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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.0章:その正義に、大義はあるのか
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疑惑の石守夫妻



■title:交国軍から奪った輸送船にて

■from:死にたがりのスアルタウ


 黒水守の妻である石守素子が――<玉帝の子>が玉帝暗殺を企てた噂。


 この話、どこかで聞いたような覚えがあるような……? 星屑隊の誰かがチラッと言っているのを聞いたかもしれない。


『確か、アラシア隊長が星屑隊時代に言っていたな。黒水に初めて行った時だ』


 エレインがコソッと教えてくれた。


 何でも、アルの傍にいた時に聞いたらしい。僕も他の隊員からの又聞きで小耳に挟んでいたのかもしれない。それはともかく――。


「でも、あくまで噂ですよね? 本当だったとしたら、黒水守の奥さんは……石守素子さんは処刑とか、そういうことされているはずです」


「まあな。ただ、火のないところに煙は立たないって言うだろ? 実は20年ぐらい前に近衛兵による玉帝暗殺未遂事件が起きて、その黒幕が石守素子だったんじゃないかって話があるんだよ」


「あー……近衛兵による暗殺未遂事件は聞いたことあります」


 アラシア隊長に教えてもらったものと、同じ事件のようだ。


 その事件も真偽は不明だけど、交国政府や交国の報道は「近衛兵による玉帝暗殺未遂事件があった」と言っている。それも総長と同じように冤罪っぽく見えちゃうけど……それは偏った意見だろうか。


 事件の詳細について、僕の知ってることに関して話すとヨモギさんは「そうそう、よく知っていたな」と言った。


「しかし、何で知ってたんだ?」


「あ、ええっと……。総長が特佐時代に『玉帝暗殺を企てた』って冤罪事件があったじゃないですか? 似たような事件があったんだな、ってことで気になって……たまたま知っていたんです」


「ふーん……?」


「でも、そんな事件に玉帝の娘さんが関わっているなんて……不思議な噂も流れるものですね」


 玉帝の娘といっても、血の繋がりはないんだろう。


 その石守素子さんも、犬塚特佐達と同じように人造人間だろうし――。


「実は事件後からしばらく、石守素子は幽閉されていたらしい」


「玉帝暗殺未遂事件と幽閉の時期が重なっているから、その2つを結びつけて『暗殺未遂に関わっていたのでは?』って疑われているって事ですか」


「そうそう」


「確か……黒水守の奥さんって結構若かったような……?」


「事件当時は10歳前後だったかなー」


「そんな年齢の子が、玉帝暗殺なんて企てないでしょ~……」


 近衛兵が玉帝を殺そうとしたって件そのものが、どうにも怪しい。


 それだけでも怪しいのに、妙な噂が立つもんだなー……。


 さすがに有り得ないと思いますと言うと、ヨモギさんは「玉帝の子だから、普通の思考回路じゃなかったのかもよ」と返してきた。


「横暴な玉帝を間近で見ているうちに、義憤に駆られて近衛兵を扇動したのかも」


「うーん…………」


「ああいや、俺もマジで信じてるわけじゃねえよ? 噂話(ゴシップ)として興味深いな、と思っただけでさ。何でそんな噂が流れ始めたのかはよくわからんが」


「首謀者じゃなくても、何らかの形で関わってしまったとか……」


「どんな形で?」


「例えば…………何か見てしまったとか?」


 石守素子さんが玉帝暗殺を企てたって噂自体、怪しく感じるのでフワッとした意見しか言えなかった。


 さすがにフワッとしすぎなので、改めてよく考えてみると――。


「あるいは……近衛兵の脱走(・・)に関わったとか?」


「ほう?」


「確か、近衛兵による玉帝暗殺未遂事件って、事件に関与したとされる近衛兵の1人が脱走しちゃって……それきり見つかっていないんですよ」


 石守素子さんは暗殺なんて一切関わっていなかった。


 けど、親に仕えている近衛兵と知人だったから、暗殺の疑いをかけられて拘束された近衛兵を「かわいそう!」と考えて……ついつい逃がしちゃったとか。


 小さな子供が――事の重大さに気づかず――ついうっかり近衛兵を逃がしちゃって、それが「暗殺に関与した」ってムチャな噂に繋がったとかだったりして。


 そんな話をすると、ヨモギさんは「なかなか面白い説だな」と言ってくれた。


「珍説すぎるので聞き流してください。10歳前後の子供が交国から1人の大人を脱走させるなんて、さすがに不可能でしょうし」


「石守素子は傑物らしいし、ガキの頃でもムチャクチャ優秀だったかもだぞ。お前さんの言う通り、罪人を1人逃がすぐらいは出来たかもしれん」


 でもやっぱり、噂は噂に過ぎないと思うけどな~……。


 どんな形であれ、子供がそんな大事件に関わっているとは思えない。幽閉云々も、病気とかで長期療養が必要だったとか……そんなとこじゃないかな?


「その幽閉って、もう解かれてるんですよね?」


「多分な。黒水守と結婚した頃から、表に出てくるようになったし」


 玉帝は黒水守の――当時は「加藤睦月」と名乗っていた神器使いの功績をたたえ、諸々の褒美も兼ねて黒水の領主にした。


 その時、娘の1人だった石守素子さんの婿にしたらしい。……そして黒水守になった加藤睦月改め石守睦月は……後にラート達を殺した。


「玉帝の子供は何人もいるとはいえ、流民だった男に娘をやるのは異例で……世間は随分騒いでたな。かくいう俺も驚いたが」


「そうなんですか……」


「幽閉されてたっぽい娘だから、黒水守は『不良品を掴まされた』『流民にはお似合いの褒美だ』って言われていたんだが……実際はとんでもない相手だった」


 現在の石守素子さんは、良い意味で有名人らしい。


 玉帝暗殺未遂事件の黒幕だったのでは――という噂は相変わらず流れているものの、交国の経済政策に口出しするほど実力者みたいだ。


 そういえば犬塚特佐も言ってたな……。黒水守の躍進の裏には石守素子(いもうと)さんの活躍もあったって……。


「黒水守は軍事作戦にちょくちょく参加して領地にいないこと多くて、今の黒水は実質的に石守素子が仕切ってるはずだ」


「その黒水も、結構な規模に成長してるんでしたっけ?」


「結構なんてものじゃねえ。今じゃ交国指折りの港町だよ」


 今後も大きく成長していく見込みらしい。


 石守素子さんは領地経営しつつ、交国の政策にも口出しするほどの女傑。結婚当初は「不良品」と言われていた評価を実力で一蹴したわけだ。


「今の黒水守は玉帝とかなり親しくやってるみたいだ。一介の犯罪者が随分と成り上がったもんだよ」


「…………」


 黒水守は、もう立派な天上人。


 昔、僕が会った時よりも出世してしまったんだろう。……ラート達の死も踏み台にして、成り上がっていったんだろう。


 その事を考えると、どうしてもモヤモヤしてしまう。


 モヤモヤどころか、暗い感情がフツフツ沸き立ってくる。


 余計な考えを振り払うために食事の準備に集中する。


 集中してもなお、「上手に作れた」という出来ではなかった。野菜の皮むきはヨモギさんのそれほど上手くいかず、ブサイクな出来だった。


 それでも、味付けとかヨモギさんがキチンと見てくれたおかげで、ラフマ隊の人達にも概ね好評なカレーが作れた。


 その事にホッと胸を撫で下ろしていると――。


「スアルタウ、ちょっと来てくれ~」


「あ、はーい!」


 ヨモギさんに呼ばれて行くと、ヨモギさんが女の子の首根っこを掴んでいた。女の子はカレーがよそわれた皿を持ったまま、不機嫌そうにしている。


 僕は初めて見る子だ。


「2人は顔合わせまだだったよな? スアルタウ、コイツはラフマ隊の情報支援担当(オペレーター)のタカサゴだ」


「こ、こんばんは……! アラシア隊のスアルタウですっ! ワケあって、ラフマ隊に同行させてもらってます」


 多分、僕と年の近い女の子だろう。


 こういう子が元傭兵部隊のラフマ隊にいる事にビックリしつつ、握手を求めたけど……タカサゴさんは「ぷいっ」とそっぽを向いてしまった。


 ヨモギさんはタカサゴさんに「ほら、お前も挨拶しろ」と促したけど、彼女は猫のようにヨモギさんの手から逃れ、トタタタ……と走り去ってしまった。


「いや、すまんな。アイツちょっと人苦手…………いや、人見知りする子なんだ」


 普段は船室に籠もっていることが多く、あまり表に出てこないけど、情報支援の腕は確かだから仲良くしてやってくれ――と言われ、頷く。


 レンズと違って女の子と仲良くなるのは苦手だけど、ラフマ隊にお世話になっている身だし、頑張って仲良くなろう。同年代っぽいし気になるし。


「毎日挨拶しにいってみます!」


「いやいや……それされると絶対嫌がるから、適度に距離を保ってくれ。絶対に人に懐かない野良猫を相手してるもんと思ってくれ」


 あの子もラフマ隊長達と同じく、元傭兵なのかな?


 元傭兵って雰囲気の子には見えなかったな……。





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