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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.0章:その正義に、大義はあるのか
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輪唱



■title:港湾都市<黒水>にて

■from:狙撃手


 取った。


 最高のタイミングで狙撃できたと確信した瞬間――。


「野郎、弾いた(・・・)……!!」


 相方(スポッター)が引きつった声で叫んだ。




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:観測手


 口径12.7mmによる狙撃は、黒水守の身体に命中した。


 一戦終えて油断した隙をついたはずだった。


 黒水守の衣服と共に、血肉が飛び散るのも見えた。


 だが、貫通していない。


 黒水守がゆらりと振り返ってきた。


 肉は抉ったが、骨までは届いていない。


 黒水守の神器は流体を操る。


 ヤツが操れるものの範疇には水も含まれる。人体に含まれる水も例外じゃない。


 ヤツは神器によってそれを強化し、さらに体術も使って弾丸を弾きやがった!


 無傷ではないが致命傷とは言いがたい。


「逃げ――――」


 相方の肩を叩いて離脱を促したが、遅かった。


 黒水守が神器を振るった。相方は苦し紛れに弾丸を放ったが、それは十数メートルの津波に呑まれ、消えていった。


 相方を置いて逃げようとしたものの、津波に呑まれた。


 意志を持った津波がこちらの身体を絡め取り、海に引きずり込んでいく。全身の骨が水圧でベキベキと折りたたまれていく感触がした。


 あぁ、クソったれ……。残機ゼロ(・・・・)になるじゃねえか!!




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:黒水守・石守睦月


『黒水守! 怪我は……!?』


「大丈夫。軽傷だよ」


 心配してくれるフェルグス君に礼を言いつつ、周囲を警戒する。


 まだ狙撃手がいた。今ので潰したけど……まだ、本命がいるようだ。


「フェルグス君。機兵に乗って。おそらく、流体甲冑じゃ危ない相手だ」


 フェルグス君の説得を中断し、機兵に乗るように促す。


 そうしていると、拍手しながら1人の女性がやってきた。


 その隣には銃を携えたオークの姿もあった。


 いや……本物のオークじゃなさそうだ。


 アレは、オークに似ているだけの別種族(・・・)だ。


 拍手している女と同族だろう。アレらの容姿はバラつきがある。


「さすが黒水守。あの程度の狙撃じゃあ仕留められないか」


『ラフマ隊長!? ヨモギさんも!? なんでここにいるんですか!?』


 機兵に乗り込んだフェルグス君がそう叫ぶと、ラフマと呼ばれた女性は苦笑いを浮かべ、「さすがに察しが悪くなぁい?」と言った。


「黒水守に色々と吹き込まれたんでしょ? いや、教えてもらったと言うべき? 死にかけの<エデン>を蘇らせた支援者が誰とか、ベルベストの奇跡が単なる茶番劇って事とか……教えてもらったんでしょ?」


『……じゃあ、ラフマ隊長が……』


 フェルグス君が機兵で私達の間に割り込み、さらにオークに見える男に対し、「ヨモギさん、ウソですよね!?」と叫んだ。


 だが、オークに見える男(ヨモギ)は申し訳なさそうな顔をしつつ、「悪いな。コレが俺達の仕事なんだ」と言った。


「で……コレが、俺達の正体だ」


 男がそう言った瞬間、2人の頭上と背が光った。


 頭上に光輪。背中には光翼が現れた。


「私達はご覧の通り、天使よ。……黒水守もそう推理してたんじゃない?」


「…………」


「黒水守は私達とは実質初めましてよね? 私の名前はラフマ。こっちの男はヨモギ。どっちも天使で、どっちも偽名(コードネーム)だけど……本名なんて別にどうでもいいでしょう?」


「やはりエデンは……いや、カトー総長はプレーローマと通じていたか」


 ほぼ真っ黒だけど、まだ疑っている段階だった。


ラフマ隊(わたしたち)の仕事は人類文明への工作活動。火種を作ったり、大火を起こすために扇動したり、人類文明に混乱をもたらすのがお仕事」


「…………」


「今はカトー総長と組んで行動している。主にエデン構成員として活動しつつ、交国領を荒らす仕事を任されている」


 私の目の前に現れた天使は、ラフマとヨモギと名乗る2人組だけ。


 けど、おそらく天使は2人だけじゃない。


 しかもここまで堂々と出てきたという事は、普通の天使ではない。


「そして、私の権能(・・・・)はコレ」


 ラフマと名乗る天使の両手が薄まり、消えた(・・・)


 両手どころか全身が乳白色の煙と化して消えたが、直ぐに姿を現した。


「自分自身の『透明化』が私の権能。潜入工作や暗殺向けの権能よ」


 なぜ、権能の性能を開示する?


 その必要はないはずだ。何が目的だ。フェルグス君がいる状況では使いづらい力だろうが伏せておいた方が得だったはずだ。


 思考をまとめる暇もなく、ラフマは妖しい笑みを浮かべながら語りかけてくる。


「この力を使ってスアルタウ君を助けてあげた事もある。交国軍が警戒している繊一号基地に堂々と潜入した事もある」


『僕が代用義体(スペアボディ)で捕まった時に――』


「そう。それ以外にも、これを使って交国に何度も潜り込んできた」


 それは「いつ」だったと思う?


 天使は笑みを浮かべたまま、そう語りかけてきた。


「……キミか。犬塚特佐の家族と部下を毒殺したのは……」


「正解! いや、ホントは特佐も殺すつもりだったんだけどね? あの男、悪運まで強かったようであの時は仕損じちゃった。もう死んだけどね」


 天使は権能を使い、身体の一部をチラチラと消したり出したりしつつ、笑いながら言葉を続けていった。


「あの特佐だって、あそこで死ねたら最高だったでしょ? 妻と義娘と、信頼する部下達と一緒に逝けた方が幸せだったでしょ? 可哀想なことしちゃった」


『あなたは…………あなた達はっ! どうして、そんなことできるんですか!? どうしてっ……!』


「決まってるでしょ。人類(あなたたち)天使(わたしたち)が敵だからよ」


 機兵で大地を踏みしめ、怒るフェルグス君に対し、天使は蔑むような笑みを返しながら堂々と言い放った。


「人類を殺すのなんて、私達の自由でしょ? そもそも私達(プレーローマ)のおかげで人類は滅びの運命を回避できたのよ。それなのにその恩を忘れて、家畜の分際で飼い主に噛みついてくるなんて……」


「くだらないおしゃべりはいいよ。本題に入ろう」


 敵との距離は20メートル。


 フェルグス君の機兵を盾にしたら、安全に仕留められる距離だ。フェルグス君に下がってもらったところで瞬殺できる距離だ。


 相手が普通の天使なら……だけど。


「…………」


 ヨモギという男の天使が、すり足で少しずつ……少しずつ、移動している。


 ラフマという天使がペラペラ喋っている隙に、少しずつ移動している。


 私がそれに感づいているのは、さすがに承知済みのようだが――。


「…………。キミ達は、私を殺しに来たんじゃないのか?」


 女天使は笑顔で手を合わせ、「その通り。話が早い」と言ってきた。


「黒水守。あなたはやりすぎた。あなたは私達の実験動物に過ぎなかったくせに、脱走してプレーローマに損害を与えてきた」


「…………」


「オマケに反プレーローマの意志も持っている。そんなあなたに交国で出世されると……とても目障りなの。特に、あなたの神器が目障り」


 ロレンスに身を寄せていた時も交国に来てからも、私はプレーローマと戦い続けてきた。天使達を何体も血祭りに上げてきた。


 時折、天使と取引する事もあったけど……基本的に天使というだけで敵だ。昔から、何度も殺し合ってきた相手だ。


 特に混沌の海で多くの天使達を屠ってきた。大艦隊の行動を制限するために何度も襲い、睨みを利かせることもあった。


 多くの天使共は殺しても殺しても、あまり意味がないが……方舟などの兵器に関しては破壊する価値がある。プレーローマの資源も、無限にあるわけではない。


 ただ――。


「私の暗殺以外の目的も持っているんじゃないのかな?」


「さあ、どうでしょうね。そこから先はご想像にお任せしましょう」


 全てを教えてくれるつもりはないらしい。


「ホントはね。ここまでやりたくなかったの。だって、面倒でしょう?」


「カトー総長が負けたから出てきたのか」


「そう! バフォメットも、何故か帰っちゃったからね。ここまでお膳立てしてあげたのに……カトー君には困ったものよ。おかげで余計な仕事が増えた」


 出来る事ならカトー総長達だけで済ませたかったのだろう。


 あくまで工作員の自分達は、戦力温存して潜伏するつもりだったんだろう。こちらとしては戦力の逐次投入は助かるけど、状況が状況だけにそこまで喜べないな。


 天使達は黒水にも魔手を伸ばしていたらしい。


 レオナール達はプレーローマの息がかかった工作員に良いように使われていたんだろう。エデンの名前を使って、上手く扇動されていたんだろう。


 カトー総長とバフォメットを投入したら、私を殺せる目算だったようだけど……天使達の計画は失敗した。いや、まだ計画の途中と言うべきか――。


「ここまで手間暇かけたんだから、せめて黒水守(あなた)には死んでほしいの」


「キミ達の都合なんて知らないよ」


「そう。残念――」


「――――」


 ヨモギという天使が一気に動いた。


 フェルグス君の機兵を盾にし、私の死角に回ろうとしていたけど――。


「――――」


 神器を使い、水の刃(ウォーターカッター)を放つ。


 周囲に潜ませていた水から、8本の刃を多方から放たせる。


 敵は私の死角に移動していたけど、こっちはこっちで水の鏡を使って死角もカバーしておいた。十分に狙える位置にいる。


 ヨモギという天使は迫る刃に対し、焦り顔を浮かべて必死に動いた。踊るように動いたが、全身を深く切り裂かれる結果となった。


 水の刃はフェルグス君の機兵にも当たったけど、機兵の流体装甲を抉るほどの威力ではない。けど、生身の天使なら十分な威力――。




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除(けんじょ)>副長・ヨモギ


「ッ…………!!」


 麻酔込みでも痺れる痛みが脳髄に届く。


 だが、即死は避けた。


 即死を避けた以上――。


「――権能起動(ゼナ)ッ!」


 戦況は、ひっくり返る。




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『――黒水守?』


 黒水守の身体から、血が噴き出している。


 片腕が斬られている。皮一枚繋がっている程度の傷を負っている。


 胴体深くまで致命傷が入っているように見える。


 それ以外にも、たくさんの傷を負っている。


 対して、ヨモギさんはまったくの無傷だった。


 無傷のまま走り――落としかけていた銃を持ち直し――発砲した。


『…………!!』


 放たれた弾丸は機兵(ぼく)の流体装甲で弾いた。


 けど、黒水守は膝をついた。致命傷を負い、膝をついている。


 致命傷を負ったのは、ヨモギさんの方だったはず……!!




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:黒水守・石守睦月


「ッ…………?!」


 傷口を押さえ、神器で応急処置を行う。


 向こうが負った傷を、こっちが負っている。


 これはまさか、負傷を押しつける権能……!?




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊長・ラフマ


「さすがにしぶとい。化け物(メサイア)だけある」


 致命傷を負った黒水守が膝をついた。


 まだ死んでいない。神器を使って傷口を治す可能性すらある。


 となると――畳みかけなきゃね。


「総員、抜権」




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(カープラス)




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(ウンルー)




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(アントワン)




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(サニャック)




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(クヌーセン)!」




■title:港湾都市<黒水>郊外にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員・タカサゴ


権能起動(カシミール)……」




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(アトウッド)




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(ランキスト)




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(ルイス)




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊員


権能起動(コアンダ)……!」




■title:港湾都市<黒水>にて

■from:プレーローマ工作部隊<犬除>隊長・ラフマ


「こっちも収穫無しで帰るわけにはいかないのよ」


 タカサゴ以外の全員で黒水守を包囲する。


 ここで仕留める。必ず殺す。


 犬除の総力を挙げてやらせてもらう。






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