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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第5.0章:その正義に、大義はあるのか
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血濡れの王冠



■title:<ネウロン>の繊一号にて

■from:エデン総長・カトー


 アルに王女のことを打ち明け、拳銃を渡した翌々日。


 アルはまだ浮かない顔をしているが、王女や犬塚銀のことに関し、聞いてこなくなった。納得していないが、ある程度は理解してくれたのかもしれない。


 弱者(おれたち)には勝利が必要だ。


 結果が必要だ。


 それがなければずっと苦しい生活を送らないといけない。それどころか、強者の都合に振り回されて命の危険すらある。それをわかってくれたんだろう。


 全て納得出来なくても、いずれ……わかってくれるだろう。


「アル。しばらくオレの護衛をしつつ、仕事を見てくれ」


「仕事……ですか?」


「ああ。オレにはエデンの指揮以外にも、色々やる事があるんだよ」


 ネウロン解放は順調に進みつつある。


 だが、解放した後も色々とやる事がある。


 ブロセリアンド解放軍の奴らは――オレ達が犬塚銀を倒した事によって――オレ達を支持しつつある。解放軍の中枢人物達も死んでしまったため、エデン総長(オレ)の指揮下に入りつつある。


 解放軍以外にもオレ達の傘下に入ってきた奴らに指示を飛ばしたり、傘下に引き込むための交渉もやらなきゃいけない。


 しばらくは忙しいぞ! 強壮剤の量も増やさないとなぁ。


「護衛なら、喜んでやりますけど……仕事を見ろ、というのは――」


「お前はいずれ、オレの後継者(・・・)になるからな。仕事を覚えてもらわないと」


「え? 後継……?」


 エデンはこれからも大きくなっていく。


 ネウロン解放はゴールじゃない。あくまで通過点だ。


 ネウロンを基盤にエデンをさらに大きな組織にする。……巨大軍事国家の交国に勝つためには、こっちも相応の組織力が必要になる。


 オレだけで全ての兵士に指示を飛ばすのは不可能だ。アル達のような若者にも指揮官役を務めていってもらう必要がある。


 中でもアルは、特別な役割を担ってもらう必要がある。


 もちろん、直ぐに全て背負わせるつもりはないが――。


「お前にはいずれ、ネウロンにいるエデン構成員の代表になってもらおうと思っている。将来的にはエデンの総長も務めてもらう」


「ぼ、僕が……!? 総長? そんな、無茶な……」


 アルは一昨日とは別の困惑顔を見せ、近づいてきた。


「総長は、カトー師匠でしょう? 師匠は……なんで、そんなこと……」


「オレが老い先短いことは、お前だってわかっているだろ?」


「…………」


 オレは交国政府に神器を奪われた。


 神器を持っている間、オレは不老不死の超人(メサイア)でいられた。だが、神器を失ったことでオレは急速に老いていく爺になっちまった。


 交国から神器を取り戻せば――全盛期の力は取り戻せずとも――老化は止められる可能性がある。だから、神器も取り戻したいと考えている。


 だが、取り戻せない可能性もある。


 間に合わない可能性もある。


 最悪の事態を考えて、キチンと対策を打っておくべきだ。


 アルを後継者として育てるべきだ。


「師匠が総長の座から退くとしても……僕なんかより、適任の人達がいますよ」


「お前以上の人材はいない」


 ヴァイオレットは、指導者向きの性格じゃない。オレと真逆の方針を持っている弱腰の女だ。アイツには組織を背負う力はない。


 アラシアも無理だ。アイツは所詮、一部隊の隊長を務めるのがやっとの男だ。アイツは一組織の長になれる器じゃない。


「もちろん、直ぐにお前に丸投げするつもりはない。オレも出来る限り……交国やプレーローマに勝つまでは、死ぬつもりはないさ」


 アルはオレと同じ過去(キズ)を持つ同志だ。


 オレもアルも、強者の理不尽によって大事な家族を失っている。


 お前になら全て任せられる。


 直ぐには無理だが、いずれアルに全てを任せようと思っている。


「正直、オレは総長なんかやりたくないんだ。いま総長やってんのは、他に任せられる奴がいないから仕方なくやっているだけだ」


 姉貴が生きていた頃は、とてもやりやすかった。


 信頼できる姉貴が組織を仕切って、オレは一戦士として奔放に戦うだけで済んでいた。……あの頃は頭からっぽでも問題なかった。


 総長の椅子は、正直、苦しい。枷にしかならない。オレには向いてない。


 けど、姉貴もファイアスターターもいないんだ。


 オレがやるしかない。……オレが全部やるしかないんだ。


「お前やバレットを含め、エデンにも若い人材が育ってきている。老兵のオレは、いずれお前達に全て任せて……最前線で戦いたいんだ」


 交国もプレーローマも、邪魔な奴は自分の手でブッ殺してやりたい。


 今はもう、神器があった頃のように無茶できない。


 けど、それでも……昔みたいに戦う事を諦めたくないんだ。


「お前達なら平和な組織を……いや、世界を築けるはずだ」


 オレは暴力を担当する。


 汚れ仕事も担当する。


 全ての邪魔者を排除した後、キレイな世界を若者(アル)達に託したい。


 そのためにもまだ死ねない。アルにも、もっと色々教えてやりたいしな。


 総長として、師匠として――。


「お前は、次代のエデンを担う指導者候補だ。その自覚を持ってくれ」


「僕はそんな器じゃありません。総長みたいには……なれません」


「そんなことねえよ。オレは、お前を一番買ってるんだぞ?」


 お前は自分を過小評価しすぎだ。


 オレは、お前を正しく評価している。


「犬塚銀を倒し、白瑛を鹵獲出来たのはお前のおかげだ」


「違いますよ……。総長やバレット、そしてヴィオラ姉さんやラフマ隊長達の協力がなければ勝てない相手でした」


「謙虚だな。そこもお前の良いところだ」


 アルは既に「エデンのエース」と言える逸材だ。


 神器使いではないが、昔のオレを見ている気分になる。お前は、オレを超える戦士になる才能を持っている。冷静で謙虚で、誰に対しても優しいお前は、指導者になる才能もある。……オレと違って才能がある。


 優しすぎるのが問題だが、致命的な問題じゃない。……オレが全ての邪魔者を消して、アルの優しさが肯定される世界を作ればいいんだ。


「お前は、エデンの総長以上になれる器の持ち主だ。王の器の持ち主だ」


 お前が望むなら、オレがお前をネウロンの王にしてやる。


 いや、ネウロンどころかもっと大きな枠組みの最高指導者にしてやる。


 オレの意志を継いで、皆を導いてくれ。……そしたら、オレは無駄死にせずに済む。お前という次代を担う戦士を育てた師匠になれる。


「来い、アル! これこそがお前の玉座だ! お前が、王たる証だ」


 アルは既にそれを手に入れている。


 困惑顔のアルの手を引き、格納庫まで連れてきて、玉座(それ)を見せる。


 傷一つない白い機兵を見せる。


「お前が鹵獲した<白瑛>は神器並みの性能を持っている。お前には白瑛を乗りこなしてもらう。そしたらお前は、神器使い(オレ)並みの戦力になれる!」


「今後も、白瑛を使うつもりなんですか……?」


 アルはオレから一歩離れつつ、そう問いかけてきた。


「ヴィオラ姉さんの読み通り、白瑛内部には……天使が『搭載』されています。白瑛は非人道的な兵器なのに……今後も使うつもりなんですか?」


「非人道的? あぁ、お前、天使を人間(おれたち)と同一視しているのか」


 天使は人間扱いしなくていい。


 アレは羽虫だ。


 人間を殺すしか能のない害虫だよ。


 人類を滅ぼそうとしている天使共に対して、手段を選ぶ必要はない。滅ぼそうとしている以上、何をされても文句は言えないだろう。


 そもそも、白瑛のようなことはプレーローマだってやっている。


「お前だってプレーローマの機兵を……<レギンレイヴ>を見た事があるだろう? アレはプレーローマだと、人間の脳髄だけ乗せて操作したりしているんだぞ」


 プレーローマも交国も、似たようなことやってんだ。


 どっちもどっちなんだ。人道なんて気にする必要ないんだから、奴らの権能(ちから)と兵器を有効活用してやろう。


「白瑛の中にいる天使を……楽にしてあげちゃ、ダメなんですか?」


「ダメに決まってるだろ! 中に搭載した天使が死んだら、そいつが持っている権能が使えなくなるんだぞ?」


 そしたら白瑛は一気に平凡な機兵になる。


 白瑛を神器並みの戦力として使うには、権能が絶対に必要だ。


 白瑛はエデンの旗機になり得る戦力だ。それをエデンのエースであるアルに預けるのは、当然のことだと思うが……アルは嫌そうにしている。


 何とか使って欲しいが……無理強いするのは、よくないか。


「わかった。白瑛の乗り手は、他を当たってみる。けど……オレはお前を一番評価しているんだ! お前が白瑛に乗るのが一番良いと思うんだよ……」


 まあ、アルが使いたくないのも理解できるけどな。


 犬塚銀の手垢がベッタリついているうえに、加工された天使が搭載されている機兵なんて気持ち悪いもんな。


 しかし、アルがダメなら誰に任せるか。


 バレットか? アイツはアルやレンズみたいな才能はない凡人だからな……。最悪、オレが乗るしかないか。


 あるいは……バフォメットに任せるか。


「まあ、気が変わったら教えてくれ」


 気分悪そうにしているアルの肩を抱き、白瑛から引き離す。


 ……喜んでくれると思ったんだが、オレの考えが甘かったか……。


「とにかく、お前はオレの後継者に相応しい逸材だ! お前は何にだってなれる。最強の機兵乗りにもなれるし、最強の巫術師にもなれるし……王様にもなれる」


「僕は地位なんてどうでもいいんです」


 アルはオレの手を握りつつ、真っ直ぐ見つめてきた。


 温かい手だ。老兵(オレ)の死にかけの手と違って――。


「僕は、『スアルタウ』のコードネームに恥じない生き方をしたいんです。皆を守ることができれば、僕を守ってくれた弟に……少しは、胸を張れるから……」


「わかるよ。その気持ち」


 やはり、オレ達は同じ傷を持っている。


 お互い、大事な存在を強者の理不尽で無くし……その死に突き動かされ、今を生きている。現状を変えるために必死に戦っている。


 オレの後継者は、お前しかいねえよ……。


 アルは優しすぎて、オレの考えを直ぐに理解するのは難しそうだ。けど、きっと……いつか、オレが正しかったと理解してくれるはずだ。


 勝てばアルもオレを認めてくれるはずだ……!


「オレもお前と同じ気持ちだ。オレも、この名(カトー)に恥じない生き方をしたい」


 オレこそが「カトー」に相応しい人間なんだ。


 オレこそが、あの人の真の後継者なんだ。


 ……アイツじゃなくて、オレこそが「カトー」なんだ……。


 今は奴の方が上でも、いずれ……全てひっくり返してやる。


 結果で、オレの選択が正しかったと肯定させてみせる。世界に認めさせてやる。


 そして……姉貴やナルジス達の復讐も、完遂してみせる。


 オレが正義だ。オレ達が、正義なんだ。





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