表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.0章:その正義に、大義はあるのか
697/875

過去:あいこ



■title:

■from:石守睦月


『母ちゃんと、父ちゃんの仇――――』


 陽一君はそう言い、銃を俺に向けて発砲した。


 けど、弾丸は俺に当たらなかった。


 体当たりするような勢いで飛びついてきた人が、弾丸から俺を庇った。


『……おとうさん?』


 よく知っている父の胸板が、目の前にあった。


 不安で泣いている時、そっと抱きしめてくれた腕の感触もあった。


『お……おとうさんっ……!?』


 抱きしめてくれた父さんの身体が、発砲音のたびに震えた。


 陽一君は発砲し続けた。


 彼のお姉さんが「やめなさい!」と叫んでも、それ以上の大声で叫びながら発砲し続けた。俺に向けて発砲し……弾丸は全て父さんに当たった。


 空っぽになった銃の引き金が「カチカチ」と虚しく引かれるようになった時、ようやく、父さんが声を出した。


『コラ、陽一……。おまえ……なんつー、危ないもん……使っとるんじゃ……』


 父さんは俺を抱きしめたまま、苦笑していた。


『ガキの、ケンカで…………タマ弾くやつが、おるか。あほぅ……』


 苦笑しながら、弱々しい声でそう言っていた。


 優しい声だった。でも、いつもの快活さはなかった。


 父さんは俺を抱きしめたまま振り返り、陽一君に悲しげな視線を送っていた。銃を持ったまま尻餅をついていた陽一君の事も気遣っていたんだと思う。


『だ…………だって! そいつが、ムツキが! かーちゃんも、とーちゃんも殺して……! それだけじゃなくてっ!! みんな……! オレのともだちも、みんな、焼き殺したからっ……!! ムツキが悪いんだ!! ムツキが!!』


『……すまん。それに関しては、スマンとしか……言いようがない……』


 父さんは震える脚を曲げ、膝をついた。


 僕を背に庇い、陽一君と話し始めた。


 背中から、大量の血を流しながら――。


『じゃが……睦月も、好きでそんなことしたんじゃ、ないんじゃ……。天使共に、むりやり…………。やつらが、睦月を……利用して、むりやり……』


『お……おとうさ……』


 父さんが喋るたび、足下の血だまりは広がっていった。


 陽一君のお姉さんが、助けを呼んでいた。


 お医者さんを呼んでくれていた。


 助けを呼ぶまでもなく――銃声を聞きつけた人達が――急いでやってきた。けど、父さんは皆を手で制した。


『いま、陽一と大事な話をしておるところじゃ。邪魔せんでくれ』


『何を言っているんですか、加藤さんっ!』


『直ぐ……直ぐに医者が来ますから……!』


『来たところで、どうしようもないわ』


 父さんは笑って、「自分の身体のことは自分がよう知っとる」と言った。


 父さんは俺をエデンの仲間に預け、尻餅をついたままの陽一君の方に歩いて行った。震える彼に優しい声色で語りかけていった。


『睦月を、許してやってくれと言っても…………簡単には、納得できないよなぁ……。ごめんなぁ……』


『ぉ……オッサン……』


『儂が、わるいんじゃ。儂が……もっとはよう、お前らのことを……助けに、いけたら……。すまん…………。ほんとうに、すまん……』


『お、オッサンが、謝ることじゃ…………』


『儂の所為なんじゃ。プレーローマを滅ぼす事が出来ておれば――』


 陽一君は自分の前に跪いた父さんを見て、涙を流していた。


 自分の手の中にある銃を見て、怯えた様子で銃を落とした。


『せめて、儂の命で手打ちってことに…………。あいこってことに、してもらえんか……? なぁ、陽一……』


 お医者さんはなかなかこなかった。


『睦月。悪いのは、儂じゃ。儂が……もっとはよう、お前達に……真実を、告げておれば……。時間なんかに任せず、キチンと……向き合っておれば』


 後でわかった。


 エデンの上層部が医者の先生を足止めしていたとわかった。


 神器使い(おれたち)の軍事利用に反対していた父さんが、目障りだったから……助けが来ないよう上層部の人達が手を回していた。


 来たところで、結果は変わらなかったかもしれない。


 けど、俺は……あんまりだと思った。


 俺は陽一君の家族や故郷を奪った大罪人でも父さんは違ったはずだ。父さんはエデンにとっても必要な人だったはずなのに、当時のエデンを牛耳っていた人達は――。


『むつき……。あいこじゃ……。陽一と、これからも仲良く……なっ?』


『…………』


『わしは、お前らが……争い、憎み合うのを見とうない。人類同士の争いなど、もう、こりごりなんじゃ……』


 父さんはそう言いつつ、銃に手を伸ばした。


 自分の拳銃に手を伸ばした。


 弱々しい笑みを浮かべたまま、俺を見つめてきた。


『わしを殺すのは、わしじゃ。……お前らは、仲良くしてくれ』


 父さんはそう言い、笑って引き金を引いた。


 自分の頭に向け、拳銃の弾丸を放った。


 父さんは死んだ。


 自殺した。


 父さんを殺したのは父さん自身だ。父さん自身がそう断言した。


 当時の俺は、直ぐには納得できなかった。


 俺はエデンから逃げた。復讐心と罪悪感を胸に、エデンから飛び出した。


 父さんの研究のおかげで、身体は人間らしいものに戻った。


 けど、何もかも元通りとはならなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ