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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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聖地ニイヤド



■title:時雨隊母艦<流雲>にて

■from:自称天才美少女史書官・ラプラス


 ビフロストが誇る超絶ぷりてぃ美少女史書官の私を迎えに時雨隊がやってきた。


 星屑隊の船から時雨隊の船に渡るよう言われる。


「もうちょっと待ってくれませんか? 模擬戦を見たいです!」


 そうゴネたものの、それに賛同してくれる人は誰一人いません。かなしい。


 模擬戦が見れないどころか――。


「とほほ……。誰もカワイイ私を見送りに来てくれませぇ~ん……」


 時雨隊の船から星屑隊の船を見ても、こっちを見ているのは隊長さんだけ。


 さっさとどっか行け――と言いたげな無表情で見送ってくる。いや、あれは私が変なことやらないよう見張ってるんですかねぇ。


「え~ん! 大尉! ドライバ大尉! 模擬戦があるそうなんですよ! 星屑隊が模擬戦やるそうなので、それだけでも見ていきませんか~?」


 一応、時雨隊の隊長さんに泣きついてみる。


 星屑隊の隊長さんより人当たりの良い方で、私の言葉に苦笑を浮かべてくれましたが……返ってきた返事は色良いものではありませんでした。


「申し訳ありません、史書官殿。星屑隊には星屑隊の予定があるように、我々にも我々の予定があるのです」


「え~ん! えんえんっ! 泣いてる美少女が可哀想じゃないんですかぁ?」


「涙1つ流さず、無表情に訴えかけられましても……」


 護衛のエノクを肘でつつき、「エノクが代わりに泣いてください!」と頼んだものの、エノクは「やめろ。存在が恥ずかしい」と言うだけでした。クソがぁ……!


「時雨隊のいまの仕事は、私の護衛じゃないですか~。私が『あそこ行きた~い』『ここにまだいた~い』という希望を述べたら、それを汲み取ってくださいよ」


「そう言われましてもね……。監視(ごえい)の方々は、これで良いそうですが?」


 エノクとは別に、交国政府が私につけた護衛――もとい、監視役。


 彼らは私の後ろでしかめっ面を浮かべている。


 私がアレコレとワガママを言っているのが気に食わないご様子。


 この人達に何言っても無駄です! 私がちょ~っと単独行動しただけで、す~ぐプリプリと怒り出すんですからぁ。お小言はエノクだけで結構です!


「星屑隊がやるのはあくまで模擬戦のようですが、それも交国軍の正式な活動の一部です。一応、軍事機密ということにしておいてください」


「やだやだっ! 模擬戦(おまつり)、見た~い!」


「流れ弾が貴女に当たったら、重大な外交問題に発展します」


「それは大丈夫ですよ、だって――セーブしますか? おっと」


「…………?」


「失礼。今のはただのしゃっくりです」


 私の可愛い口元を押さえ、「詠唱(しゃっくり)」をごまかす。


 まあ、広義のしゃっくりですよ。自動発動型なので。


 時雨隊の隊長・ドライバ大尉は子供を相手にするような笑みを浮かべつつ、「まあ、とにかく、聞き分けてやってください」と言ってきた。


「ここでアレコレと揉めて、ニイヤド行きがなくなるのは困るのでしょう?」


「むぅ……」


 それもそれで困ります。


 かつて、シオン教の総本山だった街。ニイヤド。


 ネウロンに来たらあそこに行きたいと思っていました。交国政府が「いま危ないからダメ!」とか言ってくるので、なかなか行けなかったのですが――。


「今はニイヤドのためにガマンしましょう……」


「ご理解いただけたようで良かった」


 大尉はニコッと笑い、「それではウチの船を案内します」と言って私を先導し始めました。船内なんて勝手に探索しちゃいますけど~。


 時雨隊の船には、物珍しいものなんてありません。


 星屑隊には面白いものが色々あったので、後ろ髪を引かれる思いですが……。


「…………」


 ここでゴネすぎて、交国上層部に星屑隊の「異常」を知られる方がマズい。


 私の見立てでは、星屑隊はおかしい。おかしなものを抱えている。


 けど、ネウロン旅団どころか、交国上層部ですらそれに気づいていない様子。……ということは、アレは交国の仕込みじゃない。


 あの人達が怪しいと思って睨んでいたら、模擬戦なんていうオモシロイベントが起きたので、それも見て起きたかったのですが、部外者の私どころか私の監視役相手にも隠しているようだった。


 傍で見ていれば、さらに面白いものが見られそうですが――。


「まあ、いいでしょう」


 今は星屑隊を離れる。


 あの部隊が抱えている不思議の種が芽吹いた頃、また会えるでしょう。


 遠からず再会できる。私はそう確信しています。






【TIPS:ネウロンの地名】

■地名の名付け親

 ネウロン各地の地名は2種の根を持つ。1つは「ネウロン人由来」で、2つ目は「異世界人由来」である。


 ネウロンの地名の多くはネウロン人がつけたものだが、中には異世界からやってきた者達がつけたものもある。


 その「異世界からやってきた者達」というのが、ネウロンで広く信仰されるようになったシオン教の神「叡智神」とその使徒達である。


 叡智神達がつけた地名は現代ネウロンの公用語である和語の漢字を割り当てられることができる。叡智神由来の地名の代表例たる<ニイヤド>は「新宿」という漢字を当てることができる。


 その事実はネウロン人ですら忘れていき、古い文献でのみ残されるだけとなっていた。その文献の大半は交国が焼いてしまった。


 叡智神関係以外の地名は、多くのネウロン人の名前と同じく、和語ではない言語――ネウロン各地の古い言葉由来となっている。



■ニイヤドの由来

 叡智神がニイヤドをそう名付ける至った理由は、2つの説が存在する。


 1つ目の説は、叡智神がネウロンで最初に降り立った地を「今日からここが新しい宿になる」と言い、新しい宿、「新宿(ニイヤド)」と名付けたというものである。この説の根拠はシオン教が保管している資料でいくつも見つかる。


 2つ目の説は、叡智神が「新宿」という言葉に強い親しみを覚えていたというものだ。


 後者の説の根拠となったのは、約1000年前に書かれた日記である。


 日記を書いたのは「スミレ」という少女であり、少女が日々考えたことや学んだ内容が日記として記されている。


 日記の内容が正しければ、少女は「叡智神の従者」あるいは「生徒」のような存在であり、叡智神の私生活や公にされない心情を知りやすい立場にあったと考えられている。


 少女の日記には「ニイヤド」の名付けの由来に関し、少女が叡智神に問いかけた時のことも記されている。


 少女の質問に対し、叡智神は「自分でもハッキリとした名付けの理由はない」「だが新宿という言葉に、なぜか強い親しみを覚え、それをこの地の名付けに使った」と語ったことが記されている。


 ただ、2つ目の説は懐疑的に見られている。


 根拠がいくつもある1つ目の説と違い、少女の日記しか根拠のない2つ目の説は胡乱な目で見られている。



■少女・スミレの日記

 スミレという少女が残した日記は、一時、シオン教で大きな問題の火種となった。「神を冒涜する偽書」とも言われた。


 その理由は、日記に記された叡智神の私生活が「神らしいとは言い難いもの」だったためだ。


 具体的には「今日は気分が乗らないから1日寝る」「シシンに買いに行かせた新作ゲームが届いたから、しばらくスミレと遊びまくる」「実験失敗して山一つ吹き飛んだけど、神の御業ってことでごまかす」「発電機壊れたからバフォメットに神器で発電させよう」「実験失敗で研究所のトイレ全部詰まらせた。エーディンに叱られる。鬱だ」「異能の所為でまだ見てない映画のネタバレ見ちゃった。吐きそう」などとという言動について記されていた。


 ネウロンで広く信仰されているシオン教において、叡智神は絶対の存在である。「神が俗な行いをするはずがない」「神はウンコなんてしない」と強く信じられている。


 1人の学者が少女の日記を発見し、「ニイヤド」の名付け由来の新説を発表したことにより、この日記は広く知られることになった。


 学者はシオン教の熱心な信者達に糾弾され、教団もこの少女の日記を「涜神(とくしん)のために作られた偽書」と認定。


 日記は教団に没収され、教団主導で公の場にて焚書されることが決まった。その場には遠方からも多くの信者が駆けつけ、焚書の時を心待ちしていた。


 が、この「催し」は急遽、中止となった。


 少女の日記を偽書と認定していた教団が急に「この日記は偽書ではない」と言い出し、焚書も取りやめとなった。


 教団が意見を翻した理由は明らかになっていないが、「教団上層部よりも上の存在が圧力をかけたことで、急に偽書認定が取り下げられた」「『神の耳』が動いた」という根拠のない説が一時期流行った。


 この説における「教団上層部より上の存在」は、「ネウロンを去った叡智神なのでは?」と言う者もいた。叡智神帰還の噂は信者達を狂喜させたが、結局、帰還説はデマとして消えていった。



■少女の日記の行方

 少女が残した日記は「偽書ではない」と教団が公式に認めたとはいえ、多くの信者達が「公式が勝手に言ってるだけ」とし、非公式に「あれは偽書に違いない」と言うようになった。


 焚書未遂事件以降、日記の原本は教団で保管されていたが、その存在を許せない信者達が改めて焚書を求める嘆願を数多く提出した。


 その嘆願が聞き入れられなかったため、暴走した信者が保管場所に放火――まではしなかったが、保管場所に入って日記の原本を盗み出そうとする事件が発生。


 事件以降、日記の原本は別の場所に移されたが、教団内部でもその場所を知る者は少ない。改めて焼却されたと言われてもいるが、どちらにせよ教団が偽書認定を取り下げたことには謎が残る。


 交国上層部もこの日記の原本入手を試みているが、それは実現していない。教団関係者を尋問し、日記の行方を追ったが、誰も行方を知らなかった。



□ある家族の記録


「に、にいちゃん……。ダメだよぅ……」


「いいじゃん! ちょっと中身ちょっと見るだけだって」


「でも……」


「さて、何が入って…………。ん? なんだぁ、この古い本……」


「…………? 日記かなぁ……?」


「なーんだ。どれどれ、何を書いて――」


「…………! コラッ! アンタ達!」


「「わあっ!?」」


「何でここに勝手に入ってんの! ダメでしょ~……!!」


「アルっ! 来い! 逃げるぞっ!」


「わ、わぁ~……!!」


「もー……! まったく……!」




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