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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.2章:雪に埋もれた真実【新暦1240-1243年】
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過去:さまよう殺意



■title:<泥縄商事>本社艦隊にて

■from:カトー


「いま、何て言った」


「キミの姪っ子のナルジスちゃんが処刑されたよ~って話」


 交国本土から救出され、<泥縄商事>の本社艦隊に運び込まれた後、ワケのわからん話をされた。


 ナルジスが死んだ?


 ゲットーにいた元エデンの人間が全員死んだ?


 何故? ゲットーで反乱が起きた云々の話もワケわからんのに、何で一般人のナルジス達が死ぬんだ?


 オレがゲットーで起きた反乱を扇動したとか、何を言っているんだ?


「交国では、ゲットーでの反乱はキミが扇動した事になっている。キミが捕まった理由は玉帝暗殺未遂だけじゃあ無いんだよ」


「そもそもオレは、玉帝暗殺なんてやろうとしてない!!」


 ヤツに呼ばれて行ったら、急に取り押さえられたんだ。


 それから牢屋に入れられて、神器を持って行かれて……ワケわからんウチに処刑されるって事になって……。ファイアスターター達が、助けにきてくれた。


 泥縄商事の社長に詳しい話を教えるよう言うと、社長は「めんどうくさい」と言い、代理の人間を呼び始めた。


「ウチの人事部長を呼んだから、あの子に詳しい話を聞いて」


 やってきた泥縄商事の人事部長は、ナルジス達に何があったか教えてくれた。


 ゲットーで、何があったのかを――。


「先にざっくり説明すると、交国が無茶して、責任をエデンに押しつけたのです」


 ゲットーは天候不良の影響もあって、食料生産が上手くいってなかった。


 そんな状況で、食料の界外輸出を断行した。プレーローマと戦っている交国軍の兵站を支えるために、ゲットーの備蓄をほぼ全て吐き出した。


 交国はその補填を後で行うと言っていたが、そんな折りにプレーローマの部隊がゲットー近海で工作活動を行った。それによって混沌の海が大きく荒れ、数ヶ月に渡ってゲットーは孤立する事となった。


 界外から方舟が入れない状態だから、予定されていた食料の補填は行われず……ゲットーでは大飢餓が発生した。世界的な厳しい寒波が到来した事で、ゲットーで孤立した多くの住民が飢え苦しむ事になった。


「交国はさらに失政を重ねました。ゲットーの食料を現地の駐留軍に厳しく管理させました。それ自体は仕方のないことでしたが――」


 現地の軍人達が、自分達の食料を優先的に確保し始めた。


 一般人を守るために戦っているはずなのに、我が身可愛さに一般人を捨て始めた。食料を独占し、自分達だけ生き残ろうとした。


 飢え苦しんでいた民衆は交国軍に抗議したが、交国軍は武力でそれを退けた。軍の鎮圧活動と飢餓により、多くの民衆が死んでいった。


 単なる抗議では埒が明かないと考えた民衆は、交国軍の武器庫を襲って武器を奪い、交国軍が言うところの「反乱」を開始した。


 交国軍は一層苛烈な対応を始め、さらに多くの民衆が殺されていった。


 プレーローマがゲットー近海を荒らし、数ヶ月に渡ってゲットーを孤立させていなければこんな事にはならなかった。


 だが、交国も悪い。


 交国がゲットーで無茶な食料徴発を行い、さらに駐留軍が食料を独占していなければ、ゲットーで「反乱」は起きなかった。飢餓の状況も、もっとマシなものになっていただろう。


 それなのに……交国はあやまちを認めなかった。


「交国政府は<エデン>に罪を押しつけました。元テロリストの彼らが、ゲットーの民衆を扇動したと言いだして……。首謀者はあなただと言いだしたのです」


 完全な冤罪だ。


 自分達の失敗を隠すために、オレやエデンの仲間達に全ての罪を押しつけた。


 オレ達を処刑し、全ての罪を隠そうとした。


「あなたの姪のナルジスさんも、それに巻き込まれたのです」


「ナルジスは何の罪も犯していないのに、口封じに殺されたってことか……!?」


「ええ。表向きの(・・・・)罪状は『交国軍人を射殺した』というものですが――」


「ナルジスがそんなことするはずない!!」


 あの子は優しい子だった。


 虫一匹殺せないような優しい子だったんだ。


「誰だ!! 誰があの子を殺したんだ!?」


「犬塚銀です。彼はナルジスさんが『自分の部下を殺した』と言い出し、他の一般人と一緒に射殺しました」


 アイツか。


 オレを捕まえた交国軍の特佐か。


 玉帝の犬。オレに罪を着せて、ナルジス達にも――。


 約束が違う。


 オレが特佐として働けば、ナルジス達に平和な暮らしをくれると言ったじゃねえか。特佐長官が…………宗像のヤツが、そう約束したんだ!


 それなのにオレに罪を着せて、何の罪もないナルジス達も処刑した。殺すことで口封じし、交国の体面を守ろうとした。国のために人を犠牲にした。


交国政府(やつら)とプレーローマは、同じだ……!」


 交国の奴らは、オレ達のことを雑草や害虫のように考えている。


 オレ達の命を、オレ達との約束を、平気で踏みにじる……!


 仇は取る。


 ナルジスや皆の仇は、オレが必ず取る。


 犬塚銀は、オレが殺す。この手で殺す。


 交国も、オレが滅ぼしてやる。


 そのためなら、どんな手段でも使ってやる……!!




■title:<泥縄商事>本社艦隊にて

■from:泥縄商事・人事部長


「…………」


 怒り狂うカトーの病室を後にする。


 神器を失った出がらしをわざわざ保護した社長の判断はよくわからない。


 おそらく、社長自身もよくわかっていないのだろう。何者かが何らかの目的で「カトーを交国から逃がせ」と言いだしたのだろう。


 ともかく、社長に渡された筋書き通りに、カトーを煽っておいた。


 ただ、何もかも嘘を言っているわけではない。


 不都合な事実は伏せていただけだ。


 例えば、大飢餓が発生したゲットーでは、プレーローマの<終末兵器(ハーベスター)>が稼働していた疑惑があるという話は伏せている。


 それ以外にも伏せている事実があるが、出がらし馬鹿(カトー)がそれを知ることはないだろう。さあ、業務に戻ろう。




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