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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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「面白くなってきた」



■title:オックス島にて

■from:死にたがりのラート


 キツいキツいキツい……!!


 バカスカ飛んでくる砲弾の雨の中、自分で自由に機兵を動かせないことが、ここまでキツいとは……! キツすぎて冷や汗しか出てこねえ!


 自分の自由に出来ないのは、機兵の操作だけじゃない。


 戦いの主導権も、自由にできない。


 主導権はレンズの手中にある。


 煙幕で何とか延命しているが、煙幕があってもなお直撃弾を貰っている。


 右腕は機能停止。ダメージ受けすぎて左腕の調子もおかしくなってきた。左脚の動作も少しおかしくなっている。


 レンズは執拗に風上をキープしている。


 煙幕に乗じて距離を詰めようにも、レンズが狙撃と砲撃でこちらの動きをコントロールしてくる。煙幕弾を風上に放ちたいが、それも対応されそうな間合いをキープされている。


 ギリギリ行けそうな気がするが……これは、多分、誘われてる。


 こっちが煙幕に頼る事は。絶対に読まれている。一か八かで撃った煙幕弾に見事対応され、無駄撃ちに終わる可能性がある。


 この状況から逆転するのは、俺じゃ無理だ。


「アル! 聞こえてるか!?」


 俺じゃ無理だ。


 だが、いま操縦しているのはアルだ。


 巫術師(スアルタウ)ならやれるさ……!


『ごめんなさい! ごめんなさいっ……!』


「アル! 大丈夫だ、落ち着け」


『ぼっ、ボクなんかじゃなくて、ロッカ君に任せれば――』


「アル!! 命令(・・)だ!!」


 操縦席の壁を叩きつつ、大声を上げる。


笑え(・・)!」


「へっ?」


「不敵に笑って、『面白くなってきた』って言え!」


「えっ? えっ……!?」


「ポジティブにいこうぜ! つらい状況だが、笑顔で『面白くなってきた』って言い続けてれば、気が楽になるぞ!」


 俺達はまだ負けてねえ。


 予定通りじゃないが、まだやりようはある。


 勝ち筋は残っている。


「結構効果あるんだぜ。俺はバカだから特に効果がある! 羨ましいだろ~?」


『えと、えとっ……!』


「さあ言え! アル! この窮地、面白くなってきただろ!?」


『っ……! ぉ……! 面白くなってきましたっ……』


「声が小さい!」


『面白くなってきましたぁ!!』


 スピーカーがキンキン鳴るほどの声。


 アルが俺に振り回され、頑張ってる姿に笑みがこぼれる。


「そうだ、面白くなってきたんだよ」


『うぅっ、でもっ……!』


「勝機は残ってる。俺を信じろ、アル! 俺もお前を信じてる!」


 俺じゃ勝てなくても、アルならきっと勝てる。


 コイツらは俺達には出来ねえことが出来る。


 全力を出せば、まだ勝ち目は残っている。


「砲撃は気にするな! 直撃しても大丈夫なのはわかっただろ?」


『これ、大丈夫なんですかっ……?』


「死ななきゃ安いもんよ! 煙幕はまだ少し持つ。移動しつつ、さらに面白くしていこうぜ。勝ったらもっと面白いからよ!」


『……はいっ!』


 アルの緊張も、少しはマシになってきたようだ。


 人間は慣れる生き物だ。


 アルが兵士としては経験不足でも、これだけバンバンと砲撃を浴びていたら、少しは慣れてくる。まだ負けていない事実が身体を支えてくれる。


『あのっ! それで、ボクどうすれば……!』


「それを考えているんだが、妙案が思いつかねえんだよなぁ……」


『それなのに「信じろ」って言ったんですかぁ!?』


「うっ。みょ、妙案がないだけさ。手はあるんだよ」


 賭けに出ることになるけどな。


「――――」


 アルは巫術観測を使い、レンズの位置を完璧に把握している。


 向こうの攻撃にビビっているが、それでもレンズの位置だけは律儀に教えてくれている。システム上の位置情報は更新されている。


 レンズの位置は丸わかりだ。


 けど、いま一番知りたいのはドローンの位置だ。


 レンズの砲撃は、機兵から出した小型索敵ドローンの観測に支えられている。レンズは俺達を直接見るのが難しいが、ドローンから来る情報で俺達の位置に目星をつけ、大まかな位置に撃ってきている。


 索敵能力はこっちが上。


 だから、その差をさらに大きくすれば――。


「よし、アル。レンズのいる方向に向けて煙幕弾発射!」


『はいっ!』


 煙幕の範囲を広げる。


 レンズに接近を警戒させる。


 ……アイツは接近戦を怖がっている。


 巫術師を侮らず、徹底的に自分の得意な間合いをキープしている。


 だから、煙幕で「距離詰めちゃうぞ!」とプレッシャーをかける。


「賭けに出るぞ。レンズと逆方向に走れ!」


『はいっ!』


 まずはドローンを落とす。


 情報戦で、圧倒的なアドバンテージを作る。


 島の上空には星屑隊の偵察ドローンも飛んでいるが、そっちは模擬戦の成り行きを見守っているだけ。レンズが利用しているのは、あくまで自分の小型ドローン。


 そいつを落とす。


 巫術では、ドローンの位置はわからねえ。


 だが、この状況で飛ばすなら、レンズがいる方向と真反対の可能性が高い。


 レンズとドローンで挟み撃ちにし、死角を潰しているはず……!


「アル! あそこだ!」


『――――!』


 煙幕の中を走り、レンズとは逆方向に飛び出る。


 その先にドローンの姿があった。


 あれを落とせば、情報戦で優位に立てる。


「撃て!」


 発砲させる。


 アルの射撃能力じゃ、直撃はほぼ不可能だが――。


「その程度のドローンなら、近接信管弾で行けるだろ……!」


 ドローンが火を吹き、大きくバランスを崩す。


 弾は直撃しなかったが、ドローンの電波に反応して近くで破裂。弾殻破片が全方位に撒き散らされる。小型のドローン相手なら、十分なダメージを与えられる。


 これでドローンを落とした。


 レンズの目を1つ、潰した。


 同じ手は二度と通用しないだろう。


 だが、一度だけなら出し抜けたはずだ! これで――。




■title:オックス島にて

■from:狙撃手のレンズ


「――――」


 撃つ。


 煙幕という「壁」を貫き、目標を狙い撃つ。


 命中、未確認。


 だが、当たったろ。


「一度だけなら、出し抜けると思ったか?」




■title:オックス島にて

■from:死にたがりのラート


「なっ――――」


『左脚部、機能停止』


 機兵が横向きに倒れていく。


 攻撃された。


 脚を撃ち抜かれた。


 マズい。読み合いで負けた……!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 ダスト3はよく頑張った。


 よくドローンを落とした。


 だが、そいつは囮だ。


 レンズはダスト3の動きを完璧に読み切った。


 ダスト3が放った煙幕弾はブラフ。


 ダスト3が破れかぶれの接近戦ではなく、ドローンを落として情報戦で優位に立とうとするのを読み切っていた。


 だから、煙幕の中で逃げずに狙撃銃を構えた。


 ダスト3がドローンを狙うと思しき場所に狙撃銃を向けておき、ドローンの視界を使って相手の位置を捉え、煙幕(かべ)越しの狙撃を決めやがった。


 操縦者がラートなら決まらなかっただろう。


 操縦者がスアルタウだからこそ、決まった狙撃だ。


 素人なりに努力して、ドローンをしっかり狙うために足を止めたのが災いした。


 ラートなら走りながら撃った。


 その差が、致命傷になった。




■title:オックス島にて

■from:死にたがりのラート


 確実にドローン屠るために、煙幕の外に出させたのがマズかった……!


「アルッ! 這ってでも煙幕内に逃げ――!」


 着弾音。


 次いで、無慈悲な電子音声が響いた。


『左腕、機能停止』


 ドローンは落とした。


 回転しながら落下していっている。


 だがまだカメラが生きていたのか、落ちていくドローンの視界越しに当てられた……! レンズの野郎、模擬戦で神業見せてんじゃねーよ……!!


「――――!」


 砲撃が飛んでくる。


 その爆音で俺の声がかき消され、煙幕も吹き飛ばされる。


 逃げ切れん。


 これはもう、さすがに――――。




■title:オックス島にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 負ける。


 負けちゃう。


 ボクの所為で。


 また(・・)、死なせちゃう。


 ボクが弱いから。


『――いやだっ!!』


 まだ負けてない。


 まだ動ける!


 這って逃げても、逃げ切れない。


 だから走る。


 ボクの一番得意な方法で!




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊のパイプ


 レンズがダメ押しの砲撃をしつつ、移動している。


 決定打を確実に決められる位置に向け、移動している。


「これで決着か……」


 思わずそう漏らすと、ロッカ君とグローニャさんが掴みかかってきた。そして口々に「アルは負けてねえ!」「負けてないもんっ!」と言ってきた。


 そう言いたくなる気持ちもわかるけど、もう無理だ。


 模擬戦の損害判断システムにより、ダスト3はもう自立すら不可能になった。


 両腕も使えない。


 流体装甲はまだ生きているが、それで出来るのは亀のように装甲にこもることだけ。その防御も遠からず限界が来る。


 だから、もう――。


「――――なんだ?」


 砲撃の土煙と煙幕の中から、何かが飛び出していった。


 凄まじく速い。


 ラートが操る万全の機兵より速い。


 それどころか、フェルグス君の操る機兵より、さらに速い。


 四足歩行の(・・・・・)機兵が、戦場を駆け始めた。




■title:オックス島にて

■from:狙撃手のレンズ


「タルタリカ……!?」


 一瞬、そう見紛う形状だった。


 交国軍の<逆鱗>とは、まったく異なる姿。


 四足歩行で、獣のように疾走している。


「――――」


 あの姿は知っている。


 知っているが、大きさが違う


 あれは……大狼!


 ガキ共が、流体甲冑を使って戦う時の姿だ。


「あの、ガキ……! 流体装甲だけで走ってんのか!?」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「あれ、アルの機兵だよな!? あんな形してなかったのに……!」


「流体装甲で、全身を作り直したんだ……!」


 アル君達の機兵は片足が機能停止。両手も使えなくなっていた。


 でも、流体装甲は生きている。


 アル君達は流体甲冑を使っている時、機兵と違ってフレームに頼っていない。流体を巫術で掌握し、流体(きんにく)だけで流体甲冑を動かしている。


 それを機兵でやっている。


 流体装甲で新しい脚を作ることで、無理やり走っている。


 それも苦し紛れの方法じゃない。


「速度が一気に上がった……!」


「アルは機兵をフツーに動かすより、あの方法の方が慣れてんだ」


 流体甲冑の時は、いつも4つの脚で走っていた。


 今も同じ方法を使っている。使い慣れた方法で、高速で走っている。




■title:オックス島にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


 流体甲冑と、機兵の流体装甲は似てる。


 巫術師(ぼくら)なら、機兵を流体甲冑みたいに使える……!


『…………!!』


 風を切りながら砲撃が飛んでくる。


 この砲撃は、目をつむって撃ってるようなもの。


 さっきドローンを倒したから、敵はこっちの位置が正確にわからない!


『うううぅぅぅっ!!』


 速度を上げる。


 怖い砲撃の雨を速さで無理やり振り切る。


 まだ撃ってくる。見えてないはずなのに、まだ当てようとしてくる。


『ラートさんごめんなさいっ! すごく揺れてると思うけど、耐えて!!』


「っ…………!!」


 普通に走る時より、ラートさんへの負担が大きい。


 でも、もうちょっと耐えてもらう。


 速度緩めるなら、砲撃を完全に振り切ってから!


「ぁ――アル! 俺に構わなくていい! このまま全速力で走れッ!!」


 ラートさんが行くべき道を示してくれる。


 敵に近づいていくルートだ。


 怖いけど、ラートさんが導いてくれるなら……きっと大丈夫!


「このまま風上を取るぞ!」


『はいっ!』


「その後は、予定通り仕掛け――――」


 指示を聞く。


 ラートさんが、勝利に導いてくれる。


 負けたくない。


 皆のためにも、ラートさんのためにも!


「狙撃が来るぞッ!! その後――」


『――――!!』


 敵の姿が機兵のカメラでも見えた。


 こっちを見てる。


 こっちも、見てるよ。


 巫術の眼で、そっちの位置、知ってるから!


『やああああああっ!!』


 さらに速度を上げる。


 ラートさんの導きに従い、少し、進路を変える。


 狙撃は――――回避したっ!


 危ないところだったけど、ギリギリ避けることができた!


 この姿なら、まだ戦える。


 まだ、勝て――――。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「アルちゃんの勝ちだ!」


 気の早いグローニャが両手を上げ、叫ぶ。


「――いや、レンズが誘導した(・・・・)


 今の狙撃は、倒すための狙撃じゃない。


 動きをコントロールするための狙撃だ。




■title:オックス島にて

■from:死にたがりのラート


 狙撃を回避し、逃げた先の大地。


 そこから、爆発音が響いた。


 下方から(・・・・)、立て続けに。




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