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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.1章:彼の役目【新暦1239-1250年】 
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過去:お前のため



■title:平和な<ネウロン>にて

■from:


「…………」


 聞こえる。今日もいつもの声が聞こえる。


 言い争う声が家の中から聞こえる。


 パンッという音で、やっと静かになった。


 いつものお話が終わった合図だ。立ち上がり、扉の前で待つ。


 すると、家の中から出てきた人が「さあ、訓練の時間だ」と言った。


 言い間違えないよう気をつけて、「はい、教官」と返すと、教官は満足そうに頷いた。そしてボクの手を引いて歩き出した。


 半開きの扉から「■■をあなたの復讐に巻き込まないで」という声が聞こえた。ママの声だ。でも、教官は無視した。


 ママはボクが訓練をするのがイヤみたい。


 だから、いつも教官とケンカしていた。


 当然、いつも教官が勝っていた。勝っていたけど……2人のケンカはとても怖いから、ボクは耳を押さえ、目を閉じて待つようになった。


 それでも声は聞こえてくるから、ママに「ケンカしないで」とお願いした。ママは「わかった」とは言ってくれなかった。ただ、ボクを抱きしめてくれた。


 教官にもお願いした。


 ママとケンカしないでって。


 ボク、訓練いっぱいがんばるからって――。


「…………。私も、好きでケンカしているわけじゃない」


 うん。


「お前達、ネウロン人のためなんだ! お前達を強くしないと、交国がこの世界を蹂躙してしまう。貪欲な侵略者である交国は、いつかネウロンにもやってくる!」


 うん。


 交国(こーこく)。悪いやつら。


 だから、ボクは訓練をしている。


 交国をやっつけられるように。


 教官みたいに、強くなれるように――。


「そうだ。強くならないと、母さんもお前も守れない。お前自身にも強くなってもらう必要がある。……交国が来た後で慌てても遅いんだ」


 教官はそう言い、いつもの話をしてくれた。


 交国がどれだけ恐ろしくて、ヒキョーで、倒すべき相手かを。


 教官はネウロンの事を心配している。ここの人々は平和ボケしすぎている。交国の脅威をまるで理解していない――とグチっていた。


「お前も訓練が必要だとわかっているだろう?」


 うん。


「交国は悪だ! 悪を殺すのがお前の役目だ!!」


 うん。


「それがお前の生まれた意味なんだ。私達は交国を倒すために生まれたんだ!」


 ボク、大丈夫だよ。


 ボク、ちゃんとできるよ。


 だって、ボクはパパの息子だもん。


 訓練中だけど、つい、教官と言わなかった事を「怒られる」と思った。


 けど、教官は笑っていた。いつもならゲンコツだけど、ボクが教えられた通りにしゃべっているから、機嫌が良いみたい。


「うん、うん……。さすがだ。お前はロイとは違う。あの臆病者とは違う。あの意気地無しのクズに、お前の脳みそを移植してやりたいぐらいだ!」


 機嫌が良くなった教官は、ボクの頭をワシャワシャと撫でた後、「昨日の訓練の続きをするぞ」と言ってきた。


 昨日は銃の訓練だった。


 ボク、あれ苦手……。


「苦手だから訓練するんだ。さあ、銃を持って、構えて!! 的を狙え!!」


 教官に言われた通り、銃を構える。


 けど、あんまりうまくいかなかった。


 うまくいかないと、教官はどんどん不機嫌に戻っていった。


 やだな。やだな。やだな……。


 ボクは交国みたいな悪いやつをやっつけるために産んでもらったのに、それができないと、産んでもらった意味がなくなる。


 パパがボクのこと、イヤになっちゃう。


 強くならないと。


 ボクが強くなれば、ママも心配しなくなる。ケンカしなくなる。


「チッ……。弾の無駄だな……」


 ごめんなさい……。


「お前は腰が引けている。覚悟のない証拠だ。……そんな事でどうする」


 ごめんなさい……。




■title:平和な<ネウロン>にて

■from:


「■■■■■、コレの世話をしろ」


 教官がウサギさんを捕まえてきた。


 それのお世話をするのが訓練だと言われた。


 不思議だけど、訓練ならがんばらなくちゃ!


「さすがにこれぐらいは出来るだろ?」


 うん。うんっ!


 できるよ!


 ボク、うさぎさんを守るよ。


 名前、ボクがつけていい?


「…………。ダメだ」




■title:平和な<ネウロン>にて

■from:


「訓練の時間だ。■■■■■」


 はい! 教官っ!


 …………?


 教官、なんでウサちゃんも連れてきたの……?


「コイツを撃ち殺せ」


 …………。


 …………なんで?


「お前は戦士として、たくさんの敵を殺さなきゃいけないんだ」


 ウサちゃんは敵じゃないよ……?


「戦士は、命を奪う事にもなれなきゃいけないんだ。戦場では……残念ながら、裏切りも起こる。いつでも誰でも殺す覚悟が必要なんだ。勝利のためにな」


 でも……でもっ……。


 ウサちゃんは、とても、いいこで……。


「撃て!!」


 ぅ…………。


「撃てッ!! ■■■■■!! これは、お前のための訓練なんだぞ!?」


 や……やだっ、やだっ!!


「あっ……!! お前!! バカ野郎!! 逃げるなッ!!」




■title:平和な<ネウロン>にて

■from:


 ダメ。


 ボクといっしょにいちゃだめ。


 来ないでっ! だめっ!!


 もう、キミと仲良くなれないのっ!


 ボクら、敵同士になったのっ!


 来ちゃダメって言ってるでしょっ!!


 おねがいだから、ばいばいさせて……。


 おねがいだからぁ~……!


 ごめん、ごめん……。


 ずっと、ずっと、守ってあげられなくて…………ごめん……。




■title:平和な<ネウロン>にて

■from:


「お前にはガッカリした」


 ……ごめんなさい。


「殺すべき時に殺せないと、自分どころか味方の命も危うくするんだぞ!? 私の息子のくせに!! なんで私と同じ覚悟を持てないんだ!! 役立たず!!」


 いたい。いたい、いたいっ。


 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


「あなた……? あなた!? ■■に何をしているの!?」


「女は黙っていろ!! これは、この子のために必要な教育なんだ!!」


 パパとママがまたケンカしている。


「これは、■■■■■のためなんだ!!」


 ボクのせいだ。


 ボクが、役立たずだから。


 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。


 なんで、ボクはこんなにダメなんだろう。


 なんで……。




■title:平和な<ネウロン>にて

■from:


「…………」


 ねえ、ママ、どこにいくの?


 おウチ、帰らないの?


「……あのね。私達は、お父さんのいないところに行くの」


 …………?


 なんで? 訓練しなきゃ――。


「あの人といると、貴方が壊れてしまう」


 ボク、へーきだよ。


 ボク、教官の命令、がんばって守るよ。


 悪いやつらをやっつけなきゃ、ママもみんなも危ないんだよね?


 ボクが、ネウロンを守るんだっ!


 そんで、そんでっ……今度は、教官にガッカリされないように――。


「聞いて、■■■■■。これは、貴方のためなの……」


 なんで?


 教官もママも、ボクのためって言ってる。


 それなのに、やってること違う。


「あの人は……おかしいのよ。父親の資格なんて、なかったの……」


 ケンカしないで。


 ボク、やだよ。ママとパパがケンカするの。


 ボク、強くなるから。心配させないから――。


「強くならなくていいの。優しい子になってくれれば、それで――」


 強くならないと、パパは喜んでくれないよ。


 ケンカしないで……。




■title:魔物が跋扈する<ネウロン>にて

■from:


「■、■■■■■……!? お前、何でここに……!」


 交国軍が、攻めてきたんでしょ?


 ボクも戦うっ!


 この時のために、パパ……教官は、訓練してくれたんでしょ?


「いや、お前は……アイツと……レミと逃げたんじゃ……」


 戦わなきゃ、みんな死んじゃうんでしょ?


 ボク、守るよ。ママのことも、みんなのことも。


 教官といっしょに、悪いやつらやっつける!


「あ…………。あぁ……」


 もう、にげないから。


 言うこと、ぜんぶ聞くから。


 いっしょにいてもいいよね?


 ねっ?


「…………。…………すまん」





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