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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.0章:その正義に、大義はあるのか
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逆転の一手



■title:交国籍の方舟に偽装したエデンの方舟にて

■from:交国特佐長官・宗像


 部下を引き連れ、エデンの方舟に侵入する。


 抵抗は一切無かった。ヒスイが――エデンでは「タマ」と名乗っている部下の手引きにより、簡単に侵入できた。


 愚かなカトー達は黒水に食いついている。向こうは向こうで上手くいっているようだ。後はここで標的を確保すれば勝利に大きく近づく。


「艦内の扉、防壁も制御済みです。こちらの端末で操作可能にしています」


 ヒスイが渡してきた端末を受け取る。


 方舟からの脱出路も私達が通ってきた場所以外は全て閉じている。エデンのテロリスト共は袋のネズミだ。もはやどうとでも料理できる。


 巫術師(バフォメット)が戻ってくる前に終わらせよう。


「標的のところに案内してくれ」


「はいっ」


「お前達はエデン構成員を処分してこい。標的以外は全員殺せ」


 引き連れてきた部下達にそう命じると、私を案内しようとしていたヒスイ(タマ)がギョッとした様子で振り返ってきた。


 そして、慌てた様子で「お待ちください!」と言って来た。


「か、彼らは既に制圧済みです! もはや何の脅威にもなりませんっ……!」


「エデンに潜入している間に、情が湧いたのか?」


「そっ…………そのような、ことは……」


「奴らはテロリスト。そしてもう用済みだ」


 交国の敵は殺す。


 不確定要素も潰す。


 部下達が消音器付きの銃を使い、次々とエデン構成員を始末していく。愕然としているヒスイに――相変わらず甘ったれのヒスイに先を急ぐよう促す。


「案内しろ」


「……はい」


 艦内にいるエデン構成員の始末は何の支障もなく進んでいった。


 交国本土までやってきた構成員は数十人程度だが、見逃してやる義理も意味もない。ネズミ1匹でも交国で好き勝手はさせない。


 こちらの手引きで交国本土に招き入れてやったカトー達も、いずれ消してやる。……だが、あちらはとりあえず放置でいいだろう。


 愚かな復讐心で混乱を引き起こしてくれるなら、私にとっては都合がいい。なんならまだ支援してやってもいいぐらいだ。


「見事な手際だ、ヒスイ。お前のおかげで邪魔なエデン構成員を楽に始末できる。微温湯(エデン)に浸かっている間に鈍っているか心配だったが、杞憂だったようだな」


「あ……ありがとう、ございます……」


「死んだ満那達も喜んでいるだろう。お前を厳しく育てた甲斐があった、と」


 だが心の方は相変わらず問題があるようだ。


 青ざめたヒスイはぎこちない動きで私を先導している。能力はそれなりにある子だったが、<戈影衆>としての適性に問題がある子だった。


 他の「失敗作の中の失敗作」と同じように処分しても良かったのだが、生かしておいて良かった。ヒスイのおかげで我々は逆転の手段を手に入れられる。


 宿願を果たすことができる。


「長官が……カトー総長とバフォメットを引き離してくださったおかげです……。あの2人がいたら、こうもたやすく制圧することはできませんでした」


 ヒスイが少し怯えた様子で「黒水の方はどうなりましたか?」と聞いてきた。


 あちらも上手くいった。


 黒水守も殺害できたよ――と伝える。


「無能なテロリスト達のおかげで、あの邪魔者も始末できた。カトーが……くだらん復讐に熱中する馬鹿で助かったよ」


 黒水守を始末できたのは、奴の功績だ。


 だが、奴の功績はそれだけではない。


 自分達の手中に、世界を変えるだけの至宝があったのに気づかず……ノコノコと交国本土まで運んできてくれたという功績もある。


 その至宝はいま、カトーの私室にいるらしいが――。


「…………! す、すみません、長官……。異変に気づかれたようです」


「捕まえればいい。どうせ、そう遠くには行けておるまい」


 カトーの私室には誰もいなかった。


 ヒスイの言う通り、異変に気づいて逃げ出したのだろう。


 船外に出るための経路は全て抑えている。船内も船外も部下に見張らせている。戦闘員ではない者が1人逃げ出したところで直ぐに確保できる。


 それでも多少は手間取るかと思ったが、そんなことはなかった。


「タマちゃんっ……! タマちゃん、どこ……!?」


 愚かな標的は、拳銃片手に震えながらヒスイの事を探していた。


 船内に余所者(われわれ)が来たのを察知したものの、直ぐには逃げ出さず、ヒスイを探していたらしい。ヒスイを「仲間」だと勘違いしているらしい。


「…………」


 青ざめているヒスイをチラリと見て、アゴで標的のいる方向を示す。


 捕まえてこい、と促す。


 ヒスイは何か言いたそうな顔で私を見上げてきたが――。


「――権能起動(エウクレイデス)


 戈影衆の生き残りとしての務めを果たした。


 権能を使って一瞬で標的に近寄り、銃を取り上げて拘束した。


 標的が――自分の探していた相手に――拘束され、驚愕の声を出している。


 驚く必要はない。戈影衆は玉帝の矛。交国の奴隷だ。


 奴らは――アダム・ボルトの時のような事が起きないように――交国に尽くすよう頭を「調整」している。


 ヒスイは「調整」してもなお、心の弱さがある欠陥品一歩手前で、交国から離れて久しかった。その忠誠心に問題がある可能性もあったが、私の命令をこなした以上は大丈夫だろう。


「…………」


 念のため控えさえておいた他の戈影衆を下がらせる。ヒスイが使い物にならないならここで処分する予定だったが、殺す必要なくなった。


 ただ、ヒスイの裏切りは警戒しておいた方がいいだろう。


 時間ができたら直ぐに再調整を――いや、もはや、それすら必要なくなるか。<金枝計画>の要を確保した以上、調整という面倒な作業すら不要になる。


「た、タマちゃん!? なんで……!?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ……!!」


 甘さを捨て切れていないヒスイは、標的に怪我1つ負わさないよう気遣いながら動いている。だが、それでも拘束する手は止めなかった。


 拘束された標的に対し、近づいていく。相手は驚きの表情に敵意の感情を混ぜ、私を見上げてきた。


「あ、あなたは――」


「交国特佐長官の宗像灰だ。……ようやく会えたな、真白の魔神の遺産(ヴァイオレット)


 7年前。満那達がしくじった所為で、確保まで随分と時間がかかってしまった。


 かつての戈影衆の失態を、落ちこぼれの戈影衆(ヒスイ)が何とかするとは思わなかったが……これでようやく、金枝計画を成功に導ける。


 それだけではない。


 金枝計画は、あくまで保険。


 その先に至るための予備計画に過ぎない。



「ヴァイオレット嬢、我々と共に来てもうぞ。


 キミには人類を救う救世主(メサイア)になってもらう」



 それも単なる救世主ではない。


 太母(おまえ)世界(じんるい)を救うのだ。





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