過去:自慢のおにいちゃん
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■from:狙撃手
オレのオヤジは、立派な機兵乗りだったらしい。
勇敢で仲間想いで、銃を持たせれば機兵でも生身でも無双する。
部下に慕われ、常に皆の先頭に立って道を切り開く優秀な兵士だったそうだ。
オヤジの葬式に来たオヤジの知り合いは、皆口々にオヤジを褒めていた。オヤジがどれだけスゴい兵士だったのか、オレの手を取って教えてくれた。
『キミの手は親父さんに似ている』
『キミもきっと、親父さんのような優秀な兵士になるだろう』
そう言われた。
オヤジの死に関しては……正直、そこまで実感わかなかった。オレ物心つく前からずっと、オヤジは戦場で戦い続けていたし……。家にはほぼいなかったし……。
電子手紙はよく送ってくれた。軍事委員会の検閲で問題ないと判断されたら、戦場で撮った写真も添付してくれていた。
オヤジの死より、あの写真はもう送られてこないんだな……という感想が最初に出てきた自分に引いた。大事なはずの家族より、写真を惜しむ自分の神経を「どうかしてる」と思った。
オヤジに対するバツの悪さや、『親父さんのような優秀な兵士になる』という言葉に背を押され、軍学校の訓練に励んだ。励んだつもりだった。
けど、結果はあまりついてこなかった。
今ならわかる。当時のオレはとりあえず量をこなしていただけで、質は二の次にしていた。だから時間をかけたわりには、結果が伴わなかった。
次第に苦しくなって、『親父さんのような――』って言葉がスゲー重荷に感じるようになった。頑張るのが苦しいのに、「頑張らなきゃいけない」という気持ちだけが先行していった。
そんな日々を過ごしていた時、母さんが「再婚する」と言い出した。
母さんはオヤジより顔を合わせていたけど、軍学校に通っている身だとあんまり会うことなくて……正直、どうでも良かった。
オヤジの恩給があるから、生活にはそこまで困っていないはずなのに、オヤジとは別の男に逃げるんだなぁ……なんて失礼な事を考えたが、わりとどうでもいいから反対しなかった。
反対しないで正解だった。
新しい父さんには、3人の娘がいた。
どの子も小さくて可愛くて、オークのオレとは全然別の生き物だった。
初めて会った時、厳ついオークのオレを不思議そうな顔で見上げてきた姿は小動物のように見えた。
新しい父さんは娘達に「皆にお兄ちゃんが出来たんだよ」と言った。妹達はパッと表情を明るくし、「おにいちゃん!」と声を揃えて呼んできた。
そんで、初対面のオレの身体をよじ登り、「おにいちゃん!」「おにいちゃん!」と大合唱していた。オレは面食らったが、胸中に湧き上がってきた感情は明らかに喜びだった。照れくさくて笑みがこぼれた。
それから、毎日のように妹達と電子手紙をやり取りし始めた。
軍学校での事をたくさん教えた。オレの話なんて面白くねえと思うが、妹達は電子手紙でも電話でも面白そうにオレの話を求めた。自分達の話より、オレの身の回りのことを聞きたがった。
軍学校のことを話すってことは、オレの成績のことも話さなきゃいけなくて……オレは最初、結構、見栄を張った。
小さな妹達の「自慢のおにいちゃん」になりたいから、成績を盛った。
バレやしねえ、と思ったが、バレた時の事を思うと不安でたまらなくなった。
だからオレは前以上に努力するようになった。努力の量のわりに平凡だった成績を変えるために、教官達に「どう努力すればいいか」を聞いた。
教官達は快くオレを導いてくれた。
おかげでオレは、同年代の中ではそれなりに優秀な機兵乗りになった。
妹達も喜んでくれた。大喜びしてくれた。
オレは見栄を張らなくて良くなった。
妹達の「自慢のおにいちゃん」になれて、凄く……嬉しかった。
アイツらがいたからこそ、今のオレがいる。
オレは妹達のためなら何でも出来る。昇進してもっと俸給もらえるようになって、アイツらにもっともっといい暮らしをさせてやるんだ。
ぬいぐるみだって作ってやる。アイツらが欲しいと思うものなら、何だって用意してやる。妹達こそがオレの混沌で生き甲斐なんだ。
……それなのに、オレは一度間違った。
妹達と出会って以降、全てが順調になったはずだったのに……ミスって、ネウロンみたいな辺境に左遷された。
もう間違わない。
もう負けない。
これ以上、下に落ちることは許されないんだ。
ポッと出の術式使いに、負けてたまるか。




