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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.0章:その正義に、大義はあるのか
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ヨモギ副長の料理教室



■title:交国軍から奪った輸送船にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「おーい、スアルタウ。ちょっとこっち手伝ってくれ」


「はいっ! いま行きます!」


 僕は無理を言ってラフマ隊に同行させてもらっている身だ。


 出来る仕事は何でもする。掃除や整備の手伝い、方舟の操作補助、巫術を使った索敵もやる。その他の雑用も何でもやる。


 けど、これだけじゃ足りない。


 ラフマ隊の仕事を見学に来たんじゃないんだ。乗員が1人増えた影響で食料の分配計画と補給予定計画を練り直してもらった以上、もっと役に立たないと!


 もっと役に立つためには、出来る事を増やしていこう。


「今日も料理指導、よろしくお願いします!」


「おうおう。まずは肩の力を抜きな~? 力んでたら怪我するぞ」


 料理も出来るようになって、ラフマ隊の皆さんの負担を軽減しないと。


 料理に関しては副長のヨモギさんが押しつけられ――――もとい、一任されているらしく、ヨモギさんの仕事を手伝いながら指導を受ける。


 手伝うといっても、基礎的なところから指導をしてもらう必要があるから、ヨモギさんの足を引っ張りっぱなしだ。


 けど、ヨモギさんは僕を叱り飛ばしたりせず、大らかに構えて「何でも聞いてくれ」と言ってくれている。


 種族がオークなうえに、この大らかな雰囲気は……ラートを思い出す。ちょっと子供っぽいところあったラートと違って、ヨモギさんは落ち着いた大人って感じだけど、茶目っ気もあるから少し雰囲気が似ている。


「今日は時間たっぷりあるし、スアルタウ君に全部作ってもらおっかな」


「2日目にして、僕が全て担当するんですか……!?」


「俺が手伝うし、難しいところは代わるよ。『料理できない』っていっても壊滅的なわけじゃないから何とかなるさ」


 いきなり責任重大だけど、これは好機だ。色々と任せてもらった方が覚えやすいし、時間があるうちに大きな事を任せてもらえるのは助かる。


 ヨモギさんと一緒に、今日使う食材を食料庫から出していると、他の隊員さん達が様子を見に来てくれた。「がんばれよ」と応援もしてくれた。


「ウチの副長、顔に似合わず料理得意だから。色々と教えてもらいな」


「顔に似合わずは余計だ。てか、お前らもたまには手伝え……!」


 ヨモギさんがプンスカと怒ると、隊員さん達はヘラヘラ笑って「やだ」「乾麺しか無理!」「どうせなら美味いもの食いたい」と言い、手伝いを断ってきた。


 ラフマ隊の皆さんは、ラフマ隊長の指示を聞くとテキパキ動いているようだけど……副長であるヨモギさんの指示は、結構適当に聞いているみたいだ。


 といっても人望がないわけではなく、友人みたいな距離感に見える。絶対に守らなきゃいけない指示はキッチリ聞いているようだし、単に仲良しってだけだろう。


 手伝いを断って去って行くラフマ隊の皆さんは、去り際に変な事を言った。


「あ、そうそう。味付けは副長のを参考にしすぎるなよ!」


「濃いめでいいぞ、濃いめで」


「…………?」


 皆が「副長は料理が得意」と言うのに、何で「味付けは参考にしすぎるな」と言ったんだろう。


 僕も副長さんの料理は美味しいと思う。ラフマ隊の方舟に便乗させてもらって初めて食べたけど、実際に美味しかった。


 さっきの言葉はどういう意味なんですか? とヨモギさんに聞く。するとヨモギさんは頬を掻きながら恥ずかしそうに教えてくれた。


「いや、俺はついつい薄味にしがちなんだわ。濃い味付けダメな奴によく作ってたから、そのクセが抜けねえというか……」


「そうなんですか」


 肉体労働の多い傭兵さん達なら、濃い味付けを好みそうだけど……傭兵じゃない人に作っていた経験があったのかな。


 あれ、でも、ラフマ隊長は仲間の人達と昔から少年兵やってきて、その後も傭兵稼業をやっていたんだよな。……ひょっとしてヨモギさんって途中加入組?


 そんな些細な疑問は、僕が夕食を担当するという一大イベントによって吹っ飛ばされていった。……一日を締めくくる大事な食事だ。しっかりしないと!


「今日はカレーだ。初心者でも作りやすいからお前さんにピッタリだ」


「ほ、ホントに初心者向けなんですか……!? 僕でも出来ますか!?」


「ルーもあるから、そうそう失敗しねえよ」


 大人数の食事を作る事になるから、こういうものが楽でいい――と言い、ヨモギさんは厨房に持って来た野菜を手に取った。


「今日は混沌の海(うみ)に出て2日目だから、新鮮な野菜がゴロゴロある。この機会に野菜の皮むきも経験しとけ」


「了解です」


「わかってると思うが、海流の影響でたまに方舟揺れる。包丁で自分刺さないように気をつけろよ~?」


「はい」


 揺れた時に危ないから、少し離れて野菜の皮むきをする事になった。


 ヨモギさんはちょくちょく僕の指導をしてくれているけど、僕の数倍のペースで次々と野菜の皮をむいていく。


 僕の方は遅いうえに、むき方も下手だ。ヨモギさんは笑って「初心者にしては大したもんだ」と褒めてくれているけど――。


『いや実際、兄弟の包丁捌きは初心者にしては頑張っているぞ。戦闘訓練でナイフの使い方も学んだのが活きているのだ。さすがだ、すごいぞ』


「…………」


 エレインもちょくちょく褒めてくれる。


 慣れない作業が上手く行かず、落ち込んでいる僕を励ましてくれているらしい。恥ずかしいからやめてほしいけど、いまヨモギさんいるから話しかけづらいな……「スアルタウが虚空に話しかけている~」とか思われそう。


 エレインに褒められて恥ずかしいあまり、微妙な表情を浮かべていた所為か、ヨモギさんは「本当によく頑張っているぞ」と褒めてくれた。


「俺らは料理の専門家じゃないんだから、プロ並みになる必要はない。腹が膨れて栄養が取れる程度のモノ作れればいいんだよ」


「うぅ……。僕は、それもまだまだ難しそうです……」


「初心者なんだから仕方ねえよ。まあ、この経験もいつか活きるさ」


 ヴィオラ姉さん達にも料理を作ってあげられるって意味かな――と思ったけど、違うらしい。


 ヨモギさんはしっかり握った包丁を指揮棒のように振りつつ、「こうやって料理していると、食料物資管理の意識も高まっていくだろう」と言った。


「その経験は、お前さんが<エデン>の総長になった時に役立つだろうよ。下の人間がメシの用意にどれだけ苦労しているか理解できるからな」


「僕は……総長になる気は無いですよ」


「あれっ? そうなのか? カトー総長はお前を後継者にしようとしてんの、最近は特に隠さなくなってるが……」


 実際、総長は僕を「後継者にしたい」と言っていた。


 冗談だと思いたいけど、総長があんな冗談を言うとは考え難い。ヨモギさんも「総長は本気」と思っているようだ。


「僕なんかにエデン総長の地位が務まるとは思えません。エデンの戦闘員としての仕事すら、十分にこなせているとは言いがたいですし……」


「謙遜しなさんな。犬塚銀を倒し、白瑛を鹵獲出来た立役者だろ?」


 ヨモギさんは「よっ! エデンのエース機兵乗り!」なんて言ってくれたけど……それで自信を持つのは無理だった。


 エデンの構成員として働けば働くほど、「総長のやっている事はスゴい」と実感する。総長は戦闘員として働きつつ、たくさんの構成員の指揮もやっているんだから……僕の100倍以上、仕事をしている。


 最近の総長はエデンの外にも色々と指示を飛ばし、とても忙しそうにしている。


 ブロセリアンド解放軍は繊三号基地で代表や幹部の人達が死んでしまった事で指導者不在になったから……総長が代表代行のような事をしているらしい。


 エデンの指揮だけでも大変だったのに、解放軍の実質的な指導者になった総長の負担はグッと増えただろう。それなのに涼しい顔をしている総長の後継者なんて……僕にはなれない。


 僕は、総長みたいにスゴい人じゃない。


 それに――。


「総長が僕を後継者にするの本気だったとしても、今はもうやめてるはずですよ」


「なんで?」


「僕、総長の指示に背いてネウロンを出てきたんですから……」


 総長は相当怒っている様子だし、僕への愛想も尽きただろう。


 師弟関係まで解消されたら、ちょっと寂しいけど…………僕のワガママで出てきちゃったんだから、そこは仕方ない。


 けど、ヨモギさんは「そんなの関係無いと思うがねぇ」と言った。


 どうも、総長は未だにラフマ隊に「一度ネウロンに帰ってこい」「アルを連れ帰れ!」と言っているらしい。


「だからお前さんを後継者として育てるの、諦めてないと思うぞ」


「でも……総長の命令に背いた僕は、組織の人間として最悪ですよね」


「そうかもな。兵士の仕事は、上の命令を遵守することだ」


 ヨモギさんはそう言った後、直ぐに「でも、エデンは軍隊じゃない」と続けた。


「総長自身が『軍隊じゃない』って言ってるし……お前さん達は兵士じゃない。だからこそ、何もかも総長の言いなりになる必要はないと思うがね」


「そうでしょうか……」


「総長がお前さんを本気で後継者として育てる気があるなら、今回の交国本土潜入作戦みたいなこともバンバン経験させるべきだよ。経験も一種の栄養だからな」


 料理と同じく、経験しておけば将来役立つ。


 専業でやらないとしても、色んな経験を積み、色んな経験を積めば将来役立つだろうよ――とヨモギさんは言ってくれた。


「ウチの隊長が総長の意に反してお前さんを連れて行くことを決定した以上、もうそこまで気にしなくていいじゃねえか? どうしても申し訳ないと思うなら、お前さんだけが持つ技術をラフマ隊に貸してくれや」


巫術(イド)のことですか?」


「そうそう。白瑛を強奪できるほどの術式、交国本土での潜入作戦でもアレコレ役立つのは間違いない。期待してるぜ~?」


 ヨモギさんは「怒られるのはお前さんだけじゃない。ウチの隊長もガッツリ怒られるだろうから、1人で怯える必要はねえよ」と言ってくれた。


「カトー総長も内心では喜んでるかもしれない。お前さんが自主的に考えて危険な作戦に志願したことに、『成長した』って感想を抱いてるかもよ?」


「いや~……さすがにそれはないですよ」


 優しい総長でも、さすがに「命令に背いたクソガキ!」と怒ってるに違いない。


 ホント、ラフマ隊の皆さんに同行したのは僕のワガママなんだ。僕がついていったところでレンズ救出が上手く行くとも限らないんだ。


 僕は潜入作戦の玄人ってわけじゃないし……。


「本気で命令違反されたくないなら、もっとキチンとした規律作れって話だよ。命令に背いた場合は銃殺…………は無いにしても、メシ抜きとかさ」


「あはは……」


「もしくは、俺達全員を<蟲兵>ってヤツにするとかだな」





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