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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.0章:その正義に、大義はあるのか
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XはYでありZである



■title:混沌の海にて

■from:自称天才美少女史書官・ラプラス


「もう直ぐ交国本土に到着ですかね~?」


 ネウロンでエデンの皆様と戯れていたところ、ヴァイオレット様とカトー様がコソコソと交国本土に向かってしまった。


 正確にはカトー様がヴァイオレット様も強引に連れて交国本土に向かってしまった。おそらく彼女をネウロンに残していたらネウロンにいるエデン構成員が説得され、自分から離れていくのを恐れたのでしょう。


 とにかく何かありそうなので追いかけねば……! と張り切っていたところ、私達と同じく置いていかれたアラシア隊の皆さんも「交国本土に向かう」と言いだしたので、その方舟に便乗させていただく事に。


 えっちらおっちらと混沌の海を方舟で進み、ぼちぼち交国本土に着く頃合いです。何が待ち受けているかワクワクしながら考えつつ、船内の散歩中。


 そうしていると、方舟の一角からため息が聞こえてきました。


 何か面白い問題が起こったのでは――と思いながらテクテク歩いて行くと、バレット様が艦橋でため息をついていました。


「どうしてため息を?」


「いや、交国本土に着いたら総長に怒られるかなー……と思ったら、少し憂鬱になってさ」


「この方舟は交国本土に向かったカトー様達への補給物資を運搬しているのでしょう? 感謝されても怒られる事はないのでは?」


 そう言うと、バレット様はバツの悪そうな顔を浮かべつつ、「そもそもアラシア隊(おれたち)はネウロンで待機命令出てたんだよ」と仰りました。


 スアルタウ様とレンズ様が不在のため、アラシア隊は戦力低下中。そんな部隊を重要な作戦には参加させられない――という名目でカトー様はアラシア隊に待機命令を出していたようです。


 怒られるの心配なら今からでも帰りますか――と聞きましたが、さすがに物資運搬の仕事を放り出すつもりはない様子。


「アルとレンズのこと心配だし……ヴィオラ姉とタマも心配だしさ……。そもそも総長達に物資を届ける仕事もあるし、さすがにここで帰らねえよ」


「ですよね~。……ん? 待機命令が出たのに、物資運搬の仕事を請け負っているって、おかしくないですか?」


「あぁ、それは――」


「物資運搬を任されていた部隊の奴らが、全員(・・)腹痛で倒れたんだよ」


 バレット様の代わりに答えたのは、アラシア隊の長であるチェーン様でした。


 本来、物資運搬の任務を請け負っていた人達が全員倒れたなんて、な~んかおかしいですねぇ――と聞くと、チェーン様は苦笑だけ返してきました。


 カトー様達を追うために、無理矢理来たって事なのでしょう。安否不明のレンズ様達がそれだけ心配されているのか、はたまたカトー様がそれだけ信用ないのか……。どっちもですかね?


「バレット。お前は何も心配しなくていい。物資運搬の仕事を無理矢理奪ったのは隊長であるオレだ。総長に怒られるのはオレだけだよ」


「でもさぁ~……」


「お前だってレンズやアルの事は気になるだろ? ……ヴァイオレットはともかく、総長とバフォメットの動きも怪しいからな」


 チェーン様達は、カトー総長が「裏で何かやっている」と疑っている様子。


 大正解なのですが私が言う必要はないので「仲間想いですね」とだけ言っておく。拍手も付け加えておきましょ。パチパチ!


「ちなみに、さっき面白いニュースが入ってきたのはご存知ですか?」


「「面白いニュース?」」


「<エデン>が黒水を襲撃したそうですよ」


 ギョッとしているお二人に、携帯端末を見せて差し上げる。


 他のアラシア隊の皆様もやってきて、皆様が慌ただしく事実確認を開始した。方舟の艦橋がにわかに騒がしくなっていく。


「この事件で交国本土は封鎖状態になったようですねぇ。正規の経路では出入り出来ませんよ」


「総長とバフォメットの仕業か!! アイツら、やりやがったな!?」


 チェーン様は「いつかやらかすかも」と思っていたのか、怒り顔を浮かべていました。ただ、バレット様は予想していなかったらしく、愕然としています。


「いや、ありえねえだろ。交国の土地といっても、黒水って……軍事基地とか別にねえんだろ? 一般人が暮らしている土地だろ? そこを襲撃って……」


「残念ながら、かなり派手な襲撃だったようです。一般人も多数死んでいます」


 私の言葉だけではなく、自分達でも情報を掴んだアラシア隊の面々はお通夜状態です。「弱者の味方」であるはずのエデンが、民間人の虐殺やっちゃったわけですからねぇ。


 プレーローマと手を組むほど手段を選ばなくなったカトー様なら「いつかもっとヤバいことするでしょうね~」と思っていましたが、ここまでやるとは!


 カトー様達が先走った事とはいえ、ここまでの事をやったら世間のエデンを見る目はもっと冷たくなるでしょうね。


 今まで支持してくれていた人達ですら、「所詮はテロリストだったか」と落胆し、冷たい視線を注いできそうです。


 まあ……カトー様はもう、ホントに後先考えなくなっているんでしょうけどね。


「それと交国本土近海でも爆発があったようです」


 私達がいるのとは反対側で起こった事なので、航行に大きな影響はなさそうですが……爆発が起こった地点は相当、混沌の海(うみ)が荒れたようです。


 爆発が起きたのが黒水襲撃事件の直前なので、ひょっとしたら関係あるかもですね。例えば黒水守の関係者が襲撃されたとか――。


 という予想を話すと、アラシア隊長は苦い表情を浮かべ、「その爆発にも総長が関わっているかもな」と呟きました。


「しかし、ここまでの大事件があったとなると――」


「交国本土への侵入は、かなり難しくなりましたね」


 元々、交国本土に入るのはとても難しい事でした。


 カトー様達ですら真っ当な手段では黒水に辿り着くのは不可能だったでしょう。……交国側の手引きか、強硬手段か、はたまた両方を使ったはずです。


 交国本土で厳戒態勢が敷かれ、方舟の出入りも厳しく制限されている以上、通常の経路から交国本土に入るのはほぼ不可能になりました。


「界外から無理矢理、海門(ゲート)を開いて強行突破するのも手だが――」


「それやると交国軍に直ぐ見つかるでしょうね」


 最悪、交国軍の基地に飛び出ちゃう可能性もあります。


 入って直ぐに出れば、混沌の海に紛れて逃げられる可能性もありますが……界内から誰か救い出して逃げるのはほぼ不可能でしょう。


 状況が一層悪くなった事でアラシア隊の皆さんの間に重い沈黙が流れ始める。さすがのエノクも彼らを気遣い、お茶を淹れてきてくれて…………いや、自分のお茶だけ淹れて、隅っこで飲み始めました。気配り下手!


「総長にはバフォメット殿も同行してましたよね? あの人……総長を止めなかったんでしょうか……?」


「止めなかったんでしょ。あの人はあの人で何か企んでいるようだし」


「一般人が多数いる市街地を襲うなんて無茶苦茶だ……!」


 バフォメット様もやるときはやるでしょう。


 ネウロンでも散々、市街地で戦闘してましたからね。契約者の妻子を探すため、一般人への被害は極力避けるようにしてましたけど。


 アラシア隊の皆さんは、さらに詳しい状況を調べるためにカトー総長達に連絡を取ろうとしていました。ですが連絡が通じないようです。


 カトー総長達はおそらく、交国本土で潜伏しているでしょうから……交国軍に見つからないためにも連絡を極力断っているのでしょう。


「本土から逃げ出す気がないなら、もっとスゴいことやらかすかもですねぇ」


「もっとスゴいことって……。まさか、玉帝を襲撃するとか!?」


「それは…………有り得ないとは言えないか。一般人が多数いる黒水を襲撃する方がもっと有り得ない。玉帝襲撃なんて成功するとは思えないが……」


「ヴァイオレット嬢にも連絡取れねえんですか?」


「駄目だ。ヴァイオレットもタマも、まったく連絡が取れねえ」


 頭を抱えているアラシア隊の皆さんに、「バフォメット様と連絡を取る方法ならありますよ」と告げる。


 すると、皆さんが飛びつくように私の傍にやってきた。


「あるのかよ! 状況がわかるなら、バフォメット相手でもいい! その連絡方法を教えてくれないか!?」


「私が持っていた龍脈通信用の端末、バフォメット様に2つ渡していたのですよ」


 予備含めて2つ渡していたのです。


「そちらに連絡を取ってみたのですが、応答しませんね」


「結局、連絡取れねえのか……。バフォメットに何かあったのか、総長達と同じく潜伏しているのか……。まあ、後者かね」


 連絡が取れたら教えてくれ――と言われたので、「気が向いたら」と返す。


 するとちょうど、私の通信機が着信を知らせ始めました。


 皆さんは噂のバフォメット様から連絡がかかってきたと考えたらしく、私に注目してきましたが――。


「バフォメット様ではありません。雪の眼の同僚からです」


 そう断り、エノクと一緒に艦橋から出て通信に応じる。


 どうやら私が捜索依頼をかけていた御方と、ウチの同僚が接触成功したようです! これは朗報。一連の事件にも関係ありそうな御方なので、話を聞かないと。


 船室に戻り、映像も表示して通信を繋ぐ。


 すると、気怠げにしている男性への通信が繋がりました。


「初めまして。丘崎(おかざき)獅真(ししん)様」


 真白の魔神――いえ、叡智神の使徒。


 人類文明最強格の戦士。丘崎新陰流の開祖。


 獅真様はこちらを見ずに「俺を探していると聞いた」と言い、血のついていた刀を手入れしていましたが――不意にこちらに対し、鋭い視線を注いできました。


 映像越しでも圧を感じる視線。


 一瞬、首を斬られたと錯覚するほどの視線でした。


『おい、待て。お前の後ろにいるの<死司天>かよ』


「よくわかったな。こちらは変装しているのに」


『変装って言い張るなら、もっと努力して化けろよ……!』


 獅真様はエノクに――<死司天>サリエルに対し、殺意に満ちた鋭い視線を送っていましたが、エノクがトボけた事を言うと殺意を収めました。


 ジト目は浮かべていますが、「ビフロストに媚びを売っているって噂は本当だったのか」と呟いています。


『お前、マジでプレーローマ離反したのか?』


「違う。模範的な天使らしく、真面目に人類との闘争を続けていない事に対し、チクチク言葉で批判される事はあるが……。ワタシはワタシなりにプレーローマのためを想って働いているつもりだ」


『あぁ、つまり、相変わらず死んだ主(アイオーン)を捜し続けてんのか。お前もいい加減、諦めろよ……。人類側(こっち)としては死司天に遊びほうけてもらっていた方が助かるけどな』


 獅真様は呆れ顔を浮かべつつため息をつき、「お前は変わらんな」と言った後、私に視線を向けてきました。


『悪いな嬢ちゃん。クソ天使(サリエル)がいたから、ついつい構っちまった』


「いえいえ、お気になさらず。ところで……真白の魔神絡みでお話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」


『知るか――と言いたいところだが……こっちも一仕事終えたところだ。多少、話をするぐらいなら構わねえよ』


 獅真様は誰かと戦闘していたようです。


 獅真様の髪も着衣も大して乱れていない事から察するに、そこまで苦戦せずにパパッと斬り殺しちゃったみたいですね。


 どなたとやり合っていたのでしょう……。通信を繋いでくれた同僚は、その話は何も言ってなかったのですが――。


『だが、質問は2つ、3つに絞ってくれ。長話はしたくない』


「そこを何とか……。バフォメット様の紹介という事で、何とかなりませんか?」


『ほう……! お前、アイツと会ったのか』


 バフォメット様からは何の紹介も受けていませんが、テキトーに名前を出すと獅真様は食いついてきた。大変ご興味があるご様子です。


 ネウロンでバフォメット様と会った事を話すと、獅真様は懐かしそうに「アイツ、目を覚ましたのか」と呟きました。


『そのうちたたき起こしてやろうと思ったんだが、ネウロンがどこにあったか忘れちまったんだよな……。そうか、起こしにいく必要がなかったか』


 獅真様はアゴを触りつつ、「あのバカ野郎は息災か?」と聞いてきた。


 元気に暴れていますよ、と言い、さらに言葉を続ける。


「今はエデンの後輩のテロ活動を手伝っております」


『はぁ? あのバカ……。まあ、俺もあんまり人のこと言えねえが……』


 獅真様は再びため息をついた後、「アイツの紹介なら仕方がない」と言いました。私の言葉にアレコレ答えてくれる気になったご様子です。


 バフォメット様に心の中で感謝を伝えつつ、早速、質問を投げていく。


「獅真様、先日、マーレハイト亡命政府と接触……あるいは戦闘しましたか?」


『ああ。結果的に……襲撃って形になったな』


「貴方が亡命政府のところに行った時、プレーローマの部隊とも遭遇した。貴方は彼らを蹴散らしてみせた」


『アイツらにも用はなかったんだが、襲ってきたから仕方なくな』


 マーレハイト亡命政府が襲撃された時、その場には「プレーローマ」と「丘崎獅真」もいた。三者は刃を交え、獅真様が勝利した。


 ただ、獅真様の狙いは亡命政府でもプレーローマでもなかった。


 と、なると…………。


「貴方の狙いは、真白の魔神(メフィストフェレス)ですか」


『ああ』


 獅真様は少し表情を歪め、「奴がマーレハイト亡命政府に身を寄せていたから、会いに行ったんだ」と呟いた。


『真白に会いに行って、殺すことにした(・・・・・・・)。逃げられたけどな』


「貴方は、真白の魔神の使徒ですよね?」


『そうだな』


「使徒なのに主殺しを図ったのですか?」


『そうだ。プレーローマの奴らが邪魔してこなけりゃ、あの場でさっさと殺せていたんだがな……。お陰で手間取った』


「貴方が殺そうとした真白の魔神は、どこに逃げたかわかりますか?」


『ん? あぁ、ここにいるぞ(・・・・・・)


 獅真様はそう言い、私の同僚に話しかけた。


 同僚が持っているカメラを動かすよう促した。


 カメラが向けられた先には、頭部が吹き飛んだ死体が転がっていました。


その死体(そいつ)が、今代の真白の魔神(メフィストフェレス)だ』


「あれぇ~っ……!? し、死んでるじゃないですか!?」


『そうだな』


 獅真様は淡々とした物言いで、そう返してきた。


 探していた相手(メフィストフェレス)がサクッと死んでいたので、さすがに絶句していると……エノクが獅真様に話しかけ始めた。


 私の代わりに、問いを投げ始めた。


「シシン。お前は『交国』という国を知っているか?」


『テメエ、俺を非常識人だと思ってんのか? 交国ぐらい知ってらぁ! あの、なんかクソデカイ軍事国家だろ? 最近、なんか……問題が発覚して大騒ぎになってなかったか?』


「最近の問題ではないと思うが、交国オークの軍事利用問題か?」


『それだ。そうか……アイツら、まだやってたのか(・・・・・・・・)……』


「ちょっと待ってください。『まだ』とは、どういう事ですか?」


『アイツらがオークを軍事利用してたのは、ず~っと大昔からだろ?』


 獅真様はずっと前からそれを知っていたように、そう言った。


 交国のオークが軍事利用されている噂自体は、ずっと昔からあった。あの国のオークだけ痛覚や味覚に異常がありましたからね。


 ただ、獅真様は噂話を聞いたとかではなく、真実を知っていたかのような口ぶりです。それも、事もなげに話している。


『アイツらがオークの軍事利用してんの、建国初期からずっとだろ? オレも初期の奴らなら結構やり合ったよ。あの頃から比べたら成長してんだろうけど……よくもまあ何百年も隠せてたよなぁ。いや、隠す気になったなぁ……』


「貴方は……建国初期の交国とやり合った事があるのですか?」


『ああ……。500年近く前だったかねぇ?』


 それはホントに、交国の建国初期も初期……最初期の話のようです。


 獅真様は天気の話でもするように、「アイツら、ブロセリアンドのオークを改造して利用してたっぽいな」と言いつつ、さらに言葉を続けました。


『それだけなら俺もわざわざしばきに行かないんだが、アイツが関わっていたから「マズい」と思って訪問したんだよ。案の定、襲撃する事になったんだが』


アイツ(・・・)とは、誰の事ですか?」


『そりゃあお前、真白の魔神(・・・・・)だよ。交国作ったの、アイツだろ?』


「…………」


「…………」


『…………。えっ? 俺、そんな変なこと言ったか?』


 言ってない。


 交国の建国に真白の魔神(メフィストフェレス)が関わっていた可能性は、こちらも掴んでいた。ただ、あくまで可能性の話だった。


 交国を作ったのは、真白の魔神。


 その真白の魔神は既に死んでいる。死んでいるからこそ、転生している。


 そして……今代の真白の魔神も、もう死んでいる。


 丘崎獅真様の傍で既に死亡していた。


 真白の魔神の使徒である獅真様の傍で――――。





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