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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.5章:砂の王冠【新暦1239-1250年】
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過去:信頼できる部下



■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「なあ、何でナルジス達と手紙のやりとりしか出来ないんだよ」


 これはこれで味があるが、通信ぐらいさせろよ――と副官に訴えると、「作戦行動中です」と言われた。


「私用の通信で我々の位置が敵に気取られたら、作戦が失敗しかねません。特佐として自覚を持ってください」


「作戦行動っていっても、今回はケチな盗人共をこらしめるだけじゃねえか」


 特佐は玉帝に近い地位のはずだが、存外……制限が多いらしい。


 オマケにオレは一部の特佐と違って、捜査権限も与えられていない。命令通りに戦地に向かってバーッと敵を倒すだけ。こんなのオレじゃなくても出来るだろ。


 そう言うと、副官は厳しい目つきをしつつ、「弱ってしまった貴方では、難しい任務は無理でしょう」なんて舐めた事を言って来やがった。気に入らねえ。


「それより、この時間を活かして礼儀作法の習得を――」


「勘弁してくれ! それこそ作戦行動に関係ねえだろ!?」


「貴方のためなんです……! このままでは皆に蔑まれたままですよ!? 特佐らしい品位を身につけてくださいっ……!」


 オレは軍人だ。軍人になったんだ。


 軍人に重要なのは戦果だろ。社交界の立場とかどうでもいいだろ。




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「出撃を許可できないだと!? ふざけんな! 難民を見捨てるつもり――」


 上への通信を、副官が勝手に終わらせやがった。


 食ってかかると、厳しい目つきで「自分の立場をよく考えてください」なんて言ってきた。考えているからこう言ってんだろうが。


「オレ達は、交国軍だぞ!? 軍人として弱者を助けるべきだろ……!?」


「冷静に……なってください。我々は難民救助に来たわけではないのです。対プレーローマ作戦のために隠密行動中なんですよ? いま出ていけば――」


「このままじゃ、難民達が死んじまうだろうが!?」


「アレは罠です!! 交国軍人(なかま)の命を優先してくださいっ!」


 宗像長官に気に入られている副官殿は、随分と外道のようだ。


 難民より我が身の方が可愛いらしい。「私達まで倒れたら、誰も救えなくなるんですよ」なんてもっともらしい事を言っているが、ようは怖いだけだ。


「テメエはオレの副官だろ? オレの命令が聞けないのか!?」


「貴方の上官である宗像特佐長官の指示なんです……! 我々は別命あるまで待機するよう言われているんですよ……!?」


「こういう事は、現場の人間が柔軟に判断するべきだろ!? 交国本土でぬくぬくやってる長官や玉帝に、現場の何がわかるって言うんだ!!」


「いっ、今の発言は改めるべきです……! 玉帝も長官も、大局を見据えて動いているんです。貴方個人の感情を組織に持ち込まないでください……!」


「よしよし、わかった。じゃあ、オレだけ行く」


「やめてください! 他の部隊どころか、貴方自身の立場が――」


 うっとうしい副官を振り切って、難民達のところに向かう。


 待ってろ。いま助けてやる……!




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


『カトー特佐。あなたの愚行によって作戦は失敗しました』


「……オレが動かなければ、何の罪もない難民達が死んでいた」


『何の罪もない? テロ組織を支援していた者達ですよ?』


「そう……だとしても、子供達には何の罪もないだろ!?」


 見捨てれば良かったのか?


 オレを咎めてくる玉帝にそう言うと、「勝つことすら出来なかったあなたを、誰が『正しい』と認めるのですか」なんて言葉が返ってきた。


『カトー特佐。あなたはもう交国の軍人なのです。命令に従いなさい。……命令に従わない将兵には何の価値もありません』


「アンタらが正しい判断をしたら従ってやるさ!」


『話を聞いていましたか? 今回はあなたの所為で負けた。あなたの判断が間違っていたという事です』


「オレは――」


『難民達も結局、殆ど死んでしまったではないですか』


「…………」


『カトー特佐。あなたは期待以下の成果しか上げていません。これ以上、評価を落とす行動をするなら我々もあなたの扱いを変えなければなりません』


 オレは間違ってない。


 オレが動いてなければ、もっと多くの難民が――。




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「アンタがカトーか?」


「ああ……。なんだ、お前――」


「クソ野郎がッ!!」


 いきなり知らない交国軍人にブン殴られた。


 尻餅ついて倒れると、副官が悲鳴のような声をあげて駆け寄ってきた。周囲の軍人達も血相を変え、オレを殴ったバカを拘束し始めた。


「な、なんだお前……。何様のつもり――」


「テメエが上の指示を破った所為だ! テメエが勝手に動いた所為で作戦は失敗した!! テメエの所為で、俺達の上官が……!!」


「…………」




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「カトー特佐殿はハズレ流民か」


「所詮、流民だ。猿を特佐にした方がマシだろう」


「それはさすがに過言だ。だが、投資に見合う活躍はしていない。むしろ問題ばかり起こしているようだ」


「黒水守とは大違いだ。奴は流民のくせによくやっている」


「テロ馬鹿と、したたかに戦果を積み上げて玉帝の子を妻に迎えた領主では比較対象にならないでしょ」


「同じ流民、同じ神器使いなんだがなぁ。何故ここまで差がついたのか」


「…………」




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


『オジさん! 元気にしてた?』


「おう、ナルジス。もちろん元気にしてるぞ!」


『…………。危ない事してない? ちゃんと自分を大事にしてる?』


「心配しなくていい。オジさんの強さは知ってるだろ?」


『うん……。でも、心配だよ』


「大丈夫だって。オジさん、これでも軍で結構活躍してるんだぜ? メチャクチャ戦果をあげてるから……そのうち交国の領主になれるかもな!?」


 そう言うと、ナルジスは「スゴい」と言って笑ってくれた。


 それが作り笑いに見えた。ナルジスがオレにウソをつくはずがない。……でも、オレを気遣って無理して笑うって事はあるかも――。


「もう少し……もう少しで、お前達を学校に行かせてやれるから」


『そんなこといいから。私達の事なんていいから……』


「オレを信じてくれ。たのむ……」


『信じてるよ? 信じてるけど……でも、心配なんだよ……』


「…………」


『オジさんは優しいから、1人で何でも背負い込んじゃう。エデンの時は皆がいた。ニュクスお母さんに何でも相談できたし、危ない時はファイアさんも助けてくれた。カトー隊の皆もいて……ウカ姉やホイストさんもいて……オーキ兄達もオジさんの傍にいてくれた』


「…………」


『でも、いまは誰もいない。誰も……オジさんの傍にいないでしょ? だから……だから私、心配で……』


「大丈夫だって」


『さびしくない? 心細くない?』


「おいおい、オレは大人だぞ? それはさすがに舐め過ぎだ」


 心配しないでくれ。


 オレは大丈夫なんだ。


 そんな……子供を見るような目で見ないでくれ。


「確かに今、エデンの仲間は誰もいない。……いなくなっちまった」


『…………』


「けど、交国で新しい仲間も出来たからさ」


『ホント?』


「お、おうっ! 信頼できる……部下もいる。だからオレは大丈夫だよ」




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「宗像長官の指示に従ってください。カトー特佐」


「長官の指示? 違うだろ。副官(おまえ)の指示だろ?」


「…………」


「現場にいない宗像の野郎が、ここまで細かに指示できるはずがない。お前が『長官の命令』と言い張って、自分の考えをオレに押しつけているだけだ」


「……その許可もいただいております」


 邪魔をするなよ。


 手柄を立てるのはオレだ。オレばっか戦わせておきながら、戦果を掻っ攫っていくつもりなんだろ? オレは……オレは、ナルジス達を学校に行かせなきゃいけないんだ。


 オレの価値を、皆に認めさせてやらないと――。


「貴方が長年、プレーローマや大国相手に戦ってきたことには畏敬の念を抱いています。国際社会が認めなかっただけで、貴方は『英雄』と呼ばれるに相応しい活動をしてきた。そんな貴方だからこそ、私は志願して付き従っているんです」


「世辞が下手クソだな」


 オレを手のひらの上で転がしたいなら、もっと上手くやれよ。


「…………。貴方は英雄です。でも、交国軍のやり方は理解していない。貴方が力を振るいやすいよう、私が補佐しますからもっと信じて――」


「オレはお前の出世の道具じゃねえ!!」


 副官のくせに、上官に指図してんじゃねえ!!


 宗像のお気に入りだからって、何でもかんでも通ると思うなよ!?


「このままだと、特佐の立場がもっと危うく――」


「黙れ。これは命令だ」




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


『黒水守からの通信です。話がしたい、とのことですが……』


「カトー特佐は多忙だと伝えろ。領主サマより忙しいんだ」


『……特佐といえども、領主からの連絡を無視するのはどうかと……。しかも、相手は石守素子様の夫――』


「お前の上官は誰だ。黒水守か!? 違う! オレだろ!!?」


『…………』


「あのクソ副官のように、『貴方のため』『交国のため』とかいいながらテメエの考えを押しつけるつもりか!? オレはお前らの操り人形じゃないッ!!」


『……ハァ。はい、わかりました。わかりましたよ。特佐の言う通りにします』


「テメエ、上官に対してなんだその口の利き方――――あ、おい! クソッ……! どいつもこいつも……!!」





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