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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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一撃必殺



■title:オックス島にて

■from:狙撃手のレンズ


 爆発が立て続けに起こり、ダスト3がそれに巻き込まれる。


 強いよ、巫術師(おまえ)


 強いが、経験が足りてない。


 素人だからこそ、兵士としての精神が欠けている。


 咄嗟の判断能力も乏しい。


 ラートはそれを「俺達で補う」と言っていたが、補い切れるものじゃない。仮にオレ達が機兵に乗ってリアルタイムで助言をしても、それじゃあ足りねえ。


 一々指示をする場合、「言葉で伝える」「言葉を受け止める」という余計な工程が入る。自分で考え、自分で動くより致命的なタイムラグが発生する。


 巫術の力が厄介なのは認める。


 だが、テメエらは戦士じゃねえ。


 厄介なだけの術式使いだ。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊のパイプ


 レンズが誘導した。


 副長の言葉の後、ダスト3が吹っ飛んだ。


 下方から起きた爆発をモロに受け、吹っ飛んだ。


 あれは――。


「レンズが砲撃中に敷設してた地雷原ですか……!」


「そう。グローニャがウンチって言ってたモノだ」


 敷設したのはレンズだ。


 当然、システムが地雷の位置を管理している。


 狙撃でダスト3を進路を地雷原に誘導する。炸裂した地雷により、ダスト3は大ダメージを受ける。外れる可能性もある狙撃より、狙撃による誘導を優先した。


 レンズは優れた狙撃手だ。


 けど、自身の射撃技術を過信していない。


 得意技ですら、勝利を掴む小技として消費する。


「い……今ので、ダスト3は混沌機関までダメージ判定が入りました……!」


 冷や汗流しつつ、端末に目を落としていたバレットが教えてくれた。


「機関停止にはなっていませんが、多少は障害が出るはずです」


「足も止まった。ダスト3の周りには、まだ起動してない地雷が沢山ある」


 何とか立て直して走り出したところで、また地雷を踏む可能性が高い。


 来た道を戻ろうにも、レンズが待ち構えている。


 ……さすがのラートも、ここまでか?


「バレットの言ってた『切り札』、使えず終いなのかな」


「わかりません……。少なくとも走行中は使えないはずです」


 複数の地雷が起こした煙が晴れていく。


 その煙の中には、膨れ上がった機兵の姿があった。




■title:オックス島にて

■from:狙撃手のレンズ


「おい、ラート……。いくら何でも諦めが悪すぎるだろ」


 地雷原の真ん中に「立方体」が転がっていた。


 流体装甲で作られた立方体だ。


 野郎、立て直して逃げるんじゃなくて、防御固める愚策に走りやがった。


 立方体の中には機兵が収まっている。


 確かにあの中にいる。土煙に紛れ、逃げるのは不可能だった。


 機兵の巨体が動いたら、オレが目撃してる。


『俺達は、まだ勝ちを諦めてねえぞ。この装甲、テメエに抜けるかな?』


 ラートがアホらしいことを言ってる。


 あの状態、確かに一撃で殺すのは不可能だろう。


 だが、向こうの消耗が激しい。あれだけ大量の流体装甲で防御を硬めているとなると、長続きはしないだろう。


 立方体の表面に武器を生やして撃とうとしたら、狙撃で射抜けばいい。穴熊決め込んで勝ちを拾おうとしてるならガッカリだよ。


 ……ラートがそんなバカに走るとは思えん。


 何を企んでいる。


「……負けを認めろ。ラート。これ以上、無駄玉を撃たせるな」


『レンズ、虹の勇者って知ってるか?』


「――――」


 嫌な予感がする。


 火力重視で武器を生成し、一斉射を開始する。


 相手は機動力を完全に殺し、防御を固めているだけあって相当硬い。全力で撃っても装甲を剥ぐまで数分かかるかもしれない。


 相手が立方体の中から抜け出し、逃げようとしたら装甲の強度はガタ落ちする。そしたらこっちの砲撃が楽に入る。


 もう詰んでる。


 もう、オレの勝ちだ(・・・・・・)


 そのはずなのに……!!


『フェルグスとアルに教えてもらった物語なんだが――』


 ラートは喋り続ける。


 いつもの調子で喋り続けている。


『その物語によると、『もうちょっとで勝てそう』と思ってる相手には、隙が生まれるんだとよ。強者の隙、ってヤツだ』


「オレを舐めてんのか!? テメーはもう詰んでんだよッ!!」


『お前こそ、舐めてんのか』


 ラートの声が低くなる。


 こっちの発砲音がうるさいが、ラートの声はよく聞こえた。


『お前が戦ってんのは、俺だけじゃねえ。俺達(・・)だ』


「――――」


 悪寒が走る。


 待て。巫術師の声が聞こえねえ。


 びーびー泣いてると思ったが、何の声もしねえ。


「てめえら、いったい――」


 射撃を一時止める。


 その瞬間、小さな警告音(アラート)が響いた。


 大したことではありませんが、と言いたげなささやかな警告音。


 ダスト3は立方体の中にいる。


 だが、何か近づいて来て――。


「――――!」


 後方。


 警告音に従い、後方に攻撃を仕掛ける。


 だが、回避された。


 後ろに何かいる……!


 そいつがオレの攻撃を掻い潜り、体当たり(・・・・)を仕掛けてきた。


「…………!?」


 回避しきれず、当たった。


 だが、当たっただけだった。


 当たったのは武器じゃなかった。弾でもなかった。


 子供の玩具(・・・・・)だった。


「トイドローン!? バレットに作らせてたヤツか!?」


 玩具のドローンが飛んできて、オレの機兵に体当たりしてきた。


 たったそれだけの事。


 それで、立方体への注意が一瞬途切れた。


「テメエ! ガキの玩具を、囮に……!!」


『違うよ、レンズ』


 オレは確かにダスト3から視線を切った。


 だが、ダスト3は不動のままだった。


 防御をしっかり固めた立方体が、地雷原に鎮座し続けている。


囮は俺だ(・・・・)


「何――――なっ…………!?」


 機兵が動かない。


 ダスト3に向け、砲門を向け直したまま、ピクリとも動かなくなっている。


『火器管制システム、ロック』


『駆動制御システム、ロック』


『混沌機関、停止まであと10、9、8、7――』


「は!? ちょっ……! 何やってやがる!?」


 システムが勝手に止まり始めた。


 機兵が機動停止(シャットダウン)していく。


 急ぎ止めようとしたが、操作を一切受け付けねえ……!!


『3、2、1――』


 機関の音が弱まっていく。


 機兵は、完全に動かなくなった。


 それどころか、操縦席がオレを拘束するように固まっている。


 こっちは、何のダメージも受けてねえのに……!


「整備不良!? いや、有り得ねえ! そんなはず――」


『こ、降伏してくださいっ!』


 声が聞こえた。


 ガキの声だった。


 そいつが、オレの持つ端末から聞こえてきた。




■title:オックス島にて

■from:死にたがりのラート


「――よくやった、アル!」


 操縦席内で冷や汗を拭いつつ、笑う。


「完璧な一撃必殺だったぞ!」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊隊長


「だ、ダスト2、機動停止(シャットダウン)!」


「何で動かなくなったんだ? あともう一押しだったのに!」


 指揮所にいる隊員らが声を上げる。


 そう言いたくなるのもわかる。


 ダスト3――スアルタウ特別行動兵達の機兵は、もうボロボロだ。


 あくまで模擬戦のシステム上の扱いだが、大破寸前だった。


 ダスト2――レンズ軍曹の機兵は、まったくの無傷だった。


 ただ、子供の玩具(トイドローン)による体当たりを受けてしまった。


 ラート軍曹が装備品として申請してきた玩具に体当たりされてしまった。


「……ハッキングのようなものだ」


 そう言うと、隊員らの視線が私に集まった。


 星屑隊の機兵は電子戦用の特別な装備は使っていない。


「ラート軍曹は機兵用の装備として、トイドローンを申請していた。それをダスト2に体当たりし、ダスト2を機動停止に追い込んだ」


「は……? トイドローンなんかで、どうやって……」


巫術(イド)だ。巫術師(ドルイド)達は、物体に(・・・)憑依できる」


 だからこそ、機兵を憑依で操縦できる。


 接触した機兵なら、システムも操縦者も無視し、巫術師が主導権を握る。


「おそらく、ラート軍曹は意図的に(・・・・)地雷原に突入した。それによってレンズ軍曹を油断させつつ、防御を固めた。トイドローンを放った後でな」


「スアルタウ君の魂を、機兵からドローンに移したのか!」


 事を理解したドローンオペレーターが声を上げた。


「そして、ドローン経由でダスト2を奪取した! そういう事ですか!?」


「それ以外、考えられん」


 トイドローンを申請してきた時点で、その可能性はわかっていた。


 巫術の攻撃転用。


 問答無用の憑依掌握による一撃必殺。


 それを可能としたのはヴァイオレット特別行動兵の作ったヤドリギ。小さな玩具に頼る戦法を編み出したラート軍曹の判断。


 そして、小さな双肩に多くを背負ったスアルタウ特別行動兵自身の力。どれかが欠けていれば、このような勝利は実現しなかっただろう。


「しかし、ラート軍曹が意図的に地雷原に突っ込ませたってのは……?」


「レンズ軍曹を油断させるためだ」


 レンズ軍曹は、意図して地雷原に誘導した。


 ラート軍曹は、その意図を読み切った。


 読み切り、あえてレンズ軍曹の思惑に乗ってやった。


 ……事が思い通りに運んでいる時、人は油断しやすい。


「巫術では地雷の位置までは把握できん。しかし、ダスト3はダスト2の位置を常に正確に把握し続けていた」


 ダスト2は――スアルタウ特別行動兵は、怯え、逃げ惑いながらも観測の仕事はキッチリとこなしていた。


 その痕跡はデータベースに残っている。


 ダスト2の位置を更新し続け、ラート軍曹に伝えていた。


「ラート軍曹はダスト2の位置情報から、地雷の敷設位置を予測していた」


 操縦はスアルタウ特別行動兵が行っていた。


 それによって生まれた余暇の中、軍曹はマップに「地雷敷設予想地点」を記し続けていた。そこに突っ込ませたうえに、地雷でやられないよう、地雷原に突っ込む直前に「装甲を強化しろ」と発言したログも残っている。


 地雷を食らった後、地雷の起こす煙にまぎれてトイドローンを放ったのだろう。


 レンズ軍曹も優秀な軍人だ。


 冷静に戦況を分析し、模擬戦に挑み、終始圧倒していた。


 最後の一瞬以外、機兵から注意を逸らさなかった。


 それがマズかった。


 レンズ軍曹は「機兵」だけを注視し過ぎた。


 巫術師を警戒しつつも、機兵の危険度を上に見た。


 巫術師の魂が憑依した機器なら、ドローンだろうが地雷だろうがワイヤーだろうが、接触で乗っ取られる危険がある。


 その危険性を考慮していなかった。


 交国軍人としての経験には、対巫術師戦の経験が不足している(・・・・・・・・・)


「…………」


 やはり、巫術師は恐ろしい。


 今の勝利、単なる大番狂わせではない。


 敵機兵を傷つけず掌握する。そんな離れ業が出来てしまうと、小型のドローンを使うだけで巫術師の歩兵が敵機兵を倒せるようになる。


 倒し、さらには無傷で鹵獲まで出来る。


 敵機兵で敵の機兵と戦闘し、そこからさらに乗っ取っていく事もできる。敵側は巫術の存在をよく考慮しないと、どの機兵が敵か味方かわからなくなる。


 模擬戦の途中で見せた変形も、極めていけばもっと悪さが出来そうだ。


『隊長! どうですか!? いまの模擬戦、しっかり見てましたよね!?』


「…………」


 ラート軍曹の声が聞こえる。


 皆の視線が私を捉え続けている。


 巫術師を目立たせるのは、どちらかというと都合が悪いが……レンズ軍曹にそれとなく警告しておかなかったツケを払うしかない。


「ダスト2。これ以上は動けないな? ……それでは、模擬戦決着とする」


 このような勝ち方をされると、ケチのつけようがない。


「勝者、スアルタウ特別行動兵」


『ちっ、ちがいますっ!』


 勝者自身が私の言葉を否定してきた。


『ら、ラートさんも、勝ち、ですっ! ラートさん以外にも……! ヴィオラ姉ちゃんや、にいちゃんが頑張ったおかげ、です! 皆のおかげ、ですっ!!』


「……そうだな。貴様らの勝ちだ」


 そして、私の負けだ。


 巫術師は恐ろしい。


 だが、真に恐ろしいのは彼女だ。


「…………」


 ヴァイオレット特別行動兵。


 貴様は、誰だ(・・)


 何故、ここにいる。






【TIPS:第8巫術師実験部隊の植毛】

■スアルタウ

 四つ葉型の植毛が生えている。兄のフェルグスとお揃いが良いので、よく葉をちぎってフェルグスと揃えていた。だがフェルグスが「んなことやめろって」と叱ったため、ちぎらないようになった。



■フェルグス

 三つ葉型の植毛が生えている。どうせなら弟と同じ「四つ葉型が良かったなぁ……」と思いつつ、スアルタウの植毛を羨ましがっている。


 誕生日にスアルタウが自分の四つ葉型の植毛をちぎり、プレゼントしてくれた事がある。また生えてくるとはいえ、フェルグスは呆れつつも受け取り、その後もとても大事にしていた。


 しかし、交国軍がネウロンにやってきて以降に起きた諸々のどさくさの中、紛失してしまっている。フェルグスは内心、とても落ち込んでいる。



■グローニャ

 ハイビスカスに似た赤い花型の植毛。グローニャもお気に入り。明星隊の心無い兵士にブチッとちぎられた時は大泣きしたが、今はまた生えてきている。


 昔はよく周囲の人間に見せびらかしていたが、明星隊での事がトラウマになっている。そのため親しい相手以外と話をする時は、小さな手で植毛を隠しがち。


 心を許すと隠さず、見せつけてくる。褒められるとニコニコと笑う。



■ロッカ

 枝型の植毛が角のように生えている。以前はもっと立派な生え方をしていたが、グローニャとスアルタウを守るために明星隊の兵士と揉み合いになった際、ナイフで根本から切り落とされた。


 今は少しは伸びてきたが、まだまだ小さいまま。ロッカは「邪魔だったから、ちょうど良かった」と言っているが、切り落とされた日は枕に顔を埋めて泣いていた。



■ヴァイオレット

 植毛はない。そもそも、ヴァイオレットはネウロン人ではない。




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