過去:報い
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
「カトー! カトー!! 竜国から連絡が来たぞ!!」
「竜国から……?」
交国への身売りの件をファイアに相談しようとしていると、竜国から連絡が来たと言われた。……竜国がオレ達を心配して、連絡してきた。
竜国でエデンの人間を受け入れる事は出来ないが、物資を融通してくれるらしい。向こうも交国とやり合って苦しい状況だろうに……。
物資があれば、もうしばらくやっていける。……その間に、交国に身売りする以外の方法が見つかる可能性も――。
「久方ぶりに、懐かしい顔を見られるそうだ」
「懐かしい顔?」
「エデンが保護した子を、竜国に預けただろう!? 彼らは成長して、今は竜国の国軍で働いているらしい。彼らが物資と届けてくれるそうだっ!」
ファイアが嬉しそうにそう言うと、ナルジスもほころんで「私のお兄さん、お姉さんみたいな感じだね」と言った。
「ナルジスに紹介するのが楽しみだよ。といっても、オレ達も会うの久々だが」
「成長した姿では、誰が誰かわからないかもな」
「大丈夫。わかるさ。背が伸びて顔つき変わっても、中身は同じなんだからな」
希望が残っていた。
オレ達が守った希望が、残っていた。
「竜国との合流地点に向かうぞ!」
オレ達がやってきた事も、少しは意味があったんだ。
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
何で、竜国の部隊が襲ってきた。
何で、見知った顔が襲ってきた。
何で、そんな目でオレ達を見るんだ。
何で、なんで。
オレ達を、助けに来てくれたんじゃ…………。
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
「なぜ……何故! 吾輩達を襲ってきた!? お前達は、竜国の人間として、我々に救援物資を届けに来たのでは……!?」
「俺達は、お前達の神器を奪いに来たんだ」
「意味がわからん」
見知った顔が、よくわからん事を喋っている。
お前、ハチロータだろ? それにお前はミク……。ミキスギもいるじゃないか。
竜国の学校でいっぱい学んで、大きくなったんだな。成長したんだな。
お前らが誰か、オレはわかるぞ。
「オレ達がわからないのか? オレだよ、カトー兄ちゃんだよ」
「……知ってます。だから、襲ったんだ」
「……なんで」
「だから……! アンタらの神器を手に入れて、竜国に持ち帰るためだよっ! 神器を持ち帰れば、交国との戦争も少しは優位に進められるかもしれないだろ!?」
「レンオアムか」
アイツが、お前達をけしかけてきたのか?
救援物資を持って来たフリをして、オレ達を襲うよう命じたのか?
「違うっ! 竜王様がそんなこと、命じるわけないだろっ!?」
「竜国が人類連盟とやり合うことになって、ヒドい状態になって……。そんな時、何もしてくれなかったエデンなんかに手を差し伸べる慈悲深い御方だぞ!? 竜王様は……!」
「オレ達が、何もしなかった?」
「事実だろ!? アンタらは竜王様の厚意に甘えてばかりで、借りを何も返してくれなかったじゃないか!!」
「竜国が危うい状態なのに、助けに来てくれなかったでしょ!? 恩知らず!」
「…………、…………」
「エデンの所為で……アンタ達みたいなテロリストと関わった所為で、流民も竜国もヒドい目にあってるんだ!」
「だから、アンタ達を殺して神器を奪うしかねえだろ!?」
「誰の命令だ」
レンオアム王の命令じゃないなら、誰に命じられた。
そう聞くと、「俺達の独断だ」という答えが返って来た。
「俺達、竜国流民同胞団は……竜王様への忠誠を示すために、竜王様の命令に背いて……お前達の神器を回収しにきたんだ!」
レンオアム王は、オレ達に救援物資を送るつもりだった。
実際に送った。
だが、物資輸送を担当した部隊が……コイツらが、勝手に仕掛けてきた。
そういう事らしい。
かつて助けたはずの奴らが――竜国のために――オレ達を殺そうとしたらしい。
「だが、作戦は失敗した。俺達の負けだ」
「負けたが、テロリストに屈するつもりはない……!」
「何を――――やめろ!!」
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
「はっ……。ハハッ……」
兵士の遺体が転がっている。
竜国の兵士達が――オレ達を睨みながら――自決していった。
誰も助けられなかった。
オレ達が助けたはずの子供達が、オレ達の所為で死んでしまった。
「ハハハハハッ!!」
希望が残っていた?
どこに?
オレ達は、結局、何も出来なかったってことじゃないか。
それどころか、皆を不幸にした。
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
「…………」
過去のニュースを見る。
竜国国内にある元流民達が住んでいる町で、大きな暴動があったらしい。
そこには、エデンが竜国に預けた奴らが大勢いた。
大暴動のきっかけは、竜国とエデンの関係が発覚したこと。
竜国が人類連盟から抜けざるを得ない状態になった時のこと。
竜国の国民は「エデンというテロ組織が竜国に災いをもたらした」と言い、「エデンの関係者を殺せ」と言いだしたらしい。
そして、竜国の国民が元流民達が住んでいた町に押しかけ……元流民達を襲ったらしい。軍が止めに入ったものの、その時には大火事も起きており、元流民側に多数の死傷者が出たらしい。
その後も、竜国で元流民達は難しい立場に置かれた。
オレ達なんかと関わっていた事で、アイツらが責められた。
真に受け入れてもらえたわけじゃなかったんだ。
余所者である流民に対し、悪感情を持つ奴らがいたんだ。それが竜国の人連脱退をきっかけに爆発し、元流民への排斥運動に繋がった。
だから……輸送部隊のフリをして、オレ達のところにきたアイツらは……オレ達を襲った。オレ達を殺して神器を手に入れ、エデンと元流民の手が切れている事を証明しようとした。
レンオアムが望んだわけではないが、竜国国民の信を得るために……厳しい状況にある元流民の同胞達のために、自分達の手を汚す決断をした。
知らなかった。
竜国は孤立していたし、内部の情報は殆ど伝わってこなかった。
知らなかったんだ。そんな事になっていたなんて。
でも、全部、オレ達が悪いのか?
じゃあ、どうすれば良かったんだ。
誰か、教えてくれよ。
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
レンオアムから通信が来た。
話したくない。
アンタらは、もう一切オレ達に関わるな。
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
「竜国には頼らない。……頼れない」
オレがそう言うと、失望の声があがった。
■title:新暦1239年
■from:エデンのカトー
「ニュクス総長が生きていれば……こんな事には……」
そうだな。
オレも、そう思うよ。
何で、オレなんかが生き残っちゃったんだろうなぁ。




