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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.5章:砂の王冠【新暦1239-1250年】
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過去:欠陥部品



■title:新暦1239年

■from:カトー


「交国に頼る!? 正気か!?」


「仕方ないだろ……」


 ファイアスターターに今後の事を話す。


 もう、交国に頼るしかない。交国に賭けるしかない。


 このままじゃ……ナルジスまで死なせてしまう。


 それは絶対ダメだ。これ以上、失ってたまるか。


「オレ達だけでエデンを守っていくのは不可能だろ?」


「吾輩達が何のために戦ってきたと思っている!? プレーローマに抗うだけではなく、交国のような大国の横暴に抗うためだろう!?」


「…………」


「交国は竜国の敵でもあるんだぞ!?」


「だから……! オレ達が交国に行って、玉帝と交渉するんだよ!!」


 竜国の安全も、オレ達で買うんだ。……責任を取るんだ。


 竜国と交国の戦争を直ぐに止められないとしても、交国を内部から変えていけばいい。何とか戦争を止めるには、もうその手しかない。


「交国に行けばナルジス達も死なせずに済む! このままじゃ、全員死ぬ」


「交国の軍門に下れば、死んでいった仲間達が抱いていた志が死ぬ! 交国に行くという事は、エデンの敗北を意味するんだぞ!?」


「何が志だ……。何が組織だ! そんなものより大事なものがあるだろ!?」


 大事なのは人間だ。


 いま生きている人間だ。


 ナルジスを守れるなら、エデンなんてどうでもいい。


「エデンがそんなに大事か!? オレ達は負けた! 何もできなかったんだよ……! エデンが存在した意味なんて無かったんだ!!」


「なっ…………」


「オレ達に出来るのは、生き残った皆の命を繋ぐ事だけ。玉帝の靴を舐めてでも、皆を生かす事だけだ」


 他に何ができる? 何も出来なかったオレ達に、何ができる?


 結局、強者に媚びるしかないんだ。それが一番無難なんだ。確実なんだ。


 仕方ないんだ。悔しくても、そんな気持ちだけじゃ皆を助けられない以上……力に屈するしかないんだよ……。


「それに……交国に行けば、交国軍の力を借りることもできる! エデンみたいなちっぽけな組織でプレーローマと戦うより、交国軍の力を借りた方が仇討ちもやりすくなる! そうだろ!?」


「エデンは負けてない。負けたのは……貴様だ」


 ファイアは静かな声色でそう言ってきた。


 溶岩のように吹き上がりそうな怒りを押さえつけているような様子で、そんな言葉だけを絞り出してきた。


「我々が負けを認めなければ、エデンは――」


「そんなくだらん事に拘って、皆と心中するつもりか?」


「…………。もう、お前にはついていけん」


「…………」




■title:新暦1239年

■from:カトー


「カトー総長代理。あなたにはもう、ついていけません」


「そうか」


「あなたは負け犬です」


「そうか。じゃあ、好きなところに行っちまえ」


 ファイアスターターと一緒に行っちまえ。




■title:新暦1239年

■from:カトー


「オジさんっ……オジさんっ!! ファイアスターターさん達、ホントに行っちゃうよ!? 止めなくていいの!?」


「ああ。好きにさせてやれ」


 出来ればファイアスターターにも交国に来てほしかった。


 神器使いが2人いたら、その分交渉しやすいからな。……今のオレじゃアイツに勝てない以上、無理矢理連れて行く事も出来ない。諦めるしかない。


「交国に行く意思がある奴は、オレが連れて行く。……破損しているとはいえ、オレの神器はまだ使える」


「でも……でもっ……! ファイアさんは、オジさんの一番の友達なんでしょ!? ずっと一緒に戦ってきた戦友なんでしょ!?」


「…………」


「このままじゃ、大事な友達とケンカ別れすることに――」


「オレはアイツより、お前達の方が大事なんだ」


 ファイアスターターとは、もう同じ道を歩めない。


 エデンはもう終わったんだ。……でも、ナルジス達はまだ生きている。


 ナルジスだけは守ってみせる。




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「ようこそ、交国へ。我々はキミ達を歓迎する」


 宗像の案内で交国領に足を踏み入れる。


 宗像は「ファイアスターターが交国に来てくれなかったのは残念だが」とチクリと刺してきた。だが、オレ達を受け入れてくれるらしい。


「キミだけでは、エデンの生き残りに十分な支援は用意できない。ただ、今までよりずっと恵まれた生活が送れるよう配慮しよう」


「ああ……。わかってる。よろしく頼む」


「キミには特佐として動いてもらう」


 そう言った宗像が、1人の交国軍人を紹介してきた。


 どうやら特佐(オレ)の副官らしい。宗像は「まだ若く、キミほど経験豊富ではないが優秀な人材だ」なんて紹介してきた。


「今後、指示は副官に伝えておく。それを聞いて動いてくれ」


「……オレの方が上官になるんだろう? 直接、オレに言うべきじゃないか?」


「キミは経験豊富な戦士だが、軍人としての経験は乏しいだろう? 交国のやり方も馴染みがないだろうから、当面は副官の指示で動いてくれ」


 実質、副官(そいつ)の部下扱いか。


 おかしな話だ。文句を言いたくなったが――交国にはナルジス達を助けてもらう事になるし――グッと堪える。


「それと、副官が教育係も務める」


「教育係だぁ……!?」


「今後、キミは特佐として動く事になる」


 公の場にもよく出る事になるから、立ち振る舞いやテーブルマナーの学習が必要になる。それを学ぶためにも、教育係を兼任できる副官を選んだと言われた。


 流民のお前は品位がないから、副官に世話してもらえという事らしい。癪に障るが……この程度の屈辱、ガマンしてやるさ。


 そんな事より――。


「宗像長官。竜国の件について相談が――」


「悪いが、私はこれから会談の予定がある。その件は副官経由で報告してくれ」


「…………」




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「アレが新しい特佐か」


「ゴミ捨て場を漁っていたらしいぞ。さすがは元流民だ」


「オマケに元テロリストか……。あんなのに特佐が務まるのか……?」


「加藤睦月のような優秀な流民の例もある。同じ神器使い、そして名前も同じというのはなかなか期待できるかもよ?」


「奴のような曲者とは思えんがな……。所詮は泡沫組織の死に損ないだろ?」




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「特佐! カトー特佐っ……! お願いですから、やめてください!」


 ゴミを漁っていたら、副官が焦り顔で声をかけてきた。


 ゴミを漁るなんてみっともない事はやめてください、と言ってきた。


 誰の所為だと思ってるんだ。


 交国が用意した使用人が、オレの荷物をほぼ全て捨てたのが悪いんだろ。それを探してるだけだろ? 姉貴や皆の形見もあったのに、ゴミ扱いしやがって……!




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


『おい、カトー……! 話が違うぞ!? 私達は誇りあるエデン構成員として、相応しい扱いを受けるはずじゃ……!』


『交国の一等地での暮らしは? 金は? 何で農園で働かないといけないんだ!』


「そこまで厚遇されるわけないだろ……。交国が最初に提示してきていたのは……神器使い2人が交国の軍門に下った場合のものだ」


 ファイアスターターは交国には来なかった。


 部下達を連れ、エデンを去って行った。だから……仕方ないんだ。


 飢え苦しまず暮らしていけるだけ、有り難いと思ってくれ。


 そう言うと、エデンの生き残り達は「じゃあファイアスターターを捕まえてこい!」「責任を取れ!」と言ってきた。


『ファイアスターターを……逃げたクズ野郎を捕まえてこい!!』


「アイツは逃げたんじゃない!!」


 アイツは、アイツなりにエデンを守ったんだ。


 エデンの誇りを守ろうとしたんだ。


 そう告げると、通信先からはあきれ果てた様子の声が返ってきた。


『何を言ってるの。守るべきは私達のような、可哀想な流民でしょう?』


「…………」


『助けた以上、最後まで責任持ちなさいよ。愚図っ!』


「…………」




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「ごめんな、ナルジス」


『お願いだから、もう謝らないで……。オジさんは何も悪くないんだよ?』


「お前達を、学校に行かせてやる事すら出来なかった」


『いいの。私は全然いいんだよ……』


 オレだけじゃあ、お前を救ってやれないらしい。


 オレの神器は、思っていた以上にダメになっていたようだ。何とか使えるが、神器としては下の下のものになってしまった。


 交国側もここまでヒドい状態だと思っていなかったらしく、演習でオレの神器を改めて見せると明らかに落胆していた。……宗像は観戦を中座するほどだった。


 オレがもっとマシな状態なら、ナルジスを交国本土に住まわせる事も出来たはずだ。何1つ苦労させず、良い生活をさせてやれたのに……。学校すら行かせてやる事ができないなんて……。


 優しいナルジスは、オレが謝るたびに「オジさんの所為じゃない!」と言ってくれた。オレがすっかりザコになっちまった所為なのに、本当に優しい子だ。


 こんなはずじゃなかった。


 身体の傷が癒えれば、もっとマシな状態に戻ると思っていた。


 ここまでダメだったとは、思わなかったんだよ。


 そう言っても、ナルジスは慰めてくれるんだろうなぁ。


 ……これ以上、情けない姿を見せたくない。


『お願いだから……これ以上、自分を責めないで。オジさんのおかげで、私達は生きているの。オジさんにはもう十分すぎるほど助けられたんだよ!?』


「すまねえなぁ……」


『お願いだから、自分を大事にして……。もう、戦わないで』


 それはダメだ。


 お前達の生活のためにも、オレは戦わないと。


 マーレハイトで散っていった仲間のためにも、オレは戦わないと。


 カトーのオッサンのためにも……戦わないと。


 オレは未だ、何も出来ていないんだ。




■title:新暦1240年

■from:交国軍特佐・カトー


「カトー特佐。貴方に面会を希望している領主がいます」


「オレに? 誰だよ」


「黒水守の石守睦月様です」


「…………。面会は絶対、応じなければいけないのか? 玉帝の命令か?」


「いや、そういうわけでは……」


「じゃあ、いいだろ。会わなくていい」


 奴の考えはわかる。領主の立場からオレを見下すつもりなんだ。


 奴は絶対、オッサンの件でオレを恨んでいる。


 奴はもう交国で成功している。成功者の立場でオレを侮辱するつもりなんだ。


 今は会いたくない。絶対、イヤだ。……これ以上、惨めな思いをしたくない。


「見てろ。オレは、絶対……交国で出世してやる」


 アイツから見下されないぐらい、上にいってやる。


 ナルジス達に良い暮らしをさせてやる。


 そして、プレーローマにも復讐してやる。


 オレは、オレは……まだやれる。まだ戦える。





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