過去:甲斐性無しのテロリスト
■title:新暦1216年
■from:エデンのカトー
「ハチロータ! ミク! ミキスギ!? どこだ!!?」
いなくなったガキ共を探し、走る。
竜国に停泊中のエデンの方舟から、一部のガキ共の姿が消えていた。
ファイアスターター達と手分けして、必死に探していると……オレがガキ共を見つけた。ガキ共は竜国の街中にいた。
竜国の奴らに誘拐されて、人質にされたのかと思って焦ったが……ガキ共が自分達で抜け出していた。どうやら勝手に遊びに来たらしい。
「コラ! ガキ共!! 心配させやがって……!」
叱りながら近づいていったが、ガキ共はオレに構わず何かを見つめていた。
「アレは……」
学校だ。
ガキ共は、竜国の学校を羨ましそうに見つめていた。
「カトー兄ちゃん、アレって学校だよね?」
「そうみたいだな」
「すげー……! マンガ以外で初めて見た~……!」
「あそこで勉強したら、お金持ちになれる? 毎日3食、食べられるようになる?」
「……さあな。オレは学校、途中で行かなくなっちまったから……」
オレがそう言うと、ガキ共は不思議そうな顔でオレを見つめてきた。
「なんだそれ。もったいねえ!」
「ホントもったいない! だからカトー兄ちゃんって戦闘バカなの?」
「はいはい。そうですよっ。どーせオレはバカですよぉ~っ」
おどけながら言うと、ガキ共は笑ってくれた。
けど、直ぐに学校の方に夢中になり始めた。
柵に齧り付く勢いで張り付き、ジッと学校を見つめている。
「……お前ら、学校行きたいか?」
そう聞くと、ガキ共はパッと表情を明るくさせた。
暗い部屋に灯りがついたように、パッと明るくなった。
「行ってみたい!」
「エデンに学校、作ってよ~」
「う~ん……。エデンには……教師になれるようなやつなんていないよ」
教えられるのは戦い方ぐらいだ。
オレも姉貴もファイアスターターも、ガキの頃からずっと戦ってきたしな。
プレーローマはオレ達の日常を破壊した。
カトーのオッサンは、子供達を戦わせまいと戦っていた。
そのオッサンはもういない。オレ達を救おうとしてくれていたけど、オレが殺した。オレが…………子供の可能性を奪った。
オレが戦う道を選んだから、姉貴も戦い始めた。神器という力を持っているから、皆で神器使いの少年兵になった。
戦う以外の道もあったかもしれない。
カトーのオッサンなら、オレ達を導いてくれただろう。
けど、オレがその可能性を潰したんだ。
だから……自分で戦って、オッサンみたいになれればと思ったけど……オレはカトーのオッサンみたいな英雄にはなれなかった。
オレは、ただのテロリストだ。
オレに出来ることなんて――。
■title:新暦1216年
■from:エデンのカトー
「……立ちなさい」
「イヤだ」
「頭を上げなさい」
「イヤだ。アンタが『わかった』と言ってくれるまで、ここにいる」
竜国のレンオアム王を待ち構え、土下座した。
バカなオレには、大したことは出来ねえ。
神器の力に頼れば、大軍も蹴散らせる。敵を大勢殺せる。
けど、それやったところでガキ共を救えなかった。
ガキ共にガマンばっかさせている。
皆を救いたくても、壊す以外の手段がわからねえ。プレーローマや人類連盟の兵士をたくさん殺してきたが、それだけじゃ問題を解決できなかった。
どれだけ死体を積み上げても……学校行きたがっているガキ共を学校に行かせてやることすらできなかった。普通の世界で暮らしているガキと同じような日常を、アイツらに用意してやれなかった。
「オレは……ガマンさせてばっかりなんだ! ガキ共に満足にメシを食わせてやれない事もある! オレは神器使いだが、甲斐性無しのテロリストなんだ……」
「…………」
「このままじゃあ、いまオレ達が保護しているガキ共も……オレ達みたいになっちまう! 他のやり方、ぜんぜん……教えてやれてないから……」
オレ達がわからない事を、ガキ共が急にわかるようになるはずがない。
エデンだけじゃダメなんだ。
オレ達だけじゃ、救えないんだ……。
「でも、アンタは違うだろ!? 王様なんだろ!?」
「…………」
「まだ手を汚していないガキ共ぐらい、引き取ってくれよ!! アイツらを、竜国の学校に通わせて……普通の人生、送らせてやってくれ! 頼む……!!」
「…………頭を上げてくれ」
「頼む!! アイツらを、助けてくれ……! 助けてやってください!!」
「……………………」
■title:新暦1217年
■from:エデンのカトー
「…………。ようやく、竜国ともおさらばだ」
肩の荷が下りた。
「最後はどうなる事かと思った。混沌竜共と殺し合いになるしよぅ」
「殺し合いといっても、格好だけだよ。人類連盟の調査隊が来ていたんだから……竜国に迷惑をかけないために、格好だけでも戦っておかないと」
「あぁ~あ! レンオアムのクソトカゲ尻尾でブッ飛ばされた身体がまだ痛む! アイツ、ガチで叩いてきたんだぜ? 姉貴~……!」
オレがそう言うと、姉貴は苦笑しながら「■■が挑発して、あえてそうさせたくせに」と言いやがった。
反論しようと思ったが、やめた! 無意味だからな。
「それより■■。竜国から動画が届いたよ。子供達が手を振ってくれている」
「……………………消せよ。そんなもん」
携帯端末で動画を見せてくる姉貴の手を押しのける。
「アイツらはもう、エデンの人間じゃねえ。竜国の人間だ。……オレ達を襲ってきた竜共の庇護下で生きていくんだから、オレ達の……敵だ」
「誰かさんのおかげで、レンオアム王が協力を約束してくれた。子供達を含む非戦闘員を引き取ってくれるだけじゃなくて、水面下で支援してくれるって……」
「あーあー、知らねえ。オレは面倒で難しい話はわかんねえ! バカだから!」
とにかく、動画は消せよ。人連にバレたら大問題になるぞ――と言う。
携帯端末を奪い、こっちで消してやろうと思ったが……姉貴は「ひょい」とオレの手を避け、嬉しそうに動画を見続けている。
「もうちょっと。もうちょっとだけ……目に焼き付けさせて」
「ったく…………」
「…………。■■」
「…………んだよ」
「泣いてるの?」
「…………。クソトカゲにやられた傷が、痛むんだよ」
 




