表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
70/875

小さなひび



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 機兵を格納庫に戻してから、自分の身体に戻る。


 機兵の大きな身体でいっぱい動いたから、小さくて弱っちい自分の身体に戻ると少しだけ違和感を感じた。


 心も、違和感がある。


 ソワソワする。


 今日は……今日はちゃんと、勝てたから。


 ムズムズして、気持ちがソワソワしてる!


「アル君、お疲れ様。よく頑張ったね……!」


「ヴィオラ姉ちゃん」


 医務室にいたヴィオラ姉ちゃんがボクの頭を撫でてくれた。


 ちょっぴり涙目に見えるけど、これは悲しい涙じゃないよね?


 笑ってくれてるし、褒めながらギュッと抱きしめてくれてるし。


 褒められて嬉しいけど恥ずかしいなぁ……と思っていると、ドカドカと走ってきた人が医務室の扉を勢いよく開け、飛び込んできた。


「アル! アルっ!! よく勝った!! お前が勝ったんだぞ!? レンズ相手に!! これはメチャクチャ凄いことなんだからな!?」


「わっ!?」


「ひゃっ!?」


 やってきたのはラートさんだった。


 興奮した様子でヴィオラ姉ちゃんごとボクをギューッ! と抱きしめてきた。


 ヴィオラ姉ちゃんが「アル君に乱暴しないでくださいよぅ」と言いながらラートさんを押しのけてくれた。ラートさん、興奮しすぎてちょっと力強かった。


 勢いよくギュッとするのはやめてくれたけど、ラートさんは絶え間なくボクのことを褒めてくれた。


「ら、ラートさん……。帰りの機兵の中でも、いっぱい褒められたから……もうそろそろ、いいですよぅ……」


「いやいや! 俺はまだ褒めたりねえからな!? 機兵越しにいっぱい褒めたが、生身のお前は十分に褒めてねえ! 今日1日たくさん褒めるぞ!!」


「ひゃああ……!」


 いつも以上に元気なラートさんに気圧される。


 褒められるの慣れてないから、顔真っ赤になっちゃう。


 身振り手振りも交え、いっぱい褒めてくるラートさんがちょっとうるさいので、ヴィオラ姉ちゃんが止めてくれた。


 ラートさんのほっぺたを引っ張って、「も~っ! フェルグス君がまだ体調崩してるんですから、少しは控えてください」と言ってくれた。


 そうだ、にいちゃん。


 ……にいちゃんにも、褒めてほしい。


 そう思うの、よ……欲張りかなっ?


「にいちゃ……」


 にいちゃんの方を見たけど、にいちゃんの顔はよく見えなかった。


 毛布を被ってる。……風邪で身体つらいのかな……?


 心配でモヤモヤしてると、ロッカ君とグローニャちゃんも医務室に戻ってきた。2人もボクのことを褒めてくれた。


「アル、お前すげーよ!」


「アルちゃん、すご~いっ!」


「お前のおかげで、オレ達も機兵に乗れるかも……」


 そっか。そうなのかも。


 星屑隊の機兵は4機あるし、4人全員で出撃できるかも。


 模擬戦だとラートさんがいてくれなきゃ、ダメになってた。ラートさんだけでも心強かったのに、皆も一緒ならもう負ける気しない……かも?


 そ、それはちょっと調子に乗りすぎかなっ……?


 でも、心強いよ。


「えへへ……。にいちゃんみたいに、カッコよくは勝てなかったけど……」


「いや、お前はフェルグスでも出来ねえことをやってのけたんだよ」


 ロッカ君が笑顔で頭を撫でてくれた。


 グローニャも「むふむふ」と言いながら「ほめちゃう!」と頭を撫でてくれた。


「お前、いつの間にかあんな強くなってたんだな……」


「ぜんぜん強くないよ。勝てたのは、ラートさん達のおかげだよ」


 ラートさんの大きな手に手を伸ばし、指をギュッと握る。


 ラートさんも笑顔を浮かべ、握り返してくれた。


「アルの頑張りのおかげだよ。俺はエラそうに指図してただけさ」


「そんなことないですよ」


 照れ笑いを浮かべるラートさんの背中を、ヴィオラ姉ちゃんが叩いた。


「アル君もたくさん頑張りました。でも、ラートさんが事前に準備をして、作戦を練って……親身になってくれたから勝てたんです」


 ヴィオラ姉ちゃんは満面の笑みを浮かべ、「2人共、カッコ良かったですよ」と褒めてくれた。


 その褒め言葉が嬉しくって、ラートさんと一緒にニヤけちゃった。


「そ、それ言うならヴィオラだって! お前がヤドリギを作ってくれたり、機兵のシステムを調整してくれなきゃ勝てなかったよ」


「とにかく、皆のおかげだよっ! 皆で勝ったのっ!」


 皆が笑ってくれてる。とても嬉しい。


 本当の戦いじゃなくても、すごく怖かった。


 怖くて大変だったけど、だからこそ勝利が嬉しい。


「にいちゃんのおかげでもあるよ。にいちゃんが機兵で色々できるってことを見せてくれたから、ボクも……にいちゃんほどじゃないけど、がんばれたもん」


「おおっ! そうだな! 言われてるぞ、もう1人の功労者!」


 笑顔のラートさんが毛布にくるまってるにいちゃんを揺すった。


 アルのこと褒めてやれよー、と言い、ヴィオラ姉ちゃんに「病人相手に何してるんですか~……!」と怒られてる。


 プリプリと怒ったヴィオラ姉ちゃんがラートさんを壁際まで追い詰め、ラートさんがタジタジになってる中――毛布の中からにいちゃんが出てきた。


 身体、まだつらそう。


 元気ない。


「に……にいちゃん。にいちゃんのおかげで勝てたよっ! 見ててくれた!?」


「あ、うん……」


 にいちゃんはまだ頭がボーっとするのか、視線を泳がせてる。


 やっぱり元気ないみたいで、小声で「よくやった」と言ってくれた。


「……ちょっと頭痛いから、寝させてくれ」


「あ、うん」


 にいちゃん、大丈夫かな。


 模擬戦は勝てたけど、それでにいちゃんの身体が元気になるわけじゃない。


 ぐっすり眠れるようにしてあげなきゃ――と思っていると、星屑隊の副長さんがやってきてラートさんに声をかけてきた。


「おい、ラート。お前らが勝ったんだから、今後のことを打ち合わせしなきゃいけないだろうが。それやらずに遊んでんじゃねえぞ~?」


「あっ……! す、スンマセンっ! 副長! 直ぐ行きます」


「ヴァイオレットも来てくれ。多分、かなり前向きな話が出来ると思う」


「はいっ! ありがとうございますっ……!」


 ラートさんとヴィオラ姉ちゃんは副長さんに連れられ、医務室を出ていった。


 ボクらは医務室でお留守番。


 待ってる間も、ロッカ君とグローニャちゃんがいっぱい褒めてくれた。


「つーか、お前も寝とけ。身体を休めとけ」


「身体は疲れてないけど……。キツいクスリも使ってないし……」


「けど、さすがに気疲れしただろ」


 そうかな? いや、そうなのかも。


 ラートさんみたいに興奮してたから、疲れもどこかに吹き飛んでた。


 けど、落ち着いてくると疲れがジワジワと湧いてきた気がする。


 これも訓練したら大丈夫になるのかな?


 ……これからも、いっぱい機兵に憑依できるんだよね?


 ラートさんと、一緒に戦えるんだよね?


 その事を考えると、嬉しくてまたニヤけちゃった。


 勝てて良かった。本当に。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


 副長さんに連れられ、隊長さん達のとこに向かう途中に気づいた。


 ラートさんの軍服が血で汚れていることに。


「ちょっ……! ら、ラートさん、かがんでください」


「んっ? どうした?」


「後ろの方、見せてください!」


 大きなラートさんにかがんでもらい、後頭部を見せてもらう。


 傷を負ってる。パッと見は軽傷に見えるけど、頭はさすがに危ない。


 どこかで打ち付けたように見えるけど――。


「これひょっとして、さっきアル君が機兵を四足歩行で走らせた時に――」


「あ~。そういや頭打ったかもしれねえ。忘れてたわ」


 ラートさんは深刻さのまるでない呑気な声を出し、笑っている。


 医務室に戻って先生に見てもらいましょう――と言うと、副長さんも同意してくれた。ラートさんは嫌そうな顔を浮かべてるけど。


「いま医務室はカンベンしてくれ~……」


「何言ってやがる、アホラート。痛覚ねえからって頭部の怪我を甘く見るな」


「や、でも、医務室にはアル達がいるでしょ? せっかく勝利を喜んでるのに、俺の怪我なんか見せたら水を差しかねない」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ……!」


 屈んだまま立ち上がらないラートさんの腕を引き、何とか立たせようとする。


 重い。やっぱり大柄だから、私の力じゃ持ち上げれない~……!


 注射を嫌がるワンコのように「医務室はイヤだ~」と言うラートさんに対し、副長さんは大きなため息をついた。


「仕方ねえ……。先生をテキトーな部屋に呼んでやる」


「やった!」


「やった、じゃねえよボケ」


 副長さんはラートさんの前で自分の手をベシベシと叩いて威圧し、医務室に走っていき、キャスター先生を連れてきてくれた。


 4人で会議室に入り、診察してもらう。


 大したことなければいいんだけど……。


「まあ、大丈夫だろ。オレ達、身体は頑丈だからさ」


「でも限度はあるんですよね? 痛みを感じないとしても……」


「ああ。過信できるほど丈夫じゃない」


 副長さんは椅子に座りつつ、「オークは無敵の生物じゃない」と言った。


「ある意味、他の種族より脆いぐらいだ。痛覚ねえって事は、身体の異常を知るセンサーが1つ死んでるって事だからな」


 怪我に無頓着になって、コロっと死ぬ事もある。


 内臓の痛みすら無くなるから、腹痛で無理して死ぬ事さえある。


 味覚や痛覚が無い。他種族の女性に頼らないと子孫を残す事ができない。……兵士として優秀かもだけど、生物としては欠陥を抱えているように見える。


 いや、欠陥というか、異常というか――。


「でも、兵器(おれたち)を使う上層部の人間にとっては、都合のいいことが多いのさ。『交国のオーク』って種族は」


「…………」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狂犬・フェルグス


 勝った。


 アルが勝った。


 ……勝っちまった。


 勝ったことは、とても良いことのはずだ。


 そのはずなのに――。


「…………」


 なぜか、全然、嬉しくなかった。


 胸にポッカリ穴が空いたような、気だるい感覚が全身を支配している。


 ホントに……アルが勝ったのか? ウソみたいだ。


 アルは……いつもオレ様の後ろで縮こまってたはずだ。


 オレが守ってやってたのに、それなのに……オレ抜きで……。


「みぃん」


「…………」


 マーリンがフワフワ飛びながらやってきた。


 いつも通りデブだけど、いつも通り可愛いマーリン。


 それを抱っこする気力すら湧いてこない。


 なんだ、これ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ