四つ巴
■title:交国本土にて
■from:人材派遣会社<羊人>社員
「や――やめろっ! 撃つな! 撃たないでくれっ!」
急に軍の機兵がやってきて、オレ達を包囲してきた。
何で正規軍がここに! 機兵部隊まで使って、オレらのこと張ってたのか!?
車から飛び出して、他の奴らにも指示に従うよう促す。奴隷共の拘束を解かせて、車の外に出させる。
「奴隷共、オレらのこと、言うなよっ……!? 交国人じゃないお前らも、軍の人間に存在バレたらタダじゃ済まないからな……!?」
そう言って脅すと、軍の奴が「何を話している」と言ってきた。
両手を上げたまま、愛想笑いをして誤魔化す。
どうするどうするどうするっ……! こっちの後ろには領主がいるとはいえ、領主の権限も限界がある。……密かにやってた人身売買がバレた場合、領主ごとオレらも無事じゃ済まない可能性が――。
「お、オレ達は……そのっ……家族で散策に来てただけで――」
『そうか。では、身分証を提示してもらおうか』
「あぁぁぁ……!」
機兵だけではなく、回転翼機も飛んできて……そこから交国軍人が次々と降下してきた。そして、オレ達を調べ始めた。
オレら全員の身分も確かめ始めた。終わった! 言い訳しようがねえ!
状況を理解してねえ部下が叫んでいる。銃口の前で錯乱して「オレ達は青城守の部下だぞっ!」なんて余計なことまで喋り始めた。
思わず顔面を覆いたくなったが、こっちに銃口が向いている。余計に言い逃れ出来なくなるから、マズいこと言わないでくれ~……!
『貴様らの所属については、じっくり聞かせてもらう。何をしていたのかもな』
「く、くそぉ……」
『貴様らを違法な武器所持及び、テロ関与の疑いで拘束させてもらう』
「は? えっ?」
テロ関与? えっ、なんのことだ?
オレらがいつ、テロに関与したって言うんだ?
コイツら、オレ達のことを前々から怪しんでいて……密かに見張っていた交国軍とか……そういうのじゃ、ないのか……?
■title:交国本土にて
■from:交国軍第7艦隊所属・特殊強襲部隊・第5班班長
『班長。テロリストに奪われた通信機もありました』
「そうか。誰が持っていたんだ?」
『こちらの男です』
機兵の操縦席に乗ったまま、眼下の部下と青年を見据える。
ウチの部下に後頭部を掴まれ、顔を上げるように促された青年の顔と、入管の情報を照合する。……間違いない、ワダツミ運送の社員として交国本土に来た奴だ。
だが、単なる運送会社の社員じゃない。
正体はテロリストだ。
つい先日、<エデン>というテロ組織が交国本土に侵入しようとし、港で問題を起こした。こちらは急ぎ拘束しようとしたが、全員逃がしてしまった。
その後、追跡を続けていたんだが……つい先程、奪われた通信機の反応を見つけ、部下を連れて急行してきた。
単に通信機が見つかるだけではなく、奪ったテロリストまで見つけられるとは……。テロリストが余程間抜けなのか、何らかの意図があったのか。
『コイツら全員、<エデン>の協力者でしょうか?』
「そういう雰囲気じゃないな。どうやら別口の犯罪者と……被害者といったところだろう。そっちの子供3人は丁重に扱え。怖がらせるな」
『了解。保護します』
少女1名と少年2名は、おそらく何らかの犯罪の被害者だろう。
捜索していたテロリスト以外の野郎共は、この子達の誘拐なり人身売買に関わっていたのかもしれない。話は聞かせてもらうが、保護すべき相手だろう。
そういえば……さっき馬鹿の1人が口走った青城守は、人身売買に関与している噂があったな。噂は本当だったってことか。
青城といえば、かつては交国本土最大級の港湾都市だったが……黒水の急速な発展に押され、繁栄に陰りがあった場所だ。
起死回生の策だか小遣い稼ぎか知らんが、人身売買など手を出した時点で青城守は終わりだ。馬鹿共はしかるべき機関に突き出し、青城にも強制捜査が入る事になるだろうが……それはウチの担当じゃない。
第7艦隊が探していたのは、<エデン>のテロリストだ。馬鹿共を逃がしてやるつもりもないが、そっちはそこまで気にしなくていい。
機兵を操作し、片膝をつく。
そして何の罪もないであろう少女1名と少年2名に、私からも語りかける。
我々はキミ達を保護する。危害を加えるつもりは一切ないので、こちらの指示に従ってくれ――と告げたが、怯えた表情しか返ってこなかった。
怖がられているようだ。まあ、それは仕方ないとして――。
「だが貴様の扱いは、その子達とは異なるものになる。貴様はエデンのテロリストだな? ……何故、こんなところで通信機を起動した」
我々が捕まえたテロリストは、何故か安堵の表情を浮かべていた。
■title:交国本土にて
■from:死にたがりのスアルタウ
『……何故、こんなところで通信機を起動した』
「…………」
賭けだったけど、上手くいったみたいだ。
港で交国軍から奪った通信機を起動し、その反応を感知した交国軍を呼び寄せることでミェセ達を保護してもらう。
青城の追っ手も、交国軍相手に挑みかかるほど無謀じゃなくて良かった。おかげでミェセ達を無事に保護してもらう事が出来た。
……ここに来た交国軍の反応的に、ミェセ達は助けてもらえそうだ。交国軍は僕らの敵だけど……軍の中にもラート達みたいな人は絶対いる。この人達も一般人に手を出すような人達じゃなくて良かった。
あとは僕が逃げ出すだけなんだけど……。
『兄弟、流体甲冑は……』
「…………」
こんな時に、流体甲冑が上手く機能しなくなった。
完全に壊れたわけじゃないと思う。酷使しすぎてガス欠状態なんだろう。……こんな時に使えなくなるなんて、僕の悪運も尽きたかな。
使えたところで、そう遠くまで逃げられなかっただろうけど――。
「ちょっと待ってください! アーロイは私達と同じで、青城から逃げてきたんです! アーロイも、私達みたいな奴隷で……!」
「ちょっ、ミェセ……!?」
僕を庇う必要はない。
キミまでテロ関与の疑いをかけられるのはマズい。
幸い、交国軍の人達はミェセの言葉に取り合わなかった。
『お嬢さん。そいつはろくでもないテロリストなんだ。庇わなくていい。そいつはお嬢さん達を人質にするようなろくでもない奴で――』
「アーロイは私達を助けてくれたんです! わ、悪い人じゃないんですっ! これは、きっと、なにかの間違いで……!」
「僕とこの子達は、まったくの無関係です」
大人しくするんで、この子達を保護してあげてください。
僕に銃を向けている軍人の皆さん、そう訴える。怪訝そうな目つきを向けられたが、さすがにミェセが僕の協力者だと疑う素振りはない。
「この子達は、逃げている途中でたまたま会っただけです。近くの町に行くのに、案内してもらっていただけで――」
『……黙れ、テロリストめ』
■title:交国本土にて
■from:交国軍第7艦隊所属・特殊強襲部隊・第5班班長
「……黙れ、テロリストめ」
コイツは何を考えているんだ。
少女達が本当はテロの協力者で、捜査の手が及ばないように庇っている可能性はある。だが、おそらく本当に無関係なんだろう。
この子達が犯罪の被害者で、逃げている途中に助けたとか……そんなところか?
そのうえ、この子達を追っていた者達から守るために危険を冒して我々を呼びつけたという事か? こいつ……本当にテロリストなのか?
間違いなくテロリストのはずだ。
入管の記録には、コイツの顔が残っていた。間違いなくエデンの一味だ。
交国の治安を乱す蛆虫の言葉など、真面目に取り合う必要はない。……理解してやる必要などない。我々は粛々と職務を遂行するだけだ。
とにかく連行して尋問してやればいい。
「そいつを連れていけ。例の術式に気をつけろ」
『待って! 待ってください!』
「お嬢さん、そいつに庇うならキミの事もテロリストの一味として疑わざるを得なくなる。無実なら余計なことは言わず、黙っておきなさい」
少女達とテロリストは、別便で輸送する。
テロリストは尋問室に直行。少女達は基地に連れて行った後、温かいココアでも振る舞ってあげながら話を聞いてあげればいい。
とにかく、この場を離れようと動き出すと――。
『班長。こちらに近づいてくる回転翼機が――』
「軍の作戦行動中だと伝えろ。近づけさせるな」
『それが、向こうも軍用機でして……』
「なに……? どこの部隊だ」
『確認取れました。黒水です! 黒水の警備隊です』
「――――」
こちらの制止を聞かずにやってきた回転翼機がまだ低空飛行している中、1人の大男が飛び降りてきた。
長い黒髪を後ろで縛った身長2メートルほどの大男が、回転翼機の作る大風に押されつつ、世間話でもしに来たような雰囲気でこちらに近づいてきた。
『こちら、黒水警備隊・隊長の立浪巽だ! そっちは交国軍第7艦隊の特殊強襲部隊だな!? お仕事ご苦労さん!』
「黒水警備隊の隊長が何をしにきた。……ここは黒水の地ではないぞ」
『そいつらの身柄を引き取りにきたんだよ! さっさと渡してくれ!』




