過去:てっぽう 1/6
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■from:加藤睦月
『さあ、こっちに来なさい! あなたは私が有効活用してあげる!』
俺の母と、そのお腹にいた子はプレーローマの天使に殺された。
天使達の目的は俺だったらしい。俺は異世界に連れて行かれ、様々な器具を取り付けられ、注射を打たれた。
その注射はまるで空気入れのようだった。自分の胴体が風船みたいに膨れていき、手足どころか顔が埋もれてもなお、俺の身体は膨れ上がり続けた。
それでも死ねず苦しんでいるうちに周囲で悲鳴と焼き焦げる臭いが広がっていった。やがて誰の声も聞こえなくなった。微かに火が爆ぜる音だけが聞こえてきたが、生者の声は消え失せていた。
俺もそこで気絶した。そして、次に目を覚ましたら水槽の中にいた。
水槽の外から、天使達が「実験は成功だ」と言っている声が聞こえてきた。その仲の1体が――女天使が嬉々として何があったか教えてくれた。
俺はプレーローマの実験により、身に宿した神器を暴走させた。
その結果、世界を1つ滅ぼしてしまったらしい。
何かの注射を打たれた自分が、「何か」をやらかしてしまったのはわかっていた。けど、世界を滅ぼしたと言われると実感がわかなかった。
実験の様子を――世界が1つ滅びていく様子を映像で見せられても、実感がわかなかった。自分がこれだけの事をした実感はわかなかった。
ただ呆然とするしかなかった。
女天使は笑って衛星写真も見せてくれた。そこには「真っ黒い球体」があった。
本来は、俺の故郷と同じく青い海が広がるサファイアの如き星だったんだろう。けど、俺の神器が星を焼き、世界を焼き尽くしてしまったんだろう。
女天使はさらに、滅んだ世界の住民の断末魔も聞かせてきた。
録音記録を聞かせてきた。
『これほどの終焉に立ち会えるのは久しぶりねっ! 彼の神が死んで以来、世界を滅ぼす機会も減っちゃったから~』
『…………』
『キミが、これをやってのけたのよ!!』
俺は「違う」と言った。
ウソだ。知らない。
そう言って、現実から目をそらした。
『出来るのよ! キミは神に選ばれた救世主なのだから!』
当時の俺は、自分が持つ神器の力を認識出来ていなかった。
しかし、力自体は確かに存在しており……それをプレーローマの実験によって暴走させられた。利用されてしまった。……抵抗するべきだったのに。
『まだ気づいてないの? キミはもう普通の人間じゃないの!』
俺は困惑した。
世界を滅ぼしたという事実すら受け止め損なっているのに、「普通の人間じゃない」という言葉に困惑した。
俺の困惑が愉快だったのか、女天使は部下に鏡を持ってこさせて――。
『これが、今のあなたよ!』
鏡に映っていたのは、薄い血色の固まりだった。
水槽の中に、血色の粘液塊が浮かんでいた。
俺は、それが「自分」だと認識し、発狂した。
プレーローマの実験により、俺は世界を1つ滅ぼしたうえに人の姿を失ってしまった。神器の力が暴走した事により、粘液塊のバケモノと化してしまった。
俺はまた気絶した。次に目が覚めた時、辺りでは警報が鳴り響いていた。
気づくと、俺は壺の中にいた。
誰かに壺の中に入れられ、持ち運ばれていた。
血と硝煙の臭いの中、俺を壺に入れて持ち運んでいたのは父さんだった。
『睦月……! 良かった……良かった!! 目が覚めたか!?』
『…………』
『随分、待たせてしもうたな。直ぐ逃げるぞ。こんなとこ、直ぐおさらばじゃ』
父さんはそう言い、走り、仲間と合流した。
途中、プレーローマの兵士との戦闘になったものの……父さん達はそれを倒した。相手には権能使いの天使もいた様子だったけど、父さんが倒した。
父さんは俺を助けに来てくれた。プレーローマに誘拐され、実験台にされていた俺を見捨てず……仲間を見つけて助けに来てくれた。
父さんの仲間達の名を<エデン>と言った。
 




