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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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影の隠者



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


 模擬戦まで時間がない。


 出来ることは全部やるが、全部やる時間もない。


 フェルグスを効率よく強くしないと――。


「だーッ! くそっ! なんで殴れねえんだよっ!」


 俺に殴りかかってきたフェルグスの拳を掴む。


 掴み、フェルグスの力も借りて体勢を崩す。すっ転ぶ直前で身体を支えて起こしてやり、再び立ち上がらせて「もう一度来い」と促す。


「どうした。訓練とはいえ、遠慮しなくていいんだぞ」


「遠慮なんかしてねえっつーのッ!」


 考えなしで蹴りを放ってきたので避けつつ、その額にデコピンを入れてやる。


 フェルグスが「いってぇ!」と叫ぶ中、「もう一本来い」と促す。


 射撃訓練もまだやらせるが、今は武術の訓練。徒手空拳で立ち会い、生身の身体を思い切り動かす感覚を磨かせる。


 フェルグスは機兵に憑依すると凄まじい運動性能を引き出すが、生身の身体はまだまだ子供。フェルグスの思考についてこれてない。


 生身の身体なら俺でも相手できるし、生身と同じ感覚で機兵を動かす巫術師ならこの訓練も活かされるはずだ。


「お前、筋は良いと思うが……動きが無茶苦茶だ。無駄が多い」


「仕方ねえだろ。テメーの方が図体デカいんだからさぁ……!」


「機兵を動かしている時は、もっと洗練された動きに感じたんだけどなー……。今まで格闘技とか……いや、やったことねえよな」


「かくとーぎってなんだよ?」


 1000年間、戦争してこなかったネウロン人だもんな。


 実戦式、競技式問わず、戦うための技能はろくに磨かれていないか。


「格闘技っていうのは、拳や脚を使って攻撃して戦う技のことだ。殴る以外にも絞めたり、投げたりもするな。種類は色々あるんだが――」


「しめるってなんだ? 扉の開け締めか?」


「ネウロン人って、マジで平和主義者の集まりなんだな……」


 俺がガキの頃、オークのダチと格闘技ゴッコよくやったんだがなー。


 ネウロン人はそういう事すらやった事なさそうだ。


 オークの場合、お互いに痛みを感じないから限界ギリギリまでやってよく教官達に怒られたもんだ。骨なんてしょっちゅう折れてた。


 脚や腕が動かなくなって、初めて「おっ! 壊れてたのか」って思うんだよな。そうやって自分達を壊して、自分達の限界を覚えていったんだ。


 限界を覚える前に、他種族殴り殺して連れて行かれた先輩オークもいたなぁ……。懐かしいけどちょっと怖い思い出。


 バイオレンスすぎるところは伏せつつ、軍学校時代の思い出を話すとドン引きされた。オーク相手だと「あるある」ってバカウケの話なのに……。


「お前ら、自分達の国を『先進国先進国』って言うくせに、やってることはクッソ野蛮人じゃねえか……。ケモノでもそこまでやらねえぞ」


「そ、そうかな……? 逆にお前らは学校で何やってたんだ?」


「保護院の学校だと、つまんねー歴史の勉強とか国語とか、計算とか……。ああ、職業体験とかは面白かったかも」


「あとは叡智神様にお祈りをしたり、教典を見ながらシオン教の教えについて皆で学んだりですね」


 フェルグスとアルがそう教えてくれた。


 正直、シオン教の保護院ってとこは巫術師集めて何かしてたんじゃねえのかな……って思ってたけど、軽く聞いた感じではそんなことしてなさそうだな。


 文字もちゃんと書けるし、意外とちゃんとした教育やってたのかな。


「戦闘の訓練とか、ネウロンじゃ大人だってやってねーよ。フツー」


「不思議な世界だな、ネウロンって」


「そうかぁ?」


 俺も交国以外のことは大して知らないが、それでもネウロンは異常に感じる。


「……ところでフェルグス」


「んっ?」


魚はどこだ(・・・・・)?」


 俺の問いかけを聞いたフェルグスが「あっ」と声を漏らし、視線を泳がせる。


 そして、海の一角を指差した。


「え、ええっと……。あっち。あそこだ。間違いねえ」


「アル。あってるか?」


 俺とフェルグスの視線を受けたアルは、遠慮がちに海を指差した。


 フェルグスとはまったく逆方向を指差した。


「あっちです」


「アル~……! 兄ちゃんのために話を合わせてくれよ~……!」


「だ、ダメだよぅ。それはズルだもん」


「フェルグス~……?」


 咎めるために声をかけると、フェルグスはふくれっ面を見せてきた。


「こんなの、意味ねえって。訓練しつつ、同時に魚の位置を把握するとか……」


「いや、これも必要なことだよ」


 フェルグスには格闘の稽古しつつ、巫術で特定の魚を追う訓練をさせていた。


 最初にどの魚を追うか決め、アルにも同じ魚を追ってもらう。時々、魚はどこに行ったかを聞いて「ちゃんと巫術の眼も使っているか」を問う。


 いきなり躓いたみたいだが――。


「戦闘中は色んな事を同時に処理する必要がある。俺と戦いつつ、巫術の眼も同時に使えなきゃダメだ」


「なんでだよぅ」


「相手は巫術が使えない。巫術を最大限活かすことが、アドバンテージになる」


 レンズは優秀な機兵乗りだが、巫術師ではない。


 フェルグス達は巫術により、周囲1~2キロの魂の位置を感知できる。これは遮蔽物に阻まれようと機能する強力な探知能力だ。


「巫術でレンズの位置を捉え続ければ、向こうが隠れていても落ち着いて対処できる。観測と戦闘、同時に出来るようになってくれ」


「お前、自分が出来ねえことを人に求めるなよ~」


「確かに巫術は使えねえが、俺だって索敵用の小型ドローン使いながら戦闘するぐらいは出来るぞ」


 手足も頭も疲れるだろうが、その疲れは夜にぐっすり眠ってとってもらう。


 模擬戦に向けて、時間は有効活用しなきゃ。


「休憩にはまだ早いぞ。フェルグス、殴りかかってこい」


「お前、殴らせてくれねえからつまんねえ!」


「お前の一撃が大ぶりすぎるんだよ。よし、とりあえず俺の手を叩いて来い。パンパンパン! と左右のコンビネーションで」


「こんなことやって意味あんのかよ~! 機兵に乗せてくれよ~!」


「俺も乗せてやりたいけど、移動のために航行中だからなぁ。タルタリカの群れでも現れてくれねえと、そうホイホイとは乗せてやれねえよ」


 機兵の混沌機関は、給油や充電の必要がない。


 人が傍で暮らし、笑ったり泣いたりしているだけで混沌(エネルギー)を補充できる。機関の整備や食糧の心配がなければ、無補給で行動し続ける。


 大都市なら人も多いからガンガン補給できるが、ほんの数十人しかいないこの場じゃ、混沌も無駄遣いできねえ。


 訓練のしすぎでいざって時に「エネルギーもうないです!」なんて言った日にゃ、隊長達に怒られるどころか軍法会議行きだよ。


「お前の機兵捌きは本当に大したもんだ。アレを磨くなら機兵に乗せるのが一番だと思うんだが……俺達はタルタリカとの戦闘優先だからなぁ」


「むぅ……。もっと乗らないと上手くなれねえよ~」


「十分、上手だけどな。お前……実は昔、機兵に乗ったことあるんじゃね?」


 近接戦闘と移動に限れば、本当に見事なものだ。


 あれは巫術だけのおかげ――とは思えない。


 フェルグス自身の才能も大きいと思うんだが……。


「バカかお前……。オレ達はネウロン人だぜ? 機兵なんて乗る機会ねえじゃん」


「そう……だよなぁ……」


 フェルグスが訝しげな表情で「何が言いてえ」と言いたげにしている。


「フェルグスの動き……。なんか、歴戦の戦士っぽさも感じるんだよ」


「はぁ? オレら、戦わされ始めたのは交国軍に捕まってからだぜ? 機兵に憑依する前は、ずっと流体甲冑で戦ってただけだし」


 流体甲冑での戦闘が活かされているんだろうか?


 それもあると思うが、それだけとは思えない。


 流体甲冑を使ったフェルグスは、人間的ではなく野獣のような戦い方だった。


 機兵に憑依したフェルグスからは、もっと別の強さを感じた。


「まー……オレも機兵に憑依した時、変な感覚する事、あるけどなぁ」


「ホントか!?」


「おう。なんか、こう……流れ込んでくる(・・・・・・・)感覚がある」


 どういう意味かわからず、言葉を待つ。


 フェルグス自身も言語化が難しい感覚なのか、少し困り顔だ。


「なんて言えばいいのかなぁ~……。考える前に身体が動くんだよ」


「ふむ……?」


「どう戦えばいいか、どう動けばいいか。そういう考え方が……自分の頭から湧いてくるんじゃなくて……外から、流れ込んでくるみたいな感覚なんだ」


「うぅん……?」


「わかんねーか? あぁ~……! オレもよくわかんねーんだよっ!」


 フェルグスは言語化できないむず痒さに襲われているのか、苛立った様子でワシワシと頭を掻いている。


 どういう意味だろうな。


 本人もよくわかっていないようだが、カッコつけて適当なこと言ってるようには見えない。単にカッコつけたいだけなら、もっと言葉を選ぶだろう。


 巫術の隠された力が、フェルグスの強さを補強している?


 あるいは、これは別の異常が(・・・)――――。


『――――』


「……………………いやぁ、考え過ぎかねぇ……?」


「あぁん?」


「いや、何でもねえよ。訓練を続けようぜ、天才巫術師」


「フフン! そうだ、オレ様は天才だ。お前もオレのスゴさがわかってきたか」

































■title:

■from:贋作英雄


「いや、何でもねえよ。訓練を続けようぜ、天才巫術師」


「フフン! そうだ、オレ様は天才だ。お前もオレのスゴさがわかってきたか」


『いやいや、調子に乗りすぎだ』


 胸を張って威張るネウロン人の少年をたしなめる。


 たしなめたが、まだ(・・)私の声は届いていないようだ。


 威張る兄にも、ボンヤリとしている鈍くさい弟も、私に気づいていない。


 気づいているのは、フワフワと宙を漂うネコのみ。


 この調子で、本当に大丈夫か不安になるが……。


『まあ、予定通りか? ……信じているぞ、兄弟』


 今はまだ、力の断片しか伝えられていない。


 機兵(からだ)を動かすコツを、少しだけ渡せているだけ。


 だが、いずれ、もっと多くの力を渡せるはずだ。


 私の剣技も渡せるはずだ。


 2人の力で一度繋がれば、おそらく一気に――――。




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