! ありがとうっ……!」


「ははは……」


 笑いが止まらない。


 プレーローマから強奪したフリをして……単に譲ってもらった方舟を使い、ベルベスト連合の生き残りを救出する。


 皆、涙を浮かべて喜んでいる。オレを……オレなんかを救世主と褒め称えてくれている。全て……プレーローマの計画通り、上手くいってしまった。


「ははっ……」


 笑いが止まらない。


 ……ファイアスターターが今のオレを見たら、なんて言うかな……。


 けど、仕方ないだろ。


 オレにはもう、こんな方法しかないんだ。


 神器もない。時間もない。


 死ぬ前に復讐を遂げるには、もう、これしか――。




■title:新暦1245年

■from:エデン総長・カトー


「ヴァイオレット。子供達を教え導いてくれ」


 オレには無理だ。バカだし、資格もない。


「エデンに学校を作ってくれ」


 必要なものがあるなら、オレに言え。


 ラフマ達(プレーローマ)に要求して、何でも揃えてやる。


「子供達のためなら、何だって用意してやる」


 オレには……オレには、それだけの力があるんだ。


 オレはまだ、終わってない。


 オレには……まだ、出来ることがあるんだ。




■title:新暦1246年

■from:エデン総長・カトー


「竜国と交国が停戦した……?」


「ええ。随分と急な話だけどね」


 竜国にはレンオアム王達がいるとはいえ、いずれ負けるのは目に見えていた。


 何とか凌げていたのは、プレーローマの大規模侵攻の影響で交国が手一杯になったおかげもあるだろう。それでもいずれ竜国が負けるはずだったが……。


「交国としては、プレーローマに注力したいから停戦したって事か……?」


「それだけとは思えない」


 ラフマはそう言った。


 停戦の裏には、何者かの介入があったのでは――と言いだした。


「そうじゃないとおかしい。交国は竜国の混沌竜も欲しがっていた。生体兵器として欲していた。だから……プレーローマとの戦いが落ち着いている今のうちに、一気に戦力を投入して戦いを終わらせてもおかしくなかった」


 実際、そういう動きもあった。


 だが、停戦によって中断された。


「玉帝の指示か……?」


「そう。でも、本当に玉帝の意向だけだったのかしらね?」


「どういう事だ」


「今回の停戦、やけの黒水守の影がちらつくのよ」


「…………アイツに、玉帝を動かすだけの力はない。ありえない!」


 奴は所詮、ただの領主だ。


 神器が使えて、玉帝の子を妻にしただけの……大量虐殺者だ。


 それなのにラフマは黒水守を高く評価しているらしい。「彼は神器使いとしてだけではなく、政治家としても厄介になりつつある」なんて言いだした。


「彼はおそらく竜国との繋がりもある。竜国を守るために……玉帝と何らかの取引をして竜国を守った可能性がある」


「ば……バカなこと言うな」


「おそらく黒水守は、前から竜国を守るために動いていた」


 そのために<ロレンス>まで動かした。


 国際社会から孤立した竜国を干上がらせないために、<ロレンス>を使って物資を運び込み、守っていた――なんて言いだした。


「アイツはロレンス首領を殺した男だぞ!? ロレンスを動かせるはずが……ないだろっ……!?」


「あくまで可能性だけど、彼は未だにロレンスと繋がっている可能性が高い。……ひょっとしたら彼がロレンスの現首領かもしれない」


「そんなわけあるか!! アイツは、そこまでの器じゃないっ!!」


 そこまでの力はない。


 ただの領主が、アイツの限界だ。


 これ以上、権力を手に入れるはずがない。


「かつてのトモダチが立派な黒幕(フィクサー)になってて嫉妬してるの?」


「…………!!」


「彼は交国でも<カヴン>でも強い影響力を持っている可能性が高い。さらに竜達も従え……表向きの立場以上の権力を手にしている」


 ラフマがうっすらと笑い、「このままいけば玉帝の後継者になってしまうかもね」なんて言いだした。


 ありえない。ありえない、ありえない。絶対にありえない。


 アイツに、そこまでの事が出来るわけない。


「アイツは……アイツはっ! オレの後ろに隠れて怯えることしかできなかった、弱いヤツなんだっ! そんな立ち回り、出来るはずが……」


「ふっ……。何年前のことを言っているの?」


 ラフマはオレを鼻で笑い、したり顔で「まあ、信じたくないでしょうね」と言ってきた。


「自分はエデンなんて小山の大将。それも私達に支えてもらって……ようやく今の地位を守れている小物なんだから」


「だまれ! だまれぇっ!!」


 オレは、お前達に協力してやってるんだ。


 立場をわきまえろ――と言うと、ラフマは笑みを浮かべながら「そんなに怒らないでよ」と言ってきた。


「自分が救えなかったものを救われた嫉妬から、八つ当たりしないでくれる?」


「…………!!」




■title:新暦1247年

■from:エデン総長・カトー


「黒水守はゲットーを救う事が出来た。……でも、見捨てた」


「……ゲットーの件は、お前ら(プレーローマ)が引き起こして、玉帝が隠蔽しようとしたもんだろうが」


 ムツキは、カトーのオッサンの息子だ。


 あの人の息子が何の罪もない住民を……見殺しにするはずがない。


 そう言うと、ラフマは「罪はあったでしょ」と言った。


「エデンの生き残りがいたでしょ」


「…………」


「黒水守にとって、エデンは親の仇でしょ。……彼の父親の命を奪ったのはあなたで、彼の父親を見捨てたのはエデンでしょ……?」


「…………」


「あなたが両親の仇討ちのために加藤睦月を殺そうとしたように、彼が父親の仇討ちのためにエデンの関係者を見殺しにするのは……当然のことじゃない?」


「……違う。そんな、はずは……」


 アイツは、弱虫なんだ。


 ホントは、虫一匹殺せない奴なんだ。


 でも、プレーローマが無理矢理――。


「逆の立場なら、やるでしょ?」


「…………」


「ゲットーを見捨てる口実は交国が用意してくれていた。プレーローマとの前線での対処を優先しないといけないって口実を用意してくれたんだから……後はもうそれに乗ってゲットーを見捨てるだけ」


 それは上手くいった。


 ナルジス達は、ゲットーで死んだ。


 何の罪もなかったのに――。


「そして彼は、あなたも殺そうとした。あなたを交国に処刑させようとしたし……ファイアスターター達による奪還作戦も邪魔してきたでしょう?」


「…………」


「今も昔も変わらず、彼はあなたの復讐対象なのよ」


「…………」


「彼をやらなきゃ、あなたはいま以上に奪われる事になる。……それでいいの?」





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