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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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暗雲



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


 今日が模擬戦当日。天気は予報通り、あまりよろしくない。


「まだ降り出してねえが……降ってくるんだろうなぁ……」


 多少なら耐えれるが、土砂降りの雨になると少し都合が悪い。


 雷まで鳴ったら最悪だ。叡智神様よ、晴れにしてくれとは言わねえから、大雨と雷だけは勘弁してくれよ――と祈った後、格納庫に向かう。


 いつもならこの時間にはもう、格納庫の隅っこにアイツがいるはずだが……。


「整備長。フェルグスのヤツ、まだ来てないんですか?」


「んぁ? あぁ……そういや、今日はまだ見てないねぇ」


 計器のチェックをしていた整備長がそう教えてくれた。


 フェルグス、ここ最近は毎日のように早朝から格納庫にやってきて、掃除の手伝いしてから憑依の練習してたんだけどな。


 まあ、模擬戦開始までまだ時間がある。遅刻しなきゃ問題ない。


 むしろ、模擬戦当日にしっかり休んでおくのは良い判断だ。


 フェルグスが来るまでに出来る事をやっておこう、と思いつつ、機兵の操縦席に行く。それで機器のチェック作業をしていると――。


「ラート軍曹。手伝いますよ」


「バレット。すまんな。でも今日のお前、遅番だろ?」


 バレットは少しだけ笑って、「今日は大事な日でしょ」と言ってくれた。


 どっちが勝とうが、バレットには関係ない話だ。いや、フェルグスが勝った方が子供達が格納庫に来る機会が増えて、バレット的には嫌かもしれない。


 それなのに手伝ってくれている。


 プレゼント作りといい、模擬戦の準備といい、かなり重要な役割を担ってくれている。今度、町に寄った時に色々奢ってやらなきゃ。


「姿勢制御システムの調整、こちらでやりますね」


「すまねえな」


「まあ、システム面の調整は大半、あの子がやってくれたんですけどねー……」


「ヴァイオレットか」


 バレットが頷く。


 ヴィオラはヤドリギの調整だけではなく、機兵の調整も手伝ってくれていた。俺とフェルグスが訓練している間も、整備長達と協議しつつ、フェルグスが万全の状態で戦えるように色々やってくれていたらしい。


「今更ですけど……あの子、何者ですか?」


「んー? 何者って、ヴィオラはヴィオラだろ」


「いや、機兵のシステムをイジれるって……おかしいでしょう? あの子、ネウロン人のはずでしょう? OSまでイジって整備長が驚いてましたよ」


 それもイタズラにイジったのではなく、真っ当な調整をしてくれた。


 ヴィオラのおかげで、フェルグスの思い切りの良い操縦だろうと俺も気張らずついていけるようになった。指示も飛ばしやすくなった。


「あの子、普通のネウロン人なんですか? 本当に」


「さあなぁ……」


 ヴィオラの素性か。そう言えば全然聞いてねえ。


 特別行動兵にされた子供達と離れ離れにならないために、交国軍人にケンカ売るファンキーお姉ちゃんってことぐらいしかわからねえ。


 あとはネウロン人の持つ特徴、植毛が――頭に植物みたいな毛が生えてない。アレは切っても問題ないらしいから、単に切ってるだけかもだが……。


「まあ、ヴィオラはヴィオラさ。ヤドリギなんてものをポンと作れるぐらい頭いいし……機兵のシステムをイジれてもおかしくないだろ?」


「いや、かなりおかしいですよ……」


「そうかぁ?」


 そこで会話が途切れ、しばし集中して作業を進める。


 今のところ問題なし。残りのチェック作業はフェルグス来てからだ。


 バレットに手伝いの礼を言うと、「整備士が整備手伝うのは当然ですよ」と笑われてしまった。


「……今日の模擬戦、勝てそうですか?」


「自信はある。どう勝つか、お前には教えただろ?」


「確かに聞きましたけど……」


 バレットは困惑した様子で首をひねった。


「あんな勝ち方、前例ないですよ」


「でも、勝ちは勝ちだ。事前に試して、フェルグスが俺の機兵を起動するところを見ただろ? 本番でも上手くいくさ」


 勝ち筋は見えている。


 思えば、ニイヤドの時からそうだったんだ。


 ニイヤドの戦闘で、俺はフェルグスに流体甲冑で襲われた。


 あの攻撃、機兵の装甲なら問題ないはずだった。


 だが、俺は戦慄した。一瞬、敗北を考えた。


 今ならあの意味がわかる。多分俺の()が、敗北を感じ取ったんだ。


 フェルグスの勝ち筋を、第六感で悟ったんだ。……多分!


「前例ないなら、アイツが前例を作るよ」


「成功すればいいんですけど……。あっ、これも乗せておかないと」


「おっ、そうだな」


 バレットから受け取った箱を操縦席に置いておく。


 箱の中身は模擬専用の装備として許可が下りている。


「問題は天気ですね。今日は――」


 ポツポツと水音が聞こえてきた。


 それはどんどん勢いを増し、ザアザアと降り始めた。


「雨の予報、でしたね……」


「あ~……。ちとマズいな。もう少し弱まってほしいとこだが」


 やっぱ神頼みって役に立たねえ!


 模擬戦までまだ時間あるし、それまでに小降りになってくれりゃいいが……。


 空模様見ながら一喜一憂していると、子供達がやってきた。


「おう! おはよう!」


「おはようございますっ!」


 元気よく挨拶すると、アルが一番大声で挨拶を返してくれた。


「おはよ~~~~!」


 グローニャも負けじと大声を出していた。その様子に思わず笑みがこぼれる。アル達と一緒に来たヴィオラも微笑ましそうにしている。


「って、あれ? フェルグスは?」


「あれっ? 先に来てませんか……? 船室に姿なかったんですけど……」


 フェルグス以外の全員が来たが、肝心のフェルグスの姿がない。


 便所でも行ってんのかな――と思っていると、フェルグスがやってきた。


 ヨタヨタと、少しふらつきながらやって来た。


「おう! おまえらぁ……! 今日は勝つぞぉ!」


 様子がおかしい。


「「「…………」」」


 フェルグスに向け、駆け出す。


 俺が走り出すのとヴィオラとアルが駆け出すのは、ほぼ同時だった。


 3人で詰め寄り、フェルグスの身体の調子を確かめる。


 俺の手は払いのけられたが、ヴィオラの手がフェルグスの額に伸び――。


「医務室に……!」


「わかった。俺が運ぶ」


「うわっ! ん、んだよっ! 離せ……」


 フェルグスは熱を出していた。


 本人は「戦いが近いから、気分が高ぶってる」と言い張っていたが、そんなレベルじゃねえ。「離せ」と暴れる動作も、いつもより弱々しい。


 これは……おそらく、今日の模擬戦に出せる状態じゃない。


 今日、フェルグスは戦えない。




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