過去:英雄殺し
■title:新暦1189年
■from:■■■■
「キミ達は普通の人間じゃない。メサイアという化け物なんだよ」
ムカつく笑みを浮かべている女天使が何か言っている。
「源の魔神がキミ達の身体に神器を宿した事で、キミ達は超常の力を振るえるようになった。まあキミ達には自覚がないだろうけどね」
オレをバケモノって言ってる。
「元々、キミ達の力はプレーローマのものだったんだ。600いくらしかない力だったはずが、何故か増殖して……。まあいい、とにかく、プレーローマの力なんだから私達が有効活用するのが筋でしょ?」
「母ちゃんと、父ちゃん……返せっ! 姉ちゃんも――」
「お姉さんには会わせてあげたでしょ?」
違う。
あんなの、姉ちゃんじゃない!
「返せっ!! 返せっ!!!」
オレは女天使に殴りかかった。
けど、簡単にやられちゃった。
「キミが何故、こうやって足蹴にされているかわかる? 弱いからだよ」
「うぅ……! ウゥ~~~~ッ!」
「弱いから奪われる。弱さは罪だ。キミが神器の力を自覚し、引き出す事が出来れば我々に捕まることもなかった。御両親も焼き殺されずに済んだ」
女天使が笑っている。
さっき見せてきた映像を再生しながら、笑っている。
ウソだ。
あんなのウソだ。
合成……CGってやつだ。
父ちゃんと母ちゃんが、死ぬはずない。
あんなの……ふつうじゃない。人間の死に方じゃない。
だからウソだ。ウソなんだ……。
■title:新暦1189年
■from:■■■■
「■■■■君。キミが実験に非協力的って事でクレームがきてるよ?」
「オレが気に入らないなら、ころしてみろよ!!」
殺せないはずだ。コイツらは、オレが必要なんだ。
オレがメサイアってやつだから、殺せないんだろ?
そう言うと、女天使はニヤリと笑った。「バカなガキだけど、少しは道理がわかってきたみたいだね」と言った。
「しかし、勘違いをしている。メサイアなら無条件に丁重に扱うわけではないよ。……キミが特別な神器を持っているから配慮しているだけ」
「その神器って力を使えれば、お前らをブッたおせるんだろっ?」
「キミじゃ無理だ。キミは弱い。弱いから、キミはお姉さんに庇われたんだよ」
女天使はそう言って、実験室の中を見せてきた。
そこには姉ちゃんがいた。もう人間の形してない姉ちゃんがいた。
他の皆も、もう……もう――。
■title:新暦1189年
■from:■■■■
「ちくしょう、ちくしょう!!」
なんでオレは弱いんだ。
神器ってやつが使えれば、姉ちゃんを守れたのに。
父ちゃんも母ちゃんも、守れたのに……。
「神器、力、貸せよ!! お前だって天使嫌いだろ!?」
自分の胸に手を当てて、「オレに従えよ」と言った。
けど、神器はウンともスンとも応えなかった。
「さあ、■■■■君。キミにも投薬を始めていくよ~? おいで? いたッ?!」
「ねえちゃん! ねえちゃんッ!!」
「このッ……! クソガキ!!」
姉ちゃんを連れて逃げないと!
このままじゃダメだ。
ここにいちゃ、ダメだ!
■title:新暦1189年
■from:■■■■
「大丈夫か?」
ついさっき、天使の頭を潰したおっさんが話しかけてきた。
天使じゃなくて、普通の人間に見えた。
味方……なのか?
「あ、アンタ……誰だよ」
「儂は加藤黒。お前達を助けに来た」
■title:新暦1189年
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カトーのオッサンは最高だ! 強くて優しい皆の英雄だ。
オッサンは……強いから俺達を助ける事が出来た。
オレもオッサンみたいに強くなりたい!
オッサンの隣に立って戦える戦士に……いや、英雄になりたいっ!
■title:新暦1189年
■from:■■■■
「ムツキ……大丈夫かな」
ムツキも姉ちゃん達みたいに、身体が変わっちゃったみたいだ。
自分でもそれがイヤでたまらないみたいで、誰かに自分のこと見られるのもイヤでたまらないみたいだ。
オレもショージキ、ムツキの身体ちょっと怖いけど……一番怖がってるのはムツキだ。ムツキががんばってるのに、オレがビビってたまるか!
「何かしてやれないかな~……?」
カトーのオッサンはオレ達を助けてくれた。
オレもオッサンみたいになりたい。じゃあ、やる事は決まってる。
ムツキを少しでも元気づけてやりたい。
……身体が変わっちまって困ってるのはお前だけじゃないって事を教えてあげたら、少しは……勇気がわかないかな!?
元気になるのは難しいかもだけど、ひとりぼっちじゃないって思ってくれたら……少しぐらい――。
■title:新暦1189年
■from:■■■■
「ムツキ、ありがとなぁ……。ホントに、ホントにありがとなぁ……」
お前がオッサン達の研究を手伝ってくれたおかげで、姉ちゃんが死なずに済む。
姉ちゃん、オレの手のひらぐらいの大きさになっちゃったけど、植物のままよりはずっと長生きできる。これからもっとよくなっていくはずだ。
それはムツキのおかげでもある。その事を「ありがとう」と伝えると、ムツキは少し照れた様子でモゴモゴしていた。
「この恩は、必ず返すぞっ!」
お前のことも、守ってやる。
カトーのオッサンがオレ達を助けてくれたように、オレがお前を助ける。
悪い奴が襲ってきたら、オレがボコボコにしてやる。
オレならできる。だってオレは、特別な神器を持っているんだ。
がんばって力を引き出せるようになったら、ムツキも姉ちゃんも……他の皆も守れるようになるはずだ。オレならきっと、それができる!
オレは、きっと、皆を――――。
■title:新暦1190年
■from:■■■■
「カトーのオッサンが怪しい? なに言ってんだよ、姉ちゃん」
「私達が助けられた時の事を思い出して」
■title:新暦1190年
■from:■■■■
「■■。開けて」
ムツキは裏切り者だった。
アイツが、父ちゃんと母ちゃんを殺したんだ。
だからオレ、仇を取らなきゃって。
殺さなきゃって。
…………。
あの人を殺すつもりは、なかったんだ。
だって、オレは皆を守るって……。
その、皆の中にはオッサンも…………ムツキも……。
「開けて……! 話を聞いてっ!」
■title:新暦1192年
■from:■■■■
カトーのオッサンは死んじまった。
オレが殺した。
ムツキはどこかに行っちまった。
オレが…………オレの、所為で……。
…………。
オッサンはエデンの英雄で、希望だった。
そんなオッサンを殺してしまったオレは、その償いをしなきゃいけない。
誰かがオッサンの代わりにならなきゃ、ダメなんだ。
「オレのコードネーム、『カトー』にするよ」
姉ちゃんにそう言うと、「正気なの?」と言われた。
「本当に、エデンの構成員として戦っていくつもり?」
「誰かが戦わなきゃいけないんだ。その誰かは……オレじゃなきゃダメだろ」
カトーのオッサンは皆のために戦っていた。
そんなオッサンを殺しちまったオレが、代わりにならなきゃいけないんだ。
オッサンが救うはずだった人間を、オレが代わりに救う。
オッサンの意志を継ぐことが、唯一の償いになるはずだ。
姉ちゃんがオレを止めても、オレは戦うからな。
「エデンの戦士として戦っていくってことは、プレーローマとも戦うって事だ」
「…………」
「いつか、父ちゃんと母ちゃんの仇も取れるって事だ」
あの実験をやっていた女天使も、いつか殺せるはず。
奴はきっと、どこかで生きている。
戦い続けていれば、いつか出会えるはずだ。
「わかった。■■の考えは、わかった」
「オレはもう■■■■じゃねえ」
オレはカトーだ。
エデンのカトーだ。
■title:新暦1192年
■from:エデンのカトー
エデンは「正義の組織」だ。
だから、今のエデン上層部の奴らはいらねえ。
口だけの老害共は舞台から下りろ。
これからは、神器使いの時代だ。




